AZECで広がる脱炭素ビジネス:ASEAN・インドの最新動向スタートアップと変える化学、脱炭素やAIに熱視線(タイ)
SCGCのグリーン戦略
2026年2月26日
タイ化学大手サイアム・セメント・グループ(SCG)の化学部門であるSCGケミカルズ(SCGC)は、プラスチックのリサイクル、二酸化炭素(CO2)のエネルギー化、バイオマス原料の活用、そして人工知能(AI)による生産効率化まで、多角的かつ実用的なイノベーションを実践している。同社は、日々進化する化学分野で競争力を高め、外国企業との提携に意欲的だ。とりわけ、脱炭素分野などで、日本企業との「共創」に強い関心を示している。本稿は、SCGCの最高執行イノベーション責任者(COO兼CIO)を務めるスラチャ・ウドンスク博士に、同社の持続可能性に向けた取り組みと、日本企業・スタートアップとの連携に対する期待を聞いた(注)。
- 質問:
- SCGCの脱炭素化に関する取り組みは。
- 答え:
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当社は、タイとベトナムを中心に、東南アジアでポリマーを生産している。ポリマーは、日常生活のあらゆる場面で不可欠な素材だ。東南アジアでは、生活水準の向上に伴い、さまざまな容器や包装袋など、ポリマーの消費量は増加している。当社では、環境配慮型の高い設計を有する「グリーン・ポリマー
」を開発した。使用済みプラスチックを、高品質なポストコンシューマーリサイクル高密度ポリエチレン(PCR HDPE)やPCRポリプロピレン(PCR PP)に再生する技術を有している。具体的には、メカニカルリサイクルという手法で、選別・再加工したプラスチックを家庭用品や包装材などに変換できる。これにより、廃棄されたプラスチックを回収・再生することで、直接的にカーボンフットプリントの削減に貢献している。
- ただし、全てのポリマーで同じ手法が活用できるわけではない。例えば、食品包装向けの製品では、再び同じ用途のポリマーに再生するのは困難だ。この場合は、製造過程におけるカーボンフットプリントの低減が重要になる。そのため、当社はあらゆる脱炭素関連技術に注力している。
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スラチャ・ウドンスク博士の写真(SCGC提供) - 質問:
- 協業連携の取り組みは。
- 答え:
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当社は欧州委員会の支援を受ける初のタイ企業として、ノルウェー工業科学研究所(SINTEF)が主導する二酸化炭素の回収・利用(CCU)プロジェクトに参加している(SCGCウェブサイト参照
)。CO2を発酵させる技術を通じて、産業用途で溶媒となるアセトンを年間1,000トン生産し、プロピレン(ポリプロピレンの原料)などの下流の化学品に応用する実証に取り組む。また、バイオベースの原料を用いたポリマー生産にも着手している。このために、ブラジルのバイオプラスチック大手ブラスケムとの合弁会社を2024年に設立した(2025年3月25日付地域・分析レポート参照)。農業由来のエタノールからバイオエチレンを年間20万トン生産するアジア初のプラントを2028年までに完成予定だ。化石燃料由来のエチレンを代替する持続可能な原料として期待している。
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日本企業とも、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による支援の下、化学プラント大手IHIと提携。CO2を原料として軽質オレフィン(プラスチックの原料)に変換するCCU技術の実証プラントを建設している(SCGCウェブサイト参照
)。
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完成した実証設備前でのテープカットの様子(IHI・SCGC・NEDO関係者、2025年5月22日)(SCGC提供) - 質問:
- スタートアップとの連携、発掘方法は。
- 答え:
- 当社は独自のベンチャーキャピタル(VC)を有する。当社と連携するスタートアップに求められるのは、サプライヤーとの広いネットワークだ。他方、ユースケースの開発や、試作品の製造に関する支援を当社は提供する。技術的サポートを提供するための施設も設置しており、スタートアップがさまざまな課題を克服できるよう支えていく。また、彼らが必要としている原料を適切に提供できることも、当社の強みだ。商業化や量産に向けたスケールアップに向けても、当社の知見を共有していきたい。
- 化学分野では、日々技術が進歩する。最近では、プラズマや電化などの新しい方法で、化学反応を活性化する技術が重要となっている。当社は、タイ国内ではなく、グローバル企業と競争している。この競争にはイノベーションが欠かせない。スタートアップにとっても、われわれは、彼らの成長に必要な産業パートナーになることができる。
- 質問:
- 今後提携を期待する領域は。
- 答え:
- これまで言及した新たなリサイクル技術やバイオ関連技術など、脱炭素に資する領域については、今後もスタートアップを含めた他社との協業を推進する。さらに、再生可能エネルギーの導入や省エネ技術にも期待している。石油化学のような規模の大きいプラント事業では、化石燃料由来の電力コストが多大であるためだ。
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省エネによるCO2削減の具体例としては、AIを活用した設備管理・予測保全ソリューションがある。当社傘下のREPCO NEXが提供する「デジタル信頼ソリューション(DSR)」により、AIが発電所の運用効率向上と、CO2削減を同時に実現できる。こうした同社のソリューションは、他社にも提供している。例えば、国内で洋上太陽光発電事業を手掛けるBグリムパワーとは、アマタシティ・チョンブリ工業団地における、19.5メガワット級の同発電事業の運用効率化に向けた覚書を締結している(REPCO NEXウェブサイト参照
)。AIを活用した安全かつ効率的なオペレーションは、生産管理・予測に基づく製造業のデジタル化に向けて今後一層重要になる。
- このほか、当社はコールドチェーン輸送や冷蔵品の保存、データセンター向けに設計された省エネソリューション「チルロックス(Chillox)」を開発。マイナス40度から40度までの幅広い温度で安定した管理が可能。緊急時にIT機器を最適な温度に保つなど、停電時の対応も可能だ。
- 質問:
- 日本の企業、スタートアップへの期待やメッセージは。
- 答え:
- 日本にはユニークな技術を持った中小企業が多く存在している。研究開発(R&D)投資が盛んで、面白いアイデアが豊富だと理解している。タイは、多様な産業エコシステムを有しており、スタートアップが食品・バイオ・化学産業などの産業分野で、ユースケースを生みやすい環境だ。適切なビジネステーマを特定し、タイの産業界とうまくつながれば、良いパートナーを見つけるのも難しいことではない。ただその際は、当社を含め、タイの大手企業の課題に気づくことが重要だ。大手企業は、古い企業構造・文化から脱却するために、スタートアップなど外部からの新しいアイデアを求めている。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・バンコク事務所 広域調査員
藪 恭兵(やぶ きょうへい) - 2013年、ジェトロ入構。経済産業省通商政策局経済連携課(日本のEPA/FTA交渉に従事)、戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員、調査部国際経済課(経済安全保障)などを経て、2024年10月から現職。主な著書:『グローバルサプライチェーン再考:経済安保、ビジネスと人権、脱炭素が迫る変革』(編著、文眞堂)、『FTAの基礎と実践:賢く活用するための手引き』(共著、白水社)、『NAFTAからUSMCAへ-USMCAガイドブック』(共著、ジェトロ)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・バンコク事務所
松浦 英佑(まつうら えいすけ) - 2023年6月から現職。スタートアップ担当。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・バンコク事務所 サステナブルビジネスデスク・ディレクター
近添 優子(ちかぞえ ゆうこ) - 2024年7月から現職。






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