特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性アラブ女性の健康のため、タブーに挑むフェムテック(エジプト)

2022年11月14日

フェムテック(FemTech)とは、「女性(Female)」と「技術(Technology)」を合わせた造語だ。女性特有の心身に関する課題をテクノロジーで解決する製品やサービスを指し、現在、世界的に成長を続けている。その市場の中心は、北米や欧州と言われる。一方で、英国の調査会社フェムテック・アナリティクスのレポートによると、中東・北アフリカ(MENA)地域のフェムテック市場は、2031年までに38億ドルに達すると予測されている。

エジプトを含むMENA地域では、特に未婚の女性の身体について公の場で語ることがタブー視されるきらいがある。その結果、女性の性や生殖に関して誤った知識や情報が伝えられてきた。このような状況を打破すべく、2020年にエジプト人女性によって立ち上げられたフェムテック企業がマザービーイング(Motherbeing外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )だ。

同社は、性・生殖に関する正確な情報や、女性が健康のために必要とするサービス・製品へアクセスするためのオンライン・プラットフォームを、アラブの女性たちに提供している。2022年8月には20万ドルの資金調達ラウンドのクローズを発表済み。10月時点で、インスタグラムに40万人以上のフォロワーを抱えている。同社には日系VC(ベンチャーキャピタル)のサニー・サイド・ベンチャー・パートナーズも出資する。

ジェトロは、共同創業者のヌール・エマーム氏とユーセフ・サマア氏に、事業内容や今後の展開について聞いた(10月10日)。


マザービーイング創業者ヌール・エマーム氏(本人提供)
質問:
創業の経緯は。
答え:
私は、ドゥーラ(妊婦に対し、出産に関してアドバイスし心身をサポートする女性)としての経験を持ち、英国で性教育専門家としての認証を取得した。それらを通じて、アラブ女性が持つ自身の身体に関する知識と科学的事実との間に、ギャップがあると感じた。学校でも、性や生殖に関して適切に教育されていない。また、そのことに女性たち自身も無自覚な場合がある。
そこで、女性の身体や性に関して正確な情報を伝えるためのオンライン講座を始めることにした。
質問:
事業内容は。
答え:
事業は、オンラインでの情報提供プログラムと、EC(電子商取引)を通じた商品販売の2つの柱から成る。
オンライン情報提供とは、専門家による講座のことだ。この講座では、科学的事実に基づいた正確な情報を、医師などが伝える。10月からは、結婚を控えた女性向けに、4週間のプログラム「ブライダル・ブートキャンプ」を新たに開始する。この講座の受講料金は1,200エジプト・ポンド(約7,320円、1ポンド=約6.1円)。155人の申し込みがあった。マザービーイング内の性教育専門家が講師を務め、男女の身体や性交渉についての内容が含まれる。受講者には教材が提供されるほか、インタラクティブに質疑応答できる。また医師と協力して、在宅で血液検査を受けられるオプションサービスも提供する。
ECサイトでは、自社ブランド「BEAM」の商品を販売している。女性のセクシャル・ウェルネスの向上や心身のケアに関する商品が中心だ。商品は、提携する工場で生産している。例えば、香りが高くリラクゼーション効果のあるキャンドルは、シアバターやココナッツオイルなど天然由来のオイルが配合されている。火をともして溶けた後は、ボディオイルとして利用することができる。
質問:
文化・宗教と事業内容の抵触についてどう考えているか。
答え:
提供している情報は、科学に裏打ちされている。そうしたこともあって、事業に関する周囲の反応はポジティブだ。文化的なタブーを侵さない位置付けができていると考えている。実際、これまでに大きな抗議なども受けていない。
質問:
国外展開の状況や今後の展望は。
答え:
サービスは、すべてアラビア語と英語、2言語で提供している。
また、オンライン講座については受講者の30%がエジプト国外からの参加だ。例えば、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、シリアなどからの受講実績がある。性や生殖に関する知識普及が必要なのは、アラブ諸国に限らない。例えば、アフリカ諸国やインドやブラジルなどの開発途上国でも、大きなニーズがあると感じている。
ECサイトについては、2023年にかけて合計20の商品が追加される予定。現在は販売対象をエジプト国内だけに限定しているが、いずれはMENA地域に広げていきたい。
将来的にはオンラインにとどまらず、フラッグシップとなるクリニックを立ち上げたいと考えている。オンラインとオフラインの両方のサービス提供により、女性のための医療システム構築を目指している。
執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。

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