今知るべき、アジアの脱炭素など気候変動対策ビジネス再エネや排出権取引で企業参入、社会課題にも注目(ラオス)

2023年12月21日

ラオスにおける気候変動やカーボンニュートラルを目指した政策については、「カーボンニュートラル目指すラオス」(2023年9月27日付地域・分析レポート参照)にて概説した。企業による積極的な動きとして、(1)再生可能エネルギーの生産、活用、(2) 関連製品の製造、(3)カーボンクレジット活用、を挙げることができる。本レポートでは、それぞれについて具体的な動きを紹介し、ビジネス創出の機会を探る。

再エネ生産や再エネ由来燃料の生産拠点へ

三菱商事は9億ドルの投資で、東南アジア最大級の600メガワット(MW)の陸上風力発電所の建設をセコン県とアタプー県で進めている(2023年5月16日付ビジネス短信参照)。2024年中に完成しベトナムへ全量を売電する計画だ。開発資金にアジア開発銀行を中心に提供する大規模なグリーンファイナンスを活用した事例としても注目すべき案件である。また、九州電力の子会社である九電みらいエナジーはタイやラオス企業と合弁で、年間10万トンの木質ペレットの生産工場の建設をチャムパサック県で進めている。ラオス国内で植林を行い、高品質な木質ペレットを自社生産し日本のバイオマス発電所へと輸出する計画で、工場は2023年12月から操業を開始する計画である。さらに、タイ企業のUAC Globalはラオス国内で埋め立てられている廃棄物から固形燃料を生産し、ネット排出ゼロを目指すセメント工場へと供給する。今後は、燃料の輸送にも電気自動車(EV)トラックを使用する計画だ。

また、グリーンボンド(注1)の動きも始まっている。2022年8月、サイニャブリ水力発電所(1,285MW)はタイ証券取引所で84億バーツ(約346億円、1バーツ=約4.12円)のグリーンボンドによる資金調達を実施した。タイのCK Powerなどが出資して、メコン川本流にて開発し2019年から水力発電を行っている事業である。同事業を通じてタイに売電するクリーン電力は、年間380万トンの二酸化炭素(CO2)削減効果があるという。

ラオスのクリーンエネルギーを積極的に活用する動きも活発化している。ラオスは生産する電力の76%(2022年)が水力を中心とする再生可能エネルギーであることから、その利点を活用しようというものである。国策的な取り組みとしては2022年6月にクリーンエネルギーの調達を積極的に進めるシンガポールが、ラオスから100MWの電力の輸入を開始した(2022年7月4日付ビジネス短信参照)。このような外国からの調達の動きは今後、加速すると見られている。

また、中国の太陽光電池メーカーの中潤光能は2023年9月、首都ビエンチャンで高効率太陽電池パネル製造工場の開所式を行った。32ヘクタールの広大な用地に90%以上をオートメーション化した近代的で大規模な工場である。年々増加する太陽電池需要に対応すべく、北米マーケット向けの生産に注力するという。同社が入居するサイセター総合開発区は中国政府が国外で実施する10カ所の低炭素実証区の1つで、電気バスや太陽光街灯などの整備を進めており、中国からの生産拠点の移転だけでなく、低排出量な生産という観点からも注目される事例である。

同様に、日系製造業のラオスへの移転においても、クリーン電力に着目する企業が増えている。日系企業の動きとしては、つばめBHBによるクリーンエネルギーを使用して空気中の窒素からグリーンアンモニアおよびグリーン肥料を製造する可能性調査や、日立造船とレノバによる工業用グリーンアンモニア製造の実証調査などの動きが挙げられる。このようなクリーン電力を事業に活用したい企業の動きは増加している。ただし、現状では再エネ由来電力のみを購入する仕組みや、I-REC(注2)のようなグリーン電力証書の取り扱いは開始されていないことに注意が必要である。同様に、タイはラオスから多くの電力を輸入していることから、タイにおいてもラオス産の再エネ電力を選択的に購入できる仕組みや、国を超えて証書が発行できる仕組みを整備することは、ラオス産電力の付加価値を高めることになることから、その整備が期待されている。

カーボンクレジット活用も動き

カーボンクレジット取引の動きもある。ここでは、(1)パリ協定6条4項メカニズムに基づく国連管理のクリーン開発メカニズム(CDM)、(2)パリ協定6条2項に基づく二国間クレジット制度(JCM)などの2国間協力、(3)民間主導のボランタリークレジット(VCM)の3種類が挙げられる。国連管理のCDMでは、現在国連を中心にルール整備が行われているが、これに平行してラオス国内での体制整備が必要である。天然資源環境省気候変動局によると、国家指定機関(DNA)の国連への登録や法整備が遅れているという。ラオス政府は、2023年中にカーボンクレジット管理に関する政府令を発布する準備を進めている。2国間の協力では、日本とラオスは2013年にJCMに合意し、2019年にはREDD+(注3)実施ルールが採択されている。また、韓国もラオスとの間で二国間協力メカニズムの協議を進めている。

このようなカーボンクレジット活用において、最も進んでいるのはREDD+を取り巻く動きである。ラオスは2008年に森林炭素パートナーシップ基金(FCPF)に参加した最初の国の1つとなり、REDD+の取り組みを開始した(2023年9月27日付地域・分析レポート参照)。2022年ごろから、クレジット取引目的とみられる民間企業による動きが活発化している。例えば、シンガポール企業のEightfold Legacyは21万6,000ヘクタールの保護林を対象に、ラオス企業AIDCは100万ヘクタール規模の国立公園を対象に、ラオス企業ラオ・エンバイロメント・エンジニアリングは3万2,000ヘクタールの保全林を対象に、REDD+実施の可能性調査についてそれぞれ政府と合意を締結している。また、韓国政府はポンサリー県の100万ヘクタールの森林を対象にREDD+を実施する計画である。REDD+はGHG(温室効果ガス)排出削減のみならず、生物多様性や環境保全、地元住民への還元などの様々な利益をもたらすことから、幅広い企業がクレジット購入に意欲的だといわれる。

REDD+以外の取り組みとしては、ラオス企業ライス・ファーミング・イニシアティブによる稲作での間断灌漑技術(AWD)(注4)の導入試験や、オーストラリア企業AgCoTechによる水牛への糖蜜リックブロック(注5)の供与で削減したメタンのクレジット化がある。クレジットを活用し、社会課題や農家の収入増加に貢献できる事例として注目される。このような取り組みを通して生じたカーボンクレジットは、今後CDMやJCMとして、またはボランタリークレジット市場(注6)にて利用されていくと見られる。ただし、どのような手段を用いるにせよ、供給、需要、市場において高い十全性(質)が担保される必要がある。厳格なルール適用や、クレジットの二重計上の予防など、ラオス政府のモニタリング能力の強化も必要で、特にボランタリークレジット市場では、第三者機関によるクレジットの評価や格付けも欠かせないであろう。

社会課題をビジネス創出の機会へ

ラオスにおいて今後の排出量削減とそのビジネス創出を検討する際には、先述した風力や太陽光などの再生エネルギー開発やEV導入(2023年3月30日付地域・分析レポート参照)を含め、第2次「国家が決定する貢献(NDC)」における無条件緩和シナリオおよび条件付き緩和シナリオの緩和策(表1、表2、2023年9月27日付地域・分析レポート参照)が社会課題も反映しており、最も参考となると思われる。

2023年9月、首都ビエンチャンにおける持続的な都市交通プロジェクト(総額1億ドル)において、中国のハイセンスグループがバス高速輸送(BRT)システムの提供することでラオス政府と合意した。同プロジェクトでは、電気バス55台、電気ペディキャッブ(屋根付き三輪車)150台などのEV導入や道路インフラの改良も別途実施することとなっている。同事業は第2次NDCで挙げられている無条件緩和シナリオの緩和策「首都でNMT(徒歩や自転車など)を伴うBRTの導入」に該当する(表1、2023年9月27日付地域・分析レポート参照)。また、ラオスでは調理において人口の90%が依然として薪(まき)などの伝統的バイオマス資源に依存しており、空気汚染による深刻な健康被害につながっているとされる。このため電気や液化石油ガス(LPG)もしくは改良型(ICS)調理用コンロの導入が望まれている〔国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP) 2022〕。これはSDGs目標7(注7)にも資するものでもあり、第2次NDCの無条件緩和シナリオの緩和策「エネルギー効率の良い5万台の調理ストーブを導入し、バイオマス使用を削減する」に該当する。

また、無条件緩和シナリオおよび条件付き緩和シナリオの緩和策において、土地利用変化と林業(LUCF)はGHG排出が最も多く、かつ削減ポテンシャルがあるセクターである。森林の回復や保全、持続的な管理を通じた炭素蓄積量の増加を目指すことは論をまたないが、農畜産分野も注目すべきである。世界銀行はレポート「Resilient and Low Carbon Agriculture in Lao PDR : Priorities for a Green Transition外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の中で、2000年以降森林から農地への転換が主なGHG排出源になっていると指摘する。農業の総作付面積は1990年から2020年までで2.2倍(124%)増加した。2050年までにさらに26%増加する可能性があり、その分、森林面積が減少していくことになるという。このため、温暖化に強い技術への改良や灌漑集約化、家畜飼料の品質改善などいった気候スマート技術の導入により、低炭素で持続的な農業へのグリーン・トランジション(農業生産性の向上とGHG排出抑制の実現)が必要であると論じる。その中で、気候スマート技術の導入は生産コストを高めるが、農家の純収益は増加すると試算する。さらに、生物多様性の保全や公共財を生み出し、社会的便益をももたらす、とも指摘している。

このように、ラオスにおいてカーボンニュートラルを実現するには、引き続き国内外からのグリーン投資を促進する必要がある。ビジネス創出の機会へと取り込むためには、国際社会での議論やグリーンファイナンスやボランタリークレジット市場の動きなどの国際的な取り組みや合意に加え、今後も改正されるNDCに代表されるラオスの国際的なコミットメントや政策、様々な社会課題にも引き続き注目する必要がある。


注1:
グリーンボンドは、調達した資金を環境関連事業へと使用する債券をさす。タイ証券取引所では、ESG債(グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンド、サステナビリティリンクボンド)などを取り扱っている。
注2:
International Renewable Energy Certificateの略称で、再生可能エネルギーにより発電された電気の再エネ価値を証書化したもの。
注3:
REDD+とは、発展途上国の森林減少・劣化の抑制や持続可能な森林経営などによってGHG排出量を削減あるいは吸収量を増大させる努力に、成果ベースの支払いというかたちでインセンティブを与える国際的な気候変動対策。
注4:
間断灌漑技術(AWD)とは水田に水を張る湛水(たんすい)と、水を抜く落水を繰り返す農法で、GHG削減が可能とされる。第2次NDCでは、条件付き緩和シナリオとして5万ヘクタールの水田へ導入することが示唆されている。
注5:
ここでの糖蜜リックブロックとは、ミネラルなどを含む補助飼料のブロックで、サトウキビの搾りかすである糖蜜や駆虫剤、レモングラスなどを付加したもの。水牛の栄養状態の改善とともに第1胃(ルーメン)での細菌群を変化させ最大25%のメタン発生を抑制することができるとしている。
注6:
ボランタリー市場とは、非政府機関によって運営・取引されるクレジット。主に民間企業による自社のCO2削減目標の達成に利用されており、その取引量は増加傾向にある。
注7:
SDGs目標7では、すべての人が手頃な価格で信頼できる、持続可能で近代的なエネルギーへのアクセスを確保することを目指しており、2030年までに普遍的な電気やクリーンな調理用燃料といった技術へのアクセスや、再生可能エネルギーの割合を大幅に増加させること、エネルギー効率を2倍にすることをターゲットとしている。
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員