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特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣人材と研究開発がカギ、日本では想定できないハプニングも/チヨダ工業(愛知県)

2020年3月26日

チヨダ工業(愛知県)は自動車部品向けなどのプレス金型メーカーだ。従業員数は約90人という中小企業だが、2000年代から現地での需要を見込み、海外3カ国へ進出している。ベトナムでの事業展開を中心に、社長の早瀬一明氏に話を聞いた(2月4日)。


社長の早瀬一明氏(同社提供)

優秀な人材が集まり事業拡大、キーパーソンが立役者

チヨダ工業は2006年、金型の設計拠点としてハノイに現地法人を設立した。日本での人材獲得に苦労していた中、知人のベトナム人に案内されて現地を視察したことから、ベトナムとの関わりが始まった。早瀬氏は「現地視察で、ハノイ工科大学から優秀な人材が輩出されていることがわかり、彼らに設計を任せたいと思うようになった」と語る。現地法人が稼働し、設計業務を続けているうちに、いい人材が集まるようになり、「製造までやってみようという話になった」(同氏)。実際に2013年、ハノイ西部の工業団地のレンタル工場へ進出し、金型の設計から製造まで行うようになった。さらに事業が拡大し、2015年からは現在の地場系ドントー(Dong Tho)工業団地に自社工場を設けた。この団地に入居する日系企業はチヨダ工業を含め2社だ。

ここまで円滑にベトナムでの事業が進んできた一因として、早瀬氏は現地でのキーパーソンの存在を挙げる。同社よりも先にベトナムへ進出しながら撤退した日本企業に勤務していたベトナム人がチヨダ工業ベトナム拠点の顧問となっていた。先述のベトナム視察を案内した人物だ。同氏がベトナム拠点の立ち上げに際し、人材募集や労務管理などの立役者となっている。

2015年、同社はタイにも進出を果たしている。ベトナムに進出後、同社全体でタイやインドネシアの顧客向けの金型設計、製造が多くなり、特に多いのがタイ向けだった。タイの顧客からも「なぜタイに来ないのか」との要望が強くなったため、タイ拠点も設立した。

ベトナム進出でコスト競争力強化を実現

ベトナム拠点の売り上げは5割超が日本向けで、2割がベトナム国内向け。残りは米国向けなどだ。日本向け受注が大きい要因の1つとして、早瀬氏は日本での「同業の金型メーカーの事業撤退」を挙げる。「日本国内では中小規模の金型メーカーが事業撤退を続けており、全体の4割が撤退すると言われている」と話す。当初の設備投資から20~30年が経ち、さらなる設備投資ができる体力があるか、技術を継承する若い人材がいるか、という問題が日本では発生しているという。また、他の要因として、同社がベトナム拠点を活用し、日本と比較した人件費の安さを享受することで、「コスト削減を実現している」ことも挙げる。

日本では想定できないハプニングが

順調に海外事業を展開しているように見える同社だが、「海外では、日本で想定していなかったことが起きる」と早瀬氏は語る。実は、同社は2004年に米国に進出し、金型の設計や製造、販売を開始していた。ただ「ベトナムやタイと比較すると、ものづくりのノウハウ、技術などを現地に植え付けることが難しいと現時点では判断している」という。米国拠点は現在、営業と金型のメンテナンスサービスを主に行っているという。

最近も想定外の事態が起きた。同社はベトナム拠点の生産能力の拡大を計画しており、2020年末にまた別の工業団地へ転居しようとしている。当初、入居している工業団地の隣に空き地があると言われ、同社工場の拡張用スペースとしてリースを受ける予定だったが、よく調べてみると、宅地用だったとのことで諦めた。また、今の工業団地の近隣に工業団地が新しくできるという話もあり、5,000平方メートル分を仮契約して本契約までいきかけたが、2019年春、中国・華南の中国企業が当社より大きい投資をするということで、「ヘクタール単位でないと契約しない」と、当該工業団地の運営会社から一方的に契約をキャンセルされた。その中国企業は、チヨダ工業社が仮契約した土地リース価格よりも1.5倍以上の価格で契約するという。

研究開発が原動力

今後の市場動向について、早瀬氏は「自動車業界における部品の共通化は、当社のような企業にとって脅威だ。自社部品が共通化で残ればいいが、残らない可能性もある。いずれにしても、部品点数は長期的には減っていく傾向にある」と語る。

一方、同氏は「当社の強みは、加工が難しい高張力鋼板の加工技術」(注)とし、電気自動車(EV)やハイブリッド車はバッテリーで重くなるため、その代わりに、薄くて硬い高張力鋼鈑を使う必要性が出てきていると、同社技術へのニーズの高まりを説明する。「当社は売り上げが厳しいときも、自分の権限で研究開発を続け、技術力を高めてきた」と、早瀬氏は成長と事業存続の主要因を分析する。

ベトナム拠点の売り上げのうち2割程度しかないベトナム国内での受注については、最近の傾向として、現地日系メーカーからプレス金型の設計・製造に対する需要が出てきているという。早瀬氏は「プラスチック金型は、現地日系企業の要求水準に見合うメーカーが数社あるものの、プレス金型は見当たらないと聞いている」としている。技術力の高さに現地ニーズが合致してきた。


注:
高張力鋼とは、ハイテン(High Tensile Strength Steelの略称)とも呼ばれる高強度鋼の総称。(出所:発明協会)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課 課長代理
小林 恵介(こばやし けいすけ)
2003年、ジェトロ入構。ジェトロ・ハノイ事務所勤務(2008~2012年)。2015年より現職。専門は、ベトナム経済を中心としたメコン地域の調査。主要業績として『世界に羽ばたく!熊本産品』(単著)ジェトロ、2007年、『ベトナムの工業化と日本企業』(部分執筆)、同友館、2016年、『分業するアジア』(部分執筆)、ジェトロ、2016年など。

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