特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性日本食レストランと日本産食材の輸入は増加傾向(UAE)

2021年12月15日

日本食レストランの店舗数は増加傾向

ジェトロ・ドバイ事務所が2021年7月に行った調査では、アラブ首長国連邦(UAE)における日本食レストランの店舗として288店が確認された。2016年の調査では196店、2020年は272店だった。新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年には多くのレストランが営業を制限されたにもかかわらず、日本食レストランの店舗数は増加傾向にある。 UAEでは、和食全般を提供するレストラン、寿司(すし)やラーメンの専門店、居酒屋風レストラン、他国の料理と日本食を組み合わせたフュージョン系レストランなど、さまざまなタイプの日本食レストランが展開されている。


ラッフルズホテル内日本食レストランTOMO (ジェトロ撮影)

ラーメン専門店一幸舎
(ジェトロ撮影)

寿司を中心に人気の高い日本食

UAEの人口はさまざまな国籍からなり、UAE国籍を持つ住民は人口の1割程度である。しかし、この1割の自国民は、購買力をはじめ経済的・文化的に大きな影響力を有している。UAE自国民は親日的な人が多く、アニメや日本食など、日本の文化への関心が高い。UAE自国民でも箸を上手に使い、白米、みそ汁、生魚、うどんなどを食べる人が増えている。

また従来は、日本食レストランは高級店が中心であったことから、比較的裕福な層に人気があったが、ここ数年は比較的手頃な価格で食べられる日本食レストランが増えており、UAE自国民だけでなく、幅広い層にも親しまれるようになってきている。

UAEでも代表的な日本食といえば寿司で、288店のうち8割以上の日本食レストランが寿司を提供している。寿司を提供する店は、高級ホテル内にある日本食レストランから、モールなどで営業する寿司チェーン店まで、さまざまな形態があるが、近年はモールなどで営業するチェーン店が目立っている。こうした寿司チェーン店では、握り寿司よりも、カニかまぼこやとびっこを使用した、カリフォルニアロールのような裏巻きの寿司を中心に提供している。


現地で人気のカリフォルニアロール(弁当屋提供)

寿司以外に目立つ日本食としては、ラーメンが挙げられる。以前より日本食レストランのメニューの1つとして提供されていたが、最近はラーメン専門店が増加してきている。ラーメン専門店内に入ると日本語の表示があふれ、日本にあるラーメン店に入ったような雰囲気が味わえる。他方で、インスタントラーメンは庶民の間で親しまれており、どこのスーパーでも購入できるが、ほとんどは日本製ではない。

ご飯、みそ汁、おかずなどを組み合わせた「BENTO」も人気がある。UAEの日本食レストランの多くでは、定食を「BENTO」と表示しているが、これは、ドバイで展開する、ジェトロが運営する「日本産食材サポーター店認定制度」により認定を受けている「弁当屋」が語源と言われている。


弁当屋の外観(弁当屋提供)

焼き肉弁当(弁当屋提供)

日本産食材の輸入も増加

寿司人気の高まりに比例して、日本産食材の輸入も急激に増加している(表参照)。2021年1~10月のUAE向け輸出実績を、金額ベースで新型コロナ感染拡大前の2019年の同期と比べると、寿司ネタに使われるブリ(冷凍フィレ)は1.2%増にとどまっているが、マグロ(冷凍フィレ)は64.3%増、高級寿司に利用されるマグロ(冷蔵フィレ)は340.9%増だった。また、カリフォルニアロールに使われるかまぼこ等(カニかまぼこ等)26.9%増、キャビア代用物(とびっこ等)22.0%増、寿司には欠かせない焼きのり95.3%増、しょうゆ38.4%増と、多くの食材の輸入が伸びている。

寿司に使われる食材以外にも、当地ではオーストラリア産の「WAGYU」が高級牛肉として広く浸透しているが、日本産の和牛がさらに一段階上級のブランドとして市場で認識されている。現地の富裕層からも好まれており、同201.4%増と大幅に増加している。

またUAEでは、高級ホテルや一部の地区でアルコール飲料の提供が許されている。今まで高級日本食レストランを中心に飲まれていた日本酒は、居酒屋風レストランの進出によってより親しみやすい飲料となり、2021年に入って輸入量が大幅に増え、同228.2%増となった。このように、日本産食材の輸入はパンデミック前の水準を超えていることが分かる。

UAEでは、日本製食品に対して、高価であるが安全・安心な食品として信頼のブランド価値が浸透しており、外装に日本語表示のある商品に安心感を持つ人が多い。そのため、日本産でない食品の包装に日本語が表示されていたり、日本風の商品名を付けていたりする商品を見かけることもある。

ただし、UAEへ食品を輸出するための課題として、アラビア語での原材料などの記載が必須であり、かつ添加物を含めた原材料はハラルなどイスラム教のルールに従うことが要求されるので、注意が必要。また、新型コロナの影響などを受けて国際輸送コストが上がっている中で、日本からのUAE向け食品の輸送量は他地域に比べると少ないため、輸送コスト全体を抑えることが難しく、流通価格も割高になる傾向がある。さらに、日本食市場が広がる一方で、UAEでは外国産食材の取り扱いも増えているため、これらとの競合もある。日本産食材の輸出増加には、これらの課題への対処も必要となる。

表:主な日本産食品のUAE向け輸出の推移(単位:1,000円、%)
品目 2018年 2019年 2020年 2019年
(1~10月)
2021年
(1~10月)
増加率
ブリ(冷凍フィレ) 36,801 72,014 39,288 67,886 68,672 1.2
まぐろ(冷凍フィレ) 59,497 66,189 54,310 52,076 85,557 64.3
まぐろ(冷蔵フィレ) 23,263 11,275 11,697 8,247 36,364 340.9
かまぼこ等 166,039 151,724 100,165 118,692 150,599 26.9
キャビア代用物 94,149 120,681 56,909 93,697 114,347 22.0
焼き海苔 485 17,225 18,967 12,758 24,916 95.3
醤油 69,471 63,386 55,400 52,416 72,548 38.4
日本酒 58,856 54,854 37,659 38,415 126,093 228.2
牛肉 87,247 228,205 227,636 137,985 415,833 201.4

出所:財務省貿易統計

2021年12月現在、ドバイ国際博覧会(会期:2021年10月1日~2022年3月31日、ドバイ万博)が開催されており、日本館の敷地内では、回転ずしチェーン店「スシロー」が寿司を提供している。店内は日本のスシローそのもので、使用される食材はコメも含め多くの食材が日本から持ち込まれており、客は一時的に日本に滞在したような雰囲気を味わえる。

ドバイ万博開催中には、多くの観光客がUAEで増加する日本食レストランで日本食を食べることが期待される。特に中東地域からの訪問客が増加しているため、周辺国にも日本食への関心が高まることが予想される。

執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
反町 俊哉(そりまち としや)
1987年、農林水産省入省。2019年6月からジェトロに出向、ジェトロ・ドバイ事務所勤務。

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