競争力重視にシフトする欧州ブルーエコノミーで経済成長と持続可能性強化に取り組むポルトガル
2026年3月30日
「ブルーエコノミー」を目にする機会が日本でも増えている。日本と同様に海が身近な存在であるポルトガルの取り組みを、関係者へのインタビューを基に概観し、日本企業との協業可能性について考察する(取材日:2025年7月7-8日)。
欧州で広がる海の持続可能性
世界銀行とEUはそれぞれブルーエコノミーを「経済成長、生活の改善、雇用創出、健全な海洋エコシステムのための海洋資源の持続可能な利用」「海洋に関連するあらゆる経済活動」と定義している。EUの定義である「海洋に関連するあらゆる経済活動」には、ウォータースポーツなどの観光、海運などの運輸、漁業や養殖などの食、洋上風力などの再生可能エネルギー(再エネ)、藻類による炭素吸収などのバイオテックなど幅広い活動が含まれる。地球での生活に海洋が与える影響は大きく、欧州議会によると、海は地球上の50%以上の酸素を生み出し、1980年以降人間の活動によって排出された二酸化炭素の30%と、余分な熱の90%を吸収している。気候変動や人間の活動により海のレジリエンスが損なわれている一方で、世界的に「ブルーエコノミー」は拡大傾向にあるとされる。
EU全体の粗付加価値(GVA)に占めるブルーエコノミーの割合は1.7%と決して大きくはないが、同経済活動を持続可能なものとするため、EUは海洋関連の政策および行動をまとめた包括的な戦略「欧州海洋協定(European Ocean Pact)」を2025年6月に採択。持続可能な海洋資源の利用、社会的包摂性、公平性を考慮した「ブルーエコノミー」の発展を目指す。6つの優先事項として、1)海洋の健全性の保護および回復、2)持続可能なブルーエコノミーの競争力向上、3)沿岸および諸島、遠隔コミュニティーの支援、4)海洋研究、知見、スキル、イノベーションの発展、5)海洋安全および防衛の強化、6)EUの海洋外交および国際的な海洋ガバナンスの強化、を挙げた。この協定に掲げた目標を達成するため、欧州委員会は2027年までに欧州海洋法案(European ocean Act)を提案し法制化を目指すとしている。
ブルーエコノミーの脱炭素化とデジタル化を推進するポルトガル
EU加盟国の中でもポルトガルは国を挙げてブルーエコノミーに関する方針を明確に打ち出しており、自国産業の発展と持続可能な経済活動の両立に取り組んでいる。ポルトガルはGVAの約4%(2023年時点)をブルーエコノミーが占める。EU加盟国の中で同割合は、クロアチア、キプロス、ギリシャ、マルタ共和国、デンマークに次ぐ6番目の大きさだ(2022年時点)。海洋政策局(DGPM)局長のマリザ・ラメイラス・ダ・シルヴァ氏は「ブルーエコノミーに関する取り組み全てがポルトガルの競争力向上につながる」「気候変動が人類全体の問題であるように、海の問題も世界全体の問題であり、責任をもって対処していく必要がある」と話す。また、ポルトガルでは海洋リテラシーを長期的な持続可能性の前提条件と捉え、学校のカリキュラムへの統合や地域社会への関与など、国が積極的に啓発に取り組んでいる。同国の経済成長に向けたブルーエコノミーへの期待と、同経済活動を持続可能なものとしていく姿勢がうかがえる。
ポルトガルは2006年に初めて国家海洋戦略を策定、現在は2021年5月に採択された「国家海洋戦略2021年-2030年(ポルトガル語)
」に基づき対応を進めている。同戦略では「持続可能な海洋発展と人々の心身の健康を達成し、ポルトガルを海洋ガバナンスにおいて科学的知見に基づく世界的リーダーとするために、健全な海洋を目指す」というビジョンのもと、10の戦略的目標と13の優先的に介入する分野を挙げている(参考1、2参照)。
参考1:国家海洋戦略における10年間における10の戦略的目標
- 気候変動および汚染への対策、エコシステムの回復
- 雇用と、循環型および持続可能なブルーエコノミーの強化
- 脱炭素化、再生可能エネルギーとエネルギー自立
- 食料の安全保障および持続可能性
- 水資源へのアクセスおよび供給
- 健康およびウェルビーイング
- 科学的知見、技術開発およびブルーイノベーション
- 教育、資格、文化および海洋リテラシー
- 再工業化、生産キャパシティー、海洋デジタル化
- 安全保障、主権、協力、ガバナンス"
参考2:国家海洋戦略における13の優先的な介入分野
- 科学とイノベーション
- 教育、資格、文化および海洋リテラシー
- 生物多様性、海洋保護区
- バイオエコノミー、ブルーバイオテック
- 漁業、養殖業、加工および流通
- ロボット化およびデジタル技術
- 再生可能海洋エネルギー
- 観光、レクリエーションボート、スポーツ
- 港湾、海上輸送、物流、通信
- 造船所、造船、船舶修理
- 沿岸管理、建設、インフラ
- 非生物資源
- 海上安全保障、防衛、監視"
同戦略に基づく取り組みの1つとして、ブルーハブネットワーク(Hub Azul)の設置が挙げられる(ブルーハブネットワーク(Hub Azul)ウェブサイト参照
)。ブルーエコノミーの脱炭素化とデジタル化の推進を主な目的としており、全国6カ所にハブを設け、教育機関、支援機関、企業などをつなげる役割を果たす(表参照)。北部にはロボティクスや海洋エネルギー、南部には養殖を含む食関連など、各地域の特性に合った分野に焦点を当てたハブを設置する。シルヴァ氏によると、今後1―2年での開設を目指している。またハブとは別にフリー・テクノロジー・ゾーンを北部に設置する計画も進めているという。無人システムをはじめとした新しい技術の検証を早く進めることが目的で、海外企業による利用も可能にする想定だ。
| No | ハブ名 | 主な支援対象分野 |
|---|---|---|
| 1 | Hub Azul Leixões Polo 1(HAL) | 港湾地区に科学インフラを設置、気候変動とデジタル化 |
|
Hub Azul Leixões Polo 2 〔C3 4Ocean(コマンド・アンド・コントロール・センター)〕 |
海事およびブルーバイオエコノミーに資する無人機〔無人航空機(UAV)や無人水上艇(USV)、無人潜水艦(UUV)〕運用センター | |
| 2 |
Hub Azul Aveiro 〔CITAQUA(養殖に関するイノベーションおよびテクノロジーセンター)〕 |
持続可能な養殖業(二枚貝および藻)に資するイノベーション、生産、研究開発(R&D)センター |
| 3 | Hub Azul Peniche | スタートアップ支援(海事、養殖、バイオテック、フードイノベーション、沿岸ツーリズム、デジタル) |
| 4 | Hub Azul Costa Atlântica (Região de Coimbra) | 気候変動、海岸保護、環境モニタリング、エコシステム、バイオテクノロジー |
| 5 | Hub Azul Oeiras Mar | 海洋、大気 |
| 6 | Hub Azul Olhão | バイオテクノジー、養殖、食 |
若手漁業者の参入が進む養殖業
ブルーハブネットワークを通じたイノベーション創出による脱炭素化とデジタル化の推進と並行して、漁業・養殖業については公的助成プログラムMAR2030を使った企業支援も進めている。同産業は、ブルーエコノミー関連のGVAおよび雇用の中で観光業に次ぐ大きさを占めており、ポルトガル経済における大きな産業だ。一方で、上述の「国家海洋戦略2021-2030」の経過報告書「モニタリングレポート2023(ポルトガル語)
(4.7MB)」(2025年1月発表)によると、魚類、甲殻類、軟体動物の貿易収支は2010年から2023年にかけて持続的に赤字を計上しており輸入依存度が高く、同分野を強化する必要性が述べられている。MAR2030はEUの海洋・漁業・養殖基金(EMFAF)が財源の7割を占め、持続可能なブルーエコノミーの促進を目的としている。特に小規模沿岸漁業者、若手や遠隔地の漁業者の支援や国際的な海洋ガバナンスの強化を優先事項としている。対象はポルトガルに登記している企業で、在ポルトガル企業と他国企業との協業プロジェクトの場合は在ポルトガル企業が申請できる。 MAR2030の運営にあたって緊密な連携をとる水産養殖協会のイシドロ・ブランケット氏は、同補助金の優先支援対象である若手漁業者の参入が近年特に多い分野はカキの養殖だと話す。伝統的な手法での養殖のみが認められるアサリなどの二枚貝と比較して、カキは工夫の余地が大きいことや、海の掃除屋と呼ばれ水質浄化に貢献していることが魅力だという。
MAR2030の支援を受けた1社であるFinisterra
は、南西端のサグレスでムール貝を養殖している。同社の養殖場は、水産養殖管理協議会(ASC)による責任ある養殖水産物のための認証を取得し、製品にもEU有機認証を取得している。同社が販売するムール貝の缶詰は、ムール貝の身と貝自身のだしという、純粋な原材料のみで構成される。ムール貝はカキと同様に濾過(ろか)能力が高く、水質浄化や海の二酸化炭素(CO2)回収に貢献している。また、同社は貝殻も大手肥料企業に販売しており、まさに持続可能性につながる循環型経済を実現しているという。最高経営責任者(CEO)のマヌエル・ピント・リベイロ氏は同補助金申請について、段階を踏んだ投資を行い、申請から補助金交付までの一連の流れがどのように進むかを見ることを勧めた。
日本企業の協業チャンス
ブルーエコノミー促進を目的とした非営利団体フォーラム・オセアーノ事務局長ルーベン・エイラス氏は、日本企業との協業可能性が大きい分野として、1)エネルギー、2)食品、3)港湾、4)造船、5)観光、6)デジタル化を挙げた。1)エネルギーについては、東京ガスのポルトガル北部での浮体式洋上風力発電プロジェクトへの参入(2024年8月14日付ビジネス短信参照)を例に挙げ、プロジェクトにより得られるデータや、ポルトガル企業の持つ技術にアクセスできることを日本企業への利点として挙げた。また、留意点として、既にポルトガル国内で確立されたエコシステムやバリューチェーンがある場合はそれをうまく活用した協業を呼び掛けた。風力発電におけるポルトガル企業の強みは、組み立て、金属加工における技術的な強みや、南欧や北アフリカでの陸上風力の経験だという。2)食品については、ポルトガル企業は高い保存・加工・冷凍技術を持っていると説明。前述の「モニタリングレポート2023」においても、2010年から2023年にかけてポルトガルの水産加工産業の貿易収支はプラスの推移を示しており、同分野はポルトガルの強みだ。同分野において今後求められる技術の例として、人工知能(AI)による水資源管理などを挙げ、食は食料安全保障の観点からも関心が高い分野だとした。3)港湾については、大型船舶が安全に入港できる深水港で国際貿易の主要拠点である南西部シネス港などの、再エネを活用した運用をポルトガルの実績の例に挙げた。4)造船は風力アシストを活用したエネルギー効率の高い船舶やライフサイクルの延長など、5)観光は小型ボート、6)デジタル化は海洋観察の効率化などに対して、それぞれ日本の高い造船技術やロボット技術力に期待を寄せた。
また前述のDGPMのシルヴァ氏は2カ国の協力分野として、7)海洋技術と安全保障、8)藻類などのブルーバイオエコノミーにも期待を示す。7)について、ポルトガルは海洋技術と安全保障の交差点、すなわちセンシングシステム、自律走行船(水上および水中)、そして民生・軍事用途の両方を持つ監視プラットフォームを重要分野と位置付けていると話す。また8)については、EUでは近年藻類はバイオテクノロジーや脱炭素、食糧などの文脈で重要性が高まっており、恵まれた自然条件やイノベーションエコシステムを有するポルトガルと、長年の海藻養殖や藻類バイオテクノロジーの専門知識を持つ日本の協力は特に有望だと話した。
ポルトガルは大阪・関西国際万博(2025年日本国際博覧会)の国別パビリオンで「海洋:青の対話」をテーマとし、万博会期中の9月24日にはポルトガル投資貿易振興庁とポルトガル大使館主催のポルトガル経済フォーラム・ブルーエコノミーセミナーを開催するなど、海洋大国としての発信を続けている。
日本でも内閣府に設置された総合海洋政策本部において、自律型無人航空機戦略プロジェクトチームが2023年5月に立ち上がるなど、海洋関連の経済活動における新たな技術の開発・活用が進められている。海が身近な両国の政府がともに重要性を確認している海洋や海洋資源の保護と持続可能性の実現に向けて、両国企業が協力できる余地はありそうだ。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部欧州課 課長代理
牧野 彩(まきの あや) - 2011年、ジェトロ入構。企画部情報システム課、ジェトロ福島、ジェトロ・ロンドン事務所を経て、2022年5月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・パリ事務所(在リスボン)
小野 恵美(おの えみ) - 2007年よりジェトロ・パリ事務所コレスポンデント(在リスボン)






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