韓国企業の海外展開の今と新たな挑戦韓国企業の対米投資から何を読むか
韓国企業の対米投資(6)
2026年8月20日
本連載では、5回にわたって米韓通商交渉、韓国の対米直接投資統計、韓国企業の対米投資事例の3つの側面から、最近の韓国の対米投資について幅広く見てきた。6回目の本稿では、今までの論点を振り返るとともに、対米通商環境や対米投資を巡る日韓比較、韓国の対米投資の動きに注目する意義などについて考察する。特に韓国企業は、米国の「脱中国依存」と製造業回帰の流れを捉え、半導体、2次電池、造船などの分野で迅速な投資判断を行っている。日韓の対米通商環境が類似する中、日本企業にとっても韓国企業の動向は参考になろう。
米国のサプライチェーンの「脱中国依存」、製造業の復活の流れに乗る韓国企業
今まで見たように、韓国の対米直接投資は増加傾向で、特に、2022年以降、一段と増えている。米国企業への出資を目的とした持ち株会社への投資や、2次電池など製造業への投資の増加が顕著だ。投資の目的は、巨大な米国市場の獲得が多く、米国企業の先進技術の獲得も続いた。インフレ削減法(IRA)など、バイデン前政権の産業政策が対米投資に拍車をかけた。第2次トランプ政権の政策は、今のところ、韓国の対米直接投資統計には大きな影響を及ぼしていない。
しかし、投資事例を見ると、トランプ政権の政策を受け、韓国企業は対米投資に向けて積極的に動いている。製造業では、現代自動車グループの大規模投資計画が目を引く。現代自動車は今まで米国現地生産が遅れ気味だったため、韓国からの完成車輸出を米国現地生産に一気に置き換える構想だ。日本の対米輸出と同様に、従来の韓国の対米輸出で最も多かったのが自動車・同部品で、自動車・同部品は最大の対米貿易黒字を計上していた(注)。トランプ政権になって通商圧力が高まる中、それを先取りするかたちで、早くから対米投資計画を明らかにしてきた。さらに、韓国企業の対米投資は2次電池、半導体、鉄鋼などさまざまな業種に広がっている。本連載では、そうした投資事例をできるだけ幅広く紹介した。
韓国製造業の対米投資の特徴について、特に次の2点を指摘したい。1点目は、経済安全保障の面で、中国に依存したサプライチェーンからの脱却を目指す米国の動きを韓国企業がうまく捉えていることだ。2次電池や重要鉱物などへの対米投資がその事例だ。世界の2次電池の大手企業が中韓に集中しており、韓国企業と中国企業は得意分野が似ている。そのため、韓国企業はサプライチェーンの「脱中国依存」によって開かれた米国市場に食い込みやすかったわけだ。
2点目は、「製造業の復活」を目指す米国政府の政策に韓国企業がうまく対応していることだ。その典型が造船業だ。現在、世界の造船業の主役は中韓だ。米国としては、自国の造船業の競争力回復に韓国企業の協力が不可欠だった。そうした中で、韓国の造船企業にとって米国進出は比較的容易な環境にあった。
トランプ政権発足後、韓国企業は相次いで対米投資計画を発表している。また、両国政府は、韓国が総額3,500億ドルの対米戦略的投資を行うことで合意している。これらの投資計画が今後順次実行されるため、韓国の対米直接投資は今後しばらく堅調に推移しそうだ。
貿易赤字規模、関税率、政府間の対米投資拡大合意で日韓の立場は類似
日韓の対米通商環境を見ると、類似点が多いことに気づかされる。まず、両国の対米貿易だ。トランプ政権発足前年の2024年の貿易統計を見ると、米国の対日輸出は790億ドル、対日輸入は1,484億ドル、対韓輸出は656億ドル、対韓輸入は1,316億ドルだった(ジェトロ「米国の貿易投資年報」)。このように、米国の対日貿易と対韓貿易の規模に大きな差はなかった。こうした中で、特に注目されるのは、トランプ政権が重視する貿易赤字額だ。日本は694億ドル、韓国は660億ドルと、ほぼ同水準だった。
このためか、トランプ政権の日韓に対する関税措置は極めて似ている。2025年4月にトランプ政権が発表した相互関税率は、日本が24%、韓国が25%だった。その後、日米、米韓の交渉を経て、日本、韓国ともに15%に引き下げられた。これに加え、既存の関税率が15%以上の品目には追加関税を課さない「上乗せなし」の措置が取られた点も、両国に共通していた。2026年7月に導入された通商法301条に基づく関税でも、日韓はともに12.5%(一般関税率が12.5%未満の場合、一般関税率と追加関税率を合計して12.5%。一般関税率が12.5%以上の場合、追加関税率はゼロ)と全く同じ条件となった(2026年7月24日付ビジネス短信参照)。さらに、品目別関税率を見ると、両国にとってとりわけ関心の高い自動車・同部品の関税率は、日韓ともに当初は25%(発動日は完成車2025年4月3日、自動車部品5月3日)だったが、交渉の結果、両国とも15%に引き下げられている。
また、対米投資拡大で米国政府と合意したことも両国で共通する。対米投資総額は、日本は5,500億ドル、韓国は3,500億ドルと差があるものの、日本のGDP規模が韓国の約2.4倍(2025年、IMF)であることを勘案すると、当然かもしれない。
このように、トランプ政権の通商政策の下で、日韓は非常に似た状況に置かれている。それだけに、日本にとって韓国政府・企業の動きは参考になるところが多いといえよう。
投資残高では日本が圧倒するがフローでは韓国の存在感も高まる
次いで、日韓の対米直接投資を比較すると、投資残高では日本が韓国を大きく上回っているものの、フローでは韓国の存在感も目立つ。
米国商務省経済分析局(BEA)によると、2025年末の対米直接投資残高(最終的な実質所有者(UBO)ベース)は、日本は投資国‧地域別トップの8,271億ドルだった(2026年7月22日付ビジネス短信参照)。一方、韓国は日本の12%水準の964億ドルにとどまった。日本に比べると、韓国は対米直接投資の歴史が短い上に、投資主体が大手企業グループに集中するなど、対米投資企業の層が必ずしも厚くないためだ。だからといって、米国にとって韓国の存在感が低いとは必ずしも言えないだろう。例えば、同じ出所で2025年のグリーンフィールド投資を見ると、日本が17億ドル、韓国は22億ドルと、韓国が日本を凌駕(りょうが)している。実際、近年、2次電池や半導体をはじめ、韓国企業は米国で新たな生産拠点を構築する動きを加速させている。特に、前述のように、サプライチェーンの「脱中国依存」や米国の製造業復活に貢献できる分野で、韓国企業の存在感が高まっている点は見逃せない。こうした動きが可能なのも、韓国企業がこれらの分野で一定の国際競争力を有しているからだ。
韓国企業の対米投資から得られる示唆
ところで、韓国企業の対米直接投資の意思決定パターンは、日本企業とはやや異なる。韓国企業の場合、サムスングループなどの企業グループ単位で、グループトップのイニシアチブの下、意思決定を行う傾向が強い。また、政権と企業グループとの関係が密接だ。そのため、韓国企業は対米投資に当たって大胆な意思決定を迅速に行う傾向が強く、動きが速い。こうした韓国企業の動きを常日頃ウォッチしていくことは重要だ。
さらに、限定的ではあるが、日韓企業が対米投資で連携する事例もみられる。日韓企業が合弁で米国に2次電池生産法人を設立した事例が該当する。今後、日韓企業がお互いの強みを生かして、米国のサプライチェーン強靭(きょうじん)化や製造業復活の流れに対応していく余地もありそうだ。
韓国企業の対米投資の特徴は、米国の政策変化を事業機会として捉え、迅速に経営判断へ結び付ける点にある。今後も米国の産業政策や経済安全保障政策の方向性を占う上で、韓国企業の投資動向は重要な先行指標の1つとなり得よう。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ) - ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。





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