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特集:中小企業の海外ビジネス、成功の秘訣未開拓市場を切り開け!地酒のトルコ輸出/中島醸造(岐阜県)

2020年2月14日

300年以上にわたり酒造りを続ける老舗蔵元の中島醸造(本社:岐阜県瑞浪市)は2019年7月、トルコへの地酒の輸出を成功させた。トルコは中東有数の経済国でありながら、日本産の地酒は流通していない(注1)。中島醸造は先駆者としてトルコに挑み、成果を勝ち取った。今回の成功は、トルコ市場開拓のきっかけになると期待される。しかし、世界30カ国以上に輸出経験のある同社をもってしても、輸出関連規制や手続き面での情報が限られているため、輸出は困難を極めたという。どのようにして、同社は壁を乗り越えたのか。トルコへの輸出経緯や困難だった点、今後の展開について、同社顧問の中島崇貴氏と輸出担当の城戸まほろ氏に話を聞いた(2020年1月8日)。


トルコへの輸出を実現した中島顧問(左)と城戸氏(ジェトロ撮影)

地産地消から方針転換、10年余りで世界30カ国へ

質問:
会社の概要と海外展開の現状は。
答え:
中島醸造は元禄15年(1702年)に、初代・中島小左衛門が酒造りを始めたことが嚆矢(こうし)。酒米には「あさひの夢」や「ひだほまれ」といった地元瑞浪市産のコメを、仕込み水には同市にそびえる屏風山の伏流水を用いてつくる、初代の名を冠した「小左衛門」ブランドを2000年に立ち上げた。当社の酒はかつて地元のみで消費されていたが、より多くの人に岐阜の地酒を味わってほしいという思いで国内販売を開始した。「小左衛門」を筆頭に本格的な全国展開を果たした後、2007年に海外輸出を開始した。当初は特定の国に縁があったわけではないので、一つ一つ輸出国と販路を開拓していった。今ではヨーロッパや米国、アジア各国の計30カ国以上に輸出しており、全出荷量の約3割が輸出用だ。
質問:
トルコへの輸出の経緯について。
答え:
トルコのイスタンブールを初めて訪れたのは2017年。日本料理店を経営している方が日本産日本酒を求めていると聞き、現地を視察したところ、人口規模や購買力などの情報をジェトロのイスタンブール事務所などから得て、市場性を確信した。しかし、トルコにおける日本からの日本酒輸入規制のハードルは想像以上に高かったので、当初は輸出に向けて具体的な動きはとらなかった。しばらくして、世界10カ国以上に展開している高級日本料理店「ZUMA」のイスタンブール店から引き合いがあった。高品質の日本の地酒として、当社の小左衛門を仕入れたいと、同店のソムリエから打診があったもの。ただし、ZUMAが乗り気でも、店に日本酒を届けるためには、通関や輸送などの実務を請け負うインポーターを見つけなければならなかった。
ZUMAから引き合いがあった当初にやり取りをしたインポーターは、その会社の担当者が辞めてしまい、取引が止まってしまったが、ZUMAが別のインポーターを手配してくれたため、無事に輸出手続きを進めることができた。ZUMAの地酒を扱いたいという熱意と、イレギュラーな事態への迅速な対応がなければ、もっと厳しい状況に置かれていたかもしれない。最終的には、小左衛門3種類(純米大吟醸、純米吟醸、特別純米)と純米ゆず酒の計4種類を輸出することになり、合計で1,560本と初回にしては類をみない量を輸出することができた(ヒアリング後の1月31日、中島醸造に対し再発注があった。ZUMA担当者の同社訪問の話も進んでいることから、一過性ではない継続的な関係が構築されつつあることがうかがえる)。

左から特別純米、純米吟醸、純米大吟醸、純米ゆず酒(ジェトロ撮影)

トルコが求める書類を日本で準備できない・・?

質問:
トルコへの輸出で困難だった点は。
答え:
輸出関係書類の作成が、他国と比べて非常に大変だった。さまざまな理由で、書類を提出しても「ダメ」と受理されないことが多々あった。例えば、イスタンブール港の名称。イスタンブールでは、ヨーロッパ側にはアンバルリ港があり、その中に複数のターミナルが存在する。さらに、アジア側にはハイダルパシャ港があり、仕向港の名称に関して、トルコ側と日本の船会社の間で認識ずれが生じた。このようにささいなミスコミュニケーションが原因で書類受け取りを拒絶されることがあった。トルコへの日本酒の円滑な輸出には、定められた書類に、定められた項目を漏れなく記入する必要がある。
最も準備に手間取った書類は、遺伝子組み換え食品ではない(NonGMO)ことを示す証明書だ。当初は自社証明が可能であると聞いていたが、トルコ側は受理してくれなかった。第三者による署名が必要と分かり、さまざまな日本国内の関係機関に要望したが、証明書発行に向けた協力は得られなかった。そもそも日本において、コメは遺伝子組み換え対象食品ではない(GMO米は日本では禁止されている)ため、国内流通にあたりNonGMOという証明は必要ない。しかし、トルコではGMO規則が厳しく、コメや日本酒も規制や検査の対象となっている。最終的には、ジェトロ、在トルコ日本大使館、国税庁と相談をしながら、粘り強く各種書類を準備したことで、トルコ側に輸出することが可能となった。今回は、まさにオールジャパンで取り組んだ輸出成功物語だったと思う。
衛生証明書の入手も、同様の困難に直面した。保健所が発行したものが有効とされたが、管轄の保健所からは「そのような書類を出したことがない」との回答だった。最終的には醸造所の視察受け入れなどに対応して発行までこぎつけたが、最初の依頼から発行まで数カ月を要した。NonGMO証明書も衛生証明書も日本側で準備できず、せっかくの引き合いが宙に浮いてしまうのではと、当時は本当に困ったことを覚えている(注2)。

日本酒を知ってもらう、ただ買ってもらうだけでは続かない

質問:
トルコでの今後の輸出・販売方針。
答え:
ZUMA以外のお店を見つけていく。現地系のレストランの開拓は時期尚早のため、まずは日本料理店だ。当社が取引するインポーターが、ZUMA以外の店舗に対して日本産日本酒の販売を自発的に行ってくれるとは限らない。営業先となるお店の候補はすでにいくつかある。(先に述べた)初めてトルコの地を踏んだ際に訪問した日本料理店もその1つだ。他方で、店舗やインポーターへの啓発活動が日本酒の普及には必要不可欠だ。例えば今回のケースだと、ZUMAに対して品質管理のノウハウを提供しなければならない。日本酒は蒸留酒ではないので、お客においしく飲んでもらうためには保存に一層気を使う必要がある。来日機会を創出して蔵を見学してもらったり、料理との合わせ方をアドバイスしたりするなど、作り手の思いを伝えることも重要だ。
蔵元は酒造りに、販売は商社に、とそれぞれが専任できれば理想的だが、商流の安定化とトルコ市場の開拓が進むまでは、当社も販促活動に取り組んでいくつもりだ。
質問:
日本酒を世界にさらに広めていくためのポイントは。
答え:
ただ日本酒を輸出するだけでは、酒造にとって「ビジネス」となる規模まで市場は拡大しない。現地の消費市場がまだ育っていない場合はなおさらで、そのような状況では消費者は何を選んだらいいのか分からないため、結局は資本力のある大きな会社の日本酒を手に取ることになる。これでは、中小の酒造は苦しい。現地での普及・啓発活動は日本酒を世界に広めていくために肝要だ。ただ、日本酒独自のバリューを一から構築していくのではなく、例えば世界的に認知されているワインのバリューに沿う形で提示していくとよいだろう。WSET SAKE(注3)は良い例。普及・啓発活動はまだ始まったばかり。日本人がワインを飲み始めてから、ブルゴーニュワインが現在の認知度に達するまで、50年かかっている。

注1:
トルコ国内には日本酒が少量ながら流通しているものの、これらは米国産。
注2:
トルコは遺伝子組換え食品(GMO)の輸入を厳しく制限している。日本酒などの微生物(酵母)を原材料に含む食品などの輸出にあたっては、日本国内で証明権限を有する機関が署名した非遺伝子組換え食品(NonGMO)証明書が求められていた。しかし、日本において遺伝子組み換えのコメが流通していないことから、本事例では書類の準備が困難だった。トルコ政府によると、2019年11月時点で取り扱いが変更され、現在は製造業者の宣言で輸出可能とされているが、執筆時点で実例が確認されていない。トルコ向け輸出に関する書類について、不明点や受け取り拒絶などが生じた場合は、早めにジェトロや在トルコ日本大使館に相談するのが望ましい。
注3:
WSET(Wine&Spirit Education Trust)は、50年以上の歴史を持つ世界最大のワイン教育機関。誰でも適切なワイン評価ができるように教育カリキュラムを独自に開発し、世界70カ国で教育組織を運営している。WSET SAKEはその日本酒コース。
執筆者紹介
ジェトロ岐阜
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2017年~2019年)にて東南アジア・南西アジアの調査業務に従事。
専門はフィリピン・スリランカ。 2019年7月より現職。

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