特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性日本の人気アニメの正規版をネット配信(サウジアラビア)

2021年7月12日

サウジアラビアでは、スマートフォンの普及率が2017年時点で126.7%〔サウジ情報通信委員会(CITC)〕と高く、1人で2台以上端末を持つ者も多い。ほとんどがスマートフォンと切っても切れない日常生活を送っているが、スマートフォン上で楽しむオンラインコンテンツとして、ゲームに並んで人気があるのがアニメだ。アニメ配信ビジネスの競争が激しさを増しつつあるが、「shufu.tv」は日本のアニメに特化している。

shufu.tvを運営する77 mediaは、見本市の運営や広告代理店業務を手がける在ジェッダの7H Holdingのグループ企業で、ヒラール・アルハリス氏が社長を務める。映画・映像の見本市「TIFFCOM」や、アニメの大規模イベント・展示会「アニメ・ジャパン」に参加し、日本アニメの版権元と積極的に商談を行う同氏に、同社の事業や工夫、サウジアラビアにおけるコンテンツ配信の最新事情、市場の特徴や日本企業へのアドバイスについてインタビューした(2021年6月22日)。

正規版の日本のアニメを配信

質問:
shufu.tvとは。
答え:
インターネットを通じて日本のアニメを配信するビデオオンデマンド(VOD)のプラットフォームだ。ティーン以上の年齢層をターゲットとするアニメ作品を取りそろえ、キッズ向けは扱っていない。サービスのジオブロック(視聴国を限定する機能)によって、現在はトルコとイランを除く中東と北アフリカ(MENA)地域のアラビア語圏18カ国でshufu.tvの利用が可能だ。
これまで複数の日本の版権元と契約を結び、2018年から視聴ごとに課金する都度課金(TVOD)方式で、試行的にサービスを提供してきた。現在は、TVOD方式のサイトを稼働しながら、無料で視聴が可能な広告付き動画配信(AVOD)方式への移行を進めている。AVOD方式の配信に同意してもらえる作品の数が一定数に達したら、AVOD方式のサイト稼働を正式に開始する予定だ。

shufu.tvを運営する77 mediaのヒラール・アルハリス社長(本人提供)
質問:
配信方式を変更する理由は。
答え:
インターネットを通じたアニメ配信ビジネスの手ごわい敵は、海賊版サイトだ。それらのサイトでは、新作アニメが日本で放映されるや否や、最も早い場合は約2時間で字幕付きのコピーがアップロードされる。彼らと競争することは簡単ではない。日本での放映と同時に配信をスタートさせるなどの工夫にも取り組んでいるが、独自のコンテンツを持たず、現地での知名度もまだ低い配信サイトが課金方式でビジネスを成り立たせることは困難だ。また、TVOD方式では、一般的に版権元に視聴数の最低保証を付けなくてはならないため、経営の面からは不利になる。
一方、AVOD方式では、版権元の理解が得られれば最低保証を付けずに作品ラインナップを増やすことが可能だ。無料で品質の高い正規版を配信しながら、海賊版サイトと戦っていくしかないと判断した。

政府の規制に従いながら、幅広いジャンル提供

質問:
サウジアラビアで人気のある日本の作品やプラットフォームは。
答え:
何といっても人気が高いのは「ONE PIECE」だ。最近ではテレビ放映もスタートした。「ドラゴンボールZ」や「名探偵コナン」「ワンパンマン」「銀魂」も人気がある。日本のアニメ以外では、韓流ドラマや、米国の「マーベル」などの実写版も人気だ。
大手の配信プラットフォームで人気があるのはネットフリックスだ。そこでしか見られないオリジナル作品もあり、多くの視聴者を引き付けている。アマゾンに関しては、アラビア語のコンテンツを最近手がけ始めたばかりということもあり、まだそれほど多くの利用者があるとはみていない。
質問:
流通するコンテンツに制約はないか。
答え:
ビジネスを継続するに当たり、政府の規制に従うことは当然だ。政治的な主張を伴うものや、イスラム的価値に反するコンテンツはshufu.tvの取り扱いの対象外にしている。肌の露出が極度に多いものもタブーだ。一方、程度にもよるが、暴力的な描写が多少含まれる作品や、恋愛を取り上げる作品は許容される。一番人気があるのはアクション作品で、次いでコメディーが続く。ミステリーやホラーもとても人気がある。実は、グロテスクな表現の作品にも人気が集まっている。

日本の高い品質を保ったままローカライズすることが重要

質問:
なぜ日本のアニメなのか。
答え:
品質が優れていることが大きな理由だ。画質のみならず、ストーリーの多様性、オリジナリティーなど、全てにおいて日本のアニメは世界トップの品質を誇っている。また、多くのサウジアラビア人が日本のアニメに親近感を持っていることも理由の1つだ。過去にも日本のアニメがアラビア語に吹き替えられてテレビ放映されたことがあるため、幅広い年齢層のファンが存在する。アニメといえば日本、というサウジアラビア人は多い。
質問:
市場参入を狙う日本企業へのアドバイスは。
答え:
字幕を付けるにせよ、吹き替えを行うにせよ、ローカライズする際に作品の質を落とさないよう注意することが重要だ。特に、ダビングの際に画質が落ちないよう気を付ける必要がある。吹き替えであれば、声優にもこだわるべきだ。また、配信予定のアニメに関連するキャラクターグッズがある場合は、タイミングを合わせてサウジアラビアでも販売すべきだ。グッズの売り上げは収益に大きく貢献する。
質問:
Shufu.tvと提携するメリットは。
答え:
Shufu.tvはまだ国内の知名度はそれほど高くないため、版権元に対して最低視聴回数を約束しない代わりに、提携する日本企業のビジネスリスクをできるだけ小さくする工夫を凝らしている。Shufu.tvに作品を掲載しても、他の配信サイトとも自由に契約してもらって構わないし、コンテンツのサイトへの掲載期間も自由に選んでもらえる。売り上げは双方で合意した割合で分けるかたちだ。
ネットを通じたアニメ・コンテンツへのアクセスが便利になった今、海賊版サイトと戦うためにも、正規のコンテンツを広めるわれわれのような配信会社に、日本企業にもぜひ協力してもらいたい。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所長
庄 秀輝(しょう ひでき)
1991年、ジェトロ入構。貿易不均衡是正に資する事業、アジア諸国との産業交流事業、企業の海外展開支援、日本産食品の輸出促進事業などに携わる。これまでの駐在地はクアラルンプール(マレーシア)、シカゴ(米国)。2013年7月からリヤド駐在。2017年7月から現職。

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