特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性急成長する娯楽産業を担う人材を育成(サウジアラビア)

2023年4月19日

サウジアラビア政府娯楽庁(GEA)のトゥルキ・アル・シェイク会長は2023年3月19日、2019年から2023年第1四半期までに国内娯楽イベントへの来場者が1億2,000万人以上を記録し、GEAの認可を受けた娯楽施設が全国42都市470カ所に広がったことを発表した〔2023年3月20日付サウジアラビア国営通信(SPA)参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 〕。

政府が進める国家改革「ビジョン2030」(2016年4月発表)では、目標の1つとして掲げる「生活の質(Quality of Life)」を実現するための構成要素として、長年制限されてきた娯楽(エンターテインメント)が解禁された。生活の質向上に加えて、サウジアラビア人の多くが国外に求めてきた娯楽を国内に設けることで、不要な外貨流出の防止、関連産業・人材の育成を通じた産業多角化、外国観光客の誘致をもくろむという「一石四鳥」の思惑が込められている。

国内娯楽市場の急速な拡大を受け、それを担う人材の育成は待ったなしの状況にある。政府の肝いりで、専門人材育成を一手に担う「サウジ・エンターテインメント・アカデミー(SEA)」の最高経営責任者を務めるエイハブ・アブロクバー博士に、サウジアラビアにおけるエンターテインメント人材の育成状況について話を聞いた(2023年3月23日)。

質問:
サウジ・エンターテインメント・アカデミー(SEA)の設立の経緯は。
答え:
SEAは、2019年に地場の大手人材コンサルタントのバンヤン・トレーニング(Bunyan Training)とメナ・エドュケーショナル(MENA Educational)が立ち上げた高度な職業技術訓練機関だ。サウジアラビア政府の人材・社会開発省配下の技術職業訓練公社(TVTC)との戦略的提携と、娯楽庁(GEA)による監督と支援を得て設立された。プログラムの多くが人材開発基金(HRDF)による支援を受けて運営されている。「ビジョン2030」の方針に基づき、娯楽産業と観光などのホスピタリティ産業に不可欠な専門人材の育成に主眼を置いている。
質問:
これまでの成果をどう評価するか。
答え:
当アカデミーのプログラムについて紹介したい。まず、ディプロマ・コースとして、「エンターテインメント・センター・マネジメント:交流イベント(Meet & Greet)」「エンターテインメント・センター・マネジメント:メンテナンス・安全」「クラウド・マネジメント」の3コースを運営している。3コースのディプロマを取得した学生は既に250人以上を数える。
この他、「顧客対応」「歓迎・イベントプロトコル」「イベント・マーケティング・プロモーション」などテーマ別の短期コースが合計29種類ほどある。これまでに講座に参加した生徒の延べ数は9万8,000人以上に上る。
質問:
新しいディプロマ・コースの計画は。
答え:
「エンターテインメント・センター・デザイン」「ビデオゲームIT開発者」など、新たなディプロマを拡充しているところだ。また、「観光」「ホスピタリティ」「文化」「スポーツ」「MICE(注1)」のコースについても今後さらに充実させる。
質問:
生徒のプロフィールは。
答え:
性別を問わず、男性、女性ともに非常に積極的だ。割合としては、女性のほうがやや多い。リヤド地域だけでなく、地方出身者の学生もいる。将来的には、西部のジッダ、東部のダンマン、南部のアブハなど、地方都市にも拠点を設ける計画だ。
質問:
卒業生の進路は。就職環境はどうか。
答え:
GEAのトゥルキ・アル・シェイク会長が先日発表したように、2019年以降、エンターテインメント産業は急激に拡大している。卒業生たちは仕事を探すのに苦労していない。
質問:
日本企業との協業可能性に関心は。
答え:
日本企業と協力する余地は2つあると思う。まず、日本には多くの優れたエンターテインメント関連企業がある。こうした企業による協力は、大いに歓迎したい。また、SEAはすでにフランスのコート・ダジュール大学とパリ・アカデミーから認定を受けたコースを提供している。日本の教育機関との間で同様の協力関係を結ぶことも可能だ。
もう1つの大きな可能性は、日本のエンターテインメント関係企業がサウジアラビア市場に進出する際、SEAが協力することだ。例えば、必要な人材を育成・供給する役割を担うことができる。日本企業が必要とする技術やスキルに応じてカスタマイズしたプログラムを用意することも可能だ。すでに米国、欧州、中国、韓国の関係者とも協力可能性について相談を進めているところだ。
2023年5月28~30日にかけて、リヤド市内で大型展示会「サウジ・エンターテインメント・アミューズメント・エキスポ」が開催される。日本企業の来場があれば、ぜひ交流したい(注2)。

SEAの幹部(中央がアブロクバー博士)(ジェトロ撮影)

注1:
MICEは、企業等の会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議(Convention)、展示会(見本市)・イベント(Exhibition/Event)の頭字語。これら事業催事の総称。
注2:
ジェトロ・リヤド事務所は同展示会に「ジャパン・ブース」の出展を予定している。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所長
秋山 士郎(あきやま しろう)
1995年、ジェトロ入構。ジェトロ・アビジャン事務所長、日欧産業協力センター・ブリュッセル事務所代表、対日投資部対日投資課(調査・政策提言担当)、海外調査部欧州課、国際経済課、ジェトロ・ニューヨーク事務所次長(調査担当)、海外調査部米州課長、海外調査企画課長などを経て2021年11月から現職。

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