特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣「手頃な価格でおいしい」日本酒を世界へ/小山本家酒造(埼玉県)

2022年8月29日

株式会社小山本家酒造は、埼玉県さいたま市に本社を構える、日本酒を中心とした酒類の製造販売企業。その歴史は古く、創業は文化5年(1808年)と200年以上前にさかのぼる。小山本家酒造のこだわりや海外輸出について、同社取締役の佐々木浩一氏、営業本部海外事業部の小針美奈氏、深澤京香氏に話を聞いた(2022年7月20日)。


小山本家酒造の敷地内にある小山景市会長宅前で(向かって左が深澤氏、右が小針氏)(ジェトロ撮影)

手頃な価格の日本酒ブランドを数多く確立

小山本家酒造は、日本酒ブランドを数多く抱えており、手頃な価格帯のものが多いことが特徴だ。主力ブランドとしては、創業200年を記念して誕生した「金紋世界鷹(きんもんせかいたか)」や、東京の繁栄を願い大正時代に誕生した「東京盛(とうきょうざかり)」、埼玉の地下180メートルから湧き上がる天然水で醸した純米酒「米一途(こめいちず)」などがあげられる。

これらの日本酒ブランドは、いずれも手頃な価格で販売している。敷地内の地下を流れる埼玉の地下水が日本酒の製造に適している軟水であることや、生産工程を自動化したことなどにより、自社での大量生産が可能となり手頃な価格での販売を実現している。

実際に小山本家酒造の敷地内を歩くと、自動化された生産工程をいたるところで見ることができる。社屋を出て少し歩いただけでも、倉庫の屋根付近に設置されたベルトコンベア、地上3階建てほどの高さまでそびえる自動での出荷管理が可能なタワー、連続して並ぶ原型精米を行う自動精米機などが目に飛び込んできた。敷地内をさらに進むと複数の巨大貯蔵タンクが待ち構えており、生産規模の大きさがうかがえる。この貯蔵タンクは合計180本ほどあるというから驚きだ。

また、日本酒製造にとって重要な要素の1つが水である。敷地内には複数の井戸があり、日々地下水をくみ取っている。この地下水は、秩父連山を源とする荒川水系の天然水。これが日本酒製造に適した軟水であった。

こうした努力や立地の良さに起因する、商品ラインナップの豊富さと価格設定が小山本家酒造の強みだ。


「東京盛」や「米一途」などこだわりの日本酒ブランドを有する(ジェトロ撮影)

認証取得により安全・安心な量産体制構築

上述したように、小山本家酒造は手頃な価格の日本酒ブランドを数多く世に送り出した。その品質と価格設定が強みとなり、まずは日本全国の小売店の商品棚に多くの自社商品が並ぶようになった。すると、「手頃な価格でおいしい」というブランド認知で卸売業者からの引き合いが増加し、結果的に、自社の商品を海外でも販売したいという話が舞い込んでくるようになった。

海外への輸出は、およそ10年前から取り組んでいる。実際の輸出のほとんどは商社を経由した間接輸出だが、香港の卸売業者とは直接の取引がある。同社との取引は、同社からの1本の電話がきっかけ。世に流通している小山本家酒造の商品を見て、興味を持ったという。埼玉まで見学に訪れ、自社をよく知ってもらってから取引が開始された。佐々木取締役も、香港に行き交流したことがあると話す。香港では、日本と比較してSNSでの発信が盛んだという。同社とはこれから通販サイトをつくる話も出ている。

輸出量は、台湾・中国・香港といった国・地域向けが圧倒的で、アジアを中心に、北米、欧州、南米にも輸出している。輸出用に自社の商品をアレンジすることは基本的にはなく、国内に流通している自社の商品と同じものを輸出している。以前、スパークリングの日本酒の販売に取り組んだこともあるが、うまく売れずに断念したこともあった。こうした失敗経験もあり、あくまで既存のものを売り出すということでリスク管理をしている。

自社の商品の認証取得にも力を入れている。「やはり正式に認められないと」という佐々木取締役きっての思いで、およそ3年前にFSSC22000(注)の認証を取得した。ほかにもISO22000、グループ各社はJFS-B規格も取得している。

実際に海外輸出の注文が入ると、生産量が多いことからすぐに対応することが可能だ。在庫がなくなることもまずないという。生産工程を自動化したことで大量生産が可能となった点は、海外輸出においても小山本家酒造の大きな強みであろう。

輸出増に向け商社との連携・社内体制強化

輸出にあたり、商社とは、現在年間を通して30社ほどとやり取りしている。社内の体制強化にも力を入れており、2017年には海外事業部を新設。海外輸出に一層力を入れた。外部の英語学習プログラムを導入して社員の英語力強化をはかるなど、海外展開のための人材育成にも取り組む。

現在、海外輸出の実務は、専任では小針氏と深澤氏の2人が、ほかにも兼任では6人ほどが担当している。30社ほどの商社とは、小針氏と深澤氏で分担して担当している。新製品が発売されるときには両氏から商社にPRをするなど、日頃から商社と信頼関係を築く努力をしている。社内体制を強化し、商社との連携を強めることで、より多様なニーズに対応している。

今後、海外輸出を増やしていきたいと考えている。「輸出比率を国内平均の5~6%くらいまで増やしたい(2021年の輸出比率は0.9%)」と佐々木氏は語る。今後、特に力を入れたい国・地域は、香港、中国、米国、オーストラリア、韓国。これからも世界に向けて「手頃な価格でおいしい」日本酒をお届けする。


注:
FSSC22000とは、国際的なISO22000規格に基づいた食品安全管理認証。製造事業者による科学的、技術的進歩に焦点を置いた食品安全への取り組みを可能にし、監査により継続的な向上を可能にしている[参照:農林水産物・食品輸出に向けたプライベートスタンダード調査(2019年3月) | 調査レポート - 国・地域別に見る - ジェトロ (jetro.go.jp)]。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部海外調査企画課
板谷 朋子(いたや ともこ)
2014年、ジェトロ入構。アジア経済研究所、対日投資部を経て現職。

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