特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣「日向備長炭」を世界に輸出/株式会社グリーンノーム(宮崎県)

2022年4月1日

和食文化の世界への広がりに比例して、日本産の調理用備長炭にも海外からの注目が集まっている。これを背景に、日本3大備長炭の1つに数えられる「日向備長炭(ひゅうがびんちょうたん)」の製造・海外輸出を行うのが、宮崎県美郷町の株式会社グリーンノームだ。原料となるアラカシ原木の伐採から備長炭の製造、発送までを一貫して担う同社代表の下川陽一郎氏に、美郷町の山間に位置する同社の製炭場において、海外展開にかける思いを聞いた(2022年2月9日)。


下川陽一郎氏(ジェトロ撮影)
質問:
日向備長炭の製造を始めたきっかけは。
答え:
もともとは福岡県の出身で、飲食店の経営をしていた。店では燻製(くんせい)料理を中心に提供していたが、それがきっかけで炭づくりに興味を覚え、美郷町が募集していた地域おこし協力隊の製炭職に応募し、この地に移り住んだ。協力隊の任期を終えた後も、使用されていない製炭窯を何基か借り受け、個人事業主として炭づくりを継続した。2021年4月に現在の社名で法人を設立し、ネットでの日本国内消費者向けの販売を主として日向備長炭を製造している。
質問:
海外展開を志したきっかけは。
答え:
自社のホームページを開設し、日向備長炭に関する情報発信や国内消費者向けの通信販売を開始したところ、日本の輸出事業者から、ギリシャに向けた備長炭の輸出ができないか、と声がかかった。日向備長炭は国内での知名度こそあれ、インターネットを介して情報発信を行う作り手がまだ少なかったため、それらを先駆的に行っていた当社にたどり着き、コンタクトを取ったようだ。とはいえ、これまで輸出業務には携わったことがなく、また、調べる中で木炭の輸出が国際連合による輸送の規制対象(注)であり、これまで日本から海外向けに輸出を行っているのは和歌山の紀州備長炭のみであることがわかるなど、ハードルは高かった。しかし、輸出の認可を取得することで、2021年10月、ギリシャに向けた初輸出が実現した。このことを自社ホームページに掲載すると、備長炭の輸出を検討するほかの国内輸出事業者から、複数の声掛けをいただいた。備長炭に潜在的な海外マーケットの需要があることを実感し、海外展開を本格的に検討するようになった。
質問:
現在の海外展開の状況は。
答え:
ギリシャへの輸出以降、ドイツとその周辺国や、米国などに向けての輸出が動いている状況だ。最も輸出量が多いのはドイツで、2021年末に300キログラムを輸出した。現地で備長炭を使用するのは、日本食材を提供するレストランのシェフなどがメインとなる。米国では、日本スタイルの焼き鳥の調理に備長炭を使用したいとの本格志向の声が多く聞かれる。また、七輪などの日本式の調理器具を海外に輸出するにあたり、備長炭を合わせて購入したいという需要もある。取引にあたっては、少量のサンプルを現地に送付した上で実際に備長炭を使ってもらい、品質を確認してもらった後、追加発注となるケースが多い。なお、海外展開事業を進めるにあたっては、ジェトロの「新輸出大国コンソーシアム」の専門家によるハンズオン支援を受けながら、事業戦略を策定している。

グリーンノーム社が借り受ける製炭窯の1つ。
製炭には、原料の伐採を含めると60日間もの期間を要する(ジェトロ撮影)
質問:
日向備長炭の海外展開における強みは。
答え:
備長炭は通常の炭よりも燃焼時間が長いほか、炎・煙が出にくく無臭であり、均一な加熱が必要な食材の調理に適している。この特徴が、本格的な味にこだわる海外の日本食材を提供するレストランのシェフに受け入れられているようだ。また、ほかの備長炭と比較した際の日向備長炭ならではの特徴として、価格帯が挙げられる。海外で流通している日本産の備長炭は紀州備長炭だが、これは日本から唯一輸出可能であった優位性と品質の高さから、値段も最高級となる。それに対して、日向備長炭は、紀州備長炭に劣らない品質を確保しつつ、値段は抑えめだ。バーベキュー用の炭などと比べれば高価格帯であることは確かだが、紀州備長炭と比した際の価格優位性は、日向備長炭の海外市場での大きな強みであると考えている。なお、原木の違いから、見た目の面でも、日向備長炭は紀州備長炭と大きく異なる。共に密度の高い樫(かし)を使用しているが、紀州備長炭や土佐備長炭がウバメガシを原木とするのに対して、日向備長炭はアラカシを用いている。アラカシは木肌がつるつるとしており、滑らかな質感をもっているが、これは備長炭になっても変わりない。このような特徴も、海外バイヤーとの商談において、日向備長炭の特徴をアピールする材料となっている。

左側がグリーンノーム社の日向備長炭。
ツルツルとしているほか、密度が高く、たたくと金属のような音が響く(ジェトロ撮影)
質問:
今後の展望は。
答え:
製品の品質を落とさず、事業を拡大していきたい。現在は、国内外の備長炭需要の高まりに対して、当社の生産が追い付いていない状況だ。炭焼きの人材確保や、原料のアラカシを自社での伐採だけでなく、卸でも仕入れることで、この問題に対応していく予定だ。一方で、やみくもに生産量を増やそうとすることは、炭の品質低下につながる。炭焼きは季節の変化や、窯の火入れ作業の良しあしの影響を受けやすく、これらに細心の注意を払うと、自ずと生産量は限られる。高品質な日向備長炭の生産を第1に掲げることは変えず、海外市場でもさらなるニーズ獲得を狙いたい。また、既存の海外顧客には、当社の備長炭を安定的に供給可能であることをアピールしていきたい。海外における当社備長炭の主要ユーザーである、日本食材を提供するレストランのシェフは、一般的に、風味に大きな影響を与える備長炭を、一定の生産者から継続して仕入れることを好む傾向にあるためだ。このほか、備長炭には調理に用いる燃料としての用途だけでなく、さまざまな活用方法があることを海外マーケットにも提案していきたい。例えば、料理などに用いる食用の炭パウダーなどを開発し、海外の消費者に向けてアピールしていきたいと考えている。

注1:
木炭は、国際連合による「危険物輸送に関する勧告」の対象物品であり(国連番号1361)、輸送にあたっては「UN検査証」などの取得が必要となる(危険物国際輸送における留意点:日本)参照)。
執筆者紹介
ジェトロ宮崎
岡田 脩太郎(おかだ しゅうたろう)
2018年、ジェトロ入構。ジェトロ・ビエンチャン事務所などを経て、2021年10月から現職。

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