特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣コロナ禍の中、アマゾンとツイッターの活用で米国市場開拓/マツシマ メジャテック(福岡県)
北九州市を拠点に海外ビジネス拡大
2021年9月30日
マツシマ メジャテック(本社:福岡県北九州市)は各種計測機器や制御機器を製造する産業機器メーカーだ。1901年の官営八幡製鉄所の操業開始以降、素材型重工業を中心に発展してきた「モノづくりのまち」北九州市で、製造現場の生産性向上や環境対策、安全性確保に貢献する製品を製造開発してきた。同社は2021年、アマゾンやツイッターなどの一般消費者向けECサイトやSNSを通じて、米国市場を開拓した。その手法や狙いについて、社長の池田憲俊氏をはじめ、営業本部長の武石健一氏、海外営業所課長の前田一仁氏、また、2020年度ジェトロ新輸出大国コンソーシアム事業で同社の海外事業展開支援を担当した中川泰パートナーに話を聞いた(2021年7月6日)。
プッシュ型からプル型への営業改革
マツシマ メジャテックは、製鉄所や発電所などの製造現場の工場空気中粉じん量やタンク内物質量などの計測機器、ベルトコンベヤー周辺保護機器を製造開発している。北九州市と同じように素材型産業が集積する国・地域にはビジネスチャンスがあるとして、これまで中国や韓国、台湾、東南アジア各国・地域を中心に海外ビジネスを展開してきた。同社の自慢は軽快なフットワークの現場主義だ。海外の取引先候補企業に対しても、国内営業と同様に頻繁に足を運び、顧客との関係を築くことで販路を開拓してきた。前田課長は「コロナ禍前の海外出張は年間約100日にも上った」と話す。
状況が変わるきっかけとなったのは、新型コロナウィルスの世界的な感染拡大だった。各国の水際対策強化によって海外渡航を伴う営業活動が困難になり、自慢のフットワークを封じられた。これを機に、同社は海外営業手法を改革した。池田社長は「これまでは足で稼ぐ営業スタイルだったが、そもそも人的リソースには限界を感じていた。インターネットを活用して、営業側が主体となって顕在顧客にアプローチする『プッシュ型』から、市場全体の潜在顧客が自発的に照会してくる『プル型』へと、コロナ禍を機に転換を加速化しようと考えた」と話す。
同社は、これまで商圏を構築してきたアジア圏について、海外子会社や現地代理店を通じて引き続き手厚くフォローする一方で、競争市場でもより良い製品を探すプロフェッショナル向けの潜在販路があると考え、ライバルがひしめく米国市場を新たなターゲットに据えた。そこで同社が活用したのが、米国の大手ECサイトのアマゾンとSNSのツイッターだった。
取引への布石としてアマゾンを活用
アマゾンは有料会員「プライムメンバー」だけで全世界に約2億人(うち米国内に約1億5,000万人)の利用者を有する巨大ECサイトだ。もちろん、アマゾンは一般消費者向けのECサイトなので、産業機器に特化しているわけでも、ビジネス目的に利用されているわけでもない。しかし、ジェトロ新輸出大国コンソーシアムのハンズオン支援パートナーとして同社の海外展開支援を担当した中川パートナーは「その膨大な数の利用者の中にバイヤーやディストリビューターがいないと考える方が不自然だ」と話す。
同社が考えたのは、営業ツールとしてアマゾンを活用することだった。コロナ禍で海外渡航や展示会参加が困難になり、困っているのはサプライヤーだけではない。製造現場の業務改善を図るバイヤーも常日頃、より優れた製品を探している。取引前にモノを見たいというバイヤー心理はコロナ禍でも変わらないとの考えから、同社はアマゾン利用者の中に隠れたバイヤーの「試しに使ってみたい」というニーズを発掘した。
もちろん、アマゾンはBtoBオンラインマッチングサイトではないため、どの現地企業が同社製品を購入したのかまではマツシマ メジャテック側にもわからない。一方で、「バイヤーは自らの素性を明かさずにサンプルを試すことができるため、余計な営業を受けることなく、必要時にすぐ試用できる点も安心できる。気に入れば、後日まとまった数量を購入してくれる。有償でサンプルを購入してくれる場合の成約率は決して低くない」(中川泰パートナー)という。
また、アマゾンの物流拠点まで製品を納入すれば、アマゾンがサプライヤーに代わって商品の保管や発送を行うフルフィルメントサービスを受けられることもメリットの1つだ。同社はアマゾンを倉庫機能、物流機能、決済機能、製品返送などのカスタマーサービス機能を有する、いわば「現地商社」と位置付けた。
米国では、製品を探すオンライン消費者の実に半数以上が最初にアマゾンを利用するなど、ECサイトの枠を超えて検索エンジンとしても機能している。関連製品検索時に同社製品ページの検索結果が上位に表示されるよう、他社製品の表現を研究するなどして、検索意図を意識したサーチエンジン最適化(SEO)対策にも工夫を凝らして英語製品名を付けた。
潜在顧客へのマーケティングにツイッター活用
マツシマ メジャテックは、アマゾンと同時にツイッターも活用している。同社のこれまでの海外販路開拓手法が「一本釣り」とすれば、アマゾンは潜在顧客に広くアプローチする巻き網、ツイッターは魚の群れを探すソナー(音波を利用した探知機)の役割を果たす。「越境ECにアドバンテージはあるが、『やれば、すなわち売れる』というものではない。アマゾンに商品があるということを知らせる認知度向上に向けたプロモーションが別途必要だった」と前田課長は話す。
そこで活用したのがツイッターだった。フェイスブックやインスタグラムなど他のSNSも検討したが、リツイートや「いいね」による情報拡散力の強さから、ツイッターを選択した。現在、同社では国内用公式アカウントを2人、海外用公式アカウントを1人の計3人で運営している。海外用公式アカウントのいわゆる「中の人」は前田課長だ。最低でも1日1件、投稿時間を指定できる予約投稿の機能を活用し、米国現地との時差を考えて継続的な情報発信でプレゼンスを示している。
また、同社が最も効果的と振り返るのが、バイヤーにリーチする有料広告の機能だ。ツイッターの有料広告では、ユーザーの所在地域や性別、年齢、言語、使用端末、興味を持つ分野などでピンポイントのターゲティングが可能だ。潜在顧客になりそうなできるだけ多くのフォロワーを持つアカウントを狙いに定め、そのフォロワーや類似のアカウントのタイムラインに同社の広告が表示されるように設定した。有料広告を出してからインプレッション数やフォロワー数も増加し、月平均10~15件の問い合わせが安定して入るようになったという。
コロナ禍、ジェトロも越境ECへの出展後押し
ジェトロでは、中堅・中小企業のオンラインを活用した海外販路開拓に向け、海外の主要な60以上のインターネット通販サイトに商品を紹介するJAPAN MALL事業を実施している。海外のインターネット通販サイトと連携する国内商社との国内納品・国内買い取り・円建て決済で完結するため、複雑な輸出手続きが不要なことが特徴だ。
また、ジェトロでは2021年度に新たにアマゾンと連携し、特設ページ「JAPAN STORE」を米国アマゾンのサイト内に設置し、アマゾン経由で米国市場販売を促進する事業を実施する予定だ。9月後半から参加企業500社の公募を開始する。
できることから一歩ずつ
アマゾンに掲載してもすぐに売れるわけでもなければ、ツイッターを開設してもすぐにフォロワーが増えるわけでもない。むしろ、最初から全てがうまくいくことはほとんどないだろう。一方で、中川パートナーは「コロナ禍で身動きが取れない中でも、前田課長をはじめ、マツシマ メジャテックは今できることをなんでも取り組んで、将来の種を仕込んでいる。今後、海外渡航が解禁され、海外展示会などに参加した時には、アマゾンやツイッターで発掘したバイヤーが米国にいる状態をマツシマ メジャテックは作り上げた。きっと花が咲くはずだ」としている。挑戦するには、コロナ禍であろうと、いつであろうと、まずはできることから取り組むことが重要だ。
- 執筆者紹介
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ジェトロ北九州
葛西 泰介(かっさい たいすけ) - 2017年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、外国企業誘致課を経て現職。