AZECで広がる脱炭素ビジネス:ASEAN・インドの最新動向ラオスにおける脱炭素ビジネスの最前線
主要分野の動向と事業機会
2026年2月19日
ラオスの気候変動政策は、2030年までにベースライン比(基準年:2000年)で温室効果ガス(GHG)排出量を60%削減し(注1)、2050年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げている(2023年9月27日付地域・分析レポート参照)。現在、政府は「第3次国が決定する貢献(NDC)」の策定を進めており、第2次NDCからの野心的強化として、エネルギー・鉱業部門における排出削減目標の更新、気候変動適応(注2)の拡充を含む予定だ。さらに、持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けた資金調達の強化を目的として、グリーンファイナンスの促進や、再生可能エネルギー証書(REC)制度などの市場メカニズムへの支援が政策文書に明記される見込みだ。
こうした政策環境の下、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大やカーボンクレジットの活用の動きが具体化してきた。本稿では、「再エネや排出権取引で企業参入、社会課題にも注目(2023年12月21日付地域・分析レポート参照)」を補足し、最新動向や今後の事業機会を展望する。
多様化が進む再生可能エネルギー電源構成
ラオスは「水力偏重(注3)」からの脱却と電力輸出機会の拡大を目的として、太陽光、風力、分散型再エネなどの開発を加速している。ラオスの再エネ資源ポテンシャルは、水力26.5ギガワット(GW)、太陽光11.4GW、バイオマス3GWと推定される。ラオス商工省が掲げる電力開発計画では、水力を基軸としつつ、今後は風力および太陽光の大幅な拡大が見込まれている。世界的にも、太陽光・風力の均等化発電原価(注4)は過去10年間で大幅に低下しており、最も安価でクリーンな電源として認識されるようになっている。
具体的な再エネプロジェクトとしては、以下のような動きがある。
- 太陽光発電:大規模事業として、CGNパワー(中国広核集団)による北部ウドムサイ県での1,000メガワット(MW)の発電所が2025年12月に完成した。ラオス商工省によれば、ダム貯水地の水上太陽光を含む現在50件(9,518MW) のフィージビリティー・スタディー(FS)が進行中。
- 風力発電:東南アジア最大級の「モンスーン」陸上風力発電所(600MW)が、2025年8月に商業運転を開始した(2025年9月4日付ビジネス短信参照)。12月には300MWの「サワン1」が商業運転を開始している。このほか、35件(計1万2,000MW)のFSを実施中。
- 分散型再エネ:農業・工業・住宅分野での自家消費型の導入を奨励し、特に屋根置型太陽光発電(ソーラールーフトップ)の導入を推進(2025年11月21日付ビジネス短信参照)。
- バイオマス・廃棄物発電:小規模バイオ燃料や養豚場由来のバイオガス事業を推進。セメント工場への燃料供給を目的として、廃棄物由来のごみ固形化燃料(RDF)生産も進展中。
さらに、これらの事業について、セーバンファイ太陽光発電所(50MW)などでは、国際再生可能エネルギー証書(I-REC)の登録、発行に向けた動きも活発化している。そして、再エネ拡大に伴い、送電網・系統増強、送電インフラ、蓄電システム、需給調整力に焦点を当てた技術協力やプロジェクト形成の機会が見込まれる。

活発化するカーボンクレジット事業、農林業分野の制度整備と先駆的事例
さらに、温室効果ガス(GHG)削減量をクレジット化するカーボンクレジット事業を通じ、新たな収益源を創出する動きが加速している。制度面では、森林分野に特化した「森林カーボン管理に関する農林大臣合意4565号(2024年9月30日付ビジネス短信参照)」が2024年9月に発布され、森林回復や植林を奨励する枠組みが整備された。2025年5月には、「カーボンクレジットに関する政府令292号(2025年6月13日付ビジネス短信参照)」が発布された。この政府令は、カーボンクレジットに関する戦略策定、国際協力、事業登録、利益分配などを包括的に規定するものであり、農林業、グリーン水素・アンモニアなどを含むエネルギー事業、工業、インフラ・運輸・廃棄物処理業、水域・泥炭地保全事業を対象としている。
ラオスでは、特に排出削減ポテンシャルが大きい農林業分野において、具体的なプロジェクトが先行している。ジェトロのヒアリング(2025年12月2日)によれば、ブアラパー・アグロ・フォレストリー(Burapha Agro-Forestry)は、2016~2020年に実施した約3,000ヘクタールのユーカリ植林プロジェクトについて、国際認証「Verra VCS(注5)」に基づき、2023年に約13万トン・二酸化炭素換算(tCO2e)、さらに2025年に約14万tCO2eのクレジットを取得したという。また、アグコーテック・ラオ(AgCoTech Lao)は、飼料添加物技術により水牛の腸内発酵に由来するメタン排出を削減し、家畜の生産性向上と農家の収入増加を実現している(2025年3月17日付ビジネス短信参照)。同社は2025年10月、ラオス政府の認可を得て、パリ協定第6.2条に基づく二国間市場およびCORSIA(国際民間航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム)向けに、2025~2029年の5年間で最大300万tCO2eのクレジット発行を許可された。
このような中、カーボンクレジットの完全性を確保することが急務となっている。特に、測定・報告・検証(MRV)の高度化や、デジタル技術の活用(スマートメーター、IoT、衛星画像、リモートセンシング、人工知能(AI)・機械学習など)による精度向上、さらに国際認証準拠の第三者検証(Verra / Gold Standard / ART-TREESなど)の需要が一段と高まっていくと見込まれる。
黎明(れいめい)期にあるグリーンファイナンス市場
ラオスが掲げる野心的な気候変動対策目標を達成するためには、大規模投資が不可欠だ。しかし、資金需要と現状との間に大きなギャップが存在している。特に、気候変動対策やインフラ整備といった公共投資の余力は、深刻な公的債務問題(2025年1月16日付地域・分析レポート参照)によって大きく圧迫されている。ラオスの公共・公的保証(PPG)債務残高は、2025年末時点でGDP比82.5%に達しており、気候変動対策への適応策を含む公共サービスへの資金配分を困難にしている。この結果、グリーン成長に向けた国内財源確保が難しい状況にある。
こうした課題に対し、重要な役割を果たすのがグリーンファイナンスの活用だ。ラオス政府は、国際金融公社(IFC)の協力を得て、金融機関向けのグリーン融資および環境・社会・ガバナンス(ESG)リスク管理ガイドラインの策定や、グリーンボンド発行の枠組み構築などに取り組んでいる。加えて、ラオス証券管理委員会は2024年8月、国内債券市場における「グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンド発行に関するガイドライン第6号」を発布した。本ガイドラインは、ASEAN基準および国際資本市場協会(ICMA)の原則への準拠を義務付けるとともに、外部審査機関による検証を要件としている。
具体的な事例として、配車サービスおよび電気自動車(EV)充電事業を展開する地場企業のロカ(LOCA)は2025年11月、ロンドンに本部を置く多国籍機関である民間インフラ開発グループ(PIDG)から250万ドルの投資を受けた。また、2026年初旬にラオス証券取引所(LSX)でグリーンボンドを発行する計画だ(2025年6月13日付ビジネス短信参照)。ジェトロのヒアリング(2025年12月3日)によれば、2026年を通して250万ドル相当を調達し、その資金をEV充電ステーションのネットワーク拡大と、ゼロエミッションタクシー車両の展開に充てる予定だ。
また、ラオス北西部のサイニャブリ水力発電所(1,285MW)は、2022年にタイ証券取引所(SET)で100億バーツ(約500億円、1バーツ=約5円)のグリーンボンドを発行し、プロジェクトローンの一部借り換えに成功した。さらに、ラオス南部のモンスーン陸上風力発電所(600MW)はアジア開発銀行(ADB)や商業銀行などによる総額6億6,255万ドルのブレンデッド・ファイナンス(注6)を活用し、リスク分担と協調融資を実現した。ラオスの水力発電や風力・太陽光発電、持続可能な農林業などのグリーンプロジェクトでは、今後も同様のモデルを活用し、国内外のグリーンファイナンスを積極的に動員していくことが期待される。
さらに、ラオス政府は深刻な公的債務に直面する中で、「債務自然スワップ(Debt-For-Nature Swap:DFN)」をグリーンファイナンス資源確保の重要な戦略として模索している。DFNとは、債務国と債権国との間で、既存の公的債務の返済義務を再構築、削減、または免除し、その結果生じた資金余力を国内の生物多様性保全や気候変動対策に振り向ける仕組みだ。検討されている方法には、譲許的融資を対象とした元本の免除や利子の削減、既存の商業債務をより有利な条件でグリーン債務転換債などの新たな債務証券へ借り換えることなどが含まれる。こうして確保された資金は、気候変動適応、保護区管理、生物多様性保全といった国内の優先課題に充てられ、グリーンファイナンス市場に具体的かつ多様なビジネス機会をもたらすと考えられる。
ラオス脱炭素市場の成長ポテンシャル
ラオスの脱炭素市場は、技術導入のフロンティアとして位置付けられ、幅広い事業機会を提供している。特に、再エネ、カーボンクレジット、グリーンファイナンスの各分野は、国際的な資本と技術を呼び込む余地が大きいと考えられる。
脱炭素ビジネスの中でも、国際市場での取引を目指すカーボンクレジット事業では、デジタル技術と信頼性の高いデータインフラが中核を担う。信頼性の高い排出削減を実現するためには、MRVの高度化と、整合性の取れた環境データの収集が不可欠だ。例えば、ラオスのREDD+(注7)プロジェクトは、衛星技術を活用して森林炭素蓄積量を監視し、不正防止、コスト削減、手続きの迅速化を図る取り組みを模索している。こうしたデジタル化は、プロジェクトの透明性と国際認証取得に直結する重要な技術だ。

ラオス農業環境省のレポートによれば、同国は洪水、干ばつ、熱波などの気候関連ハザードに対して、極めて脆弱(ぜいじゃく)な国の1つだ。対策を講じなければ、河川氾濫による被災人口は2030年代までに倍増すると予測されている。気候変動への適応は喫緊の課題であると同時に、大きな投資機会でもある。レジリエンス強化に資するインフラ投資や技術支援が強く求められる中、脆弱性の高い主要道路や学校、病院などの重要インフラを気候変動に耐えうるように設計し直すための技術協力や投資が必要だ。
総じて、ラオスは未整備な制度や高い債務残高というリスク要因は残るものの、再エネ、カーボンクレジット、グリーンファイナンス、そして気候適応技術という多角的な分野において高い成長ポテンシャルを有しており、引き続き注目に値する。
- 注1:
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ベースラインシナリオは2000年を基準年とし、2030年に10万4,000ktCO2eの排出量に増大すると想定している。
- 注2:
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気候変動適応とは、気候変動に対するレジリエンス(強靭性)を構築し、リスクや被害を軽減するための適切な対応を実施することにより、気候の影響を抑えるための調整プロセスを指す。
- 注3:
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ラオス国内の2024年末時点の、発電容量1MW以上の発電所は109カ所(水力90カ所、太陽光14カ所、バイオ4カ所、火力1カ所)で、総発電容量は1万2,236MW。2024年の総発電量は5万2,945ギガワット時(GWh)で、うち水力は4万425GWh(76.4%)、火力は1万2,367GWh(23.4%)。
- 注4:
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均等化発電原価とは、発電所の建設費用などの初期コスト、運転や維持コスト、破棄コストなどの合計を、全発電量で割ることで算出される数値のこと。
- 注5:
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Verra VCS認証とは、国際カーボンクレジット市場において最も広く利用されている認証プログラム。世界最大のカーボンクレジットの認証機関である米国のベラ(Verra)が運営する「Verified Carbon Standard」を指す。
- 注6:
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ブレンデッド・ファイナンスとは、公的資金(政府、開発金融機関、国際機関など)と民間資金を組み合わせて、開発課題や持続可能なプロジェクトへの投資を促進する仕組みのこと。
- 注7:
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REDD+とは、発展途上国の森林減少・劣化の抑制や持続可能な森林経営などによって、GHG排出量を削減あるいは吸収量を増大させる努力に、成果ベースの支払いという形でインセンティブを与える国際的な気候変動対策のこと。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう) - 2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員






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