特集:外国人材と働く外国人材が本国との懸け橋に(京都)
従業員の3分の1以上が外国人のゲートジャパン

2020年3月10日

「人手不足倒産」という文字が新聞紙面をにぎわすなど、人材確保に苦労している中小企業は多いのではないだろうか。その中で、海外人材を活用し、社員の意識改革や業容拡大に成功している企業がある。その取り組みを紹介する。

京都府は海外からの観光客が多く、また留学生数も全国4位の1万3,230人(2018年5月時点)に上る(日本学生支援機構「平成30年度 外国人留学生在籍状況調査結果」)。企業による外国人材登用も増加傾向にあり、京都労働局によれば、京都府の外国人労働者数は1万7,436人(2018年10月時点)と、2007年に届け出が義務化されて以来、過去最高を更新している。国籍別にみると、中国(33.9%)およびベトナム(20.2%)が多く、フィリピン(7.0%)、韓国(6.6%)、米国(4.5%)がこれに続く。

一方で、中小企業経営者にとっては、人手不足が大きな課題となっている。京都市が行った「京都市中小企業経営動向実態調査」(2019年12月)によると、人手不足(30.5%)は、売り上げ不振(48.9%)、人材育成(45.2%)、競争激化(31.0%)に次ぐ、経営上の大きな不安要素となっている(図参照)。

図:経営上の不安要素
売上不振 48.9%、人材育成 45.2%、競争激化 31.0%、人材不足 30.5%、人件費増加 27.3%。

注:複数回答であるため、各回答の合計は100%にならない。
出所:「第132回京都市中小企業形成動向実態調査」(2019年12月、京都市)を基にジェトロ作成

こうした中、従業員の3分の1以上が外国人という中小企業がある。各種部品・金型の設計製作などを行うゲートジャパン(京都市伏見区)だ。200社近くに及ぶ国内外の協力工場を有し、安価で安定した供給力を確保している。外国人材採用を推進してきた西澤耕一代表取締役に話を聞いた(2020年1月20日)。

質問:
外国人材の採用時期は。
答え:
10年ほど前から始めた。それ以前は、日本語でのやりとりが行える海外の協力工場を活用してビジネスを行っていたが、さらなる事業拡大のために外国人材の自社採用を始めた。
質問:
外国人材の国籍は。
答え:
中国人が6人、韓国人3人、イタリア人1人、ベトナム人1人、タイ人1人。従業員数が全体で35人なので、従業員の3分の1以上が外国人である。

ゲートジャパン本社の様子。写真の6人中4人は外国人材(ジェトロ撮影)
質問:
どのようなルートで外国人を募集しているのか。
答え:
主にハローワークだが、ほかにも京都ジョブパーク(注1)や語学学校からの紹介もあり、さまざまなルートを活用している。採用時には、職務記述書(ジョブディスクリプション)を作成し、業務内容や職責を具体的に説明する。その点で、日本人の総合職採用とは異なる。
質問:
今後の外国人材の採用予定は。
答え:
事業拡大に伴って、景気も考慮しつつ、年5人のペースで増やしていきたい。これまで、外国人材を定期的に採用している実績が評価されており、応募者数も増えてきている。語学学校などとのコネクションや、求人サイトからの信頼を得て、そこから次の外国人材登用につながっていくため、継続的な採用が重要だと考えている。
質問:
外国人材の担当業務は。
答え:
内勤営業や、管理物流、出荷梱包(こんぽう)など幅広い。中国人のうち、1人は管理職を務めている。協力工場の数が最も多い中国とのやり取りについては、中国人材は欠かせず、彼らがいることによって、細かい仕様のやり取りなどをスピーディーに行うことができている。またタイ人は、今後設立を予定している現地法人の主要メンバーとして採用を決めた。今後も海外への販路拡大を目指しており、外国人材については、将来的に2国間の橋渡しをできる責任者になってもらうことを期待して採用している。

出荷作業を行うイタリア人スタッフ(ジェトロ撮影)
質問:
外国人材の定着率は。
答え:
年棒制を採用しており、1年ごとの契約更改だが、自ら退職したのはこれまで1人で、定着率は高い。定期的に面談して、要望のすり合わせを行う。中には、10年選手もいる。
質問:
外国人材の日本語レベルはどうか。また、教育はどのように行っているのか。
答え:
ほとんどがN1で日本語は流ちょうだが、N2も数人おり、N3の人もいる(注2)。N3レベルの人材は顧客の名前を覚えることから始め、同国出身の先輩がいれば、彼らが日本語を教える。社内言語は日本語なので、そうした語学教育やOJT(職場内訓練)も日本語で行うことで、日本語と業務を合わせて学習してもらうようにしている。
質問:
外国人材についての印象は。
答え:
向上心が強く、責任感もある優秀な人が多い。また、話し方がストレートだ。日本人は持って回った言い方をする場合が多いが、彼らは結論から話す。その分、意見のぶつかり合いは頻繁に生じるが、かえって仕事が早く進むので助かっている。良い話も悪い話も早く進む。彼らと話すことで、逆にいかに日本が特異かということに日々気付かされ、独特の商慣習や、日本でしか通用しないルールが多いと感じさせられる。
質問:
社内交流のための制度などは。
答え:
社内の風通しを良くするため、本社移転を機に、フリーアドレス制度を導入した。フリーアドレスをうたうだけでは席が固定化してしまうので、週に1度くじで座席を決める。仕事にメリハリがつくほか、定期的に席を移動すると分かっているので、社員がデスクを整理するようになった。
質問:
外国人材を活用して業容拡大につながった事例は。
答え:
海外展示会に出展する際、自社の製品を理解し、現地語を話せるスタッフの存在は欠かせない。今期は、タイのMETALEX 2019に出展した際に、タイ人スタッフを同行させて現地企業と商談をしたことにより、受注につながった。

取材後記

ゲートジャパンによる外国人材の定期的な採用は、地元自治体に評判となり、応募者数が増加するなどの好循環が生まれている。同社の取り組みとして、採用後の細やかなケアに着目すべきだろう。採用時に業務内容を詳細に説明することにより、業務認識のズレを防止しているが、採用後も定期的な面談を行い、互いのニーズを把握した上で仕事に臨んでいる。こうした密な社内交流と要求のすり合わせこそが、高度外国人材の定着率を高め、活用する秘訣であると考えられる。

また、ゲートジャパンが、外国人材を本社の管理職や現地法人の責任者などの重要ポストに登用していることにも注目したい。このことによって、外国人材全体のモチベーションが向上し、戦力強化を呼んでいる。採用した外国人材に対して会社における将来像を示すことが、結果として、高い定着率に表れている。

「外国人材を採用することによって、日本人社員も休日に英語を勉強するなど、従業員の意識改革にもつながっている」と西澤氏は話す。社員の意識改革や業容拡大に貢献している外国人材は、ゲートジャパンのビジネス展開にとって欠かせない存在となっている。


フリーアドレス制度を導入している本社オフィスの様子(ジェトロ撮影)

注1:
京都府が設置している公共施設で、ハローワークと提携し、相談から就職、職場への定着までをワンストップで支援する総合就業支援拠点。
注2:
日本語能力検定試験の最上級で、幅広い場面で使われる日本語を理解することができるレベル。N1~N5まで5段階のレベルに分かれている。N1が最も高い。
執筆者紹介
ジェトロ京都
黑川 大器(くろかわ たいき)
2019年、ジェトロ入構。2019年10月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ京都
小川 侑己(おがわ ゆうき)
2019年12月から、ジェトロ京都インターンシップ。

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