競争力重視にシフトする欧州進化するバッテリーエネルギー貯蔵市場(イタリア)
容量調達メカニズムに注目

2025年12月10日

イタリアでは太陽光と水力を軸に、再生可能エネルギー(再エネ)の導入が加速している。特に太陽光発電は、2025年上半期の発電量が前年同期比23.1%増を記録するなど、成長が顕著だ。天候に左右される再エネにかじを切る上で欠かせない、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)への政府の投資も積極的だ。既に運用している、電力容量市場や再エネ設備の新設や改修に対する補助金政策であるFerX(再エネ支援暫定省令:2025年9月5日付ビジネス短信参照)に加え、2025年9月にMACSE(電力貯蔵容量調達メカニズム)を導入したことで、イタリアは、国内外からBESSの有望投資先として注目が高まっている。

再エネの割合は約5割、太陽光が牽引

2025年7月にイタリア・エネルギー・環境局(ARERA)が発表した年次レポートによると、イタリアの2024年の電源別発電量(暫定値)における再エネの割合は49%で、総発電量のほぼ半分を占めるまでに伸長した(表1参照)。内訳では水力が最も大きく、2023年の15.3%から19.3%、次いで太陽光が同11.6%から13.2%へ増加した。一方、風力は同8.9%から8.2%と微減した。

表1:イタリアにおける電源別の発電量(輸入を含まない) (単位:GWh、%)(ーは値なし)
電源 発電量 構成比
2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2023年 2024年
(1)化石エネルギー:天然ガス 133,683 143,998 141,445 118,987 121,437 45.0 44.4
(1)化石エネルギー:石炭 13,380 14,022 22,607 13,220 3,864 5.0 1.4
(1)化石エネルギー:石油製品 3,175 3,851 4,953 3,622 2,520 1.4 0.9
(1)化石エネルギー:その他 11,436 8,769 12,589 10,741 9,966 4.1 3.6
(1)化石エネルギー:合計 161,673 170,640 181,594 146,570 137,788 55.4 50.4
(2)蓄電池(スタンドアロン) 8 127 0.0 0.0
(3)水力 (揚水式) 1,944 2,090 1,893 1,551 1,486 0.6 0.5
(4)再生可能エネルギー:太陽光 24,942 25,039 28,122 30,711 35,993 11.6 13.2
(4)再生可能エネルギー:水力 47,552 45,388 28,398 40,517 52,750 15.3 19.3
(4)再生可能エネルギー:風力 18,762 20,927 20,494 23,641 22,306 8.9 8.2
(4)再生可能エネルギー:地熱 6,026 5,914 5,837 5,692 5,648 2.2 2.1
(4)再生可能エネルギー:バイオエネルギー 19,634 19,071 17,616 16,018 17,206 6.1 6.3
(4)再生可能エネルギー:合計 116,915 116,339 100,466 116,579 133,904 44.0 49.0
合計 280,532 289,069 283,953 264,708 273,295 100.0 100.0

注:2024年は暫定値。数値はテルナによる。
出所:エネルギー・環境局(ARERA)の2025年アニュアルレポート(10月15日アクセス)のデータを基にジェトロ作成

太陽光の発電量の増加は目覚ましく、イタリアの送電事業者(TSO)テルナが2025年7月22日に発表した同年1~6月の国内の電源別発電量では、太陽光は前年同期比23.1%増の22テラワット時(TWh)に達し、過去最高を記録した。また、同年9月にエネルギーサービス管理公社(GSE)が発表した太陽光発電の累計設備数と発電容量の推移によると、2020年から2024年までの4年間に設備数は約2倍、発電容量は約1.7倍になっている(図1、図2参照)。

図1:イタリアにおける太陽光発電の累計設備数の推移(2017~2024年)
2017年は77万4,014基、2018年は82万2,301基、2019年は88万90基、2020年は93万5,838基、2021年は101万6,083基、2022年は122万5,431基、2023年は159万7,447基、2024年は187万5,870基。

出所 :GSEの資料を基にジェトロ作成

図2:イタリアにおける太陽光発電容量の推移(2017~2024年)
2017年は1万9,682MW、2018年は2万108MW、2019年は2万865MW、2020年は2万1,650MW、2021年は2万2,594MW、2022年は2万5,064 MW、2023年は3万319MW、2024年は3万7,002 MW。

出所 :GSEの資料を基にジェトロ作成

イタリアでは確実に再エネの導入が進展しているが、政府が2024年6月に更新した「エネルギーと気候に関する国家統合計画(PNIEC)」では、2030年までに再エネの発電設備容量を131ギガワット(GW)という目標を立てており、2021年時点から依然として74GWの増加が必要となっている。政府は、再エネ設備の新設や改修に対する補助金政策であるFerX(発電コストの市場競争力を高めるための再エネ設備暫定支援メカニズム)やトランジション5.0(注1)などの支援策を軸に、さらに勢いを加速させていく必要がある。

重要性を増すバッテリー蓄電システム

再エネに大きくかじを切るイタリアだが、再エネは天候に大きく左右されるため、余剰エネルギーを一定期間貯蔵可能なBESSが中長期的に大きな役割を担う。

2025年5月に発表された業界団体ソーラーパワー・ヨーロッパの調査レポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(注2)によると、2024年に、欧州全体で蓄電容量21.9ギガワット時(GWh)のBESSが新設され、累計蓄電容量は61.1GWhに達した。2013年以降、各年の新規設備の蓄電容量は、11年連続で過去最高を更新している。2024年のBESSの市場規模の各国比較では、イタリアがドイツに次いで2位。3位は英国だった。イタリアでは家庭用が縮小したが、大容量の電力系統用の牽引により、2023年と比較して大きく伸長し、首位のドイツとの差を縮めた。

テルナが2024年12月に発表した資料によると、2024年12月時点で、イタリアで稼働中の蓄電設備(注3)は約73万基あり、定格出力は約5.6 GW。2023年12月時点では3.5GWで、前年同月比2,111 MW(メガワット)増だった。2024年12月は前年同月比2,113 MW増で、増加分の伸び率は0.1%の微増だった。一方、蓄電容量は2023年12月時点で7.0 GWhだったのに対し、2024年同月は12.9GWh。前年同月比の増加量は2023年12月が4,200 MWhだったのに対し、2024年12月は5.921 MWhで、増加分の伸び率は41%と急増した。

規模別(定格出力)に見ると、6kW(キロワット)超~20kW以下の設備が最も多く、合計2,498.1MWで、全体の約45%を占める。10MW超の大規模設備は合計1,064.8MW。テルナは、小規模設備が税制控除などの優遇政策で伸長。電力系統用の大規模設備は、供給能力に対する価値に対して容量価格を支払う、容量市場での調達メカニズムが影響しているとみている。

地域別で見ると、2024年12月時点で、ミラノが属するロンバルディア州の定格出力が前年同月比862MW増で首位。次いでベネチアが属するベネト州が同613MW増、トリノが属するピエモンテ州が同600MW増となっており、北部で導入が進んでいる。

注目を集める容量調達メカニズム

コンサルティング企業アーンスト・アンド・ヤング(EY)が2024年6月に発表したレポートによると、欧州に限るとイタリアは、英国、ドイツに次いでBESS投資における魅力的市場として3位となった。イタリアでは2030年までに蓄電容量70GWh超のBESSに関する入札実施を目標としていることや、テルナを売電先とするインフレ率に連動した12~14年の長期固定価格契約などを理由として挙げている。また、2025年3月に発表されたオーロラ・エナジー・リサーチの欧州地域の調査では、イタリアが首位となっている。その理由は、MACSE(電力貯蔵容量調達メカニズム)の導入だ。

MACSEは、イタリアのTSOテルナが運営する蓄電容量の先物長期調達市場メカニズムを指す。将来必要となる電力量を取引する容量市場で、BESSへの投資強化を目的としている。欧州委員会は2023年12月に、同メカニズム構築に係る177億ユーロ規模のスキームへの、イタリア政府による補助金支出を承認した。2033年12月末までに定格出力9GW/蓄電容量71GWhを超える蓄電システムの建設を目標としている。

上記のMACSEスキームへの参加資格を有するのは、新規の蓄電システムの建設・運営認可を保有する事業者となる。現時点ではリチウムイオン電池と揚水発電のみが技術要件とされているが、2年ごとに改定される予定。揚水発電については、水力発電権の保有も必須となる。水力発電所を揚水発電施設へ転換する事業、または既存施設を拡張する事業も、拡張後の最大貯蔵エネルギー量が拡張前の15%以上増加する場合に限り対象となる。既に容量市場に参加している事業者や、電力系統周波数の安定性向上のためのパイロットプロジェクト「ファースト・リザーブ」に参加している事業者は対象外とし、他のインセンティブとの併用は不可としている。

入札により選定された事業者は、GME(経済・財務省が管轄する電力市場の監督機関)を通じて、第三者への容量提供が義務付けられる。また、電力系統の安定化に貢献するために、蓄電容量の需給バランス調整市場(MSD:注4)にも提供する義務などがある。

2025年9月30日にテルナが実施したMACSEの初入札では、需要電力貯蔵量10 GWhに対し、4倍もの応札があり期待を大きく上回った。テルナのジュゼッピーナ・ディ・フォッジャ最高経営責任者(CEO)は、「入札の結果は、競争の激化と市場の強い関心を示している。関連投資額は約10億ユーロと推定され、再エネの統合強化がより進むであろう」と述べた。

同10GWhはイタリア南部や島しょ部に割り当てられ、加重平均落札価格は1MWh当たり年間1万2,959ユーロで、設定された上限価格である3万7,000ユーロを大きく下回った。また、同入札は国内4地域で実施され、それぞれ最小・最大調達量が設定されている(表2参照)。なお、同入札で契約されたBESSは、2028年に稼働の予定だ。

表2:MACSEの地域別調達容量および平均落札価格
イタリア国内地域 調達容量
(公示)
平均落札価格
(1 MWhあたり)
中南部 0~3.0 GWh 14,566ユーロ
南部およびカラブリア州 0~7.0 GWh 12,146ユーロ
シチリア島 0.5~1.5 GWh 15,846ユーロ
サルデーニャ島 0.5~1.0 GWh 15,029ユーロ

出所:テルナなどの情報を基にジェトロ作成

スタートアップや外資も入札参加

第1回の入札で選定された15件のBESSプロジェクト(総蓄電容量10GWh)のうち、大規模案件の落札者はイタリアのエネルギー大手エネルやエニが目立ったが、15件のうち3件はスタートアップであるACLエナジーのプロジェクトが選定された。同3件の1つである「SPV 7プロジェクト」では、南部プーリア州フォッジャ県で、定格出力95.55 MW、蓄電容量706 MWhのBESSを建設する。報道によると、同プロジェクトは、BESSの欧州グローバル企業であるBW ESSとの合弁により実施される。BW ESSとACLエナジーは、このほかに既にイタリア国内で出力2.8 GWに相当する計14件の共同プロジェクトを推進している。

また同入札では、ポルトガルに本社を置く再エネ大手のグリーンボルトも、南部およびカラブリア州において、蓄電容量499MWh分の供給権を獲得した。同社初の8時間電力を提供できるリチウムイオンバッテリーシステムで、欧州最大級の長期エネルギー貯蔵プロジェクトの1つになる見込みだ。前述のエネルは5件が選定され、入札全体のほぼ半分に相当する約5.2GWh分の蓄電容量供給権を獲得。エニは2件が選定され、455 MWh分をサルデーニャ島とシチリア島向けに供給する権利を獲得した。なお、現地経済紙「イルソーレ24オーレ」によると、応札者の中には韓国企業のハンファなども含まれていた模様だ。

前述のスタートアップACLエナジーは、2024年に600万ユーロの売上高を達成し、次回MACSEの入札も視野に入れている。ただし、同社のロレンツォ・アベッロCEOはイルソーレ24オーレの取材に対して、「事業者側が地域社会へBESSプロジェクトの有用性を伝える能力が重要になっている」と指摘した。建設認可の簡素化など、BESSのさらなる加速に向けて政府が解決すべき課題もまだ残っているようだ。


注1:
トランジション5.0は、イタリア国内の生産拠点に対して、持続可能性やエネルギー効率向上、再エネ導入などに向けて投資する企業を最大45%の税額控除で支援する制度。2024年に制定され、予算規模は2026年までに63億ユーロ。国家復興・レジリエンス計画(PNRR)の1つ。
注2:
家庭用(20kWh未満)、産業用(20kWh~1,000kWh)、系統用(1,000kWh超)を合計。
注3:
揚水発電設備は除く。
注4:
Mercato per il Servizio di Dispacciamentoの略で、電力の需給バランスや系統の安全性を確保するための調整サービスを取引するアンシラリーサービス市場。系統周波数の維持や予備電力の確保などにより、突発的な電力需要変動や発電設備の故障に対応する。
執筆者紹介
ジェトロ・ミラノ事務所
平川 容子(ひらかわ ようこ)
2021年からジェトロ・ミラノ事務所に勤務。