韓国企業の海外展開の今と新たな挑戦中国で成功する韓国企業と新たな商機
韓国企業の中国事業の明暗(3)

2025年1月20日

韓国企業の中国ビジネスが厳しい状況下に置かれていることはシリーズ2回目の「相次ぐ在中韓国系企業の撤退」でレポートしたが、そのような中でも中国市場で成功している企業も存在する。シリーズ3回目の本稿では、在中韓国系機関などに対するヒアリング(2024年11月)や各種韓国メディアの報道をもとに、中国で成功している代表的な6社を紹介し(注1)、成功企業の共通項について概観する。同時に、韓国企業にとってのビジネスチャンスを明らかにする。

中国ビジネスで成功している韓国企業

1. ジェントルモンスター(アイウェアブランド)

ジェントルモンスターは、韓国のアイウェア・化粧品メーカーのIICOMBINED(アイアイコンバインド)が2011年に立ち上げた、同社を代表するグローバルファッション・アイウェアブランドで、韓国国内の6店舗ほか、海外14カ国・地域に展開し(同社ウェブサイト参照(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)、日本でも東京・青山と大阪に店舗を置いている。中国には2024年11月時点で22店舗を展開しており、北京市、成都市、上海市、深セン市、杭州市などの主要都市に店舗を構えている。他の国・地域と比較しても中国の店舗数が最も多いことから、中国への進出を意欲的に行っていることがうかがえる。

アイアイコンバインドの2023年の総売上高(連結ベース)は、前年比48%増の6,082億7,053万ウォン(約669億円、1ウォン=約0.11円)、営業利益は1,511億1,463万ウォンを記録。同社の業績が好調な理由として、韓国国外、特に中国での人気が高まっていることが挙げられる。2023年の同社の海外店舗の売上高は2,239億1,002万ウォンで、総売上高の約3分の1を占めた。その中でも、中国の売上高は1,308億1,711万ウォンと、中国以外の海外売上高の合計(930億9,290万ウォン)をはるかに凌駕(りょうが)した。

世界各国・地域、特に中国での人気が高い理由として、洗練されたデザインのほか、店舗の空間デザインが他のアイウェアブランドと一線を画すことが挙げられる。韓国国際文化交流振興院(KOFICE)によると、同社の中国での店舗は、眼鏡やサングラスなどの商品の展示面積よりも、空間を演出する芸術作品の展示面積の方が広く、現地の若者から高い支持を得ているという(「KOFICE文化ニュース」2021年5月記事参照)。同社ウェブサイト(韓国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますをみると、動く大きな顔や彫刻などが店舗に展示されている。このような洗練された独創性が、購買者の「スノッブ効果(他者とは違うものが欲しいという購買意欲)」につながっている。

2. HLマンド(自動車部品メーカー)

HLマンドは、HLグループ(旧名称は漢拏グループ、中核事業は自動車部品)傘下の自動車部品製造・販売を担う会社で、2023年の総売上高(連結ベース)は、8兆3,930億8,680万ウォン、同年の営業利益は2,792億7,699万ウォンだった。その中で、中国での売上高は1兆9,629億7,860万ウォンと、国・地域別にみると韓国(3兆565万3,494万ウォン)に次ぐ規模になっている。また、新型コロナ流行前の2019年から直近の2023年にかけての中国での売上高の伸びは、米国に次ぐ1.55倍となっている(図1参照)。

図1-1:HLマンドの地域別売上高構成比(2023年)
韓国(36.4%)、中国(23.4%)、米国(17.2%)、インド(9.1%)、その他国・地域(13.8%)。

出所:同社事業報告書(2023年)

図1-2:主要地域別の2023年売上高の2019年売上高比較
韓国1.11、中国1.55、米国1.63。

出所:同社事業報告書(2019年、2023年)

韓国大手自動車メーカーが中国での事業展開で苦戦している中、HLマンドが成功している理由は何だろうか。同社は2023年の事業報告書の「海外顧客多様化戦略」で、中国の自動車メーカー(外資系、地場系の双方)からの受注を拡大しており、特に中国地場系大手の吉利汽車と2011年に自動車部品の合弁企業「マンド (寧波) 汽車零部件」を設立したことによって、中国市場での売上高を最大化できる基盤を構築したと述べている。具体的には、同合弁企業で生産する自動車用制動装置やサスペンションを、中国に生産拠点を置く韓国企業または海外の完成車メーカーに納品している。2022年以降はHLマンドが同社を吸収合弁し、現地事業を直接的に運営することで、現在まで着実に業績を伸ばしてきた、としている。また、HLマンドは中国国内のEV化の加速に伴う先端部品需要の増加に注目し、吉利汽車、上海蔚来汽車(NIO)、長城汽車などの中国EV(電気自動車)メーカーを顧客として販売を拡大したことなども、業績を着実に伸ばした要因として挙げている。

3. COSMAX(コスマックス)

韓国の大手化粧品OEM(委託者ブランドの製品生産)メーカーのコスマックスは、2023年の総売上高(連結ベース)が過去最高の1兆7,774億9,448万ウォンを記録した。その中でも、中国現地法人のCOSMAX Chinaの売上高は、3,996億ウォン9,281万ウォンと、総売上高の約2割を占めた。同社の中国ビジネスの経緯を振り返ると、2004年に初の中国現地法人「COSMAX China」を上海市に設立し、上海市での事業がある程度軌道に乗った後、2013年に2つ目の中国法人としてコスマックス広州を設立し、中国事業を継続的に拡大した。特に、COSMAX Chinaはコロナ禍の2021年に中国EC(電子商取引)市場に参入し、同年のCOSMAX Chinaの売上高が総売上高の6割弱を占めるほど、中国事業が好調だった。同社では、2024年11月に上海新社屋建設時のプレスリリースの中で、中国事業が韓国事業とともにグループ全体の成長を牽引していると発表している。中国現地法人設立当初から、生産にとどまらず、巨大な消費市場としての可能性を見据え、現地中国企業や多国籍企業などへの販売を強化し、中国市場での競争力を高めている。

また、同社は、中国の化粧品市場においてオンラインでの流通が主流になっていることに注目し、新型コロナ禍以降、オンライン販売および新規顧客開拓を積極的に推進したことで、通販化粧品メーカーからの新規受注が増加したと発表している。同社の中国現地法人のオンラインチャンネルの顧客の割合は顧客全体の約70%を占めるようになったという。

ほかにも、中国での「現地化」を徹底したことが、成功の理由といえよう。中国の美容業界の市場調査機関である青眼情報が発表した「2023年中国化粧品年鑑」によると、2023年の中国における化粧品売上高は7,972億元(約16兆7,412億円、1元=約21円)で、そのうち中国美容ブランドの売上高シェアは50.4%と、初めて中国国外ブランドのシェアを上回った。「Kビューティー」が中国で台頭した2013~2019年とは打って変わり、「韓国化粧品ブランド」であることを前面に出すことで、中国国内での売り上げ増加を見込むことは難しくなった。一方で、コスマックスは100%ODM-OEM方式であるため、中国国内企業と協力・契約し、中国現地ブランド向けの製品を中心に生産してきたことから、新型コロナ禍や「高高度防衛ミサイル(THAAD)配置問題」(注2)などの影響を大きく受けず、現地事業展開を着実に伸ばしてきた。そのほか、同社は、製品ライフサイクル(製品が市場に登場してから退場するまでの期間)が早い中国のECサイトの特性を理解し、製品の受注から発売までの期間を2~3カ月サイクルで対応するなどしてきた。こうした変化の大きい中国市場に合わせた臨機応変な参入が、成功要因の1つとして挙げられる。

4. 韓国食品メーカー(オリオン、三養食品)

オリオンは、ビスケットやチョコレート、チョコパイなどの菓子類を中心に国内外で販売する食品メーカーだ。同社の2023年の総売上高は2兆9,123億5,805万ウォンで、営業利益は4,923億9,114万ウォンだった。売上高を地域別にみると、中国が1兆1,729億554万ウォンと総売上高の4割を占める(図2参照)。同社は、中国での売り上げが好調な理由は、1997年に中国進出してからの27年間、チョコパイのほか、多くの新製品を現地でヒットさせたことだと発表しており、現在は中国国内4カ所に生産法人を設立し、中国国内市場で高い競争力を誇っているとしている。また、「現地化」を徹底しており、商品名を現地の人々に親しまれるように、韓国式から中国式に〔例:「オ、カムジャ(わ、ジャガイモ、スナック菓子)→呀!土豆」「情(チョン、チョコパイの名称)→仁」など〕と変更した。また、同商品を使ったキャンペーン企画を行い、中国の人気芸能人を通してブランドイメージを醸成したことにより、中国国内で大きく話題となった。このマーケティング戦略が功を奏し、これらの商品は中国現地法人売り上げ1位を記録した。さらに、一線・二線都市に所在する卸・小売企業向けのみならず、三線・四線都市(注3)に所在する一般スーパーマーケット向け販売などを拡大し、積極的に現地市場に浸透させていることも成功要因として挙げている。

一方、プルダック炒め麺(ポックンミョン)で有名な韓国食品メーカー三養食品。2023年の総売上高は1兆1,929億1,460万ウォン、営業利益は1,475億1,409万ウォンだった。売上高を国・地域別にみると、韓国国内が7,866億6,921万ウォンで、次いで中国での売上高が2,213億2,735万ウォンと総売上高の12%を占めた(図2参照)。同社が販売するプルダック炒め麺をはじめとした「Kラーメン」は世界で根強い人気を誇っており、中国でも「火鶏麺」と中国式名称で知名度を上げている。同社は、2024年12月に中国で生産法人を設立し、海外で初となる現地工場を建設して中国市場で集中的に事業・販売を行う予定だと発表。また、中国市場戦略として「ヤンニョムチキン味のプルダックポックンミョン」を中国国内限定で販売している。これは、中国の人が韓国料理の中で最も好む料理がヤンニョムチキンであるという自社調査をもとに、甘辛い味を再現したものだ。中国で好まれる味に自社商品をアレンジして現地市場への浸透を図っている。

図2:地域別売上高構成比(2023年)

オリオン
中国(40%)、韓国(36%)、その他国・地域(24%)。

出所:各社事業報告書(2023年)

三養食品
中国(12%)、韓国(43%)、その他国・地域(45%)。

出所:各社事業報告書(2023年)

5. オステムインプラント

韓国初の「歯科用インプラント」を開発した、インプラント専門会社であるオステムインプラントは、26カ国に現地法人を設立しているグローバル企業だ。同社の2023年の総売上高は、1兆92,082億8,461万ウォン、営業利益は2,428億3,127万ウォンだった。売上高を国・地域別にみると、「オステム中国法人」の売上高は2022年比2割増の2,374億5,050万ウォンと、海外法人の中で最も多く、総売上高の10%以上を占めた。同社が中国での売上高が好調な理由として、2006年に中国法人を設立して以降、現地での自社商品の普及を徹底し、中国のインプラント市場で確固とした地位を確立したことが挙げられる。同社は、中国政府が2018年から導入した医薬品を低価格で一括購入できる集中量的調達(VBP)制度をうまく利用し、質の高い韓国産インプラントを低価格で販売することで、費用対効果が高い商品として現地で認められた、と説明している。また、同社は中国法人の現地従業員数を毎年増やしており、現地従業員数の割合は90%を超えたと発表している。そのほか、中国人歯科医のインプラント治療の技術力向上のため、中国国内でインプラント教育プログラムを運営し、直接自社商品を販売するなど、地道ではあるものの、徹底した現地市場への参入を図り、現在では中国国内の歯科医院1万4,000社以上と取引を行っている。

6. 中国で成功している韓国企業の共通点

前述したとおり、多くの韓国企業が中国でのビジネス展開に苦戦する中で、現地での売上高が伸びている韓国企業には共通項がある。まずは、韓国ブランドであることを目立たないようにしつつ現地市場に参入するという、いわゆる「現地化」を意識したことだ。また、長期的な視点での市場開拓を意識していることが成功要因の1つとして考えられる。これについて、在中韓国系機関ヒヤリングでは、「韓国企業は当初、中国市場で簡単に成功を収めたが、事業環境が悪化すると簡単に事業を縮小・撤退した。本来、難しい事業環境であるほど、中国をしっかり理解する必要がある。そのためには少なくとも10年以上、中国に駐在している中国専門家が必要」との指摘があった。中国景気低迷など様々な外的要因がある中で、中国市場を簡単に放棄しない姿勢をもってビジネスを展開する企業が着実に業績を伸ばしている。さらに、OEM・ODMを徹底するほか、中国企業と共同出資で会社を設立するなど、中国企業との連携、協力を意識している企業が成功している。

中国進出韓国企業の新たなビジネスチャンス

米国新政権発足により、世界情勢やサプライチェーンが大きく変化することが予測される中で、在中韓国系企業は不確実性が高く、不安を感じていることが実情だ。このような状況下において、中国進出している、または検討する韓国企業にとって今後、どのような分野がビジネスチャンスとなりうるだろうか。

まず、ここ数年、中国で健康とスポーツに関する関心が高まっており、アウトドア産業が急激に成長していることから、スポーツ・アウトドア用品分野にビジネスチャンスがあるだろう。中国調査会社の観研天下によると、中国のアウトドア用品の市場規模は2019年の1,591億元から、2023年には2,116億元まで拡大している。韓国アウトドアブランドのコーロンスポーツは、2023年の中国アウトドアファッションマーケットシェアで8%を占めており、長期的な定着化を図っている。

また、中国はペット産業も急成長しており、2023年のペット産業市場規模は2,500億元となっている。中国の余暇関連産業・市場は今後とも成長することが見込まれており、新たなビジネスチャンスとして狙い目といえよう。大韓貿易投資振興公社(KOTRA)や韓国ペット産業輸出協会が協力して中国で開催されるペット関連産業の展示会「ペットフェア・アジア」(毎年開催、2024年は第26回)に韓国企業ブースを設置するなど、韓国ペット関連企業は中国進出に向けた動きを見せはじめている。

THAAD配置問題以降、韓国への報復措置として発令されていた「限韓令」により、コンテンツ産業の進出が厳しい状況にあったが、今後は韓国コンテンツの中国市場進出が期待されている。2016年から2023年4月までの7年間禁止されていた、韓国発の映画の上映も解禁された。また、現在も韓国発ゲームやKポップ、ドラマなどの規制は受けているものの、韓国発のウェブトゥーン(デジタル漫画の1つの形態、2024年2月29日付地域・分析レポート参照)が中国で映画にリメイクされ、2022~2023年には同リメイク映画が中国で9,000万人以上の観客を動員する大きな成果を得た。韓国のコンテンツIP(知的財産)などは今後、中国市場への参入において大いに可能性がある分野といえる。

新たな局面を迎える中国市場において、このように多くの韓国企業が中国でのビジネス展開を成功させるために戦略を考え、ビジネスチャンスとの機会を狙っている。韓国の2023年の1人当たりGDPは初めて日本を超え、韓国系企業は隣国の企業という位置づけのみならず、日本企業の好敵手(ライバル)となっている。韓国企業の中国ビジネスにおける戦略や好事例、ビジネスチャンスは、日本企業にとっても共通する部分があると考える。


注1:
中国で成功している韓国企業に関して、在中韓国系機関などの各識者のヒヤリングや韓国メディアの報道で、多く言及されている企業を、本稿では紹介する。韓国メディアの出所は、毎日経済新聞(2024年10月15日)、朝鮮日報(同)、MONEY TODAY(MTN、2024年11月3日)、聯合ニュース(2024年12月16日)など。毎日経済新聞はHL万都(自動車部品)、オリオン(食品)、デンティウム(インプラント)を、朝鮮日報はコスマックス(化粧品)などを、それぞれ成功企業として紹介している。本稿では業種のバランスなども考慮し、6社を紹介する。紹介する企業概要や各社の発表などは、プレスリリースや連結決算などの企業情報を参考にしている。
注2:
米韓両国は2016年7月に在韓米軍へのTHAAD配備で合意、2017年4月以降、THAADの配備が進められた。これに対して中国は、THAADが自国の安全保障に対する脅威になるとして配備に反対、韓国側が「報復措置」とみる次のような措置を取った。(1)THAAD配備場所を提供したロッテ・グループに対する、在中グループ企業の税務調査、消防点検に基づくロッテマート店舗の営業停止命令、瀋陽ロッテワールドの工事中断、など。(2)韓流スターの公演不許可、中韓共同制作ドラマの放送中止、(3)韓流スターの公演不許可、中韓共同制作ドラマの放送中止。なお、中国側は公式に「報復措置」とは言っておらず、また、当初の措置は徐々に緩和されてきている。
注3:
中国の一線~五線都市については、「商業施設の充実度」「都市のハブとしての機能性」「市民の活性度」「将来の可能性」「新経済の競争力」の5つの評価指標によって中国の337都市を評価し、区分したもの(2024年6月7日付ビジネス短信参照
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
益森 有祐実(ますもり あゆみ)
2022年、ジェトロ入構。中国北アジア課で中国、韓国関係の調査を担当。