特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣伝統産品、金型・自動機部品
コロナを越え海外展開に挑む京都企業(後編)

2022年11月15日

京都では、新型コロナウイルスの影響による外国人観光客の急減に伴い、売り上げが激減した事業者は数多い。こうした状況の中で具体的にどのように海外展開を進めればよいのか。後半部分にあたる本稿では、日用品および機械分野で海外展開に取り組む3社を取り上げる。

デジタル技術を有効活用し、コロナ禍でも海外ビジネスを継続(山田繊維株式会社 代表取締役社長 山田 芳生氏)

山田繊維は、1937年に風呂敷の製造・卸売りとして創業し、現在は直営店を東京と京都に構えるとともに、海外のセレクトショップやミュージアムショップなどで風呂敷を販売している。現在のライフスタイルに合わせた、モダンなデザインを特徴としている。

海外展開のきっかけは、日本とフランスの文化交流イベントで風呂敷を現地で紹介したことだった。日本製品に関心のある来場者のみならず、繰り返し利用でき、ラッピング時のごみが発生しないという風呂敷の性質がサステナビリティ(持続可能性)の観点から注目を集めた。その後、フランスの日用品見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展するなど、海外ビジネスに注力することになった。

新型コロナウイルスの流行以降は、海外見本市への出展が難しくなったが、デジタル技術を活用することで海外ビジネスを継続してきた。海外に渡航ができない中でも、海外バイヤーとのオンライン商談会やバイヤーのリストアップサービスを活用し、多くの商談機会を確保した。バイヤーとの商談においては、新輸出大国コンソーシアムの専門家からアドバイスを受けたことが効果的な提案につながった。中小企業として人材が限られる中で、商談同席など専門家からの細やかなサポートを得られることも有益だったという。また、自社独自の取り組みとしては、海外用のB to B向けウェブサイトを改良した。ウェブサイト経由による注文と、自社の基幹システムとを連動させることで、受注プロセスの業務効率化を図った。ウェブサイトの構築にあたっては、京都商工会議所による海外展開に関する助成金も活用した。

今後は、風呂敷に対して関心が高い、欧州や米国の小売店への販売や、海外EC(電子商取引)サイト経由での販売を拡大していく予定だ。その他、オランダで風呂敷をテーマとした展覧会を開催したように、風呂敷に関する認知度向上につながる情報発信を計画している。


海外の潮流に合わせて伝統産品を販売する、山田繊維の山田氏
(ジェトロ「世界は今」より、注)

試行錯誤を重ねることが成功への近道(株式会社 仁秀 田中 臣来氏)

仁秀は、カップや皿、茶わんなど手作りの陶器を扱う京焼のメーカーである。

田中氏は、海外展開に取り組んだ理由として、国内の産業構造の変化、国内売り上げの不振、需要のある市場という3点を挙げている。国内では、人口減少による長期的な購買力の縮小とともに、安価な輸入品が浸透し、価格競争に巻き込まれている。また、従来、結婚式の引出物などギフト商品として販売していたが、その中で陶磁器への需要が低下するとともに、新型コロナウイルスの影響で結婚式自体が行われなくなったこともあり、売り上げが減少した。しかし、そのような状況でも、世界遺産である仁和寺で愛用されてきた伝統的な京焼という自社商品の独自性は現在も失われていないはずだという強い思いを抱き、海外の富裕層というターゲットを明確にしたうえで輸出の取り組みを始めた。

海外展開にあたっては、中小企業海外ビジネス人材育成塾や、TAKUMI NEXTを通じて海外ビジネスに関する知見を蓄積するとともに、中国ハイブリッドキャラバンなどにおける商談機会を活用した。特にTAKUMI NEXTでは、実際の商談を複数回体験するとともに、現地バイヤーやメンターからの意見を得られたことが有益だったという。現地の食文化に合わせた皿の提案ができるようになったと語っている。また、ジェトロの支援の活用のみならず、自社でも海外での認知度向上を目的とした施策を実践している。海外向けのSNSでは、フランスや米国を対象に広告を配信した。また、英語・中国語を含む多言語ウェブサイトの構築にも挑んでいる。

伝統産業による海外展開について、田中氏は「いいものを作るだけでは売れない。とりあえず自社で積極的にやってみることが重要だ」と語る。自社の歴史があるという点だけでは強みにならず、あくまで他者にとっての需要を理解することが必要だという。そのためには、様々な国のバイヤーとの商談や、SNS・ウェブサイトの運用を通じ、自身の仮説を繰り返し検証することになる。こうして、自社の強みを短時間でも明確に伝えられるようになっていく。短期的には失敗を重ねたとしても、試行錯誤の積み重ねが長期的には飛躍につながる、と田中氏は確信した。

こうした取り組みを通じ、2021年度には海外売上比率が28%まで拡大した(前年度は2%)。今後さらに海外の新規顧客の開拓に取り組んでいくとともに、消費者側から直接的な意見が得られるように、小売りの事業にも注力していく構えだ。また、長期的にはほかの企業との連携を通じ、日本の商品の海外への発信にも取り組んでいく予定だ。


伝統産業が海外展開するためのポイントを説明する、仁秀の田中氏(ジェトロ撮影)

外国人材とともに、東南アジアへの進出を促進(株式会社ゲートジャパン 代表取締役 西澤 耕一氏)

ゲートジャパンは、金型部品や金型一式、自動機部品や治工具などの製造販売をしている。現在は、中国の深圳やタイのバンコクに拠点を有する。企画・提案・設計・品質管理を自社で行う一方で、製造そのものについては韓国や中国、台湾やタイ、ベトナムの海外工場300社に外注している。

2006年の創業当初は、金型部品の製造販売に注力していた。しかし、金型業界は3Kと呼ばれるような環境もあり、特に若い働き手を確保することが難しいという課題を抱えていた。そこで、韓国に製造チャンネルがあったことから、少しずつ海外展開に取り組むようになった。その後、韓国の賃金上昇もあり、連携先を中国や台湾、タイやベトナムに広げた。

そして、調達のみならず販路の拡大を目的として、新たに海外進出に取り組んだ。当初、製造業が盛んなドイツへの進出を検討していた。だが、ジェトロによる新輸出大国コンソーシアムの専門家とともに、同社の強みや弱み、外部環境などを改めて精査した。専門家の海外展示会への同行や「中小企業海外展開現地支援プラットフォーム」による市場調査など、積極的に情報収集に努めた結果、展開先を東南アジアへと転換した。2021年には、タイに現地法人を設立した。

今後のビジネスにおいては、インドネシアやインドなどの国々へも海外進出を図っていく構えだ。また、同社の従業員の半分を外国人の社員が占めている。西澤氏は「外国人の社員とともに、これからも海外展開を拡大していきたい。また、グループ全体で100億円の売り上げを達成し、将来的には上場を目指していく。一流企業で働いているという自負を持ってもらうとともに、自社株の購入による利益の還元を通じた従業員の満足も実現していきたい」と抱負を語っている。


外国人材の登用を通じた海外進出を語る、ゲートジャパンの西澤氏
ジェトロ 新輸出大国コンソーシアム「海外展開支援活用事例集」より)

執筆後記

本稿では、これまでに輸出や海外進出を実現している中小企業の事例を紹介した。菓子、漬物、風呂敷、器、金型部品といったように、各社の取り扱っている商材は様々である。それでも、新型コロナウイルスによる影響が残る中で、限られた人員体制や経営資源を適切に活用し精力的に海外展開に取り組んでいるという点では共通点を有している。また、消費者の安全や環境保全という持続可能な社会の形成、SNSやデジタル技術など革新分野への挑戦、外国人材との協力は、日本企業の海外展開において重要なキーワードばかりである。こうした点から、当該産業に属する京都の企業以外にとっても、何らかの示唆は得られるだろう。

セミナー後のアンケートでは、「うまくいっている企業ばかりの説明では参考にならない」というコメントもいただいた。確かに、紹介した企業は輸出や海外進出を実現しているが、必ずしも取り組みだしたころからうまくいっていたわけではない。実際には、多くの担当者が様々な試行錯誤をしている。セミナーの時間内に、そうした点を十分紹介できなかったことは反省点である。ジェトロでは、「ジェトロ活用事例」「中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣」などでも企業の海外ビジネスの成功事例を取り上げている。各社の担当者がどのような思いで、どんな努力をしたのか、という点についても注目してほしい。


注:
ジェトロ 世界は今「海外市場の潮流をつかめ! ‐伝統産品もSDGs!?‐」。

コロナを越え海外展開に挑む京都企業

  1. 京菓子・京漬物
  2. 伝統産品、金型・自動機部品
執筆者紹介
ジェトロ京都
大井 裕貴(おおい ひろき)
2017年、ジェトロ入構。知的財産・イノベーション部貿易制度課、イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課、海外調査部海外調査企画課を経て現職。

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