特集:変わりゆく中東とビジネスの可能性「ラストワンマイル・デリバリー」に電動式車両を提供(UAE)

2021年8月11日

ワン・モト(One Moto)は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイを中心に、電動軽自動車・バイク・自転車・キックボードなどのEV(電気自動車)を開発・製造・販売するスタートアップだ。物流やホスピタリティ関連の企業向けに、デリバリーなどの「ラストワンマイル(注1)」において、経済性や環境負荷軽減の観点から、電動式車両という選択肢を提供する。中東では欧米に比べて、環境対策や「持続可能な開発目標(SDGs)」を重視する企業はまだ多くはないが、その先達となっている。創業者の英国出身のアダム・リッジウェイ氏に、事業内容、ドバイをビジネス拠点とした理由、ドバイのビジネス環境などについて話を聞いた(2021年6月6日)。


ワン・モト創業者のアダム・リッジウェイ氏(本人提供)
質問:
ワン・モトの事業内容は。
答え:
ワン・モトは、中東地域初の電動自動車・バイクなどEVの開発・製造・販売企業として、「ラストワンマイル・デリバリー」に利用できる短距離用の車両の電動化に事業のフォーカスを当てている。私が創業し、出身地であるロンドンで研究開発を始めてから5年が経った。
製品は目的別に、電動式のバイク、キックボード、自転車、バン(軽自動車)などのラインナップを持っているが、UAEで最も人気があるのは、デリバリー用バイク「byka」とデリバリー用のバン(軽自動車)「deliva」だ。デリバリー用EVの人気が高い理由は、ドバイの道路には私が知る限り毎日1万5,000台ほどのガソリン・バイクが走っており、その多くがデリバリー向けに使われているからだ。経済性や環境負荷軽減という面からも、このデリバリーの「ラストワンマイル」にEVを導入することには、企業にとっても大きなメリットがある。
UAE国内の顧客も確実に増えている。顧客の90%が物流関連で、デリバリー業務が発生するホスピタリティ関連の企業が多い。例えば、ホテルや飲食店を多く運営するジュメイラ・グループは、一部の飲食店のデリバリーで当社のバイクを導入している。同社は、バイクをEVに転換したことで、バイク1台あたり1年間で約1万5,000ディルハム(約45万円、1ディルハム=約30円)を節約できると説明している。他にも、Eコマースの関連企業、スーパーマーケットチェーンなどの顧客がいる。
ビジネスモデルは顧客によって変えている。直接販売、販売・代理店契約、リース、バッテリー交換などのアフターサービス、フランチャイズ生産などがある。また、運転手の健康状態や安全を管理するデータ分析サービスも行っており、サブスクリプション(定額払い)形式で契約している。
質問:
最初の市場としてUAE・ドバイを選んだ理由は。
答え:
UAEや近隣国にはデリバリー文化が新型コロナ禍以前から浸透しており、Eコマースなどの物流サービスの役割が大きい(注2)。従って、「ラストワンマイル」デリバリーの部分にも高いニーズが存在すると考えた。我々のビジネスが良いポジションを築き始めているのも、この地域ならではだと思う。
ただ、そもそものきっかけは、ドバイに住んでいた叔父がロンドンを訪れた際に、ドバイのビジネス機会やライフスタイルについて話してくれたことだった。それからドバイの市場や文化、言語、ビジネス立ち上げの方法などを調べてみたところ、国のリーダーたちが持つビジョンや、ドバイのインフラ、ここ数年のさまざまな発展について知り、チャンスにあふれた場所だと感じた。
結果的に、ドバイに移住してきたことは人生において最良の決断だったと思っている。ビジネスの機会にあふれているというだけでなく、ドバイに住む人々が持つ恩返しの心や、他者を助けようとするオープンマインドな文化も、自分と共鳴した。
質問:
SDGsという観点からは、UAE・ドバイには他市場と比べて特別な機会があるか。
答え:
もし5年前に同じ質問をされていたとしたら、「ノー」と答えていただろう。「サステナビリティ」という言葉はほとんど聞かれず、電動自動車やモビリティに対してのインセンティブもほとんどない状況だった。製造業や関連オペレーション、組み立て、そしてリサイクルを促進する努力も、高くつくコストやインフラ上の課題によって成功しなかった。しかし、2017年以降は、ドバイ政府がイニシアティブをとり、サステナビリティへのコミットメントを謳い、意識を高める取り組みが官民問わず盛んに実施されるようになってきた。
現状でも、環境対策や「持続可能な開発目標(SDGs)」を重視する企業や消費者はまだ多くはないが、将来的に「SDGs」が政府の環境対策アジェンダに加えられていくことは間違いなく、消費者の意識が向上することは確実とみており、今後のさらなる機会拡大に期待している。
質問:
ビジネスを行うにあたって、UAE・ドバイの優位性は。また、製造・オペレーション拠点としての特徴は。
答え:
ビジネス機会の多さと操業の自由度が、ドバイの優位性だと思う。さらに2021年6月、連邦政府は、今まで規制してきたフリーゾーン以外での外国企業の100%出資会社設立を許可する法改正を行った。過去15年来、検討を重ねてきたことが、ついに実行に移されたことにより、外国企業は今後、UAE国内での経済活動をより自由に行うことが可能になるとみている。
サステナビリティを考慮した製造業の視点としては、正直に言うと、環境対策の補助金や税制優遇が充実している国は、UAE以外にも多くある。我々も当初はそのように考え、製造・組み立てはUAE国外で行う計画だった。しかし、現在は少し考えが変わってきており、UAE国内で製造するための準備を始めている。UAEや湾岸協力会議(GCC)諸国の近隣国でマーケットが育つに従い、サプライチェーンの効率性が向上し、輸送距離の短縮を図ることで、海上輸送にかかるCO2(二酸化炭素)排出量を低減し、カーボンオフセット(CO2削減努力)に寄与するなどの利点を多く生み出せると考えているからだ。当社としては、国連が示すSDGsに沿ったビジネスを進めていきたいと考えている。
質問:
国外への展開は。また、その計画は。
答え:
これからの計画は、まずは前述のとおりUAE国内で製造拠点を設立することだ。また、最近、インドへの進出を発表したところで、インドにも製造拠点も構える予定だ。その次に、MENA地域内の大市場であるサウジアラビア、エジプトを狙っている。将来的には、オーストラリア、南アフリカ共和国、そして東アジアにも展開すべく準備を進めている。我々の展開計画として、「2025年までに100都市」を掲げており、それに向けてちょうど軌道に乗り始めたところだ。日本も、我々としても関心の高い市場で、実はすでにいくつかのパートナー候補と、ディーラー・代理店契約について議論を始めている。
それぞれの国の特性に応じて、需要のある製品ラインナップは異なってくる。例えば、欧州やアジアでは、我々の製品は通勤需要にフィットする。UAEで生産した製品はGCC諸国や北アフリカ、南部アフリカに向けて出荷するが、他の市場では現地に合った需要に従って、現地生産したものを供給していく計画だ。

注1:
顧客(エンドユーザー)に商品を届ける、物流サービスの最後の短い区間のこと。
注2:
UAEや近隣諸国は、夏が非常に暑く、車文化のため、レストランや食材店からのデリバリーサービスを利用する土壌が根付きやすい背景があった。UAEでは、米アマゾンや地場ヌーンなど巨大なEコマース企業も存在し、フードデリバリーやEコマースに関連したスタートアップの企業数、資金調達金額も大きい。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
山村 千晴(やまむら ちはる)
2013年、ジェトロ入構。本部、ジェトロ岡山、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2019年12月から現職。執筆書籍に「飛躍するアフリカ!-イノベーションとスタートアップの最新動向」(部分執筆、ジェトロ、2020年)。
執筆者紹介
ジェトロ・ドバイ事務所
ガーダ・アシュラフ
カイロ大学卒業後、6年間の調査会社での勤務等を経て2016年4月ジェトロ・ドバイ事務所入所。大学ではマーケティングを専攻。

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