AZECで広がる脱炭素ビジネス:ASEAN・インドの最新動向太陽光発電拡大に向け取り組み進展(ブルネイ)
天然ガス由来メタノールからの脱却も課題

2026年2月20日

ブルネイの脱炭素化関連ビジネスは、官民連携案件含めると、再生可能エネルギー(以下、再エネ)、省エネルギー(以下、省エネ)、アンモニア・水素、運輸〔電気自動車(EV)、持続可能な航空燃料(SAF)〕などの動きが活発だ(注1)

特に目につくのは、再エネ分野、とりわけ太陽光発電(PV)の活用だ。

政府が太陽光発電の導入を推進

当地でのPVプロジェクトは、三菱商事(東京都千代田区)などが実施したPVパネルの実証実験にさかのぼる。

三菱商事は2008年、ブルネイ政府と覚書を交換。自社資金によりPV設備を設置した。ブルネイの気象条件下における太陽光パネルの稼働確認、再エネ分野におけるブルネイ政府政策立案に資するデータ収集、PVに関するノウハウおよび技術移転、ブルネイ人人材育成が実験の目的。2010年に運転を開始し、発電容量は1.2メガワット(MW)。既に実証実験を終え、ブルネイ政府へ事業を譲渡した。なお当該PV設備は現在も稼働中で、近隣200世帯に電力を供給している。

政府はその後、小規模屋根置き型PVについて、2020年にネットメータリング(注2)プロジェクトを開始。2020年には、「小規模PVに関する行動規範」を発表した。その主な狙いは、低電圧ネットワークへの接続を求める小規模PV開発者・所有者や、低電圧ネットワークを小規模PVシステムに接続する配電事業者(DSP)を支援・促進するところにある(注3)。また2022年には、屋根置き型PVに関してガイドブックを発行した(2025年2月に改定版を発行)。

大規模PVを活用した事業も進展している。なお、大規模PV設備の配電網への接続に関する実施規範は、2020年に発効済みだ。

  • ブルネイ・シェル・ペトロリアム・カンパニー(BSP)
    シェル(英系エネルギー大手)とブルネイ政府は、持分50%ずつを保有してBSPを設立。2021年に3.3メガワットピーク(MWp)規模のプロジェクトの発電を開始した。2025年8月には、3MWpを増設するプロジェクトの発電開始を発表している。
  • 恒益工業(Hengyi Industries/当地に進出した中資系企業)
    2024年10月、大規模PVプロジェクト「自然・再エネ持続的統合プロジェクト」(Project SINAR)を発表。2026年2月に第1期が正式に稼働した。総設置容量は50MWpを超える。
  • アトランティック・ブルー(Atlantic Blue)
    同社は、ソーラーベストホールディングス(Solarvest Holdings/マレーシアのクリーン・エネルギー・インフラ事業者)の子会社。ブルネイ政府が2021年に発表した提案依頼(RFP)に基づいて、2025年6月に30MWのPV発電所プロジェクトを受注した。2026年末までに完成予定という。

このように、複数の取り組みが進んでいる。しかし、当地での発電に占めるPVの割合は依然として小さい。国際エネルギー機関(IEA)によると、2023年のブルネイの電源構成をエネルギー源別に見ると、天然ガスが最大(78.8%)。これに、石炭(20.4%)、石油(0.7%)、PV(0.1%)が続く(IEAウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

一方で、政府としてはPVの割合を高めたい意向だ。国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)では、「国が決定する貢献(NDC)」を提起した。この約束は、国家気候変動政策(BNCCP:Brunei Darussalam National Climate Change Policy)を通じて達成していくことになる。ちなみに、現行(執筆時点)のBNCCPは2020年7月に発表のあったもので、目下、改訂版の検討が進んでいる(注4)。当該BNCCPでは、戦略を合計で10設けた〔(1)産業活動による排出、(2)森林保護、(3)電気自動車(EV)、(4)再エネ、(5)電力管理、(6)カーボンプライシング、(7)廃棄物管理、(8)気候変動強靭(きょうじん)性および適応策、(9)カーボンインベントリー(注5)、(10)自覚(意識)・教育〕。このうち(4)では、2035年までに、発電構成に占める再エネの割合を30%へ引き上げることを目指すと言及。この軸になるのがPVだ。

その上で、当地エネルギー省(DOE:Department of Energy)のエネルギー転換担当部署が重視するのは、(1)小規模だけでなく大規模を含むPVの普及、さらには(2)エネルギー効率化と保全だ。また、政府関係者からは、「われわれはPV導入促進に取り組んでいる。まずは、PVプロジェクトのRFPに参加してもらえる投資家を確実に引きつけること。次の段階として、サービス分野(PVシステムのリサイクルなど)への誘致も大切だ」(2025年12月ヒアリング)との声が聞こえてくる。

天然ガスに由来しないメタノールを

エネルギー転換という視点では、天然ガスに由来するメタノールからの脱却も重要だ。

これを推進するのが、ブルネイ・メタノール・カンパニー(BMC:Brunei Methanol Company)だ。BMCは、三菱ガス化学(MGC/本社:東京都千代田区)と伊藤忠商事(本社:東京都港区)およびブルネイ政府が出資する法人。従来の天然ガスではなく、再エネを原料にしたメタノールを製造する構想をブルネイ政府の方向に合わせ、計画を推進するとしている。さらに2025年9月、創立15周年を記念してメタノールフォーラムを開催した。

MGCは当該フォーラムで、ブルネイが循環型経済に移行していくことを支援する計画を示した。水素と二酸化炭素(CO2)からメタノールを合成できる触媒が商業化に至ったタイミングに合わせたかたちだ。

当地のメタノール生産は従来、天然ガスを原料にしてきた。しかしBMCの構想では、CO2などを原料にする。これは、2050年までに天然ガスを要しないメタノール工場に転換する長期計画に基づく。当該計画では、(1) 第一段階として、天然ガスと同時にCO2も原料とした製造を開始する、(2)その後回収したCO2と再エネによる水の電気分解で得た水素を用いて生産する体制を確立する、(3)その他ごみ埋め立て地やバイオマスから回収したメタンを改質して生産するという目標になっている。


注1:
詳細は、調査レポート「ASEAN等の脱炭素対策・有望分野制度に関する調査」で確認できる。 本文に戻る
注2:
ネットメータリングとは、PVシステム保有者がPVで生成した余剰電力を配電網に供給し、クレジットと交換できる仕組み。 本文に戻る
注3:
ブルネイ政府が公表する関連文書(PVに関する行動規範やガイドブック)は、DOEのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで閲覧できる。 本文に戻る
注4:
政府関係者によると、BNCCP改定の発表時期は「2026年第2四半期または第3四半期を目標」にしている(2025年12月に聴取)。本文に戻る
注5:
排出・吸収する温室効果ガス(GHG)の量をデータとしてまとめたもの。2023年4月にGHGの報告義務に関する指令が発効した(ブルネイ気候変動事務局発行資料参照PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.6MB))。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所次長
朝倉 啓介(あさくら けいすけ)
2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、国際経済研究課、公益社団法人日本経済研究センター出向、ジェトロ農林水産・食品調査課、ジェトロ・ムンバイ事務所、海外調査部国際経済課を経て現職。