AZECで広がる脱炭素ビジネス:ASEAN・インドの最新動向パートナーシップで取り組むベトナムの脱炭素化

2026年3月12日

ベトナム政府は、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにすることを目標に、脱炭素化・エネルギー転換の推進に取り組んでいる。一方、再エネ電源の開発に関する法整備の遅れや不透明さなどにより、事業化が可能な領域は限られている。「2025年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」によると、脱炭素化に「既に取り組んでいる」と回答したベトナム進出日系企業の割合は33.7%で、アジア・オセアニア全体(43.0%)やASEAN全体(38.8%)を下回り、アジア・オセアニアの国・地域別ではワースト3位だ。しかし、このような状況下でも地域社会や地場企業との関係構築を進め、持続可能なビジネスに取り組む日系企業もある。本稿では、当該企業3社へのヒアリング(2025年12月~2026年1月実施)を通じて、ベトナムにおける事業化への取り組み方法を考察する。

持続可能な街づくり、徐々に理解が浸透

東急と地場ディベロッパー・ベカメックスグループの合弁であるベカメックス東急は、ホーチミン市北部(旧ビンズオン省、2025年7月1日付ビジネス短信参照)のビンズオン新都市で持続可能な街づくりに挑戦する。日本の都市開発で培った経験を生かし、環境負荷の軽減と生活の質の向上にいち早く取り組んでおり、商業施設「Hikari」では、施設内で以下のサステナビリティー・プロジェクトを展開する。

  1. コンポスト:飲食店から排出される生ごみの堆肥(たいひ)化
  2. アクアポニックス:池で養殖する魚の排泄(はいせつ)物を植物の栽培に活用
  3. エディブルガーデン:食用可能な野菜や果物を栽培・収穫し、飲食店で活用

イタリアンレストランチェーンのPizza 4P's(フォーピース)や、チョコレートブランドのMAROU(マルウ)など、国内で人気のある飲食テナントがコンセプトに共感し、本施設を構築するエコシステムの一員となっている。地域住民に向けた情報発信や、学校・自治体などの関係者の視察の受け入れなどを通じ、循環型社会の理解を深める機会も提供する。

ベカメックス東急の西村怜央執行役員は、「サステナビリティーに関する取り組みがブランディングやコスト抑制につながり、住宅販売や商業集客といった数字に表れた。社内の機運が醸成され、良い循環が生まれた」と話す。エディブルガーデンの企画当初は、取り組みの意義が伝わらず、社内のベトナム人スタッフから農業関連事業に対する抵抗を受けることもあったという。ブランディングの考えを伝え続けるとともに、効果が目に見えるようになったことで社内での理解が広まり、共通認識のもとでコミュニケーションがとれるようになった。現在では、ベトナム人スタッフが同社のサステナビリティーレポートを作成している。

また、西村氏によると、政府が2021年に脱炭素化の目標を掲げたことで、国内でもサステナビリティー関連の取り組みの機運が醸成されたという。合弁先のベカメックスグループでは、この数年で経営層をはじめ社内に「環境・社会・ガバナンス(ESG)」の概念が浸透し、エコ工業団地(注1)の開発などにも着手している。行政当局との関係や工業団地開発のノウハウを生かし、商業施設が屋根置き太陽光を導入する際も、許認可手続きを手助けする心強い存在になった。

事業課題としては、(1)助成金によって企業の積極性を引き出す仕組み、あるいは義務・強制化によって危機感やスピード感を持たせる政策がベトナムでは不足しているため、企業の取り組みが先行投資となってしまうこと、(2)新たな技術を実装するための人材育成をさらに推進する必要があること、などが挙げられる。同社は引き続き好循環を生み出す取り組みを模索する意向だ。


プロジェクトを見学する現地の子供たちの様子(ベカメックス東急提供)

持続的な農業、今後の事業拡大のカギはベトナム人材

広島県尾道市に本社を置くトロムソは、2021年にホーチミン市に現地法人を設立し、バイオ炭〔農業残渣(ざんさ)などのバイオマスを加熱して生成する炭化物〕の研究開発、活用などに取り組む。同社の上杉正章社長によると、バイオ炭は、農業残渣由来のCO2発生を抑制することに加え、バイオ炭の原料によってはカリウムの含有が豊富なことから、農業資材(肥料)として収穫量の増加や化学肥料の使用削減などの効果も期待される。これにより、持続的な農業や農家の所得向上を実現させることを目指す。一般的にはバイオ炭の原料に、もみ殻の活用を模索する企業が多いが、同社はアカシアの樹皮、カカオ殻・ピーナツ殻・ドリアン殻などの活用にも取り組む。

同社の強みは、自社開発したバイオ炭製造装置の製造・販売や農家へのバイオ炭の活用指導、炭素排出削減量の算出・カーボンクレジット創出などを包括的にサービス提供できることにある。2025年3月にはジェトロの「グローバルサウス未来志向型共創等事業(大型実証ASEAN加盟国)」に採択された。本事業では、南部のメコンデルタ地域から中部のラムドン省を中心に、地方行政や地場企業、地元の農家、日系企業などと連携し、バイオ炭の肥料としての農地での使用効果や最適な使用方法などをベトナムで検証する予定だ。

ベトナムでの事業展開を決めた理由について、上杉氏は「優秀な人材が多いことが決め手だ。現地のベトナム人社員13人のほとんどがカントー大学の農学部出身。外国語(日本語・英語)ができる社員も多く、人材育成拠点にもなり得る。加えて、ベトナム国内は産業(農業・工業)のバランスがとれており、農業残渣が豊富なことから、カンボジアやタイより資源調達性が高い点も魅力だ」と述べる。また、広島県庁がベトナムとの産業交流を継続し、事業支援を行ってきたことも、後押しになった。将来的には、実証事業を通じて得た実績などを基に、使用方法の標準化に取り組み、ベトナム国内やアフリカなど第三国・地域へのさらなる事業展開を見据える。上杉氏は「ベトナム人社員を、高度技術者として日本に派遣(出向)することや、アフリカ事業の担当をしてもらうことも検討している」と期待を寄せる。ベトナム人の成長と活躍は、同社の事業展開に欠かせないピースだ。一方、課題としては、多岐にわたるライセンスや許認可手続きに要する時間など法規制・行政手続きの問題を挙げた。上杉氏は「ベトナムは外資への規制や対応が厳しいと感じる。バイオ炭製造装置の生産拠点を当地で作ることも検討しているが、その際には地場企業との合弁も視野に入れたい」と話す。


ピーナツ殻を原料としたバイオ炭(トロムソ提供)

南部ドンナイ省での地場カカオ生産企業とのバイオ
炭生産に係る契約締結式(トロムソ提供)

地場企業と協業した国内初のバイオマス発電所が運転開始、混焼実験にも着手

再エネを主軸とした電力事業などを行うイーレックス(東京都中央区)は、ベトナムのバイオマス発電分野を牽引する企業だ。2025年4月に南部カントー市(旧ハウザン省)で、もみ殻を燃料とする国内初のバイオマス発電所の商用運転を開始した(2025年5月8日付ビジネス短信参照)。2026年2月現在、ラオカイ省(旧イエンバイ省)、トゥエンクアン省にも木質残渣を燃料としたバイオマス発電所をそれぞれ建設中だ(2028年2月の商用運転開始予定)。上記3案件は全て、国営企業のベトナム電力公社(EVN)傘下で設備工事などを請け負うパワー・エンジニアリング・コンサルティング2(PECC2)との協業で、環境省の「二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism:JCM)資金支援事業」のうち、設備補助事業(注2)にも採択されている。

また、2025年9月からは、国営企業ベトナム石炭鉱物産業グループ(ビナコミン)傘下の電力会社ビナコミンパワーと連携し、同社所有の石炭火力発電所でバイオマス燃料の混焼実験を開始した。2026年1月には当初予定した混焼率20%を上回る30%を達成したことを発表。本試験成果で得られた課題を整理し、政府に提案・報告し、混焼発電の電力の価格体系や買い取りの法整備の実現を目指していく。

発電所のワーカー・オペレーターは地元での雇用を促進する。発電所の管理職層は地方勤務が可能な経験者を国内で採用する。専門知識を要する技術職は、現在のところ日本人や外国人が担っているが、事業の安定とともに、ベトナム人社員に権限を委譲していくことを見込む。

各案件を推進できた背景について、イーレックスでベトナム事業を統括する斉藤靖常務取締役は「ベトナムは慣習として対面のコミュニケーションを重視するため、地場の関係者とは可能な限り現場で関係を構築している。PECC2のネットワークに加え、自ら地元の農業、林業関係会社を開拓し、交渉もする」と話す。また、取り組みにあたっては「日本企業はこれまでのODA開発時の現地との関係の築き方や現地への意識を変えて、現地に適応していく必要がある」と見解を示した。

事業を進める上での課題としては、(1)法整備の遅れ、(2)許認可の手続き・手順が形式主義的で地方行政の人事に左右されることなどによる予見性の乏しさを挙げた。こうした要因から、バイオマス混焼の事業開発も今後、ベトナム政府が策定する混焼電力の価格体系に左右される。しかし、国内のバイオマスの市場の可能性に期待し、引き続き新たな農業残渣の発掘やさらなる案件開発を進める意向だ。


2025年4月に稼働開始したハウザンバイオマス発電所
(イーレックス提供)

混焼用バイオマス燃料投入の様子(イーレックス提供)

パートナーシップがリスク回避手段にも

本稿では、意欲的な地場企業との協業や人材の育成・登用を通じて、脱炭素化を推進する企業の事例を紹介した。しかし、各社が法制度の未整備や運用の不透明さなどを課題として挙げるように、事業の予見性が確保しにくい様子も見受けられる。実際に法整備を巡るリスクが顕在化している事案もある。日本を含む外資系企業が運営する一部の再生可能エネルギー発電所では、国内法令間の規定の矛盾が原因となってベトナム側が2025年5月以降、長期間の電力売買契約の履行を停止している。協議は継続しているものの、2026年2月上旬時点で問題は未解決だ。こうしたトラブルのリスクを低減させる上でも、行政と対話ができる地場企業とのパートナーシップや、中核人材の育成・登用を強化することが肝要だ。


注1:
入居企業がクリーンな生産活動や資源の効率的な利用などにより持続可能な事業活動を行う工業団地のことで、詳細は政令35号(35/2022/ND-CP)で規定している。 本文に戻る
注2:
本事業では、パートナー国において優れた脱炭素技術などを活用して温室効果ガス(GHG)の排出量を削減、GHG排出削減効果の測定・報告・検証をして、JCMクレジットを発行の上、我が国の温室効果ガス排出削減目標の達成に活用することを目指している。なお、本事業はベトナム政府と日本政府の協力の下、実施されている。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所 ディレクター
萩原 遼太朗(はぎわら りょうたろう)
2012年、ジェトロ入構。サービス産業部、ジェトロ三重、ハノイでの語学研修(ベトナム語)、対日投資部プロジェクト・マネージャー(J-Bridge班)を経て現職。