AZECで広がる脱炭素ビジネス:ASEAN・インドの最新動向政府は再エネの導入を推進
カンボジアの脱炭素動向(前編)

2026年3月3日

カンボジアでは環境省が2021年に「カーボンニュートラル長期戦略(LTS4CN)」を策定・公表し、2050年までのカーボンニュートラル達成を目標に掲げている。2022年の二酸化炭素(CO2)排出量を部門別に見ると、運輸部門が46.4%と最も多く、次いで電力・熱供給部門が24.2%だった。電力・熱供給部門の割合は、他国と比較すると小さいが、電力需要は右肩上がりで上昇しており、同部門の脱炭素化はカーボンニュートラルに向けて、重要なテーマの1つとなっている。

本稿では、カンボジアにおける電力・エネルギー部門の脱炭素化に焦点を当てる。前編では包括的な脱炭素戦略、それに向けたエネルギー政策、投資誘致政策などを概観する。また省エネルギー支援に取り組む企業の事例を紹介する。後編ではカンボジアで再生可能エネルギー(以下、再エネ)関連事業に取り組む日系企業へのヒアリング調査に基づき、カンボジアにおける再エネ事業の可能性、事業実施上の課題、今後の展望などを明らかにする。

エネルギー部門の脱炭素化が不可欠

カンボジアの長期脱炭素戦略であるLTS4CN(2021年)では、2050年にカーボンニュートラルを達成するための包括的なロードマップを提示している。例えば、農業、エネルギー、林業・その他土地利用(FOLU:Forestry and Other Land Use)、工業プロセス・製品の使用(IPPU:Industrial Processes and Product Use)、廃棄物の5つの分野で具体的な施策と削減目標が設定されている。

LTS4CNでは、2050年まで現状のまま対策を講じなかったと仮定した場合(BAUシナリオ)、エネルギー部門からの温室効果ガス(GHG)排出量は、二酸化炭素換算で2016年の1,510万トンから2050年には8,270万トンにまで増加すると試算する。GHG排出量全体に占める割合は、BAUシナリオで2016年の12%から2050年には53%に上昇し、同部門が5つの分野の中で最大の割合を占める。このため、同部門の脱炭素化は、カンボジアのカーボンニュートラル達成に向けた極めて重要な役割を果たすといえる。

同部門については、新規の石炭火力発電所の導入禁止、天然ガス・LNGインフラの整備、2050年までに電力部門の再エネ比率を35%とし、そのうち太陽光発電を12%とするなどの具体的な取り組みが示されている。カーボンニュートラル達成シナリオのもとでは、2030年までは「国家エネルギー効率化政策2022-2030(以下、国家省エネ政策)」に基づき、建築、産業、公共部門における省エネ・燃料転換による排出削減、エネルギー需要の抑制を図る方針だ。2030年以降は、より厳格なエネルギー効率基準や低炭素燃料の導入によって、排出削減を加速させるとともに、再エネの導入拡大により電力部門の脱炭素化を進める。さらに2040~2050年にかけて、一層の脱炭素化を進め、2050年の電力部門の再エネ比率35%の達成を目指すとしている。この移行を支えるためには、送電網の近代化、電力系統の柔軟性向上、蓄電設備への投資が不可欠であることも指摘されている。

省エネ教育プログラムを開発

2022年に策定された国家省エネ政策では、2030年までに、エネルギー消費をBAUシナリオ比で19%削減することを目標としている。カンボジアにおける最終電力消費量を部門別に見ると、産業部門が36.0%、家庭部門が35.8%、商業・公共サービス部門が28.1%と各部門がほぼ同程度の割合となっている。

このうち商業・公共サービス部門に関して、カンボジアでサステナビリティー分野のコンサルティングを行うセヴェア(SEVEA)では、オフィスや商業・公共施設の従業員に対して、省エネに関する能力開発・教育を行う「PowerWise」プログラムを独自に開発し、サービスとして提供している。同プログラムは、国家省エネ政策の実現に資するものとして、2021年から環境省、加えて2023年からは鉱業・エネルギー省の推薦を受けて実施されている。国家省エネ政策では、2030年までに商業建物のエネルギー使用量を25%削減することを目標の1つとしている。

同社によると、省エネの方法は主に3つに分類される。1つ目は建物の設計や管理システムによるもの、2つ目は設備の変更、3つ目が企業の意識改革だ。まず、設計や管理システムの導入や設備の変更により、20~50%の省エネを実現することができるが、多額の投資コストを要する。一方、意識改革は低コストで取り組みが容易である点に着目し、2021年から同プログラムを展開している。2021年から2024年までに34社、5,000人を超える従業員が参加した。結果、合計348トンのCO2排出量削減と平均約10%の省エネ効果が得られたという。省エネに伴うコスト削減といった副次的な成果もみられた。

カンボジアにおける脱炭素化の課題について、同社マネージングパートナーのフランツ・ヴァガネ氏は、省エネに対する国民の意識が醸成されていない点を挙げた。その上で「省エネは目に見えない活動なので、教育が重要。そのためにわれわれは意識改革のための取り組みを続けていく」と話し、「PowerWise」プログラムのさらなる普及を目指す考えを示す。

目標は2030年までに再エネ発電比率70%

カンボジアの電力政策は鉱業・エネルギー省(MME)が所管している。2022年に策定された「電源開発マスタープラン(2022-2040)」において長期的な電源開発戦略が示され、これに基づき電源整備が進められている。

発電容量ベースの電源構成を見ると、水力が34.3%、太陽光が28.1%、石炭火力が26.0%を占めており、水力や太陽光といった再エネの比率が高い。バイオマスも加えた再エネ比率は63.2%に達する。政府は、発電容量に占める再エネ比率を2030年までに70%に引き上げる方針を示している。もっとも、石炭火力発電所については新規許可を停止しているものの、既に認可済みで、今後稼働予定の発電所が存在する。また、電力需要は右肩上がりで増加しており、過去10年間で約3.5倍に増加した。今後も電力需要の増加が見込まれる中、一部の電力供給を輸入に依存していることも踏まえると、さらなる発電設備の増強が求められている。このため、再エネ電源の開発が急務となっている。

再エネ分野の投資に税制優遇措置を付与

こうした状況を踏まえ、政府は再エネ導入を促進するための具体的な施策を打ち出している。カンボジアでは、投資奨励策の一環として、適格投資プロジェクト(QIP)の認可を受けた案件に対し、租税・関税面で各種優遇措置を付与する制度が設けられている。業種によって、法人税の免税期間や、免税期間満了後の減税措置の適用期間が定められている。2021年に施行された「新投資法」では、「グリーンエネルギーおよび気候変動への順応、ならびに温室効果ガス低減に資する技術に対して、投資優遇措置を与える」と明記され、脱炭素に資する投資案件を積極的に誘致する方針が明確化された。なお、グリーンエネルギー分野における投資案件の法人税免税期間は従来6年であったが、2025年8月に改訂された政令第139号(優遇措置の詳細を規定)により、9年に延長されている。

23件の再エネ発電プロジェクトを認可

2024年9月には、23件の再エネ発電プロジェクトなどが政府によって承認された。内訳は、太陽光発電が12件、風力発電が6件、水力発電、バイオマス発電、LNG発電がそれぞれ1件、蓄電池に関する案件が2件だった。カンボジアは日照条件に恵まれ、平地も多いため、太陽光パネルの設置に適した環境を有する。また、太陽光発電は、投資コストも比較的安価であるため、主力である水力発電を補う再エネ電源として、2020年ごろから導入が進んできた。発電量ベースでも、太陽光発電は2020年の289.76GWhから2024年には1,070.02GWhと約3倍に増加している。ミネベアミツミや中国電力による同国での大規模太陽光発電事業参画が発表されるなど、日本企業の再エネ分野への参入事例もみられる。日本企業の取り組みについては後編で詳細に取り上げる。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課リサーチ・マネージャー
菊池 芙美子(きくち ふみこ)
2009年、ジェトロ入構。ジェトロ茨城、ジェトロ・ヤンゴン事務所(実務研修生)などを経て、2020年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所長
若林 康平(わかばやし こうへい)
2004年、ジェトロ入構。産業技術・農水産部、ジェトロ盛岡、展示事業部、ジェトロ・ムンバイ事務所、中小企業庁創業・新事業促進課(海外展開支援室)、企画部を経て現職。