競争力重視にシフトする欧州経済の低迷がもたらした政権交代
競争力強化に取り組むドイツ(1)

2026年4月13日

2025年2月のドイツ連邦議会選挙により、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が第1党となり、5月に社会民主党(SPD)との大連立政権が発足した(2025年5月13日付ビジネス短信参照)。競争力回復に向けたドイツ新政権の取り組みを解説する。前編となる本稿では、政権交代に至った背景である、2年連続マイナス成長と景況感低迷がもたらした経済最優先への世論の回帰、またそれに伴う主要政党の支持率の推移、そして連立交渉・政権発足までについて振り返る。後編では、競争力回復・強化に向けたドイツ新政権の2025年の取り組みと、2026年の方向性について概説する。

ドイツ経済停滞の深刻化

ドイツの実質GDP成長率は、2023年がマイナス0.9%、2024年がマイナス0.5%と2年連続でマイナス成長となり、1950年以降で2度目となる2年連続のマイナス成長となった。欧州の主要地域の中でも唯一のマイナス成長となり、「欧州の病人」の再来とも表現された。2025年はなんとかマイナス圏から脱して0.2%であったがほぼゼロ成長で、2026年も1.0%の見込みと、回復は緩慢な見通しだ。企業の景況感も同様に弱い状況にある。ifo経済研究所の景況感指数(図1)によると、「景況感指数(総合指数)」について、基準年である2015年を100として、2020年4月には新型コロナ禍で75.0まで大きく下げたのち、2021年中ごろに一時100を上回ったものの、2021年10月以降2026年1月時点まで基準の100を下回ったままだ。2023年6月以降は90未満が続いており、85~89ポイント台で低位横ばいが続いている。現在の景気に対する見方を示す「現況指数」も、半年後の見通しを示す「期待指数」も、いずれも力強さを欠いている。

図1:ドイツにおける景況感指数(2015年=100、カレンダー等調整済み)
景況感指数。2020年1月、96.1。2020年4月、75.0。2020年7月、89.4。2020年10月、93.0。2021年1月、90.7。2021年4月、96.0。2021年7月、100.7。2021年10月、98.8。2022年1月、96.2。2022年4月、91.2。2022年7月、88.7。2022年10月、85.3。2023年1月、90.5。2023年4月、92.8。2023年7月、87.4。2023年10月、87.0。2024年1月、85.6。2024年4月、89.0。2024年7月、87.0。2024年10月、86.5。2025年1月、85.4。2025年4月、86.8。2025年7月、88.5。2025年10月、88.4。2026年1月、87.6。現況指数。2020年1月、99.7。2020年4月、79.2。2020年7月、84.3。2020年10月、90.6。2021年1月、89.6。2021年4月、94.1。2021年7月、100.6。2021年10月、100.7。2022年1月、96.7。2022年4月、94.1。2022年7月、97.9。2022年10月、94.5。2023年1月、94.5。2023年4月、95.0。2023年7月、91.3。2023年10月、89.2。2024年1月、87.0。2024年4月、88.8。2024年7月、87.1。2024年10月、85.7。2025年1月、86.1。2025年4月、86.3。2025年7月、86.5。2025年10月、85.3。2026年1月、85.7。期待指数。2020年1月、92.7。2020年4月、71.0。2020年7月、94.8。2020年10月、95.4。2021年1月、91.8。2021年4月、71.0。2021年7月、100.9。2021年10月、97.0。2022年1月、86.7。2022年4月、85.5。2022年7月、80.3。2022年10月、77.1。2023年1月、86.7。2023年4月、90.7。2023年7月、83.6。2023年10月、84.8。2024年1月、84.3。2024年4月、89.3。2024年7月、86.9。2024年10月、87.3。2025年1月、84.7。2025年4月、87.3。2025年7月、86.5。2025年10月、91.6。2026年1月、89.5。

注:「現況指数」:現在の景気に対する見方を示す。「期待指数」:半年後の見通しを示す。
「景況感指数(総合指数)」:現況指数と期待指数をまとめたもの。
出所:ifo経済研究所の資料を基にジェトロ作成

ドイツは、図2のとおり、欧州の主要国と比較して製造業付加価値比率が最も高い水準にある。「ものづくり大国」ドイツを表す半面、産業構造上の製造業依存の大きさを示すものでもあり、エネルギー価格の高止まりや、対米・対中関係といった地政学ショックの波及が強く出たとみられる。投資の先送りや生産制約が潜在成長率を押し下げ、景況感の重しとなった(注1)

図2:製造業付加価値比率
(単位はパーセント)。ドイツ。1991年:24.624。1993年:21.048。1995年:20.217。1997年:19.895。1999年:19.744。2001年:20.086。2003年:19.553。2005年:19.769。2007年:20.53。2009年:17.339。2011年:20.123。2013年:19.76。2015年:20.138。2017年:20.093。2019年:19.309。2021年:18.573。2023年:18.94。EU。1991年:19.699。1993年:18.087。1995年:17.949。1997年:17.649。1999年:17.31。2001年:17.1。2003年:16.207。2005年:15.743。2007年:15.74。2009年:13.752。2011年:14.704。2013年:14.354。2015年:15.194。2017年:15.187。2019年:14.869。2021年:14.712。2023年:14.848。フランス。1991年:15.74。1993年:14.869。1995年:14.705。1997年:14.527。1999年:14.312。2001年:13.93。2003年:12.992。2005年:12.145。2007年:11.58。2009年:10.522。2011年:10.313。2013年:10.253。2015年:10.32。2017年:10.01。2019年:9.911。2021年:9.0958。2023年:9.7687。英国。1991年:16.172。1993年:15.593。1995年:15.364。1997年:14.98。1999年:13.843。2001年:12.503。2003年:11.548。2005年:10.562。2007年:9.7145。2009年:9.29245。2011年:9.3268。2013年:9.5981。2015年:9.3845。2017年:9.0423。2019年:8.9815。2021年:8.7328。2023年:8.2239。イタリア。1991年:19.285。1993年:18.58。1995年:19.185。1997年:18.627。1999年:17.977。2001年:17.197。2003年:16.134。2005年:15.523。2007年:15.958。2009年:13.658。2011年:14.132。2013年:13.759。2015年:14.262。2017年:14.817。2019年:14.803。2021年:15.365。2023年:15.476。日本。1995年:23.472。1997年:23.35。1999年:22.402。2001年:21.12。2003年:20.917。2005年:21.423。2007年:21.876。2009年:19.048。2011年:19.536。2013年:19.329。2015年:20.462。2017年:20.436。2019年:20.224。2021年:20.78。2023年:20.581。

出所:World Development Indicators(WDI)を基にジェトロ作成

世論の変化:最重要課題の推移

国民の最重要課題の認識は、図3のとおり長期的に見ると変化していることが分かる。ドイツ公共放送ZDFが実施している世論調査を2000年以降見てみると、ゲアハルト・シュレーダー元首相(SPD)が率いていた2000年代前半は「失業」が、アンゲラ・メルケル元首相(CDU/CSU)在任期間の後半にあたる2010年代後半は「移民」が突出して高かったことが見てとれる。

しかし、オラフ・ショルツ前首相(SPD)率いる、SPD・緑の党・自由民主党(FDP)の3党連立による前政権が発足した2021年末以降の最重要課題を見てみると、突出して高いテーマがない一方、気候・エネルギー、移民、ウクライナ情勢などのテーマが時期により上昇と下降を繰り返している。単一の課題が恒常的に支配する状況ではなく、多様な問題が並行して意識されていることが窺える。今回の連邦議会選挙が行われた2025年2月は、「移民」(42%)をわずかに上回り「経済状況」(43%)が最重要課題となっていた。連邦議会選挙以降もこの状況は続き、直近の2026年2月上旬時点でも「経済状況」がトップとなっている。

政党支持率の変化:与党SPD・緑の党は低下、AfD上昇

2021年9月の連邦議会選挙以降の政党支持率(図4参照)を時系列で見てみると、SPDは2022年中ごろには首位の座を失い、2022年1月には27%あった支持率が2025年2月には16%まで下降した。また、前政権で連立の一翼を担っていた環境政党である緑の党も、SPDと同じく支持率を下げた。SPDが第1党となった2021年の選挙時には「気候・エネルギー」が強く意識されていたものの、2024年後半以降「経済状況」が最重要課題となった中、景気停滞を打破できなかったことが前連立与党の支持率低下の主要因といえるだろう。一方、CDU/CSUは、SPDに替わって支持率が1位となった2022年中ごろ以降、25~30%台を安定して維持し、支持率首位を堅持している。目覚ましい支持率の伸びを見せているのが、極右ポピュリズム政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」だ。2021年の選挙時は10%程度だったのが、2023年には支持率2位となり、その後も勢いは止まらず、首位のCDU/CSUに肉薄している。2025年の選挙では、経済状況・コスト高・移民といった課題に対する不安の受け皿としてAfDが伸長しつつも、政権運営の実績のあるCDU/CSUが政権運営の現実的な選択肢となった、という見方ができるだろう。

2025年2月連邦議会選挙で、CDU/CSUが勝利

2025年2月23日の連邦議会選挙において、選挙前の大方の予測どおり、CDU/CSUが第1党を獲得した(2025年2月20日付地域・分析レポート2025年2月26日付ビジネス短信参照)。選挙結果は表のとおりで、CDU/CSUが得票率を伸ばした一方、第1党だったSPDは10%近く落とし、AfDは約2倍の支持率を獲得し躍進を見せた。ドイツの小選挙区比例代表併用制では、少数政党の乱立を防ぐために、政党は最低得票率5%を獲得するか、または、小選挙区で3議席以上を獲得できなければ、議席を得られないという、いわゆる5%条項というルールがある。前連立政権に参画していたFDP、2024年の設立以降支持を伸ばしていた極左ポピュリズム政党のザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)は、いずれも議席獲得に必要な5%を超えられなかった。これにより議席数は、CDU/CSUが208議席(全630議席のうち33.0%)、AfDが152議席(同24.1%)、SPDが120議席(同19.0%)、緑の党が85議席(同13.5%)、左翼党が64議席(同10.2%)、南シュレースビヒ選挙人同盟(SSW)1議席(同0.2%)(注2)となった。

表:2025年2月の連邦議会選挙結果と獲得議席数(ーは記載なし)注:ドイツの小選挙区比例代表併用制では、政党は最低得票率5%を獲得するか、小選挙区で3議席以上を獲得できなければ、議席を得られない。 FDPとBSWは、得票率が5%未満であったため、議席獲得ができなかった。
主要政党 2021年
得票率
2025年
得票率 議席数 議席割合
キリスト教民主・社会同盟 (CDU/CSU) 24.20% 28.60% 208 33.0%
ドイツのための選択肢(AfD) 10.40% 20.80% 152 24.1%
社会民主党(SPD) 25.70% 16.40% 120 19.0%
緑の党(Grüne) 14.70% 11.60% 85 13.5%
左翼党(Die Linke) 4.90% 8.80% 64 10.2%
ザーラ・ワーゲンクネヒト党 (BSW) 4.98% 0
自由民主党(FDP) 11.40% 4.30% 0
その他 8.70% 4.52% 1 0.2%

注:ドイツの小選挙区比例代表併用制では、政党は最低得票率5%を獲得するか、小選挙区で3議席以上を獲得できなければ、議席を得られない。
FDPとBSWは、得票率が5%未満であったため、議席獲得ができなかった。

出所:ドイツ連邦議会、ドイツ連邦選挙管理局の資料を基にジェトロ作成

第1党となったCDU/CSUは、連立交渉を開始。ドイツには、「ファイアウォール」と呼ばれる、民主的な政党が極右政党との協力を拒否するという戦後ドイツの基本的なコンセンサスがある。CDUのフリードリヒ・メルツ党首も、選挙前より繰り返しAfDとの連立の可能性を否定していた。第1党で208議席のCDU/CSUは、過半数316議席を確保するためには最低でも残り108議席を集める必要があった。第2党AfDとの連立という選択肢を排除すると、議席構成から見て、第3党で120議席を有するSPDとの2者連立が安定多数の現実的な唯一の選択肢であった。結果として民意は、社会の安定と経済状況の改善を強く志向し、そのような体制を選択したといえるだろう。

連立交渉は短期間でまとまるも、難しい船出に

2025年2月の連邦議会選挙後、CDU/CSUとSPDは、早々に連立交渉を開始した。ドイツでは、議席構成から連立を組むことが通例となっているが、これまでの連立交渉は時間を要していた。連立交渉開始まで、前々回は124日を、前回は25日をそれぞれ要していたが、今回は選挙後18日で連立交渉に着手。その後、4月9日に連立交渉合意を発表した(2025年4月11日付ビジネス短信参照)。総選挙から45日と比較的迅速に連立交渉の合意に至った背景には、米国のウクライナ政策方針の変更や関税措置といった外的なプレッシャーがあったとされる。

5月6日、首相指名選挙が行われ、メルツ党首が過半数の得票を得て新首相に選出された(2025年5月8日付ビジネス短信参照)。首相指名選挙は、連邦議会において秘密選挙で行われ、連邦議員630人の過半数316票の賛成票が必要なところ、同日午前に行われた投票では、まさかの過半数未達で否決という異例の事態となった。結局、同日中に2回目の投票を実施し、投票618票中賛成325票によりメルツ党首が首相に選ばれた。

これを先取りするかのように、直前の「ZDF」の世論調査でも、メルツ氏の首相就任について、38%が良いと答えたのに対して、56%が良くないと回答。CDU/CSUとSPDとの連立政権樹立については、良いが48%、良くないが37%という結果で、連立政権には賛成だがメルツ首相には反対という民意が見られた。この背景には、メルツ氏に対する意見が大きく二極化していることに加え、主にSPD支持者の大多数がメルツ新首相に反対していたことがあった。SPD支持者の62%がメルツ氏を首相として不適格と評価し、適格と評価したのは32%に留まっていた。低迷するドイツ経済の状況打開を最優先課題として発足した新政権は、連立与党が1枚岩ではないことが露呈した中での難しい船出となった。


注1:
ドイツ連邦経済・エネルギー省「年次経済報告書2026」(2026年1月28日) 本文に戻る
注2:
少数民族政党であるため、5%条項のルールは不適用となる。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ベルリン事務所
中山 裕貴(なかやま ひろたか)
2013年、ジェトロ入構。ジェトロ宮崎、経理課などを経て、2024年3月から現職。