競争力重視にシフトする欧州競争力を重視して循環経済を実現(フランス)

2025年12月11日

フランスでは1990年代から、「拡大生産者責任(EPR)」に基づき生産者の責任を拡大。製品の生産・使用段階だけでなく使用済み段階までを対象にし、特定の産業分野に適用してきた。まず、1992年に容器包装分野にEPRを適用。それから順次、適用対象分野を広げ、2006年には電気・電子部品、2007年に衣類、家庭用繊維製品、靴を対象にした。

2020年2月には、「循環経済法」を施行。(1)使い捨てプラスチックからの脱却や(2)消費者への情報提供、(3)製品の長寿化や環境負荷を抑えた生産の促進など、さまざまな施策を導入してきた(2020年6月4日付地域・分析レポート参照)。

さらに2021年8月、「気候変動対策・レジリエンス強化法」を施行。環境負荷を表示する「エコスコア」を導入した。あわせて、一定規模以上のスーパーマーケットを対象に、(1)量り売り販売の売り場面積を20%以上にすることや(2)包装のない量り売り販売について、義務付けている。(2021年12月6日付地域・分析レポート参照)。

循環型経済の狙いは、大量生産・大量消費・大量廃棄の経済社会から転換することだ。リユース・リサイクルを通じて廃棄物を削減し、資源循環を目指す。このことで、温室効果ガス(GHG)排出を実質的にゼロにする気候中立を実現。効率的な資源の利用を通じて、持続可能な社会を構築する基盤になる。

同時に、地政学の変化を背景に、競争力強化の側面について一層意識が高まった。その考えに立ち、新たな政策も議論になっている。

法整備で環境配慮措置を拡充

「循環経済法」「気候変動対策・レジリエンス強化法」で規定した各種施策には、関連規定を順次整備してきた。2025年10月時点で、表1、表2のとおりになっている。

表1:気候変動対策・レジリエンス強化法の施行状況(循環経済関連)
条項 内容 状況
第2条 環境負荷を表示する制度として、「エコスコア」を導入。 2025年10月1日から、衣類を対象に施行。
第23条 ポリスチレン包装材を禁止。 EU規則待ち。
第23条 2030年までに、量り売り販売の売り場面積を20%以上にすることを義務化する。400平方メートル以上のスーパーマーケットが対象。 施行令待ち。

出所:各種ウェブサイトを基にジェトロ作成

表2:循環経済法の施行状況
条項 内容 施行日
第13条 環境に関する品質と特性について、消費者への情報提供を義務化。 2023年1月1日
第13条 内分泌攪乱(かくらん)物質を含む製品について、消費者への情報提供を義務化。 2024年4月12日
第16条 電気・電子機器に義務付けた修理可能性について、スコア表示。 2021年1月1日
第16条 電気・電子機器に義務付けた持続可能性について、スコア表示。 2025年1月8日
第17条 トリマン・マーク(注1)と分別廃棄に関する情報の貼付義務。 2022年1月1日
第19条 家電製品の修理用部品について、在庫保証義務期間を設定。 2022年1月1日
第49条 紙面レシートの自動発行を禁止。 2023年8月1日
第62条 エコ・オーガニズム(注2)が修理促進のために基金を立ち上げることを義務付け。 2021年1月1日
第77条 プラスチック製の使い捨てカップ、グラス、皿の禁止。 2020年1月1日
第77条 プラスチック製の使い捨てストロー、カトラリーの禁止。 2021年1月1日
第77条 非生分解性プラスチックのティーバッグを禁止。 2022年1月1日
第77条 小売店が1.5キログラム未満の野菜・果物をプラスチック包装して小売りすることを禁止。 2023年7月1日
第79条 2025年から、洗濯機にマイクロファイバー用フィルターを設置するよう義務付け。 施行令待ち
第82条 シャンプー、リンスなどマイクロプラスチックを含む洗い流すタイプの化粧品の禁止。 2026年1月1日
第112条 包装材の鉱物油の使用禁止(注3)。 2023年1月1日

注1:トリマン・マークは、廃棄物分別に関するフランス独自のロゴ。
注2:エコ・オーガニズムは、リサイクルや廃棄物を管理する非営利団体(記事末注も参照)。
注3:インキ製造に使用される石油系炭化水素を原料とする油脂である鉱物油の使用禁止。同規制の詳細は2025年3月28日付ビジネス短信を参照。
出所:各種ウェブサイトを基にジェトロ作成

リサイクル対応などに出遅れ感

このように、関連規定の整備は進んできた。

しかし、そのことにより実際、リサイクル率が向上してきたのか。家庭用包装材について見てみると、2021~2024年の間で、リサイクル率に大きな変化はなかった。規制を強化したはずのプラスチックはむしろ、わずかながらリサイクル率が低下している(図1参照)。

図1:家庭用包装の素材別リサイクル率
2021年のスチールは100%、2024年は92%。2021年のアルミニウムは58%、2024年は40%。2021年の紙・カートンは72%、2024年は77%。2021年のプラスチックは30%、2024年は26%。2021年のガラスは88%、2024年は84%。

出所:CITEO(容器包装のリサイクルを管理する非営利団体)とADELPHE(CITEOの下部組織)の資料を基にジェトロ作成

フランス環境エネルギー管理庁(ADEME)が2024年3月に発表した統計によると、2021年のプラスチックの回収量は130万トン。推定回収率は25%だった。

フランスの会計検査院が2022年9月に発表した報告書によると、フランスの廃棄物管理は「排出量」「リサイクル」「処分」が、欧州平均をわずかに下回り、最先進国のドイツ、オーストリア、オランダ、北欧諸国と比べると大きく遅れている。その要因として、利用者が分別し適切な処理経路に送るとリサイクル可能な廃棄物が、規制指標が多く関連データが不完全なため、国民行動の変容を促すことができていないと指摘している。また、廃棄物管理を担うエコ・オーガニズム(注)と地方自治体の活動で、廃棄物を未然に防ぐ取り組みを依然として重要視せず、製品の市場投入者である企業も、廃棄物処理への財政的な貢献だけでなく、市場に投入する原材料の削減(包装の削減、製品のエコデザインの向上、容積の縮小)が必要と指摘している。

このように、当地の規制には実効性を上げる上で課題がある。一方国外からも、独自の国内規制がEU法と不整合だという指摘を受けている。欧州委員会は2025年7月、トリマン・マーク(廃棄物分別に関するフランス独自のロゴ)と分別廃棄に関する情報を貼付する義務は「フランス市場向け製品への特別な対応を事業者に課すもので、域内の自由な物品移動を妨げる」と判断。EU司法裁判所(CJEU)に提訴した(2025年7月28日付ビジネス短信参照)。実際の効果だけでなく、制度整備の面でも課題が持ち上がっていることになる。

国内産業の競争力強化も政策課題に

米国と中国の貿易摩擦や地政学の変化を背景に、循環経済に競争力強化の観点を強く反映した新たな政策も議論に上っている。背景には、拡大する電子商取引(EC)市場に欧州の基準を満たさない製品の輸入が増加している現状がある。欧州の繊維業界などから域外事業者への対策を求める動きが出ている(2025年9月24日付ビジネス短信参照)。

具体的には、「繊維産業の環境への影響を軽減することを目的とした法律」(通称ウルトラファストファッション法案)を議会審議。この法案は、環境保護を主目的にしつつ、国内産業の競争力強化も狙う。2024年3月14日に国民議会(下院)で、2025年6月10日に上院で可決に至った。今後、両院同数委員会で上・下院の法案内容を調整し、下院が最終議決する見込みだ(現時点で、具体的な日程は未定)。

なお当初の法案では、規制対象をファストファッション全般(ZaraやH&Mなどを含む)としていた。しかし上院の審議で、シーイン(SHEIN)やテム(Temu)など「ウルトラファストファッション」に限定した。なおウルトラファストファッションの範囲は、一定期間中の新商品数により判断するとした。その閾値(いきち)はデクレ(政令)で定めるという。一方、欧州企業や国内に店舗のある企業は対象外にする意向だ。EU域外から輸入する少額貨物に手数料を徴取することも、修正法案に盛り込んだ(この手数料徴収は、かねてフランスがEUに提案していた/2025年5月8日付ビジネス短信参照)。なお修正法案では、手数料の代わりに課税とした(表3参照)。

表3:両院法案の比較(-は記載なし)
項目 下院可決法案  上院可決修正法案 
規制対象 ファストファッション(Zara、H&Mなど欧州ブランドを含む)。 ウルトラファストファッション(シーインやテムなど)に限定。
広告 インフルエンサーを含み禁止 インフルエンサーを含み禁止
報償・罰則制度 2025年は、1点につき5ユーロの罰金。2026年以降2030年まで毎年引き上げ(最終的に10ユーロ)。 2025年は、1点につき5ユーロの罰金。2026年以降2030年まで、毎年引き上げ(最終的に10ユーロ)。
修理可能性を重視
原産地表記 ECサイト上で原産地を表記。
税控除 税控除の対象外。
小包課税 EU域外からの小型小包に課税。

出所:上・下院法案を基にジェトロ作成

欧州委は2025年9月30日、同法案を野心的な提案と評価。EUの循環経済と繊維の持続可能な生産、消費分野での政策・戦略で目指すところとおおむね合致していることに満足の意を表した。一方で、(1)ウルトラファストファッションの広告を包括的に禁止することは欧州電子商取引指令に、(2)小型小包に対する課税はEUの関税同盟に、それぞれ違反する恐れがある(欧州委がフランス政府に通知)。フランスは、EU法準拠に向けて修正を迫られる。

シーインの攻勢に国内産業界が反発

欧州市場で逆風が吹く中、シーインはフランスのアパレルチェーンのピンキー(Pimkie)と合弁会社を立ち上げた(2025年9月22日付ビジネス短信参照)。また2025年10月には、百貨店(パリのBHVや、地方都市のギャラリーラファイエットなど)に進出する計画を発表した。

シーインの攻勢に、フランスのアパレル業界は猛反発している。衣料品チェーン連盟(Fédération des Enseignes de l’Habillement)と商業同盟(Alliance du Commerce)は、満場一致でピンキーの除名を決定〔Alliance du Commerceウェブサイト参照(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます〕。中心市街地大規模商業同盟(UCV)も、BHVを所有するSGMを除名した。また、SGMと地域銀行(Banque des Territoires/政府系金融機関傘下)との融資案件も、頓挫した。SGMは、BHVがビルの所有権を買収するために、この交渉を進めていた。しかし、シーインとの提携発表を受け10月8日、銀行側が打ち切りを発表。「シーインのビジネスモデルの価値観や経営理念とは一致しない」とした。

フランスでは、1990年代にファストファッションが台頭した。この動きに、伝統的なアパレル産業が対抗できず、生産拠点を第三国に移転してきた。2022年からはカマイユ(Camaïeu)やクーカイ(Kookaï)など、会社更生法の適用を受ける企業が続出。雇用数は対1990年比で3分の1、フランスのアパレル製品の95%が輸入品になっている。2025年4月に首相府下の環境政策調整総局が発表した資料によると、ブランド別の市場占有率ではシーインが17%、H&Mが13%、ZARAが10%だ。ファストファッション3社で4割を占め、存在感が大きいことがわかる(図2参照)。

図2:ブランド別市場占有率(2024年)
シーイン17%、H&M13%、ZARA10%、その他60%。

出所:首相府環境政策調整総局発表資料からジェトロ作成

「ウルトラファッション法案」は、循環経済と産業競争力の二兎(にと)を追う法案になっている。フランスは、循環経済関連施策を次々と導入してきた。国内の競争力強化との両立が実現するか、引き続き注目が集まっている。


注:
エコ・オーガニズムは、非営利団体。拡大生産者責任の枠組みの中で、国の認可を得てリサイクルや廃棄物を管理する。「容器包装」「衣料品」など、分野ごとに、組織がある。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
坂本 紀代美(さかもと きよみ)
ジェトロ・パリ事務所次長。2022年7月にジェトロ入構。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
奥山 直子(おくやま なおこ)
1985年からジェトロ・パリ事務所勤務。フランスの規制関連の調査を担当
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
冨岡 亜矢子(とみおか あやこ)
フランス民間企業、国際NGO勤務を経て、2024年から現職。