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特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣日本の職人技を宿した陶磁器をニューヨーク、そして世界に/カネコ小兵製陶所(岐阜県)

2020年9月15日

美濃焼の和食器を製造する、カネコ小兵(こひょう)製陶所(本社:岐阜県土岐市)。徳利(とっくり)を中心に「良いものを安く大量に」生産してきた。しかし、その需要は1990年代に入って次第に減少していった。移ろいゆく時代に適応する手段の1つとして、2001年から輸出を始めた。その時点では将来、自社の食器がベルサイユ宮殿の晩餐(ばんさん)会に並ぶとは想像もしていなかった。

海外展開の経緯について、伊藤克紀代表取締役社長に聞いた(2020年7月30日)。


カネコ小兵製陶所の伊藤克紀代表取締役社長(同社提供)

徳利生産量が日本一、それでも多品目生産に踏み切る

質問:
会社概要と海外展開について。
答え:
当社が創業したのは1921年だ。約100年前のことになる。操業当時は主に神仏具を生産していた。しかし、岐阜県土岐市下石町は流し込み成形に適した陶土が取れる。戦後の経済成長の中で、流し込み成形技術を生かして徳利を生産するようになった。ピーク時の1970年ごろには、月に13万本、年間160万本と日本一の生産量を誇っていた。美濃焼業界としても勢いがあった。良いものを安く大量に生産し、1985年のプラザ合意前までは業界全体で約700億円(出荷額ベース)規模の食器を生産し、そのうち約半分を輸出していた。しかし、その後は、円高や中国産の台頭に直面。これに伴って、輸出量・額は徐々に減っていった。
1990年ごろからは消費者の飲む酒の種類が多様化し、当社に対する徳利の注文数も減少し始めた。逆境の中で、徳利以外の商品として、生活雑貨や食器の開発を始めたのが1995年ごろだった。同時に、徳利や和食器を高付加価値製品として展開できる先として、海外市場を狙おうと考えた。最初の輸出は2001年。国内商社向け見本市に出展した際、来場したバイヤーに米国向け輸出を提案されたことがきっかけだった。バイヤーとの取引はしばらく続いたが、安価なものが好まれる現地のチャイナタウンなど向けであったため、安いものしか売れなかった。

偶然の出会いが自信につながる

質問:
その後の海外展開の道をどう切り開いたのか。
答え:
転機は2009年だった。「ぎやまん陶」の生産を開始し、取引先商社がドイツの消費財展示会「アンビエンテ」に出展した。ぎやまん陶は、現在でも当社を代表するシリーズ商品だ。その結果、フランスのハイブランド、ディオールから引き合いがあった。ぎやまん陶の曲線美やガラスを思わせる光沢などの美しさが高く評価されたようだ。2010年8月からディオールのパリ本店に、ぎやまん陶が並ぶようになった。驚きもあったが、世界的に有名なブランドから日本のものづくりが評価されたことを誇らしく思った。
ある時、ディオールからいつもの数倍の量の発注があった。後になって分かったことだが、この時のオーダーはベルサイユ宮殿で開かれた晩餐会のためのものだった。晩餐会を主催したのはシャンパンの最高級ブランド「ドンペリニヨン」で、そのメインシェフはミシュラン2つ星を獲得した一流シェフ、ジャン=フランソワ・ピエージュ氏が務めていた。ピエージュ氏は、ディオール本店でぎやまん陶を見初め、自身のレストランでコース料理のデザート皿に使っていたため、採用されることになった。当社の製品が一流シェフに認められ、ベルサイユ宮殿の晩餐会に並んだことは大きな自信となった。
これを契機に、その後はさまざまな商社に次々にアプローチしていき、輸出事業を本格化していった。これまでにフランスのほか、英国やシンガポールなど約20カ国に輸出してきた。

ぎやまん陶はガラスのような輝きを持つ一方、
漆器を思わせる深みのある風合いを有する(同社提供)

ニューヨークのショップからの引き合いが輸出の追い風に

質問:
現在、ビジネスが好調な地域はどこか。
答え:
輸出先で最も売れ行きが好調なのは米国だ。これは取引先であるニューヨークのライフスタイルショップ&カフェ「Roman and Williams GUILD」(以下、GUILD)の力が大きい。同社との取引が始まったのは2018年からだ。「リンカ」シリーズを、継続的に輸出している。GUILDのカフェでは従来、陶芸家の作品を中心とした器を使用していたようだ。しかし、業務使いに耐えられるほどの強度がなく困っていた、と聞く。風合いのあるクラフト感と強度を兼ね備え、かつ食洗器に対応しているリンカが、同社のニーズに合致した。その結果、同社から声がかかった。
先方の強い要望があって、GUILDオリジナルデザインとして、フルーツスタンドや、欧米向けサイズで日本の食卓には少し大きいオーバルプレートも提供している。また2020年に入ってから、GUILDと当社のダブルネームでロゴを入れた器を出荷するようになった。ダブルネームでのロゴは、パートナーとしてものづくりをしていくことと、信頼関係を構築できていることの表れだと考えている。
こうして、GUILDでリンカシリーズが取り扱われ始めた。さらに、GUILDに来店した客が当社の器の写真をSNSに掲載してくれたことで、商品の認知度が高まった。それからというもの、世界中のバイヤーから問い合わせを受けるようになった。当社としても、グローバルサイトやインスタグラムの開設など、情報発信を強化している。これからも「Japanese Craftsmanship Porcelain=日本の職人技を持った磁器」精神を追求し、世界中に、当社のコンセプトでもある「おいしいうつわ、たのしいうつわ」を届けていきたい。

磁気なのに土物の味わいのリンカ。和洋に合わせやすい(同社提供)

価格設定には入念な事前調査を

質問:
中小企業の海外展開に関するワンポイントアドバイスを。
答え:
間接貿易と直接貿易のメリット・デメリットを意識したほうがよい。直接貿易には、いくつかのハードルがある。まず、インコタームズに代表される貿易実務の習得は、専門人材含め人員が限られるメーカーにとっては難しい。海外バイヤーとのやり取りも同様だ。物流の運賃や関税、付加価値税(VAT)の知識も必要になる。当社は、長年の間接貿易の経験から学んできたので何とか対応できているが、独力で支障なく輸出できるようになるには一定の時間がかかる。
その点、商社を通した間接貿易から始めることは非常に有用だ。間接貿易を円滑に進めるためには、自社製品に理解がある商社を探し続けること、また、その商社に輸出したいと思わせる製品であることも大事だ。
もちろん、直接貿易に伴うハードルは勉強を重ねて乗り越えていくことができる。当社にとって、今でも難しいのが価格の設定だ。原価や利益率、日本の卸値や小売価格をベースに、輸出にかかる費用を積み上げていくオーソドックスな方法では、設定した価格と現地相場にずれが生じる危険性がある。商品を過小評価されないために「いくらで売りたいか」いうターゲット小売価格を最初に決めるのも手だ。ただし、現地の適正な価格帯を入念に調査し、自社の商品がいくらで売れるか、念入りに検討することが重要だ。
執筆者紹介
ジェトロ岐阜
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2017年~2019年)にて東南アジア・南西アジアの調査業務に従事。
専門はフィリピン・スリランカ。 2019年7月より現職。

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