AZECで広がる脱炭素ビジネス:ASEAN・インドの最新動向太陽光発電を活用する日系企業
カンボジアの脱炭素動向(後編)
2026年3月6日
カンボジアでは発電事業者による水力発電や太陽光発電など、再生可能エネルギー(以下、再エネ)由来の発電が行われている。しかし、再エネ由来であることを証明する、I-RECのような国際的な再エネ属性証書は発行されていない。そのため、脱炭素化や再エネ利用の目標を掲げる企業は、脱炭素に向けた、独自の取り組みが求められる。選択肢が限られる中、自社施設の屋根などに太陽光パネルを設置することが有効な手法の1つとなっている。
イオンモールカンボジア:太陽光発電容量はグループ最大
カンボジアでショッピングモールを3店舗展開するイオンモールカンボジアは、2025年7月までに全てのモールにおいて、5メガワット(MW)以上の太陽光発電設備を設置した。日本を含むすべてのイオンモールの中でも、カンボジアの3モールは最大級の設備容量を誇る。本社のイオンモールでは、重要課題(マテリアリティー)の1つとして「脱炭素社会の実現」を掲げ、会社全体で脱炭素化への取り組みを推進している。イオンモールカンボジア開発建設部ゼネラルマネージャーの西村建一氏は、こうした全体方針に基づいて、再エネ自給率の向上に取り組んでいると話す。カンボジアのモールでは、太陽光発電設備の導入により電力自給率は約27%に達する。
西村氏によると、同社がカンボジアで太陽光発電事業を推進した理由は主に3つある。1つ目は、先にも記載したとおり、イオンモール全社として、脱炭素化の取り組みを推進していることから、再エネである太陽光発電設備の導入を推進している点である。2つ目は、電力の一部を輸入に依存しているカンボジアにおいて、国内の電力不足の解消に貢献できる点である。3つ目は、太陽光発電の電力を自家消費することでモールの電気料金が削減されるためだ。
また、カンボジアは、太陽光発電に適した環境条件を整えており、導入メリットも多い。例えば、同国の日射量は、日本よりも約30~40%多く、年間を通じて気温が高い。そのため、中間期のある日本と比べて、発電した電力を年間通して無駄なく有効に利用できる。
プノンペンSEZ:太陽光発電の導入を計画
多くの日系企業が入居するプノンペン経済特区(以下SEZ)では、工業団地として、太陽光発電や電動二輪車(Eバイク)の導入などを計画中だ。その理由について、ロイヤルグループ・プノンペン経済特区の上松裕士最高経営責任者(CEO)は、「カンボジアでは、脱炭素は比較的新しい取り組みだが、タイやベトナムの工業団地では取り組みが既に進んでいる。近隣諸国の工業団地に追いつくつもりで、太陽光発電を導入し、グリーン電力を求める企業の誘致につなげたい」と話す。また、上松氏によれば、SEZ内において、欧米系企業や欧米企業と取引のある中国系企業は、独自に屋根置き太陽光発電設備を導入するなど、入居企業の中では、先行した取り組みがみられる。一方、日系企業でも、再エネ導入の検討が進んでいる状況だという。ただし、上松氏は、自家消費の太陽光発電には補償料金が課せられるため、導入することによるコストメリットはないと指摘する。
日系企業がカンボジアで太陽光発電を導入するメリットや動機については、環境面での競争力の強化、本社の目標や顧客からの要請といった観点が主なものになるといえる。
太陽光発電の補償料金制度が課題
カンボジアでは自家消費を目的に太陽光発電を行う事業者は、発電設備容量(AC)が10kWを超える場合、カンボジア電力公社(EDC)に対して発電量に応じた補償料金(Compensation tariff)を支払う必要がある。例えば、ACが1,000kWを超える場合、0.060米ドル/kWhの単価が適用される。天候に左右される太陽光発電が導入されると、ナショナルグリッドを通じた電力需給のバランスが不安定になる可能性がある。補償料金は需給調整に伴うコストを賄う趣旨で設けられているが、国際的にみても他に例の少ない制度となっている。
また、補償料金は従量課金となるため、EDCによる発電量のモニタリングを目的としたメーターの設置なども求められる。イオンモールでは、その対応のために調整が発生し、時間を要した点が、事業を進める上での課題の1つであったという。太陽光発電を導入する際には、こうした追加的な調整コストが発生する可能性にも留意する必要がある。
ミネベアカンボジア:大規模太陽光発電事業に参入
カンボジアで主に電子機器部品の製造を行うミネベアカンボジア〔Minebea (Cambodia)〕は、プノンペンにある既存の工場から約170km北西に位置するプルサット州で、太陽光発電事業を開始している。カンボジアの発電事業者であるシュナイテック(SCHNEITEC)と合弁会社を立ち上げ、2026年1月に第一期20MWの発電を開始した。現在準備中の第二期30MWと合わせると、50MW規模の発電所となる見通しだ。
カンボジアで発電事業を開始した目的は、顧客からの再エネを用いた生産活動への要請があるためだ。本事業でミネベアカンボジアは、発電した電力をEDCに売電するとともに、発電時の化石燃料の使用や、その燃焼量自体を削減することで、環境への貢献を果たす方針だ。加えて、再エネ電力を売電した量に応じて、その環境価値をミネベアカンボジアが享受することで、同社工場の消費電力を再エネ100%へ転換するという計画もある。
拡大するインセンティブと残る障壁
カンボジアは太陽光発電に適した自然条件を備えており、再エネ導入が求められる企業にとって、太陽光発電は第一の選択肢となっている。
同国では、投資奨励策として、適格投資プロジェクト(QIP)の認可を受けることにより、租税・関税法上の各種の優遇措置を受けることができる(「カンボジアの脱炭素動向(前編)政府は再エネの導入を推進」参照)。2021年に施行された新投資法では、グリーンエネルギー分野が投資奨励業種に加わった。また、2025年8月には同分野の税制優遇期間が6年から9年に延長されるなど、同分野の投資インセンティブはここ数年拡充されてきた。その背景には、カーボンニュートラル達成に向けて、同分野への投資を積極的に誘致したいという政府の意向を見て取ることができる。
一方で、自家発電を目的とした太陽光発電には、既述のとおり補償料金制度が導入されており、企業にとっては大きな負担となっている。現在では、既存の電力料金と比較した場合、補償料金を支払っても、事業として成り立つ(利益が出る)水準にある。しかし、今後、電力料金が変動した場合には、補償料金を含めた太陽光発電コストが、その経済メリットを上回る可能性も否定できない。太陽光発電の活用を検討する外資企業にとっては、こうしたコストが投資判断上のリスク要因となり得る。自家消費を目的とした太陽光発電導入にあたっては、将来的な電力料金を考慮した上で、費用対効果を慎重に検討することが必要だ。
カンボジアの脱炭素動向
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- 執筆者紹介
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ジェトロ海外調査部アジア大洋州課リサーチ・マネージャー
菊池 芙美子(きくち ふみこ) - 2009年、ジェトロ入構。ジェトロ茨城、ジェトロ・ヤンゴン事務所(実務研修生)などを経て、2020年9月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・プノンペン事務所長
若林 康平(わかばやし こうへい) - 2004年、ジェトロ入構。産業技術・農水産部、ジェトロ盛岡、展示事業部、ジェトロ・ムンバイ事務所、中小企業庁創業・新事業促進課(海外展開支援室)、企画部を経て現職。






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