米国の貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年の実質GDP成長率は前年を下回ったが、高成長を維持した。
  • 財の輸出入額はいずれも前年比増となり、貿易赤字は拡大した。
  • 対内直接投資は前年比減、対外は前年比増だった。
  • 対日貿易では財の輸出入額はいずれも前年比増となったが、貿易赤字は縮小した。直接投資では、日本は最大の直接投資国だった。

公開日:2025年10月1日

マクロ経済 
2024年も個人消費が景気を牽引、物価は沈静化へ

2024年の米国の実質GDP成長率は2.8%と、前年の2.9%を下回ったものの、高成長を維持した。各種経済予測機関は、物価高騰を抑制するため金利が高止まりし、個人消費支出が減退することから景気は減速すると見込んでいた。しかし、見込みに反して個人消費は前年以上の好調さで景気を牽引した(寄与度1.9%)。個人消費は四半期を追うごとに旺盛となった。個人消費が好調だった理由として、失業率(年平均)が4.0%と前年に引き続き低く、雇用が堅調だったこと、賃金上昇率が3.6%(全業種平均)と消費者物価上昇率(年平均2.9%)を上回るペースで上昇したことで消費者の購買力が高まったことが挙げられる。年間を通じてヘルスケアなどサービス支出が旺盛で、年後半には物価の沈静化傾向が顕著になったことなどにより家計支出に対する安心感が広がり、自動車やレクリエーション用品など高額商品の購入も活発化した。

民間投資も4.0%増(設備投資3.6%増、住宅投資4.2%増)と好調だった。設備投資が好調だった要因の1つにCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)の成立(2022年8月)が挙げられる。同法による補助金と税額控除を見込んで半導体製造部門への投資が急増し、成立以前と比較してその投資額は過去20年間の累計の10倍以上に達している。同時期に成立したインフレ削減法(IRA)、インフラ投資雇用法(IIJA、2021年11月成立)なども再生可能エネルギー分野やインフラ分野(高速道路、鉄道、港湾、ブロードバンドなど)での投資を促した。住宅投資も伸びたが、これは世帯数が増加傾向にある中で、住宅供給が長期的に逼迫していることが背景にある。しかし、その一方で新型コロナ禍以降、住宅価格と住宅維持コストの上昇が著しく、住宅ローン金利も高水準にあることから、住宅市場の8割以上を占める中古住宅販売件数は前年より減少した。内需が好調だった一方で、外需については、輸出が3.3%増、輸入が5.3%増と輸入が輸出を上回る勢いで伸びたことから純輸出の寄与度はマイナス0.4ポイントだった。

表1 米国の需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 2.5 2.9 2.8 1.6 3.0 3.1 2.4
階層レベル2の項目個人消費支出 3.0 2.5 2.8 1.9 2.8 3.7 4.0
階層レベル3の項目 △ 0.6 1.9 2.4 △ 1.2 3.0 5.6 6.2
階層レベル4の項目耐久消費財 △ 1.9 3.9 3.3 △ 1.8 5.5 7.6 12.4
階層レベル4の項目非耐久消費財 0.1 0.8 1.9 △ 0.8 1.7 4.6 3.1
階層レベル3の項目サービス 5.0 2.9 2.9 3.4 2.7 2.8 3.0
階層レベル2の項目民間投資 6.0 0.1 4.0 3.6 8.3 0.8 △ 5.6
階層レベル3の項目設備投資 7.0 6.0 3.6 4.5 3.9 4.0 △ 3.0
階層レベル3の項目住宅投資 △ 8.6 △ 8.3 4.2 13.7 △ 2.8 △ 4.3 5.5
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 7.5 2.8 3.3 1.9 1.0 9.6 △ 0.2
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 8.6 △ 1.2 5.3 6.1 7.6 10.7 △ 1.9
階層レベル2の項目政府最終消費支出・粗投資 △ 1.1 3.9 3.4 1.8 3.1 5.1 3.1

〔注〕季節調整済み、四半期の伸び率は前期比年率。
〔出所〕米国商務省経済分析局

金融当局は高金利政策を維持

2022年6月に9.1%とピークに達した消費者物価指数(CPI)は2024年9月には2.4%(前年同月比)まで下落し、年平均でも2.9%となった。連邦準備制度理事会(FRB)は2023年7月に5.25~5.50%まで引き上げた政策金利の誘導目標を2024年8月まで据え置き、9月、11月、12月の3回にわたって同目標を4.25~4.50%まで引き下げた。米国経済が景気後退入りせずに物価を沈静化させる「ソフトランディング」を達成できそうだとの楽観的な発言が夏以降、経済専門家などから多く聞かれ、CPIは2025年に入っても物価安定目標である2.0%に向かって推移している。しかし、FRBは根強いインフレ圧力とトランプ新政権による不確実性を理由に2024年12月に政策金利を引き下げて以降、据え置いている。

懸念される財政赤字の拡大

政府最終消費支出・粗投資も3.4%増(寄与度0.6%)と成長に寄与した。前述のとおり、CHIPSプラス法、IRA、IIJAなどに基づく大規模な財政出動が特定産業の消費や投資を後押しした。しかしその一方で、連邦政府の財政赤字の急拡大が懸念されている。財務省によれば、連邦政府の2024年度(2023年10月~2024年9月)の財政赤字はGDPの6.4%に相当する1兆8,300億ドル、連邦政府の債務残高は同123%に相当する35兆4,600億ドルに上った。これに加え、高金利政策により利子負担が急増、2024年度の利払い費はGDPの約3%に相当する8,500億ドルに達した。米国連邦議会予算局(CBO)の予測によれば、財政赤字拡大の背景には、歳出の大半を占める社会保障や医療給付金など「義務的経費」が高齢化に伴って拡大していることがある。財政再建には歳出削減と歳入拡大が不可避だが、「義務的経費」の削減は容易ではない上、それ以外の「裁量的経費」は予算全体の3割弱程度を占めるに過ぎず、削減の余地は少ない。しかし、2025年1月に発足した第2次トランプ政権は大型減税やその恒久化を公約としていることから、公約実現によりさらなる財政赤字拡大が見込まれている。

トランプ政権、矢継ぎ早に関税賦課を発表

2024年初から本格化した米国の大統領選挙は、各州での予備選挙、7月のジョー・バイデン大統領(民主党、当時)の立候補辞退、11月5日の投開票を経て「米国第一主義」を掲げた共和党のドナルド・トランプ候補の勝利に終わった。

トランプ大統領の公約は多岐にわたるが、通商政策、環境・エネルギー政策、減税や規制緩和に関する公約は米国経済や米国関連のビジネス活動に大きな影響を与える可能性がある。特に通商政策については、大統領選勝利確定直後の11月下旬には、SNSを通じてメキシコ、カナダ、中国に追加関税を課す意向を示し、2025年1月20日に大統領に就任すると、公約実現に向けて連日のように大統領令を発出した。

通商政策 
第2次トランプ政権発足、「米国第一の通商政策」を追求

バイデン前政権は2024年もサプライチェーンの強靭(きょうじん)化や労働者の権利保護を軸とする通商政策を推進した。中国との関係では、1974年通商法301条に基づく追加関税措置の見直しを完了し、2024年9月から電気自動車(EV)や重要鉱物を対象に最大100%の追加関税を導入した。中国を念頭に置いた輸出管理措置も強化し、2025年1月の政権交代直前にAI向け半導体やバイオテクノロジー関連の新規則を施行した。一方、同盟・パートナー国とはインド太平洋経済枠組み(IPEF)など多国間枠組みを通じた関与を継続し、経済安全保障など重要課題に関する連携強化を図った。

2025年1月20日に発足した第2次トランプ政権は、「米国第一の通商政策」を掲げ、外国との貿易関係の大幅な見直しに動いている。その軸となる政策手段が関税だ。トランプ大統領は政権1期目(2017~2021年)でも複数の関税措置を発動したが、2期目では関税の対象となる国・地域や品目を拡大し、迅速に関税政策を実行している(トランプ政権による関税措置の全容は「特集:米国関税措置への対応」を参照)。

トランプ政権の関税政策の根底には「米国が貿易相手国から受ける待遇に根本的な不公平性と互恵性の欠如がある」との考えがある。この状況を是正するために打ち出したのが「相互関税」だ。トランプ大統領は、外国との非互恵的な貿易関係によってもたらされた米国の巨大かつ長期にわたる貿易赤字額が国家緊急事態に当たると宣言し、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき相互関税を発動した。

相互関税の一環として、まず4月5日から全世界からの輸入を対象に10%のベースライン関税を導入した。4月9日には57カ国・地域に対する上乗せ税率も発動したが、その直後に中国を除いて90日間の一時停止を発表した。トランプ政権は上乗せ関税の停止中に、貿易相手国・地域と関税や非関税障壁の削減・撤廃に向けて交渉する方針を示し、英国とは5月に関税削減や経済安全保障協力を含む「経済繁栄協定」の基本合意を発表した。しかし、その他の国・地域との交渉は当初の目論見どおりには進まず、トランプ大統領は上乗せ関税の停止期限を8月1日まで再び延期し、7月末までにベトナム、インドネシア、フィリピン、日本、EU、韓国と関税協議での合意を発表した。7月31日には69カ国・地域に対する相互関税率をあらためて定めた大統領令に署名し、8月7日に相互関税を全面的に発動した。日本に対する相互関税率は日米合意を受け、当初の24%から15%に引き下げた。

中国、カナダ、メキシコには個別に関税発動

トランプ大統領は関税を外交政策上のツールとしても活用する。中国に対しては2025年2月4日、合成麻薬フェンタニルの流入阻止を目的にIEEPAに基づいて10%の追加関税を課し、3月4日に税率を20%に引き上げた。5月2日には、中国からの輸入について、少額貨物の非課税制度である「デミニミスルール」の適用を停止した。中国が相互関税への報復措置を採ったことから125%の相互関税も課した。その後、米中両国は5月に行われたスイスでの閣僚級協議で互いに関税引き下げに合意し、米国は5月14日から中国への相互関税率を当初の34%に戻し、そのうち上乗せ分に当たる24%の適用を8月12日まで90日間停止した。さらに、7月のスウェーデンでの閣僚級協議後、11月10日まで停止期間の延長を決めた。米中両国は経済・貿易協議のためのメカニズムを通じて、今後も交渉を続ける方針だ。交渉を主導するスコット・ベッセント財務長官は、中国と「より均衡のとれた貿易を望む」と述べ、中国に米国産品のさらなる購入を求めていく姿勢を示している。

相互関税の対象外となっているメキシコとカナダに対しては、中国と同様、不法移民や違法薬物の流入を理由に3月4日から最大25%のIEEPA関税を課した。トランプ大統領は、カナダが違法薬物の流入阻止に十分に協力していないことや、報復措置を講じたことを理由に、8月1日から同国に対する追加関税率を35%に引き上げた。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の原産地規則を満たす輸入品はIEEPA関税の適用除外としたが、IEEPA関税自体の撤廃の見通しは立っていない。

相互関税や中国、カナダ、メキシコに対するIEEPA関税に関しては、米国国際貿易裁判所(CIT)が5月28日、大統領権限を逸脱しているなどとして、違法との判断を下した。連邦巡回区控訴裁判所も8月29日にCITと同様の判決を出した。トランプ政権は最高裁に上訴し、各関税は少なくとも最高裁の判決が出るまで継続する見込みとなっている。

そのほか、個別の国を対象とする関税措置として、トランプ大統領は3月24日、ベネズエラ産原油などを輸入する国・地域の原産品に25%の追加関税を課す大統領令に署名した。米国が指定する外国テロ組織のメンバーが米国に入国することをベネズエラが許していることへの対抗策としている。追加関税は国務長官の判断で4月2日以降、発動できる状態になっているが、8月までに発動の発表はない。ブラジルに対しては、USTRが7月から、同国のデジタル貿易分野などに関わる不公正慣行について通商法301条に基づく調査を行っているほか、トランプ大統領が同国のジャイール・ボルソナーロ前大統領に対する「政治的迫害」などを理由に、8月6日から 40%の追加関税を課す大統領令を発表した。インドに対しては、ロシアからの石油輸入を理由に、8月27日から25%の追加関税を課す大統領令に署名している。

関税で重要サプライチェーンの国内回帰ねらう

トランプ大統領は米国にとって重要な品目については、1962年通商拡大法232条に基づく措置を通じて、国内生産を促す戦略を取る。政権1期目に発動した鉄鋼・アルミニウムに対する232条関税は措置の内容を拡大、強化した。2025年3月12日からアルミへの追加関税率を10%から25%に引き上げたほか、鉄鋼・アルミ派生品を新たに追加関税の対象に加えた。申請者や製品別に設けていた適用除外制度は廃止し、日本やEUを含む一部の国・地域に認めていた関税割当などの措置も撤廃した。6月4日からは鉄鋼・アルミともに追加関税率を50%に引き上げている。

自動車・同部品にも232条に基づいて追加関税を発動した。乗用車と小型トラックには4月3日から、エンジンやパワートレインなど自動車部品には5月3日からそれぞれ25%の追加関税をかけている。トランプ大統領は1期目で、自動車・同部品の輸入に関して232条に基づく調査を実施し、安全保障上の脅威を認定したが、最終的に追加関税などの輸入制限措置は採らなかった。しかし、当時と比べて安全保障上の懸念は強まっていると判断し、追加関税の導入を決めたとしている。

トランプ政権はこれら品目に加え、戦略分野を中心に232条に基づく調査を相次いで実施している。商務省は8月までに銅、木材・製材、半導体・製造装置、医薬品、中・大型トラック、重要鉱物、民間航空機・同部品、ポリシリコン、無人航空機システム、風力タービン・同部品を対象に調査を開始した。この調査は、大統領令が発表された日から270日以内に調査を完了する必要があるが、ハワード・ラトニック商務長官は早期に調査を終え、追加関税などの実行に移ることを示唆している。実際、トランプ大統領は7月30日、8月1日から銅の半製品と派生品に50%の関税を課す大統領布告を発表した。

各関税措置の導入に当たり、トランプ政権は1期目で設けたような企業の申請に基づく適用除外制度は用意していない。しかし、産業界で追加関税の負の影響への懸念が高まるにつれ、関税の部分的な緩和措置を講じるようになっている。4月には自動車部品関税に関して、2年間の時限的措置として、自動車メーカーごとに米国内で製造される車両台数と小売価格に応じて関税を相殺する制度を発表した。自動車・同部品関税、鉄鋼・アルミ関税、メキシコとカナダに対するIEEPA関税については、関税の累積停止措置も設けた。

中国への強硬姿勢を強める投資政策

投資政策では、同盟・パートナー国からの投資を促進しつつ、中国など懸念国との投資関係を制限する方針を鮮明にしている。トランプ大統領は2025年2月、「米国第一の投資政策」と題する国家安全保障大統領覚書(NSPM)を発表し、「経済安全保障は国家安全保障」との考えを明示した。この考えに基づき、中国関係者による重要な米国企業や資産の買収を阻止する新たな規則を制定するとした。また、連邦議会と協議し、対米外国投資委員会(CFIUS)がグリーンフィールド投資を審査できるよう権限強化を目指している。グリーンフィールド投資は不動産取引などを除き、原則としてCFIUSの審査対象外となっており、権限強化には議会による立法措置が必要になるとみられる。農務省も7月に発表した行動計画で、国務省や議会と協力し、懸念国の外国人による農地の直接的・間接的な購入や管理を阻止するため、迅速に立法・行政措置を講じる方針を示した。また、トランプ大統領は同月、ビデオウォールシステムなどを開発する香港企業による米国企業の買収に関し、安全保障上の理由により取引を禁止する大統領令に署名している。

NSPMでは、対外投資規制の見直しにも触れた。半導体、人工知能(AI)、量子、バイオテクノロジー、極超音速、航空宇宙、先進製造、指向性エネルギーなどの分野で、対中投資規制の強化を検討する。財務省は、バイデン前大統領が発令した大統領令に基づき、2025年1月から対中投資規制プログラムを実施している。半導体・マイクロエレクトロニクス、量子情報技術、AIの3分野が対象となっているが、トランプ政権が今後、対象分野を拡大する可能性もある。

他方、同盟・パートナー国からの投資を促すため、財務省は5月、NSPMに基づき対米投資案件審査の「ファストトラック制度」を試験運用すると発表した。同制度の詳細は明らかになっていないが、CFIUSが外国投資家から対米投資案件の申告・届け出を受領する前段階で、情報収集を図る仕組みを設立するとしている。NSPMでは、ファストトラック制度に関して、投資家が外国の敵対者と提携しないことなど安全保障条項を含めるとしており、制度の具体化が待たれる。

外国からの大型投資の誘致に向けた体制整備も進めている。トランプ大統領は3月、規制対応などで投資家を支援するため「米国投資アクセラレーター」を商務省内に設置する大統領令に署名した。米国投資アクセラレーターは、半導体産業振興を目的にバイデン前政権で成立したCHIPSプラス法の運用も所管し、バイデン前政権が企業と結んだ合意をより良いものにするために交渉を行う役割も担う。同法に基づく半導体製造施設など向けの補助金(390億ドル)の約9割は既に拠出先企業が決まっている。しかし、トランプ大統領は同法による補助金に否定的な考えを表明し、ラトニック商務長官は補助条件の見直しに言及している。

AI向け半導体の輸出管理で方針転換

半導体の輸出管理では、バイデン前政権からの方針転換が一部みられる。商務省は2025年5月、バイデン前政権が1月に導入したAI向け半導体などの輸出管理を強化する暫定最終規則(IFR)を撤回すると発表した。トランプ政権はIFRが企業に過度の負担を課すと判断し、独自の規制を制定する意向だ。

一方、中国への先端技術の流出阻止では手綱を緩めない姿勢も見せる。商務省はIFRの撤回と同時に、中国を念頭に置いた先端半導体の転用防止などに関する産業界向けガイダンスを発表した。3月にはスーパーコンピュータなどの開発に関わる中国の事業体を輸出管理規則(EAR)上のエンティティー・リスト(EL)に追加した。トランプ政権は機微技術の流出を防ぎつつ、先端技術分野における米国の優位性確保に力点を置いて輸出管理政策を推進していくとみられる。

造船分野が経済安保の焦点に

トランプ政権は、国家・経済安保の観点で、海事産業基盤の再建を重視している。背景にあるのは、商船の造船能力で中国などに大きく劣る状況への危機感だ。トランプ大統領は2025年4月に発表した大統領令で、関係閣僚に造船など海事産業の振興策を策定するよう指示した。大統領令を受け、米国通商代表部(USTR)は中国製の港湾クレーンなどに対して、最大100%の追加関税を課す案を発表した。また、中国の海事・物流・造船分野の非市場経済的措置などを問題視し、中国企業が運航・所有する船舶や、中国で建造された船舶の米国港湾への入港について、2025年10月から追加料金を課すことを決定した。中国の造船分野などにおける政策や慣行を巡っては、バイデン前政権が通商法301条に基づく調査を始め、政権交代直前に対抗措置の実施を決めていた。造船能力の増強には日韓など同盟国との協力が必要とみられており、トランプ政権は、中国に対する措置と並行して、同盟国の造船業者との協力も模索していく方針だ。

既存の貿易協定は見直しを検討

トランプ政権が従来型の自由貿易協定(FTA)の交渉に取り組むかは見通せない。USTRなどが2025年4月にまとめた「米国第一の通商政策」に関する報告書では、新規の通商協定を通じて外国の貿易障壁を取り除くことで米国産品の輸出を促進できるとして、交渉相手国を特定したと説明しているが、詳細は明らかではない。一方、貿易の不均衡に対処するために「既存のFTAを現代化する余地は大きい」と指摘し、原産地規則の強化や経済安保面での協力を例示した。バイデン前政権が推進したIPEFや経済繁栄のための米州パートナーシップ(APEP)の扱いについては一切触れていない。

米国が結ぶ14のFTAのうち、USMCAは発効から6年目に当たる2026年に加盟国による「共同見直し」のタイミングを迎える。「米国第一の通商政策」に関する報告書では、USMCAの「再交渉」の一環として、非市場経済国産品の流入を阻止するための原産地規則の改定や、カナダの乳製品市場へのアクセス拡大、メキシコのエネルギー分野の差別的慣行への対処が必要だと記した。政権1期目でUSMCAを締結したトランプ大統領は、カナダとメキシコが協定を順守していないと批判しており、共同見直しで両国に厳しい姿勢で臨むことが見込まれる。

貿易 
輸出入ともに増加し、貿易赤字が大幅に増加

米国商務省が2025年6月に発表した、2024年の貿易統計(国際収支ベース)によると、米国の財貿易は輸出入ともに増加した。輸出は前年比1.9%増の2兆798億ドル、輸入は6.0%増の3兆2,952億ドル、貿易赤字額は14.9%増の1兆2,154億ドルとなった。

通関ベースで2024年の財輸出をみると、前年比2.0%増の2兆617億ドルとなった。財別では天然ガスが押し下げ、工業用原材料(構成比34.0%、7,013億ドル)が0.4%減となった。コンピュータが伸び、資本財(32.8%、6,756億ドル)は7.0%増だった。医薬品、携帯電話は伸びたが、玩具・ゲーム・スポーツ用品などが押し下げ、消費財(13.3%、2,739億ドル)は0.1%増だった。

表2 米国の主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FAS:船側渡し価格) 輸入(Customs Value:課税価格)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
食料品 174,177 178,305 8.6 2.4 213,565 231,166 7.1 8.2
工業用原材料 704,275 701,323 34.0 △ 0.4 733,799 741,647 22.7 1.1
階層レベル2の項目 原油 119,753 118,923 5.8 △ 0.7 165,070 167,705 5.1 1.6
階層レベル2の項目 燃料油 115,422 116,944 5.7 1.3 65,821 56,997 1.7 △ 13.4
階層レベル2の項目 プラスチック 77,684 80,366 3.9 3.5 68,104 73,522 2.3 8.0
階層レベル2の項目 天然ガス 66,799 61,981 3.0 △ 7.2 12,182 8,874 0.3 △ 27.2
資本財 631,215 675,622 32.8 7.0 935,399 1,045,159 32.0 11.7
階層レベル2の項目 コンピュータおよびアクセサリー 30,656 40,201 1.9 31.1 103,214 140,257 4.3 35.9
階層レベル2の項目 半導体 7,894 6,915 0.3 △ 12.4 26,048 22,581 0.7 △ 13.3
階層レベル2の項目 民間航空機エンジン 7,719 8,013 0.4 3.8 12,408 11,760 0.4 △ 5.2
階層レベル2の項目 電気機器 5,400 5,969 0.3 10.5 16,014 16,698 0.5 4.3
階層レベル2の項目 医療機器 36,614 36,915 1.8 0.8 37,328 40,871 1.3 9.5
階層レベル2の項目 通信機器 7,159 7,119 0.3 △ 0.6 19,611 19,669 0.6 0.3
自動車・同部品など 153,758 146,601 7.1 △ 4.7 374,521 385,647 11.8 3.0
階層レベル2の項目 乗用車 63,581 60,450 2.9 △ 4.9 207,945 217,047 6.6 4.4
階層レベル2の項目 トラック・バス・特殊車両 25,894 25,312 1.2 △ 2.2 45,883 50,633 1.6 10.4
消費財 273,507 273,906 13.3 0.1 556,305 600,648 18.4 8.0
階層レベル2の項目 医薬品 89,505 94,468 4.6 5.5 176,685 211,798 6.5 19.9
階層レベル2の項目 携帯電話 37,476 39,060 1.9 4.2 116,960 113,657 3.5 △ 2.8
階層レベル2の項目 繊維衣料品・日用品 10,306 10,120 0.5 △ 1.8 119,856 124,524 3.8 3.9
階層レベル2の項目 玩具・ゲーム・スポーツ用品 7,620 7,103 0.3 △ 6.8 42,274 40,979 1.3 △ 3.1
階層レベル2の項目 家具・家庭用品など 10,090 9,871 0.5 △ 2.2 63,696 66,978 2.1 5.2
その他 83,547 85,943 4.2 2.9 146,247 148,486 4.5 1.5
合計 2,020,479 2,061,691 100.0 2.0 3,076,796 3,266,410 100.0 6.2

〔注〕 季節調整済み、伸び率は前年比。
〔出所〕 米国商務省統計から作成

財輸出を国・地域別でみると、1位のカナダ(構成比17.0%、3,499億ドル)、3位の中国(7.0%、1,432億ドル)が減少し、2位のメキシコ(16.2%、3,340億ドル)は増加した。カナダは1.3%減で、包装済み医薬品(HSコード3004項、22.8%増)が伸びたが、燃料油(2710項、10.3%減)が押し下げた。中国は3.0%減で、航空機・同部品(88類、70.0%増)が大きく伸びたが、乗用車(8703項、21.2%減)が押し下げた。一方、メキシコは3.2%増で、燃料油(7.7%減)、天然ガス(2711項,20.4%減)が減少したものの、一般機械(84類、14.5%増)、電気機器(85類、7.8%増)が伸びた。4位のオランダ(4.3%、882億ドル)は 8.1%増、5位の英国(3.9%、795億ドル)は6.0%増でいずれも拡大した。オランダは一般機械(38.3%増)、英国は貴石・貴金属(71類、30.2%増)、航空機・同部品(19.2%増)が伸びた。日本(3.8%、790億ドル)は6位で4.2%増だった。

その他、ブラジル(2.4%、491億ドル)は10.3%増、マレーシア(1.3%、276億ドル)は43.1%増と拡大した。ブラジルは航空機・同部品の38.1%増、マレーシアは一般機械(140.6%増)、電気機器(49.8%増)の大幅増加が目立った。

EU(17.9%、3,698億ドル)は、0.4 %増の微増にとどまった。域内最大の輸出先であるドイツ(3.7%。757億ドル)が1.3%減と振るわなかったことに加え、ベルギー(1.7%、342億ドル)が乗用車(25.8%減)と精密機器(90類、7.2%減)の減少が目立ち、11.0%減でEU全体を押し下げた。品目別にみると、プラスチック(39類、9.3%増)が伸びたものの、乗用車(13.7%減)、血液・ワクチン(3002項、3.4%減)、包装済み医薬品(7.9%減)が不振だった。

コンピュータ関連、医薬品が2桁台の伸びで輸入増に貢献

2024年の財輸入(通関ベース)は、前年比6.2%増の3兆2,664億ドルとなった。財別では、プラスチックは8.0%増と伸びたものの、燃料油が13.4%減と押し下げ、工業用原料(構成比22.7%、7,416億ドル)は1.1%増にとどまった。資本財(32.0%、1兆452億ドル)はコンピュータおよびアクセサリー(8471項)が大きく伸び、11.7%増だった。自動車・同部品(11.8%、3,856億ドル)は3.0%増だった。医薬品が約2割伸びたことで、消費財(18.4%、6,006億ドル)は8.0%増だった。

財輸入を国・地域別でみると、1位のメキシコと2位の中国が増加した。メキシコ(構成比15.5%、5,055億ドル)は6.9 %増で、一般機械が30.5%増と押し上げた。中国(13.4%、4,387億ドル)は2.7 %増で、乗用車(47.2%増)が大きく伸びたが、一般機械が1.6%減だった。一方、3位のカナダ(12.6%、4,119億ドル)は1.5%減で乗用車(18.6%減)が押し下げた。4位のドイツ(4.9%、1,604億ドル)、5位の日本(4.5%、1,484億ドル)はいずれも微増した。

その他、台湾(3.6%、1,163億ドル)は32.4%増で、一般機械が68.1%増、電気機器が20.4%増と伸びた。ベトナム(4.2%、1,365億ドル)は19.3%増で一般機械が67.0%増、アイルランド(3.2%、1,033億ドル)は25.3%増で血液・ワクチン(68.7%増)、有機化学品(29類、21.3%増)が大きく伸び全体を押し上げた。

EU(18.5%、6,057億ドル)は、ドイツが微増にとどまったが、アイルランドが25.3%増と押し上げ、5.1%増となった。品目別では、血液・ワクチン(28.0%増)が伸びたが、乗用車(2.6%減)、燃料油(21.8%減)が押し下げた。

表3 米国の国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FAS:船側渡し価格) 輸入(Customs Value:課税価格)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
北米
階層レベル2の項目USMCA 678,052 683,988 33.2 0.9 890,945 917,446 28.1 3.0
階層レベル3の項目カナダ 354,408 349,908 17.0 △ 1.3 418,010 411,887 12.6 △ 1.5
階層レベル3の項目メキシコ 323,637 334,032 16.2 3.2 472,907 505,523 15.5 6.9
欧州
階層レベル2の項目EU 368,430 369,789 17.9 0.4 576,083 605,663 18.5 5.1
階層レベル3の項目オランダ 81,643 88,223 4.3 8.1 38,510 34,055 △ 11.6 1.0
階層レベル3の項目ドイツ 76,680 75,724 3.7 △ 1.3 159,186 160,380 4.9 0.8
階層レベル3の項目フランス 44,367 43,548 2.1 △ 1.9 57,613 59,783 1.8 3.8
階層レベル3の項目ベルギー 38,430 34,201 1.7 △ 11.0 22,765 27,787 0.9 22.1
階層レベル3の項目イタリア 28,963 32,357 1.6 11.7 72,850 76,344 2.3 4.8
階層レベル3の項目アイルランド 16,830 16,760 0.8 △ 0.4 82,424 103,281 3.2 25.3
階層レベル2の項目英国 75,024 79,532 3.9 6.0 64,172 68,168 2.1 6.2
階層レベル2の項目スイス 27,782 25,043 1.2 △ 9.9 52,309 63,326 1.8 3.8
階層レベル2の項目ロシア 599 528 0.0 △ 11.8 4,571 3,007 0.1 △ 34.2
アジア
階層レベル2の項目中国 147,635 143,227 7.0 △ 3.0 427,247 438,742 13.4 2.7
階層レベル2の項目日本 75,794 78,978 3.8 4.2 147,206 148,371 4.5 0.8
階層レベル2の項目韓国 64,966 65,586 3.2 1.0 116,315 131,553 4.0 13.1
階層レベル2の項目台湾 39,958 42,537 2.1 6.5 87,781 116,255 3.6 32.4
階層レベル2の項目インド 40,318 41,537 2.0 3.0 83,557 87,338 2.7 4.5
階層レベル2の項目香港 27,691 27,884 1.4 0.7 4,062 5,948 0.2 46.4
階層レベル2の項目マレーシア 19,307 27,635 1.3 43.1 46,162 52,488 1.6 13.7
階層レベル2の項目タイ 15,523 17,858 0.9 15.0 56,264 63,350 1.9 12.6
階層レベル2の項目ベトナム 9,813 13,044 0.6 32.9 114,408 136,501 4.2 19.3
階層レベル2の項目フィリピン 9,255 9,245 0.5 △ 0.1 13,256 14,162 0.4 6.8
階層レベル2の項目オーストラリア 33,625 34,583 1.7 2.9 15,923 16,669 0.5 4.7
中南米
階層レベル2の項目ブラジル 44,539 49,136 2.4 10.3 39,061 42,348 1.3 8.4
階層レベル2の項目コロンビア 17,595 18,695 0.9 6.3 16,109 17,864 0.5 10.9
階層レベル2の項目チリ 19,068 18,232 0.9 △ 4.4 15,580 16,423 0.5 5.4
中東
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦 24,796 27,028 1.3 9.0 6,621 7,411 0.2 11.9
階層レベル2の項目トルコ 14,555 15,376 0.8 5.6 15,430 16,750 0.5 8.6
アフリカ 28,678 32,375 1.6 12.9 38,556 39,582 1.2 2.7
合計(その他含む) 2,020,479 2,061,691 100.0 2.0 3,076,796 3,266,410 100.0 6.2

〔出所〕 米国商務省統計から作成

対内・対外直接投資 
対内直接投資は、半導体分野の大型案件相次ぐ

2024年の米国の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー。対外投資も同様)は、前年比1.7%減の2,847億ドルだった。国・地域別にみると、最大の対内投資国は日本で5.6%減の389億ドル、次いでカナダが48.4%減の374億ドルだった。地域として最大の欧州は前年の3割減から反転し24.7%増の1,762億ドルとなり、全体の6割強を占めた。欧州の中ではオランダが67.1%増の369億ドルで最大、以下ドイツ298億ドル(43.6%減)、英国291億ドル(引き揚げ超過からプラスへ)と続いた。また、2024年末の対米直接投資残高は6.2%増の5兆7,077億ドルとなった。国別(UBOベース、表4〔注3〕参照)ではこちらも日本が最大で3.3%増の8,192億ドルだった。日本は2019年から6年連続で国・地域別首位を維持した。

表4 米国の国・地域別対内直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国名 2023年 2024年 2024年末 2024年末(UBOベース)
フロー フロー 伸び率 残高 構成比 伸び率 残高 構成比 伸び率
欧州 141,272 176,198 24.7 3,642,482 63.8 6.0 3,192,684 55.9 6.1
階層レベル2の項目ドイツ 52,756 29,779 △ 43.6 506,195 8.9 8.5 677,327 11.9 3.2
階層レベル2の項目英国 △ 15,439 29,083 742,736 13.0 7.7 667,312 11.7 5.1
階層レベル2の項目アイルランド 11,653 9,217 △ 20.9 284,406 5.0 △ 2.0 389,744 6.8 10.7
階層レベル2の項目フランス 16,703 11,477 △ 31.3 259,267 4.5 4.3 368,683 6.5 4.6
階層レベル2の項目スイス 8,524 18,799 120.5 358,151 6.3 4.9 264,231 4.6 1.2
階層レベル2の項目オランダ 22,061 36,853 67.1 726,418 12.7 4.3 247,689 4.3 10.4
階層レベル2の項目スウェーデン 15,275 12,528 △ 18.0 121,599 2.1 11.4 119,345 2.1 7.1
階層レベル2の項目スペイン 3,942 6,232 58.1 87,430 1.5 9.3 99,712 1.7 13.9
階層レベル2の項目ベルギー 2,952 △ 1,637 70,793 1.2 △ 3.5 71,000 1.2 2.3
階層レベル2の項目デンマーク 5,526 10,777 95.0 58,239 1.0 28.9 59,209 1.0 28.4
階層レベル2の項目ルクセンブルク 12,232 2,622 △ 78.6 248,067 4.3 10.1 38,362 0.7 1.2
アジア大洋州 68,971 60,776 △ 11.9 1,081,842 19.0 8.4 1,202,091 21.1 4.6
階層レベル2の項目日本 41,180 38,888 △ 5.6 754,069 13.2 7.8 819,210 14.4 3.3
階層レベル2の項目オーストラリア 4,764 1,669 △ 65.0 100,708 1.8 6.1 107,074 1.9 5.4
階層レベル2の項目韓国 9,196 13,761 49.6 92,050 1.6 15.9 93,217 1.6 15.5
階層レベル2の項目シンガポール 9,897 3,020 △ 69.5 50,530 0.9 9.7 71,657 1.3 7.3
階層レベル2の項目中国 △ 259 1,841 33,979 0.6 10.4 39,983 0.7 △ 7.2
カナダ 72,590 37,435 △ 48.4 732,910 12.8 6.9 811,709 14.2 8.9
中南米 2,714 9,274 241.7 65,238 1.1 9.7 133,470 2.3 9.5
階層レベル2の項目メキシコ 5,945 5,638 △ 5.2 43,351 0.8 10.8 61,676 1.1 5.3
階層レベル2の項目英領バミューダ諸島 3,477 6,995 101.2 44,569 0.8 14.2 49,273 0.9 6.6
階層レベル2の項目英領カリブ海諸島 1,759 △ 6,439 84,613 1.5 △ 0.9 35,044 0.6 8.5
中東 4,687 1,860 △ 60.3 38,008 0.7 △ 28.3 84,332 1.5 △ 0.2
アフリカ △ 562 △ 857 9,402 0.2 △ 5.1 6,677 0.1 1.0
合計(その他含む) 289,670 284,686 △ 1.7 5,707,721 100.0 6.2 5,707,721 100.0 6.2

〔注1〕フローは国際収支ベース、残高は簿価ベース。
〔注2〕英領カリブ海諸島は、英領バージン諸島、ケイマン諸島、モントセラトおよびタークス・カイコス諸島の合計値。
〔注3〕UBOベースは、投資主体を最終的に所有またはコントロールしている事業体〔最終的な実質所有者(UBO:Ultimate Beneficial Owner)〕が所在する国を基準とした集計値。
〔出所〕米国商務省統計から作成

業種別では、製造業が4.8%減の1,096億ドルで全体の4割弱を占めた。前年に製造業の中では首位だった化学は49.8%減(231億ドル)だったものの、その他製造業(6.3倍、253億ドル)、輸送機械(58.4%増、245億ドル)、コンピュータ・電子機器(2.3倍、101億ドル)などが大幅増となった。非製造業では、最大の業種である卸売業が3.3%減(468億ドル)と押し下げ要因となったものの、情報処理業が前年の落ち込みから前年比5.7倍と大きく回復し222億ドル、預金取扱機関を除く金融・保険業(21.8%増、222億ドル)が伸び、その他の業種も大幅増となった。

表5 米国の業種別対内直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種名 2023年 2024年 2024年末
フロー フロー 伸び率 残高 構成比 伸び率
製造業 115,089 109,620 △ 4.8 2,416,081 42.3 6.1
階層レベル2の項目化学 46,132 23,147 △ 49.8 827,502 14.5 3.2
階層レベル2の項目輸送機械 15,443 24,468 58.4 267,026 4.7 9.8
階層レベル2の項目コンピュータ・電子機器 4,429 10,142 129.0 210,200 3.7 7.6
階層レベル2の項目一般機械 21,042 6,307 △ 70.0 158,610 2.8 15.4
階層レベル2の項目食品 6,209 6,161 △ 0.8 123,243 2.2 7.5
階層レベル2の項目金属原料・加工品 10,521 7,148 △ 32.1 119,652 2.1 13.4
階層レベル2の項目電気機器・電化製品・部品 7,276 6,950 △ 4.5 93,232 1.6 9.7
階層レベル2の項目その他の製造業 4,037 25,298 526.7 616,615 10.8 3.9
預金取扱機関を除く金融・保険業 18,201 22,176 21.8 599,374 10.5 3.3
卸売業 48,365 46,752 △ 3.3 520,538 9.1 △ 3.8
情報処理業 3,894 22,227 470.8 272,193 4.8 8.1
専門・科学・技術サービス業 7,609 13,838 81.9 255,566 4.5 5.9
小売業 9,964 16,750 68.1 213,172 3.7 7.1
預金取扱機関 11,584 14,576 25.8 231,769 4.1 6.1
不動産および賃貸・リース業 19,189 6,750 △ 64.8 187,884 3.3 4.3
合計(その他含む) 289,670 284,686 △ 1.7 5,707,721 100.0 6.2

〔注〕フローは国際収支ベース、残高は簿価ベース。
〔出所〕商務省統計から作成

対内直接投資案件をみると、前述のとおり、2022年8月に成立したCHIPSプラス法による補助と税額控除が追い風となって半導体製造部門へのグリーンフィールド投資が急増した。最大の投資案件は台湾の半導体受託生産最大手、台湾積体電路製造(TSMC)による650億ドル規模のアリゾナ州での第3先端半導体工場建設計画(2024年4月)で、CHIPSプラス法に基づき最大66億ドルの補助金を獲得した。これに次ぐのが韓国のサムスン電子によるテキサス州テイラー市での先端ロジック工場2カ所と研究開発拠点の新設、さらに同州オースティン市の既存施設を拡張する計画(2024年4月)だ。総投資額は370億ドルを超えCHIPSプラス法による補助金47億ドル超を獲得した。韓国のSKハイニックス(SK Hynix)は2024年4月、約38億7,000万ドルを投じ、インディアナ州に先端パッケージングおよび研究開発施設を建設すると発表した。次世代の高帯域幅メモリ(HBM)を中心としたAI向け半導体製品の製造と研究開発を行う計画で、CHIPSプラス法に基づき、4億5,800万ドルの補助金を獲得した。

半導体以外での大型グリーンフィールド案件としては、デンマークの生活習慣病関連薬大手ノボ・ノルディスク(Novo Nordisk)によるノースカロライナ州での肥満症用注射薬製造第3工場設立(2月、41億ドル)が挙げられる。また、同社の親会社ノボ・ホールディングス(Novo Holdings)傘下の米国医薬品開発製造受託会社クリークペアレント(Creek Parent)は同業大手キャタレント(Catalent)と合併(12月、165億ドル)し、合併後の新会社はノボ・グループの傘下に入った。

2024年はバイデン前政権最後の年であり、同政権が2022年8月に成立させたIRAによるインセンティブや税控除を見込んだ再生可能エネルギー分野の投資が相次いだ。fDi Marketsによれば、1億ドル以上のグリーンフィールドの対米投資案件は145件あり、そのうち再生可能エネルギーが17件、クリーンテック9件、電気自動車(EV)7件、バッテリーサプライチェーン14件だった。

M&Aの大型案件としては、欧州梱包材最大手のアイルランド企業スマーフィット・カッパ・グループ(Smurfit Kappa Group)が同業で第2位のウエストロックと合併した案件が最大である(7月、200億ドル)。買収により地理的に補完ができコスト削減が狙えるほか、ともに環境に配慮した包装ソリューションを重視、その取り組みをさらに強化するとしている。同様に大手企業が米国同業と合併した事例としては、欧州のケーブル大手でイタリアのプリズミアン(Prysmian)がアンコールワイヤ(Encore Wire)と合併した事例(7月、42億ユーロ、約42億ドル)、オーストラリアのリチウム生産大手オールケム(Allkem)がライベントコーポレーション(Livent Corporation)と対等合併し、世界最大級のリチウムメーカー、アルカジウム・リチウム(Arcadium Lithium)を設立した事例(1月、10億6,000万ドル)が挙げられる。

表6-1 米国の主な対内直接投資案件 (2024年)[M&A以外]
業種 国籍 企業名 時期 投資額 概要
半導体 台湾 台湾積体電路製造 (TSMC) 4月 650億ドル アリゾナ州の半導体製造第3工場建設を含む投資。CHIPSプラス法に基づく補助金66億ドルを獲得
半導体 韓国 サムスン電子(Samsung Electronics) 4月 370億ドル テキサス州テイラー市での2つの最先端ロジック半導体工場と研究開発施設の建設、オースティン市にある既存施設の拡張。CHIPSプラス法に基づく補助金47億ドル超を獲得
医薬品 デンマーク ノボノルディスク(Novo Nordisk) 2月 41億ドル ノースカロライナ州に肥満症用注射薬製造第3工場を設立
半導体 韓国 SKハイニックス(SK Hynix) 4月 38億7,000万ドル AI用半導体パッケージ製品の生産およびR&D拠点建設。CHIPSプラス法に基づく補助金4億5,800万ドルを獲得
車載電池 日本 エンビジョンAESC(Envision AESC) 3月 15億ドル サウスカロライナ州フローレンスの車載用リチウム電池工場を拡張

〔出所〕各社発表および報道などから作成

表6-2 米国の主な対内直接投資案件 (2024年)[M&A]
業種 国籍 投資企業名 被投資企業名 時期 投資額 概要
パルプ、紙 アイルランド スマーフィット・カッパ・グループ(Smurfit Kappa Group) ウェストロック(WestRock) 7月 200億ドル 欧州梱包材大手が同業と対等合併(合併後の本社はアイルランド)
医薬品開発製造受託 デンマーク ノボホールディングス(Novo Holdings) キャタレント(Catalent) 12月 165億ドル ノボホールディングス(製薬大手ノボ・ノルディスクの親会社)傘下の医薬品会開発製造受託クリークペアレント(Creek Parent)が同業大手と合併
保険 アイルランド エーオン(Aon) エヌエフピー(NFP) 4月 134億ドル 北米に広く事業基盤をもつ保険ブローカー大手が同業他社を買収。
半導体 日本 ルネサスエレクトロニクス アルティウム(Altium) 8月 8,879億円
(57億ドル)
半導体製造企業がプリント基板(PCB)設計大手を買収
保険 バミューダ諸島 ブルックフィールド・リインシュアランス(Brookfield Reinsurance) アメリカンエクイティインベストメントライフ(American Equity Investment Life Holding) 5月 43億ドル 北米に広く事業基盤をもつ金融サービス大手が生命保険会社を買収

〔出所〕各社発表および報道などから作成

対外直接投資は1割増、欧州向けが34%増と拡大

米国の2024年の対外直接投資は、前年比11.2%増の3,037億ドルだった。国・地域別にみると、欧州が全体の51%を占めており34.0%増の1,549億ドルだった。国別にはオランダ(367億ドル、前年比12.1%増)が最大で、スイス(270億ドル、30.6%増)、ルクセンブルク(248億ドル、2.8倍)、ドイツ(249憶ドル、84.4%増)、英国(206億ドル、2.8倍)などが大幅な伸びを示し、全体を押し上げた。アジア大洋州は全体の20%を占めているが13.3%減の608億ドルにとどまった。首位のシンガポール(194億ドル)が60.4%減と落ち込んだ影響が大きい。インド(79億ドル、前年比50.3%増)、香港(62億ドル、2.5倍)、オーストラリア(53億ドル、2.4倍)などは大幅増となった。日本(59億ドル)も4.0%増だった。2024年末の米国の対外直接投資残高は3.1%増の6兆8,268億ドルとなった。地域別には欧州が最も多く全体の6割弱を占め2.3%増と拡大した。国・地域別では英国が前年とほぼ同じ1兆246億ドルで首位となり、2位はオランダ(1兆120億ドル)で、この2国が1兆ドルを超える。以下、ルクセンブルク(5,696億ドル)、アイルランド(4,668億ドル)、シンガポール(468億ドル)、英領カリブ海諸島(3,995億ドル)が続くが、いずれも導管(conduit)国・地域(注)と呼ばれる海外直接投資上の優遇税制を有する国・地域である。

(注)
多国籍企業、投資会社などが税負担の軽減などを目的に特別目的事業体(SPE)を設立して海外直接投資を介在させる国・地域。
表7 米国の国・地域別対外直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国名 2023年 2024年 2024年末
フロー フロー 伸び率 残高 構成比 伸び率
欧州 115,659 154,949 34.0 3,974,761 58.2 2.3
階層レベル2の項目英国 7,311 20,620 182.0 1,024,596 15.0 △ 0.0
階層レベル2の項目オランダ 32,751 36,730 12.1 1,011,960 14.8 1.7
階層レベル2の項目ルクセンブルク 8,776 24,765 182.2 569,566 8.3 9.0
階層レベル2の項目アイルランド 4,226 292 △ 93.1 466,848 6.8 0.2
階層レベル2の項目ドイツ 13,526 24,943 84.4 226,826 3.3 12.7
階層レベル2の項目スイス 20,691 27,023 30.6 212,898 3.1 3.0
階層レベル2の項目フランス 6,434 7,739 20.3 107,910 1.6 6.4
階層レベル2の項目スウェーデン 2,409 △ 266 55,423 0.8 △ 1.4
階層レベル2の項目ベルギー 4,527 3,385 △ 25.2 54,615 0.8 △ 15.2
階層レベル2の項目イタリア 4,223 5,435 28.7 35,991 0.5 14.8
アジア大洋州 70,184 60,846 △ 13.3 1,132,698 16.6 4.2
階層レベル2の項目シンガポール 48,973 19,413 △ 60.4 467,591 6.8 5.1
階層レベル2の項目オーストラリア 2,216 5,286 138.5 186,195 2.7 △ 1.7
階層レベル2の項目中国 4,135 5,131 24.1 122,888 1.8 3.4
階層レベル2の項目香港 2,438 6,191 153.9 98,524 1.4 7.3
階層レベル2の項目インド 5,289 7,947 50.3 58,539 0.9 18.4
階層レベル2の項目日本 5,718 5,947 4.0 57,462 0.8 △ 4.0
階層レベル2の項目韓国 3,377 3,176 △ 6.0 36,387 0.5 5.9
カナダ 16,819 37,675 124.0 459,597 6.7 7.8
中南米 64,117 40,497 △ 36.8 1,120,115 16.4 2.8
階層レベル2の項目英領カリブ海諸島 11,659 4,790 △ 58.9 399,541 5.9 4.6
階層レベル2の項目英領バミューダ諸島 3,056 3,899 27.6 240,452 3.5 △ 2.2
階層レベル2の項目メキシコ 8,006 18,192 127.2 159,220 2.3 11.9
階層レベル2の項目ブラジル 7,226 3,264 △ 54.8 87,958 1.3 △ 3.6
中東 1,098 11,759 970.9 92,144 1.3 11.3
アフリカ 5,276 △ 2,023 47,471 0.7 △ 3.6
合計(その他含む) 273,153 303,703 11.2 6,826,786 100.0 3.1

〔注1〕フローは国際収支ベース、残高は簿価ベース。
〔注2〕英領カリブ海諸島は、英領バージン諸島、ケイマン諸島、モントセラトおよびタークス・カイコス諸島の合計値。
〔出所〕商務省統計から作成

業種別では、前年大幅減だった製造業が2.8倍の1,185億ドルと回復し、全体の約4割を占めた。なかでも化学が6倍の248億ドルとなったほか、一般機械(7.6倍、212億ドル)、輸送機械(2.7倍、114億ドル)も大幅に増加した。非製造業では、ノンバンクの持ち株会社(580億ドル)が51.0%減、預金取扱機関を除く金融・保険業(483億ドル)が2.1%減、情報処理業(120億ドル)が61.0%減と減少したが、専門・科学・技術サービス業(275億ドル)は73.1%増、卸売業(143億ドル)も97.2%増と全体を押し上げた。

表8 米国の業種別対外直接投資(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種名 2023年 2024年 2024年末
フロー フロー 伸び率 残高 構成比 伸び率
鉱業 1,970 11,030 459.9 149,966 2.2 6.7
製造業 41,840 118,543 183.3 1,090,204 16.0 9.1
階層レベル2の項目化学 4,131 24,778 499.8 257,703 3.8 8.7
階層レベル2の項目コンピュータ・電子機器 25,392 21,540 △ 15.2 218,129 3.2 11.2
階層レベル2の項目輸送機械 4,219 11,417 170.6 107,136 1.6 5.9
階層レベル2の項目一般機械 2,782 21,201 662.1 78,071 1.1 35.9
階層レベル2の項目食品 3,109 5,039 62.1 74,735 1.1 1.8
階層レベル2の項目金属原料・加工品 △ 1,686 9,250 57,352 0.8 28.0
階層レベル2の項目電気機器・電化製品・部品 3,888 9,725 150.1 39,027 0.6 31.6
階層レベル2の項目その他の製造業 5 15,593 311760.0 258,051 3.8 △ 0.4
持株会社 118,275 57,976 △ 51.0 3,231,518 47.3 0.7
預金取扱機関を除く金融・保険業 49,356 48,328 △ 2.1 969,238 14.2 2.2
情報処理業 30,871 12,045 △ 61.0 389,635 5.7 3.1
卸売業 7,258 14,316 97.2 249,681 3.7 3.7
専門・科学・技術サービス業 15,865 27,469 73.1 177,874 2.6 17.0
預金取扱機関 △ 1,666 △ 4,808 157,137 2.3 4.8
合計(その他含む) 273,153 303,703 11.2 6,826,786 100.0 3.1

〔出所〕商務省統計から作成

対外直接投資案件をみると、グリーンフィールド投資では、液化天然ガス(LNG)開発のメキシコパシフィック(Mexico Pacific)によるメキシコ北部ソノラ州のLNGプロジェクトへの追加投資(6月、150億ドル)が最大の案件だった。2位から5位まではデータセンター関連投資が並んだ。生成AIの急成長に伴う需要増加を受け、米国のIT企業は米国内のみならず国外でもAIやクラウドサービスに対応したハイパースケール・データセンターの設置を盛んに行っている。fDi Marketsによれば2024年に1億ドルを超えたグリーンフィールドでの対外直接投資案件は117件だったが、そのうち31件がAI、クラウドコンピューティング、データセンターに関するものである。そのうち最大の案件はデータセンター運営QTSリアルティ・トラスト(QTS Realty Trust)による英国ノーサンバーランド州ブライス近郊(9月、100億英ポンド)でのハイパースケール・データセンターの建設だったが、同社はスペイン・アラゴン州カラトラオ(10月、75億ユーロ)でも同様のデータセンターの建設を発表している。ネット通販大手アマゾンウェブサービス(Amazon Web Services 、AWS)も英国の既存のデータセンター数カ所に2028年までに80億英ポンドの追加投資をすると発表し(9月)、IT大手オラクル(Oracle)もマレーシアにAIとクラウドコンピューティングに特化したパブリッククラウドリージョンを建設すると発表した(10月、65億ドル)。

M&A案件では、投資会社のブラックストーン(Blackstone)がカナダ年金制度投資委員会(CPPIB)と共同でオーストラリアのデータセンター事業者エアトランクオペレーティング(AirTrunk Operating)を240億豪ドルで買収した事例(12月)も挙げられる。エアトランクはアジア太平洋地域の顧客向けに800メガワット(MW)以上もの容量を有する同地域最大のデータセンター・プラットフォームであり、この買収によりブラックストーンは1ギガワット(GW)以上の将来的な成長が見込める同地域においてデータセンター、電力、関連サービスといったエコシステム全体でのプレゼンス確立を目指す。このほか、M&Aでの最大案件として、投資会社コールバーグ・クラビス・ロバーツ(Kohlberg Kravis Roberts、KKR)による旧イタリア国営通信会社テレコム・イタリア(TIM)の固定電話部門(NetCo)買収(7月、220億ユーロ)が挙げられる。NetCoは一次・バックボーン固定ネットワーク部門(イタリア全土の幹線網)とファイバーコップFiberCop(ラストマイルの光ファイバー網を持つ企業)から構成されるが、KKRは買収後、イタリア政府の支援を受けてファイバーコップとイタリア政府が2015年に設立したオープンファイバー(OpenFiber)を統合し、イタリア全土をカバーする単一の光ファイバー網構築を目指している。

その他の大型案件では空調・冷凍設備大手キャリアグローバル(Carrier Global)によるドイツの同業ヴィースマンクライメットソリューションズ(Viessmann Climate Solutions)の気候ソリューション部門買収(1月、120億ユーロ)がある。同社はこの買収と並行して消防・警備事業、商業用冷蔵事業から撤退し、気候ソリューションに力を入れ、HVAC(暖房、換気、空調の略)に事業の中核を絞り込むとしている。トランプ政権発足に伴い米国の環境政策縮小への懸念が高まる一方で、米国産業界は環境問題を軽視することなく、欧州など環境規制の厳しい国の取引先からの要請、環境問題に敏感な株主などからの要求などもあってグローバルな環境技術獲得に強い意志を示している。例えば、包装材大手ソノコプロダクツ(Sonoco Products)がスイスの金属包装材製造エヴィオシス・パッケージング(Eviosys Packaging)を買収(12月、39億ドル)した事例が挙げられる。エヴィオシスは欧州最大のスチール・アルミニウム食品パッケージングメーカーであり、買収によりその欧州・中東・アフリカ17カ国、44の製造拠点を獲得したことに加え、同社が持つ100%リサイクル可能な金属基板を中心とした製品ポートフォリオや低炭素製造技術も獲得した。

表9-1 米国の主な対外直接投資案件(2024年)[M&A]
業種 投資国・地域 企業名 時期 投資額 概要
エネルギー メキシコ メキシコパシフィック(Mexico Pacific) 6月 150億ドル メキシコ北部ソノラ州のLNGプロジェクトに追加投資
IT 英国 QTSリアルティ・トラスト(QTS Realty Trust) 9月 100億英ポンド
(133億ドル)
ノーサンバーランド州ブライスにAI対応のハイパースケール・データセンターを建設
IT 英国 アマゾンウェブサービス(Amazon Web Services (AWS)) 9月 80億英ポンド
(104億ドル)
2028年までに英国の既存の数か所のデータセンターに追加投資
IT スペイン QTSリアルティ・トラスト(QTS Realty Trust) 10月 75億ユーロ
(82億ドル)
アラゴン州カラトラオにハイパースケール・データセンターを建設
IT マレーシア オラクル(Oracle) 10月 65億ドル AI用クラウドパブリッククラウドリージョン(公共複合施設)を建設

〔出所〕各社発表および報道などから作成

表9-2 米国の主な対外直接投資案件(2024年)[M&A以外]
業種 投資国・地域 買収企業名 被買収企業名 時期 投資額 概要
通信サービス イタリア コールバーグ・クラビス・ロバーツ(Kohlberg Kravis Roberts、KKR) テレコム・イタリアの固定電話部門(NetCo) 7月 220億ユーロ
(260億ドル)
投資会社がイタリアの旧国営通信会社の固定電話部門(NetCo)を買収
データセンター オーストラリア ブラックストーン(Blackstone) エアトランクオペレーティング(AirTrunk Operating) 12月 240億豪ドル
(161億米ドル)
投資会社がカナダ年金制度投資委員会(CPPIB)と共同でアジア太平洋地域に展開するデータセンター大手を買収
機械 ドイツ キャリアグローバル(Carrier Global) ヴィースマンクライメットソリューションズ(Viessmann Climate Solutions) 1月 120億ユーロ
(132億ドル)
空調・冷凍設備大手が同業の気候ソリューション部門を買収
その他金融 カナダ ネオンメイプルパーチャサー(Neon Maple Purchaser Inc) ヌベイ(Nuvei) 11月 63億ドル 投資会社がフィンテック企業を買収・非公開化
機械 ドイツ KPSキャピタルパートナーズ(KPS Capital Partners) インノモティクス(Innomotics) 10月 35億ユーロ
(38億ドル)
投資会社がモーター製造企業を買収

〔出所〕各社発表および報道などから作成

対日関係 
輸出入とも増加、貿易赤字は縮小

2024年の対日貿易は、輸出が前年比4.2%増の790億ドル、輸入が0.8%増の1,484億ドルと、いずれも増加した。対日貿易赤字額は2.8%減の694億ドルだった。輸出では、医薬品(構成比10.6%、84億ドル)が33.5%増、一般機械(10.1%、79億ドル)が25.3%増と押し上げ要因となった。一方、最大の輸出品目である 鉱物性燃料(15.1%、119億ドル)が0.9%減少したほか、宝石・貴金属(2.1%、17億ドル)は貴金属くずなどの減少により、23.1%減となった。輸入では、医薬品(5.0%、75億ドル)が血液・ワクチンなどの増加により13.5%増、プラスチック(1.7%、26億ドル)が10.9%増と拡大した。最大の輸入品目である自動車・同部品など(33.9%、503億ドル)は自動車部品が牽引し1.6%増となった。

表10 米国の対日主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 HSコード 輸出(FAS:船側渡し価格) 輸入(Custom value:課税価格)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
食肉 2 3,113 3,128 4.0 0.5 73 75 0.1 2.7
穀物 10 3,225 3,614 4.6 12.1 13 16 0.0 25.3
鉱物性燃料 27 12,019 11,914 15.1 △ 0.9 698 498 0.3 △ 28.6
有機化学品 29 3,098 2,825 3.6 △ 8.8 1,427 1,464 1.0 2.6
医薬品 30 6,299 8,409 10.6 33.5 6,588 7,476 5.0 13.5
各種の化学工業製品 38 2,034 2,067 2.6 1.7 3,608 3,205 2.2 △ 11.2
プラスチック 39 1,782 1,857 2.4 4.2 2,313 2,565 1.7 10.9
ゴム・その製品 40 231 200 0.3 △ 13.4 2,596 2,364 1.6 △ 8.9
宝石・貴金属 71 2,151 1,653 2.1 △ 23.1 505 293 0.2 △ 42.1
鉄鋼製品 73 409 441 0.6 7.7 1,894 1,724 1.2 △ 9.0
一般機械 84 6,343 7,946 10.1 25.3 35,096 35,219 23.7 0.4
電気機器 85 4,401 4,488 5.7 2.0 18,974 18,832 12.7 △ 0.7
自動車・同部品など 87 1,719 1,394 1.8 △ 18.9 49,539 50,340 33.9 1.6
航空機・同部品 88 4,967 6,097 7.7 22.7 1,549 1,602 1.1 3.4
光学機器・医療機器 90 7,326 7,064 8.9 △ 3.6 6,842 7,068 4.8 3.3
合計(その他含む) 75,794 78,978 100.0 4.2 147,206 148,371 100.0 0.8

〔出所〕 商務省統計から作成

製造業・半導体分野で大型投資案件相次ぐ

2024年の日本の対米直接投資は、前年比5.6%減の389億ドルだった。それでも対米直接投資全体の13.7%を占め、最大の直接投資国だった。M&A案件では、ルネサスエレクトロニクスが2024年8月、革新的な「電子機器設計・ライフサイクルマネジメントプラットフォーム」の構築に向けて、電子機器設計企業のアルティウム(Altium)を約57億ドルで買収し、 完全子会社化した。同社は同年6月にも、GaN(窒化ガリウム)パワー半導体企業のトランスフォーム(Transphorm)を約3億ドルで買収し、完全子会社化している。グリーンフィールド投資では、製造業の投資が目立った。トヨタ自動車はケンタッキー州の生産拠点へ2024年2月に13億ドル、同年12月に9億ドルの追加投資を発表した。また、同年4月には、インディアナ州プリンストン工場へ14億ドルの新規投資を発表した。同社は2021年以降、電動化への取り組みのため、米国での製造事業へ総額186億ドルの新規投資を発表しており、いずれも電気自動車(EV)生産体制拡充を目的としている。富士フイルムは2024年4月、米国子会社のフジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ(FUJIFILM Diosynth Biotechnologies)がノースカロライナ州に建設中のバイオ医薬品製造施設へ12億ドルの追加投資を行うと発表した。

ジェトロが在米日系企業を対象に2024年9月に実施したアンケート調査(回答企業数:694社)では、2024年に黒字を見込む企業の割合は66.2%で、前年から1.4ポイント増加し、新型コロナ禍以前となる2019年の水準(66.1%)を初めて超えた。業種別黒字見込みの割合は、半導体市場の回復などで電気・電子機械が86.2%と高かった一方、製造原価の高騰や人材不足に見舞われた自動車部品は53.2%と相対的に低かった。今後1~2年に事業を拡大する企業の割合は48.6%と、前年(49.9%)から微減となった。事業拡大の理由は「現地市場ニーズの拡大」が最多だった。

米国の対日直接投資は前年比4.0%増の59億ドルだった。M&A案件では、投資会社ブラックストーンの関連ファンドが2024年1月、ソニーペイメントサービスの株式80%を取得した。グリーンフィールド投資では、グーグルが同年4月、日本の海底ケーブル敷設に10億ドルを投資すると発表した。新たに「Proa」・「Taihei」の2つの海底ケーブルを敷設し、既存の海底ケーブルを拡張するなどして米国と日本を結ぶ構想だ。このほか、大手半導体企業のウエスタンデジタルコーポレーションとキオクシアは同年2月、キオクシア四日市工場(三重県)と北上工場(岩手県)で第8世代および第9世代の3次元フラッシュメモリを生産する約7,300億円の設備投資計画に、経済産業省から総額約2,430億円の補助金交付の認定を受けたことを発表した。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 2.5 2.9 2.8
1人当たりGDP (米ドル) 77,801 82,254 85,812
消費者物価上昇率 (%) 8.0 4.1 2.9
失業率 (%) 3.6 3.6 4.0
貿易収支 (100万米ドル) △ 1,179,941 △ 1,063,288 △ 1,212,989
経常収支 (100万米ドル) △ 1,012,098 △ 905,376 △ 1,133,621
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 232,717 234,111 227,760
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 47,704,194 54,252,801 62,117,577
為替レート (1米ドルにつき、円、期中平均) 131.50 140.49 151.37


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
2024年の1人当たりGDP、貿易収支、経常収支、外貨準備高、対外債務残高は推定値。
出所
実質GDP成長率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):米国商務省
消費者物価上昇率、失業率:米国労働省
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF