特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性制裁下でもスタートアップが発展(イラン)

2022年4月28日

世界では、配車アプリのウーバーやeコマースのアマゾンなど、大手有名企業が各種サービスを提供している。一方、米国による経済制裁下にあるイランでは、これらサービスは利用できない。では、イランでは類似のサービスがないのかというと、そうではない。米国のウーバーと同様のサービスを提供する「Snapp!」、アマゾンと同様のサービスを行う「digikala」など、イラン国内の企業が発展を遂げている。

では、スタートアップを含む新興企業をめぐる現状や問題点をどう捉えれば良いのか。また現状では新規ビジネス開始は難しいにせよ、中長期的に米国による経済制裁が緩和された場合に日本との協業可能性はあるのか。これらについて、イラン商工会議所スタートアップ委員会委員長兼イラン・ナレッジ・ベース連合協会会長、アフシン・コラヒ氏に話を聞いた(2022年3月9日)。


イラン商工会議所スタートアップ委員会委員長兼
イラン・ナレッジ・ベース連合協会会長のアフシン・コラヒ氏(本人提供)
質問:
イラン・ナレッジ・ベース連合協会について。
答え:
当協会は、2013年に科学技術担当副大統領とイラン商工会議所の協力で設立された。現在、50以上の協会が加盟している。ナレッジ(知識)ベースの企業や産業に関する情報発信、新規事業者への研修、展示会の主催、企業向けのコンサルティングなどを担っている。
質問:
イランのスタートアップを取り巻く環境は。
答え:
世界知的所有権機関(WIPO)によるグローバルイノベーション指数(GII)をみると、イランの2021年のランクは世界60位だ。2015年の106位から順位を上げてきた。順位は、今後もまだ上げられると考えている。
イランでも、スマートフォンの普及が著しい。しかし、2020年のスマートフォン普及率は84%。日本(注1)などと比べると低く、こちらもまだ伸びると考えられる。それに伴い、ICT(情報通信技術)ビジネスも拡大の余地があると見ている。
GDPに占めるデジタル経済の割合は、2021年度時点で6.9%だった。この割合も、世界平均の22.5%を大きく下回る。そんなイラン国内でもオンライン・ショッピングは、盛んになってきた。とはいえ、世界のオンライン小売りビジネスに占めるイラン市場の割合は、3.2%とまだ小さい。
これまで、イランのスタートアップは、ある程度の成長がみられた。しかし先に述べたことからすると、さらに伸びる余地があると考えている。
質問:
イランのスタートアップの発展について。
答え:
イラン初のインキュベーターが設立されたのは、2000年のことだった。それからの22年間で、インキュベーターは240を数えるまでに至った。2012年ごろからナレッジ・ベースの企業が目立ち始め、ベンチャーキャピタル(VC)が活動を始めるなど、イランのスタートアップにも躍進がみられるようになった。
現在、6,500のナレッジ・ベース企業がイランで正式に登録されている。そのなかで割合が最も大きいのはICT関連で、1,300社以上ある。次が先端技術機器で1,100社以上だ。それらナレッジ・ベース企業全体の年商は約120億ドルで、約50万人の雇用を創出する。当該分野は、成長してきている。
また、スタートアップは7,000以上あり、その約19%をeコマースが占める。次いで教育分野の7%、観光分野6%、メディア・コンテンツ5%が続く。
ご存知のとおり、イランは米国の経済制裁を受けている。そのため、アマゾンやネットフリックスなど、世界的に有名なサービスは利用できない。しかし、例えばイラン版のアマゾンとして「digikala」、イラン版ネットフリックスとして「NAMAVA」や「FILIMO」などがある。また、ウーバーの代わりなら「Snapp!」だ。このように、スタートアップやスタートアップから成長した企業が、同様のサービスを提供している。世界的な企業がイラン市場に入ってこない代わりに、こうした国内のスタートアップが成長しているところが極めてユニークと言えるだろう。こうした企業の成長が、イランのスタートアップ業界を牽引していくと考える。今後もさらなる成長が期待できるので、各種支援策で後押ししていきたい。
質問:
イラン市場の問題点は。
答え:
1番の問題は、米国による経済制裁により、海外との交流が少なく、ビジネスがスムーズにいかないことだ。しかし、核合意(注2)再建をめぐる米国とイランの間接協議がまとまり経済制裁が緩和されると、こうした問題は解決できると期待している。
次に、イランでは巨大国営企業が多く、独占的な市場になりがちなことだ。プライベートセクション、特にスタートアップにしてみると仰ぎ見るような大手企業が競争相手になり、正面から戦っても市場競争に勝てない。こうした点は、改善していかなくてはならない。
また、著作権に関するリテラシーが低い。イランは、万国著作権条約の加盟していないのだ。もっとも最近では、この問題は改善されてきてはいる。
質問:
新型コロナウイルス感染拡大の影響は。
答え:
イランでもスーパーや店舗に直接買い物に行く人が減り、オンラインショップやオンライン小売りビジネスの利用が増えた。これは、新型コロナ感染拡大に伴う他国同様の傾向と言える。また、テレワーク関連アプリなどを提供するスタートアップに注目が集まり、コロナ禍で成長した。
質問:
米国による経済制裁が緩和された場合、日本企業との協業に関心は。
答え:
海外からの投資誘致は、商工会議所とイラン貿易振興庁(TPO)で1番の目標・目的だ。もちろん、日本からの投資受け入れにも関心がある。
商工会議所とTPOは、今年は特に、ナレッジ・ベース企業を合同で設立するなど、海外企業との関係構築を目標としている。日本の企業と共同で、イランや第三国にナレッジ・ベース企業を設立することができればと考えている。
イランのスタートアップ市場はまだ新しく、伸びしろが大きい。また、経済制裁の影響で海外からの企業進出が進んでおらず、大手を除けば競合が少ない。そのため、地場スタートアップが活躍できる余地は極めて大きい。こうした点から、日本企業にもぜひ、制裁緩和などを見据えた中長期的な視点から、将来的なイランのスタートアップに対する投資を視野に入れていただきたい。

注1:
NTTドコモ・モバイル研究所の調査によると、2021年1月で92.8%。
注2:
ここで言う核合意は、包括的共同行動計画(JCPOA)を想定したもの。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所長
鈴木 隆之(すずき たかゆき)
1997年、ジェトロ入構。展示事業部、産業技術部、アジア経済研究所、ジェトロ高知、ジェトロ愛媛などを経て2020年から現職。海外はラゴス(ナイジェリア)、ロンドンに駐在。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所
マティン・バリネジャド
2018年からジェトロ・テヘラン事務所勤務。ビジネス短信や各種調査、展示会などを担当。

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