韓国企業の海外展開の今と新たな挑戦2次電池と持ち株会社が対米投資を牽引
韓国企業の対米投資(2)
2026年8月17日
本連載では、最近の韓国の対米直接投資動向について紹介している。2回目の本稿では、韓国側の直接投資統計に基づき、対米直接投資全体を概観した後、主要業種別に対米直接投資の変化や特徴を見ることとする。特に、2021年以降の好調な対米直接投資について、その要因を把握するため、2021年以降の5年間と2020年以前の5年間の対米直接投資を比較する。さらに、トランプ政権が発足した2025年の変化を探るため、同年の対米直接投資を2024年と比較する。
増加傾向が続く韓国の対米直接投資
韓国の対米直接投資(実行ベース、以下同様)は増加基調が続いている(図1参照)。ただし、詳しく見ると、2015年と2016年の間、2020年と2021年の間で段差があり、投資額が階段状で増加している。つまり、投資規模は2010年代後半に一段高まり、バイデン政権が発足した2021年以降、さらに一段と高まっている。ちなみに、各期間の年平均対米直接投資額は2011年~2015年が64億4,300万ドル、2016年~2020年が142億4,400万ドル、2021年~2025年が270億1,700万ドルとなった。2021年~2025年の年平均対米直接投資額は、2016年~2020年に比べ1.9倍に達しており、韓国の対米直接投資が急増したことが確認できる。
注1:破線は2011年~2015年、2016年~2020年、2021年~2025年の年平均を示す。
注2:統計値が過去に遡及(そきゅう)して更新されることがある点に留意が必要。
出所:韓国輸出入銀行データベースを基にジェトロ作成
ついで、韓国の対外直接投資総額に占める対米直接投資額の割合を見ると、2010年代以降、上昇傾向にある(図2参照)。現在、米国は韓国にとって最大の直接投資先になっている。半面、2000年代半ばに対外直接投資総額の4割を占めた中国は、近年、割合が低下しており、2025年はわずか3.5%にとどまった。このように、韓国の対外直接投資の中心が中国から米国にシフトしたことが確かめられる。
注1:対米(中)直接投資シェア=対米(中)直接投資額/対外直接投資総額。
注2:統計値が過去に遡及して更新されることがある点に留意が必要。
出所:韓国輸出入銀行データベースを基に作成
直接投資先の中国から米国へのシフトは、対外直接投資残高(国際収支ベース)を見ても明らかだ。韓国の対外直接投資残高全体に占める対中・対米直接投資残高を見ると、2000年代後半から2010年代半ばにかけては中国が米国を上回っていたが、その後、米国が中国を逆転している(図3参照)。さらに、2021年以降は、前述のように韓国の対米直接投資水準が格段に高くなったことを受け、米国が急増し、中国を圧倒している。2024年末時点で米国は中国の2.7倍に達している。
出所:韓国銀行
韓国企業が対米直接投資を行う狙いは何であろうか。韓国輸出入銀行の対外直接投資統計データベースは「投資目的」別の検索も可能だ。そこで、対米直接投資を投資目的別に見た(図4参照)。それによると、「現地市場進出」の割合が上昇傾向にあり、2025年は77.0%と全体の4分の3以上に達している。次いで、「先進技術獲得」が一定の割合を保っており、2025年は13.4%を占めた。他方、2010年代初頭に多かった「資源開発」は、2010年代後半以降、限定的だ。
このように、最近の韓国企業が対米直接投資を行う目的は、米国市場獲得が最も多く、次いで米国企業の保有技術の獲得が多い。これら以外の目的での対米直接投資は少ない。
注1:数値は、各目的別対米直接投資額/対米直接投資総額。「その他」は、「輸出促進」「第3国進出」「保護貿易打開」など。
注2:統計値が過去に遡及して更新されることがある点に留意が必要。
出所:韓国輸出入銀行データベースを基に作成
2次電池と持ち株会社の投資が2021年以降の対米直接投資を牽引
次いで、対米直接投資増加の詳細を探るべく、業種別に見てみた。問題意識は、(1)対米直接投資は2021年以降急増したが、特にどの業種が増加したのか、(2)第2次トランプ政権が発足した2025年の対米直接投資は、2024年に比べてどのように変化したのか、の2点とした。
まず、「2016年~2020年平均」と「2021年~2025年平均」を比較してみよう。前述のとおり、「2021年~2025年平均」の対米直接投資額は、「2016年~2020年平均」に比べ1.9倍となった(表1参照)。寄与率を業種別に見ると、特に高いのが製造業と金融・保険業だ。つまり、これら2業種が対米直接投資を牽引したといえる。
それでは、製造業、金融・保険業の中のどの業種が対米直接投資増加に寄与したのだろうか。じれを探るために、業種をさらに細かく見てみた。
製造業では、寄与率が突出して高いのが「電気装置製造業」だ。また、2021年~2025年平均の「電気装置製造業」の構成比も突出している。この「電気装置製造業」とは、具体的にどのような業種を指しているのだろうか。業種をさらに細かく見ると、主たる業種は「その他2次電池製造業」だ。つまり、製造業の中では、2次電池の直接投資が製造業の直接投資を牽引したわけだ。他方、表1に記載していないが、金融・保険業の内訳を見ると、金融・保険業のほとんどが「金融業」だ。さらに細かく見ると、「持ち株会社」の寄与率が23.9%と突出しており、持ち株会社への直接投資が対米直接投資増加に大きく寄与したことが分かる。
2次電池や持ち株会社の直接投資が活発化した理由は何であろうか。2次電池については、バイデン前政権の産業政策が韓国からの直接投資を誘発した。具体的には、(1)インフレ削減法(IRA)に基づく税額控除によりEV市場の拡大が期待されたこと、(2)税額控除を受けるための2次電池用重要鉱物・部品の要件が段階的に厳格化されたこと、(3)IRAに基づく「先端製造業向け生産税額控除」により、米国で生産した2次電池セル・モジュールの販売に応じて一定の税額を控除できるようになったことなどが挙げられる。その結果、韓国の2次電池メーカーは一斉に米国生産を拡大させ、韓国の2次電池部材メーカーも米国生産に乗り出した。一方、持ち株会社は、投資会社としての持ち株会社を米国に新設したり、既存の持ち株会社に追加出資したりする事例が多かった。つまり、米国企業に対する出資拡大が、金融・保険業の対米直接投資の牽引役の1つになったわけだ。
2025年の対米直接投資は2024年に比べ大きな変化はみられず
次いで、第2次トランプ政権が発足した2025年について、前年と比べてみよう(表2参照)。
2025年の対米直接投資総額は前年比14.8%増の257億ドルと堅調だった。これについて、「聯合ニュース」(2026年4月1日)は、「対米投資の増加は、米国政府の圧迫が一定部分作用しているものとみられる」としつつも、「韓国企業は2~3年前から米国に生産拠点を移している」との識者の見解を紹介した。第2次トランプ政権の関税政策により2025年の対米直接投資が誘発された面はあるものの、対米直接投資の基本的な流れは、バイデン前政権時から引き続いているといえそうだ。
直接投資統計の内訳を見ても、第2次トランプ政権の関税政策が2025年の韓国の対米直接投資に及ぼした影響は、必ずしも大きくなかったと考えるべきだろう。その根拠は次のとおり。
- 第2次トランプ政権の関税政策の影響は製造業に集中すると考えられるが、2025年の製造業の対米直接投資は前年比1.4%減と、微減だった。
- 製造業の内訳を見ても、2024年、2025年ともに電気装置製造業(2次電池など)の割合が突出して高く、投資先の業種に大きな変化はなかった。
- 2024年から2025年にかけて対米直接投資の目的には大きな変化はみられず、両年とも「現地市場進出」が中心となった。
2025年の対米直接投資が2024年に比べ増加したのは、金融・保険業の直接投資が活発だったことに起因する。2025年は135億1,705万ドルと、2024年のみならず2022年(120億8,809万ドル)を抜き、過去最高を更新した。その理由を探るべく、金融・保険業を小分類別に見ると、持ち株会社(34億7,237万ドル)と並んで、「その他の金融投資業」(59億4,827万ドル)、「それ以外のその他分類できない金融業」(34億3,112万ドル)が多かったのが特徴だ。ここで、「その他の金融投資業」とは投資会社やベンチャーキャピタルなどを、「それ以外のその他分類できない金融業」とは金融持ち株会社や金融関連の仲介・管理会社などを指す。これらのうち、特に「その他の金融投資業」が2024年に比べ倍増したのが目を引く。
ところで、次回(第3回)以降で述べるように、2025年に明らかになった各社の対米投資案件の多くは今後の投資計画だったことから、第2次トランプ政権の政策の影響が顕在化するのは、各社の投資計画が本格化する2026年以降になろう。なお、米国市場や米国企業の保有技術の魅力度、米国の関税政策への対応の必要性といった対米投資促進要因は変わらないものの、その一方で、高い人件費、工場建設費用の上昇、関税政策や各種規制を巡る先行きの不透明さといった投資環境上の問題が依然として残されている。こうした中で、2026年以降、韓国の対米直接投資がどのように推移するのか、注目される。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ) - ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。





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