ドイツ連邦議会選挙が投開票、キリスト教民主・社会同盟と社会民主党の連立を軸に交渉

(ドイツ)

ベルリン発

2025年02月26日

ドイツ連邦議会選挙が2月23日、投開票された。投票率は82.5%と1990年以降で最高を記録し、国民の関心の高さがうかがえる選挙となった。

ドイツ連邦選挙管理委員会の2月24日時点の暫定値によれば、得票率の多い順に、(1)中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)が28.6%(前回2021年選挙比4.4ポイント増)、(2)極右のドイツのための選択肢(AfD)が20.8%(10.4ポイント増)、(3)中道左派の社会民主党(SPD)が16.4%(9.3ポイント減)、(4)緑の党が11.6%(3.1ポイント減)、(5)左派の左翼党が8.8%(3.9ポイント増)、(6)極左のザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)が4.97%(比較なし)、(7)自由民主党(FDP)が4.3%(7.1ポイント減)となった。

BSWとFDPが議席獲得に必要な5%(注1)を超えられなかった結果、今後の連邦議会の議席は、多い方から順に、CDU/CSUが208議席(全630議席のうち33.0%)、AfDが152議席(24.1%)、SPDが120議席(19.0%)、緑の党が85議席(13.5%)、左翼党が64議席(10.2%)、南シュレースビヒ選挙人同盟(SSW)1議席(0.2%)(注2)と続く。

CDU/CSUは、第1党に返り咲いたが、思うようには支持を伸ばせなかった。AfDは、現政権への不満や移民・難民問題の高まりなどを背景に東部を中心に支持を集め、議席数割合を倍増させて第2党となったものの、極右への支持が2割にとどまったことに対して専門家からは安堵(あんど)の声も聞こえる。一方、与党SPDは、議席数割合を激減させて初めて第3党に転落し、同党のオラフ・ショルツ首相は責任を取って要職から退く意向を表明した。また、同じく与党の緑の党は、議席数割合こそ微減にとどまったものの、党のアイデンティティが不明確になってコア層の支持を失ったとの評価もあり、同党のロベルト・ハーベック経済・気候保護相も要職から退く意向を表明した。2024年11月に政権から離脱したFDPは議席を完全に失い、同党のクリスティアン・リントナー党首は政界から引退する意向を表明した。なお、左翼党は、BSWの分派などによって存続が一時危ぶまれたものの、選挙期間中に若年層の支持を得て議席数割合を6割増やした。

CDU/CSUの首相候補であるフリードリヒ・メルツCDU党首は、過去の選挙で連立交渉に要した日数と比較すると比較的短い、イースター(2025年4月20日)までに連立政権を樹立させたいとの意向だ。具体的には、第2党のAfDとの連立を繰り返し否定していることから、CDU/CSUと第3党のSPDの2党連立を主軸に交渉が進められる見通しになっている。

メルツCDU党首は、劇的に変化する大西洋関係を念頭に米国に依存しない欧州の強化、移民問題、経済回復、の3つを優先分野として掲げているところ、これまで政府経験のないメルツCDU党首の手腕が注目される。一方、SPDは、指導部の建て直しを速やかに行った上で、連立の選択肢が事実上一択である中で交渉力をどこまで発揮できるかが注目されるとともに、国民から厳しい審判を受けたことを踏まえて、ラース・クリングベイル党首やボリス・ピストリウス国防相などのもとで速やかに現実的な調整を行えるかが注目される。連立交渉に当たっての当座の最大の論点は、必要な財源を捻出するための支出削減や、基本法(憲法に相当)に基づく財務規律である債務ブレーキ(注3)の見直しだ(2025年2月20日付地域・分析レポート参照)。特に債務ブレーキについては、見直しに必要な3分の2以上の賛成を得ることができるか、または何らかの工夫を行えるかが注目される。

いずれにせよ、米国・ロシアによるウクライナ和平交渉をはじめとして、欧州を巡るさまざまな重要問題が進行中である中、早期の連立政権樹立が望まれている。

(注1)(有権者が有する2つの投票権のうち第2票の)得票率が5%未満の政党は、連邦議会で議席を割り当てられない。ただし、3つ以上の選挙区で当選者があった場合には得票率に応じた議席を得ることができる。

(注2)少数民族政党であるため(注1)のルールは不適用となる。

(注3)連邦政府の債務をGDPの0.35%未満に抑えるという財政規律のルール。

(日原正視)

(ドイツ)

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