特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性国外で高評価のアニメ制作会社、さらなる受注に意欲(イラン)

2022年2月22日

イランはイスラム教国のため、街中にイスラム教のモスクが建ち並び、テヘランでは伝統的な身なりをしたイスラム法学者もよく目にする。一方で、ショッピングモールには欧米的なデザインのファッションが並び、テレビでは外国のドラマが流れ、書店では日本の漫画が人気を博しているのも事実である。

こうした中、2008年に設立された民間のアニメ制作会社フーラフシュ・スタジオ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、制作したアニメ「ラスト・フィクション」が国内の賞を多く受賞し、2018年の米国アカデミー賞のアニメ部門でも最終選考の一歩手前まで進むなど、国外からも高い評価を受けている。イランでは米国の経済制裁の影響もあり、現状では日本からの新規ビジネス開始が難しい状況にあるが、同社のエグゼクティブダイレクターであるアシュカン・ラグザ氏に、イランのアニメ市場や、日本企業との協力可能性について話を聞いた(2021年12月19日)。


フーラフシュ・スタジオのFounder Executive Director アシュカン・ラグザ氏
(フーラフシュ・スタジオ提供)

国内外の賞を受賞した「ラスト・フィクション」
(フーラフシュ・スタジオ提供)
質問:
フーラフシュ・スタジオについて。
答え:
当社はイランで最大のアニメーション制作会社の1つと自負している。現在、140人のアーティストと専門家、それに管理部門の担当者で運営しており、映画やドラマ、アニメの企画・制作が主な業務だ。ほかに、他社や外部のプロデューサーからの制作依頼への対応、関連グッズの製作などを中心に営業している。
質問:
イランでコンテンツ企業が成長している背景は。
答え:
近年のイランでのアニメなどコンテンツ企業の成長には、2つのポイントがあると考える。1つ目は、VOD(ビデオ・オン・デマンド)プラットフォームが発達していること。これにより、視聴者は好きな時に好きなコンテンツを視聴できるようになった。また、視聴者の選択肢も増え、世界的に市場が大きく広がった。イランでも「FILMO」や「NAMAVA」といったVODプラットフォームが活発に活動しており、わが社も今後、そういう事業に参入することを予定している。
次に為替レートだ。以前に比べてイラン・リアルの対ドル、対ユーロの為替レートはかなり下落しているため、イランでの作品制作が他の国で行うよりもはるかに安価となる。 このため、外国の投資家やコンテンツ制作者がわれわれイランの企業とのビジネスに関心を高めている。実際にわが社の売り上げのかなりの部分は外国向けの物となっている。
もちろん、外国の顧客の求めに応じられるだけの技術力は必要だが、わが社にはその技術力があると認識している。
質問:
新型コロナウイルス感染拡大の影響は。
答え:
実写映画の制作分野では、非常にマイナスの影響があったが、アニメーション制作の分野では、アーティストなどのリモートワーク体制を迅速に構築できたため、それほど大きな問題はなかった。 一方、外出自粛や自主隔離といった動きはVODやTVプラットフォームでのコンテンツの需要を急速に増加させたため、その需要に対応できる企業を成長させ、結果として業界全体を成長させたと言えるのではないか。
質問:
日本のアニメについて。
答え:
イランではアニメは非常に人気で、日本のアニメはイランの若年層、特に10代の間で多くの視聴者を集めている。また、イランのアニメ産業で現在働いている多くのアニメーションアーティストは日本のアニメから影響を受けている。彼らはインターネット上の交流サイトなどを通じて、互いに最新の日本アニメを分析・批評し、意見交換している。わが社自身も日本のアニメ映画に大きな影響を受けており、日本のアニメを見て分析することで多くのことを学んだ。これからも日本のアニメのノウハウを学んでいきたいと思う。
質問:
経済制裁が緩和された場合になると思うが、日本企業との協力は。
答え:
例えば、わが社は制作部門として日本企業に協力できる。わが社には技術があり、為替レートの影響もあるので、わが社に発注してもらえば、日本で制作するよりも安く対応できる。さらに今後、わが社はアニメのネット配信サービスを2022年4月に開始する予定もあるので、わが社のプラットフォームを通じて日本アニメをイランで配信することもできる。
質問:
日本企業からの投資受け入れ、あるいは技術購入、供与、共同研究に関心は。
答え:
日本企業が投資をしてくれるのであれば歓迎する。また、共同研究・開発あるいは日本からの技術購入については、可能性はあると考える。しかし、残念ながら、現在の為替レートの状況を考えると、イランの民間企業には日本の技術などを購入するだけの力はない。従って、もし日本企業の関心が技術の販売にあるのならば、イラン国営企業に対して行うべきだろう。
質問:
イラン市場の問題点は。
答え:
イランは万国著作権条約の加盟国ではなく、著作権に関するリテラシーが低いのが大きな問題だ。外国の作品を違法ダウンロードして公開しているような例も見受けられる。ただ、外国企業とわれわれの共同制作品の場合、イラン国内に著作権者であるわれわれがいるので、違法にダウンロードされにくく、また、共同作品で違法ダウンロードされた場合、イラン国内にいるわれわれが法的なフォローをできるのが強み。文化・イスラム指導省などの政府機関も、国内製品の保護には協力してくれると考える。
質問:
貴社の今後のビジネスの展望は。
答え:
国際共同プロジェクトに参加できるよう、技術的・芸術的により努力し、また、スタジオ内での研修などを通じて、わが社のレベルアップの必要があると考えている。過去8年間でわれわれは外国市場からの受注に成功しており、これまでにフランスやドイツなどとのビジネスで成功を収めてきた。今後もわれわれは、より多くの外国企業との関係を築き、低コストで高品質な制作を行うことで、国際市場での地位を拡大していきたいと考えている。また、こうした活動を通じて、イラン国内の競合企業である国営のコンテンツ制作会社との差別化も図っていきたいと考えている。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所長
鈴木 隆之(すずき たかゆき)
1997年、ジェトロ入構。展示事業部、産業技術部、アジア経済研究所、ジェトロ高知、ジェトロ愛媛などを経て2020年から現職。海外はラゴス(ナイジェリア)、ロンドンに駐在。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所
マティン・バリネジャド
2018年からジェトロ・テヘラン事務所勤務。ビジネス短信や各種調査、展示会などを担当。

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