AZECで広がる脱炭素ビジネス:ASEAN・インドの最新動向フィリピンで進める新型モビリティの脱炭素化
2026年2月19日
経済成長と人口増加が著しいフィリピンでは、交通渋滞が社会問題のひとつであり、大気汚染や無駄なエネルギー消費など、脱炭素化の観点でも大きな課題だ。こうした中、「アジアゼロエミッション共同体(AZEC)(注1)」協力事業としても注目されるのが、自走式ロープウェイ「Zippar」を開発するZip Infrastructureの取り組みだ。今回、同社COOのレボンキン・マリオ・イアン・カロス・フェリド氏に、フィリピン進出の背景、技術の特徴、今後の事業展望について聞いた(ジェトロヒアリング:2025年12月)。

低コスト、設置の柔軟性を備えたZippar
- 質問:
- Zipparとはどのようなモビリティーなのか?
- 答え:
- 当社は、自走式ロープウェイ「Zippar」という、新しい交通手段を開発する企業だ。本社と開発拠点は、福島県南相馬市にある。Zipparの特徴は、自動運転であること、低コストで導入しやすいことだ。また、ロープとレールを併用することで、支柱間隔を最大200メートルまで広げられる。障害物を避け、景観への影響も最小限に抑えられる。この点、一般的なモノレールだと、10~20mごとに支柱が必要となる。さらに、建設にかかるコストは、鉄道の約10分の1、モノレールの約5分の1だ。車両は12人乗りで、時速30~40kmで走行する。都市部だけでなく、工場や空港、観光地など、既存の鉄道では対応できない場所への導入も可能だ。このように、Zipparは他のモビリティーとのすみ分けができる。そのため、全ての交通市場にアプローチするより、地下鉄やモノレールでは採算性が合わない、30~60分の距離の運航、かつ2,000~3,000人/日の輸送が必要な環境に適している。
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Zipparの様子(福島県南相馬市にて)(同社提供)
電動駆動と太陽光でフィリピンの脱炭素に貢献
- 質問:
- なぜフィリピンを最初の海外展開先に選んだのか?
- 答え:
- COOである私自身がフィリピン出身で、現地の深刻な交通渋滞を肌で感じてきた。フィリピンは都市部で地下鉄整備が進んでいるが、地方都市や観光地、狭隘地では大規模インフラの導入が難しい。Zipparは、主要な幹線インフラの敷設が難しい地域において、その「支線」に相当する役割を提供できる。
- 質問:
- 脱炭素への貢献は?
- 答え:
- Zipparは電動車両をベースとしており、直接的な二酸化炭素(CO₂)排出がない。また、渋滞緩和による間接的な排出削減効果も期待できる。さらに、小型車両のため、高圧電力を必要としない点もメリット。加えて、路線上に太陽光パネルを設置することで、運航に必要な全てのエネルギーを自ら発電し、電力の地産地消も実現できる。もちろん、大規模輸送では、鉄道の方が脱炭素効果は高いかもしれない。しかし、Zipparは、地下鉄や鉄道の導入が難しい地域に設置することで、渋滞を緩和し、間接的にCO₂削減に貢献する。まさに、この渋滞解消への貢献という点で、2024年にラオスで開催された「第2回AZEC首脳会合」に向けた協力案件リストにも、掲載していただいた。
- 日本国内の事例だが、当社は2025年2月、九州電力と連携協定を締結した。同連携は、Zipparの実用化により、九州地域の交通渋滞の緩和や脱炭素化など、低炭素で持続可能な社会の実現を目的としている。このような展開を海外でも広げていきたい。
- 質問:
- フィリピン政府や自治体の期待は?
- 答え:
- 脱炭素はもちろんだが、観光促進と渋滞緩和の面でも、期待されている。当社は2024年6月、フィリピン基地転換開発公社(BCDA)(注2)と覚書(MOU)を締結し、北部の避暑地であるバギオ市への実証導入に向けて、準備を進めている。バギオ市は人口30万人ほどで、標高1,500~2,000mにある。狭い道が多く、斜面が多い地形のため、交通渋滞が発生している。現地当局によれば、中国や韓国から、モノレール導入の提案があったが、急勾配な地形などのため、建設が難しかったようだ。他方、当社のZipparは、この点がクリアできる。先述のとおり、支柱は少なくて済む他、支柱自体も、モノレールより細く、それでいて十分な強度がある。そのため、まずは、同市の森林保護地区内(キャンプ・ジョン・ヘイ地区)で、導入に向けた実証実験を行う計画だ。BCDAとの役割分担では、土地の提供や行政の手続きはBCDA、技術提供はZip Infrastructureというすみ分けだ。今後は、市民の足として、地域の経済発展や観光促進にも貢献していきたい。
安全認可と制度対応などが課題
- 質問:
- 現地で直面している課題は?
- 答え:
- 最大の課題は、フィリピン政府の安全認可や法令順守をいかにクリアするかだ。Zipparは、新しい都市型交通システムであるため、交通インフラとしての安全性を確立させ、自治体の信頼を得るには、多少時間がかかると考えている。そのため、現在は、フィリピンでの展開と並行して、日本の福島県南相馬市でも、実寸大の実証機を用いた検証を重ねている。日本の安全基準を確立しながら、フィリピンで短距離路線の導入を目指している。まずは、福島での実証を重ねながら、公園や商業施設など、数百メートルという短い路線での実践をしている。
- 特に、海外における技術基準や許認可を克服するには、日本政府によるバックアップも不可欠だ。現在、日本の技術・安全基準をクリアすべく対応しているが、交通インフラの海外展開においては、日本の基準を相手国に導入できるかがカギとなる。フィリピンではないが、海外では、日本製の交通インフラ(ハード)を導入しているにもかかわらず、ソフト(基準)では、欧州の規格を求められる事例も珍しくない。そのため、交通インフラの輸出には、併せて「基準の輸出」も重要。この点は、日本政府とも連携した取り組みが必要だと感じている。
- そのほか、無人かつ自動運転となるZipparのフィリピン展開に向けては、車内犯罪の防止策も要検討だ。例えば、緊急事態に備えて、警報装置を付ける、または警備員を乗り込ませるなどの対応が必要かもしれない。これは、海外展開する上での、独特な課題のひとつともいえる。
- さらに、フィリピンでは自然災害への耐久性も重要だ。一般的に、この点は、地震を含めた自然災害が多い日本の方が、求められる安全基準が厳しいため、当社はそれに対応している。他方、台風が多く訪れるフィリピンでは、ロープへの風や雨の影響なども、今後検証していく必要がある。
- 質問:
- フィリピンでの事業モデルは?
- 答え:
- 当社は、製品提供とO&M(保守メンテナンス)を組み合わせたモデルを採用している。具体的には、建設費・システム費用に加えて、車両の点検やメンテナンスを継続的に行うことで、長期的な収益を確保する。これは、鉄道やモノレール事業者が採用するモデルを小規模にしたものだ。
フィリピンからASEAN市場へ拡大
- 質問:
- 今後の事業展開は?
- 答え:
- この先、数年は、日本での技術的な試験や実証に対応する必要があり、売り上げは、国内9割、海外1割を目指す。ただ、将来的には、国内の売り上げが3~4割、海外が6~7割など、海外市場をメインにしていきたい。
- 海外では、まずはフィリピンでの実績づくりを優先したい。BCDAの敷地内でのZippar導入に続き、財閥が保有する土地や、マニラ以外の主要都市、セブやダバオなどへの展開を目指したい。
- それに加えて、インドネシア、マレーシア、ベトナム、タイなど、他のASEAN諸国への展開も視野に入れている。すでに、各国の主要企業にもコンタクトしている。いずれにせよ、主なターゲットはASEANと考えている。ASEANでは、JICAによるインフラ開発支援の歴史も長く、公共交通分野において、日本のブランド価値や信頼は高いと感じている。
- 質問:
- 競合との違いは?
- 答え:
- 米国のSwyft CitiesやドイツのOttobahn、ベラルーシのSkywayなどが、主なライバル企業となる。報道ベースでは、彼らもASEAN市場に注目していると聞いている。ただ、当社の製品も、輸送能力(車両定員)や風への強度、商業モデルの開発状況などにおいて、決して負けていない。特に、フィリピンは、私自身のバックグラウンドもあり、参入しやすいと考えている。
脱炭素型モビリティーの新たな選択肢に
Zip Infrastructureの取り組みは、フィリピン市場において、リーズナブルなコストと規模を兼ね備えた、脱炭素型モビリティーという新しい選択肢を提示している。安全基準への対応など、取り組むべき事項はあるが、現地のスマートシティー構想や観光促進のニーズと合致させることで、今後の展開余地は大きいといえる。日本企業にとっては、脱炭素にかかる技術の輸出だけでなく、基準整備や官民連携の重要性を再認識する事例となるだろう。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
田口 裕介(たぐち ゆうすけ) - 2007年、ジェトロ入構。アジア大洋州課、ジェトロ・バンコク事務所を経て現職。






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