特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性エドテックで若者の就業支援、教育機会格差の是正目指す(エジプト)

2023年11月1日

5億人超の人口を抱える中東・北アフリカ(MENA)地域は、人口の約半数が24歳以下の若者だ。2021年時点の平均年齢は25.4歳と、東南アジア(29.8歳)や南アジア(26.5歳)よりも若い。将来的には一層の人口増加やこれに伴う市場の拡大が見込まれる一方で、国連によると、MENA地域の若者(10~24歳)の失業率は全世界平均の2倍に上り、MENA地域は世界で若年層の失業が最も深刻な地域だという。

EYouthは、経済格差や都市・地方間の格差、語学能力の格差のために十分な教育機会に恵まれないMENA地域の若者の就業を支援すべく、エジプトで立ち上げられたスタートアップだ。アラビア語のオンライン教育プログラムを安価で提供することで、若者が就業に必要な能力を身に付ける支援を行っている。サービス提供国は中東・アフリカ地域の14カ国に及び、ユーザー数は200万人を超える。同社には日系VC(ベンチャーキャピタル)のサニー・サイド・ベンチャー・パートナーズも出資する。

ジェトロはEYouth創業者のムスタファ・アブド・エラーティフ氏に、創業の経緯や同社のビジネスについて聞いた(取材日:2023年10月3日)。


EYouth創業者のムスタファ氏(本人提供)
質問:
創業の経緯は。
答え:
私はエジプトのアシュート(注)出身で、都市・地方間の経済格差や英語能力の格差によって教育機会に恵まれず、職に就けない若者が多くいることを実感してきた。私自身も学生のころ、首都カイロに出て政治学を勉強したいと思っていたが、家庭の経済状況からカイロへの進学を諦めざるを得なかった。地元アシュートの大学で工学を勉強した後、奨学金制度を活用して米国で起業について学び、グーグルやフェイスブック(当時)でのインターンシップや、現地のインキュベーターなどとのネットワーキングの機会を得た。その際に、経済的・地理的理由で教育機会に恵まれない若者たちのために、オンラインで安価な教育コンテンツを提供するビジネスを思い立ち、ピッチで5万ドルの賞金を得たことが創業のきっかけとなった。
質問:
事業内容は。
答え:
主にMENA地域のアラビア語話者向けに、キャリア開発の教育プログラムをオンラインで提供している。プログラムは、労働市場のニーズ調査に基づいて自社で作成しており、グローバル企業や大学などの教育機関によるブラッシュアップを経て完成させた。受講者はプログラム履修後に試験を受け、80%以上の回答率を修了の条件としているが、この基準はグローバル企業にも通用する大変高いものだ。実際に、修了者の60%以上がプログラム修了後6カ月以内に就業している。プログラムの内容は多岐にわたるが、現在人気があるのはデジタルマーケティングだ。
質問:
サービス提供国によってビジネスモデルに違いはあるか。
答え:
プログラムの内容自体は国による違いはないが、各国のローカル言語話者の講師を起用して言語障壁をなくしている。アラビア語がメインだが、一部コンテンツについては英語やフランス語も用意している。
ビジネスモデルとしては、BtoCとBtoB(もしくはBtoG)の2種類の形態がある。BtoCは、受講者が1つのコースを受講するごとに、EYouthに支払いを直接行う。BtoB、BtoGは企業や政府機関が顧客となり、従業員らの教育のためにEYouthのコンテンツが利用されている。BtoCとBtoBで教育プログラムの内容自体には違いがなく、契約の主体が異なるだけだ。
例えば、「ビジョン2030」の中で全国民の雇用実現を掲げるサウジアラビアでは、サウジアラビア政府が顧客となり、自国民の就業支援のためにEYouthのコンテンツが利用されている。また、アラブ首長国連邦(UAE)でも同様に、UAE政府が自国の教育機関にEYouthのコンテンツを導入することを決定した。これらの国では教育サービスは国から提供されているので、個人の顧客が教育コンテンツに支出することは考えにくい。そのため、BtoGのビジネスモデルとしている。
一方で、エジプトでは個人の顧客も多く、サウジアラビア政府やUAE政府とはコスト意識が異なる。そのため、教育プログラムの料金は国によって違いをつけている。サウジアラビアやUAEではエジプトよりも高額な設定としているが、それぞれの国の自国民を講師として起用し、ローカルの言語でコンテンツを提供することが付加価値となっている。さらに、ローカル講師の起用は顧客の政府が推進する自国民主義とも合致するものだ。
質問:
教育コンテンツの配信のほかに、キャリア支援サービスは実施しているか。
答え:
EYouth はMENA地域の約800社からなるコミュニティーを形成しており、講座修了者と企業をマッチングさせる無料のサービスを提供している。マッチングは勤務地や修了者の適性、企業側の採用条件などの項目を分析して実施しており、AI(人工知能)を活用して最適化を図っている。
質問:
資金調達や収益の状況は。
答え:
120万ドルの資金調達を完了し、現在はシリーズAの段階だ。既に200万人のユーザーがおり、売り上げは年間850万ドルほどある。売り上げはサウジアラビアやUAEが大きいが、ユーザー数が多いのはエジプトだ。社会起業家として、若者の就業を支援するというミッションを達成するため、利益性を確保しつつ、多くのユーザーに教育機会を提供したいと考えている。

注:
エジプトの首都カイロから400キロほど南に位置する地方都市。
執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。

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