ドイツ首相にメルツ氏、首相指名選挙で否決され異例の2回目投票で選出

(ドイツ)

ベルリン発

2025年05月08日

ドイツ連邦議会(下院)で5月6日、首相指名選挙が行われ、キリスト教民主同盟(CDU)党首のフリードリヒ・メルツ氏が2回目の投票で過半数を得て、新首相に選出された。

投票は秘密選挙で行われ、首相選出には連邦議員630人の過半数の316票以上の賛成票が必要なところ、同日午前に行われた1回目の投票では、投票621票中賛成310票で過半数に届かず、否決された。前日の5月5日には、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が連立協定に署名し、メルツ氏の首相選出が確実視されていただけに、異例の事態に混乱が広がった。

本来、同日中に2回目の投票を実施することは議事規則上、不可能だったが、CDU/CSU、SPD、緑の党、左翼党の4党が議事規則の変更動議を提出。全会一致の賛成を得て規則を変更した。同日午後に2回目の投票が実施され、投票618票のうち325票の賛成を得て、メルツ氏が首相に選出された。反対289票、棄権1票、無効3票という結果だった。その後、フランク=バルター・シュタインマイヤー大統領のもとで首相と閣僚が正式に任命され、新政権が発足した。メルツ新首相は、2回目の首相指名選挙で選出されたことに触れ、重責を担いながら謙虚に職務に邁進(まいしん)し、ドイツが直面する課題を解決していくことを誓った。

外国の要人からも、祝福の声が寄せられた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、X(旧Twitter)でドイツ・フランス間の協力関係を今後さらに強固にしていくべきだと呼び掛けた。ウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領も、メルツ首相就任を祝福するとともに、ドイツが今後国際的に活躍していくことを願い、それこそが欧州の将来にとって重要だ、とXに投稿。中国の習近平国家主席は、包括的な戦略的パートナーである中国とドイツが、一国主義と保護主義の逆風が強まる中でも連携しつつ、公正で秩序ある多極化世界と包括的な経済グローバリゼーションを共同で推進すべき、と語った。

異例の事態に国内の反応はネガティブ

ドイツ史上初となる1回目の首相指名選挙で否決されたメルツ新首相は、新政権のスタート前から同氏のリーダーシップに深刻な疑念が生じることとなった。ドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッシャー所長は「連立協定に一部で深い拒否反応が示されている」とコメント。ドイツ商工会議所連合会(DIHK)のペーター・アドリアン会長は、3年連続のゼロ成長危機に直面するドイツ経済(2025年5月1日記事参照)において政治の方向転換が迫られる中、首相指名選挙で否決されたのは非常に悪いニュースだ、と語った。

(打越花子、中山裕貴)

(ドイツ)

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