特集:外国人材と働くカンボジア人材に「選ばれる日本」であるために

2023年3月23日

新しい世代の活躍で活気あふれるカンボジア。そのエネルギーは「人材」を通じて、日本にも及び始めている。2022年1月時点で、日本の高等教育機関へのカンボジア人留学生数は681人(注1)。また、同年6月の調査で「技術・人文知識・国際業務」を含む専門的・技術的分野の在留資格を有して就労する同国出身者は、495人(一方、技能実習1万317人名、特定技能1,872人)であり(注2)、その数は年々伸びている。

グローバル人材の確保や定着に向けて関心が高まっている日本だが、カンボジアの首都プノンペン現地の若者や関係者は日本をどのように見ているのか。その現状と課題について報告する。

横浜市、高度外国人材の誘致を促進

カンボジア王立プノンペン大学(RUPP)に設置されている、カンボジア日本人材開発センター(CJCC)で2023年1月15日、「Job Fair 2023」を開催。その中で、横浜市での就労を促進するセミナー「Seminar on Working and Living in Yokohama City, Japan外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が開催された。セミナーでは、横浜市職員が市の魅力を発信した。また、ジェトロからは、高度外国人材(注3)としての日本での就労方法や在留資格取得などについて講演。同セミナーの内容はフェイスブックでもライブ配信された。オンライン参加を含めた申し込みは93人。日本での就業に高い関心が示されたと言えそうだ(2023年2月3日付ビジネス短信参照)。

表:セミナー参加申込者の構成

現在のステータス
項目 人数
大学生 45
高校生 4
就労者 34
日本語レベル(JLPT保有者)
項目 人数
N1 13
N2 5
N3 7
N4 12
N5 5
セミナー参加に当たっての関心事
項目 人数
日本での就労 38
日本留学 24
カンボジア国内日系企業への就職 10

出所:CJCC


「日本で働くことが選択肢にある人」との質問に挙手した参加者(ジェトロ撮影)

参加者からは、「円安や物価高に対して、行政の支援はあるか」「日本は給与の天引きが多いと聞くが、実際どうか」「在留資格の取得にどのくらい費用がかかるか」「日本語能力(JLPT)はどのくらい必要か」「学校で学びながら働くことはできるか」といった具体的な質問が寄せられた。


セミナー後の参加者と(CJCC提供)

選択肢として「日本」を広く知ってもらいたい

RUPP外国語学部(Institute of Foreign Languages:IFL)の日本語学科は毎年、約120人の卒業生を輩出している。同副学部長のロイ・レスミー氏は「うち20人ほどが日本で就労。その場合、『技術・人文知識・国際業務』や『特定技能』の在留資格を取得している。職種は対面サービスや通訳、監理団体事務など、日本語力を生かす職に就くケースが多い」と話す。カンボジア現地での就職については「進出日系企業や技能実習送り出し機関に勤めるケースが多く、フリーの日本語教師も少なくない」という。


IFLのロイ・レスミー副学部長(本人提供)

昨今の円安の影響について、同氏は「日本語学科の学生は目的意識が明確で、ぶれることは少ない。日本への思いから私費留学するケースもある」と語る。同氏が日本の大学から奨学金情報を入手したり、関心企業を学生に紹介したりしているそうで、また、RUPP以外にも、カンボジアの地方の大学生や高校生に対して、同様に日本語や日本文化について伝える場を持っているという。

人口構成から見ると、カンボジアは少子高齢化が進む日本と補完的な関係になり得る。しかし、カンボジアの学生が日本の情報を得るのは非常に難しく、日本の行政や大学からの積極的な情報提供が欠かせない。同氏は、具体的に「日本の大学との交流やインターンシップの機会」の必要性を訴えた。

図:人口ピラミッド(2023年)

日本
日本の人口ピラミッドは、少子高齢化の形となっている。
カンボジア
カンボジアの人口ピラミッドは、高齢層が少ないが、若者が多い形となっている

出所:米国センサス局国際プログラムセンター「国際データベースInternational Database」

理工系人材の獲得は国際競争に

日本人の父とカンボジア人の母を持つミサ・ピーサット氏(21)。RUPP工学部の学生でありながら、朝は正社員として働いている。このようにカンボジアでは、就労しながら大学に通う、あるいは学校を掛け持ちする(ダブルスクール)学生も少なくない。そこで、ミサ氏に進学と日本での就職について聞いてみた。

まず進学については、「大学院に進む場合、国内進学者は少なく、進学先として韓国や欧州をよく耳にする。韓国はRUPPの学生が多く進学しており行きやすい。欧州は奨学金が出ると先生から聞いた。研究のフィールドが合っていることや、英国や米国と異なり、英語のレベルがあまり高くないから、選択しやすそうだ」と話す。

日本で働くことについては、「かつては、日本に行きたいと思っていた。しかし今は、正直なところそうは思わない」とのこと。「日本の給与はカンボジアの平均と比べると高いかもしれないが、専門知識を身に着けてきたエンジニアの給料として考えると、日本は少し低いと感じる。給料から社会保険料などが引かれ、生活費もかかるため、あまり残らない印象もある。日本語の壁もあり、総合的に考えると、リスクをとってまでカンボジアを離れるメリットがあるのかわからない」という。さらに「コーディング(プログラミングの一部)と英語ができたら、どこででも仕事ができる。ネットで国外のワークスタイルなどの情報が手に入り、給料と仕事環境、スキルアップの面から、今は欧米での就労に興味がある」と続けた。

いまや、世界的に理工系人材が不足しているのが実状だ。専門知識を習得したカンボジアの理工系学生にも、キャリアの選択肢はすでに世界に広がっていると考えるべきだろう。

まずは日本留学促進から

「Job Fair 2023」に出展した岡山大学は、文部科学省から日本留学海外拠点連携推進事業(東南アジア)を受託。カンボジアを含むASEANからの日本留学促進活動を展開している。日本学生支援機構(JASSO)の「2021年度外国人留学生在籍状況調査結果」によると、ASEANから日本の高等教育機関への留学生は5万3,679人。進学先として、59%が専門学校、26%が大学(学部)と続く。カンボジア出身留学生681人の日本での進学先は大学院が41%、大学学部33%だ。専攻分野は、社会科学や工学分野が人気という。

岡山大学は2022年6月から、CJCC内に「日本留学情報センター(OJEIC)プノンペン事務所」を置く。OJEICは、岡山大学など、日本への留学をサポートするために設けられた。具体的には、日本留学情報の提供や、現地でのネットワーク形成、日本留学フェアやセミナーの実施、日本の教育機関とのマッチングなどに対応。日本留学に関心ある学生を対象に、個人面談に応じることもある。

Job Fairでブースを担当した鳥越麻美氏(岡山大学留学コーディネーター)によると、OJEICプノンペン事務所では、開所以来このイベント当日までに、日本留学に関して147人から相談を受けたという。相談者へのアンケートによると、留学後「日本で就職したい」との回答が27.2%。対して「帰国したい」が35.4%であった。帰国希望者からは、「母国でキャリアを積みたい」「起業したい」などと回答する例が見られたという。

現地では奨学金がないと留学できない学生も多い。しかし鳥越氏は、「経済発展が目覚ましいカンボジアでは、実際に私費や一部奨学金で留学可能な層が増えており、私費留学情報なども、もっと知ってもらいたい」と話す。

留学機会の拡充は、卒業後、我が国での就職を目指す人材の確保にもつながり、日本社会での定着と活躍へのきっかけにもなるであろう。


Job Fair 2023に出展した岡山大学(ジェトロ撮影)

積極的な情報発信と、シームレスな長期キャリア形成提示を

セミナー参加者や学生、教育機関の関係者からは、日本に対する好意的なコメントも多くあった。セミナー開催を支援したCJCCの内藤千愛氏は、「カンボジアからは、まだ技能実習生として渡日するケースが多い。横浜市のように、高度人材として働く選択肢があることを広めていくことは重要だ」と指摘する。

新型コロナウイルス禍が落ち着き、海外との往来も再開し始めた。一方で、日本の賃金の魅力は薄れつつある。その中で若いカンボジア人材に目を向けてもらうには、日本の自治体や関係機関、大学などの教育機関、企業からのより積極的な発信が必要になってくる。教育から就職、さらには、その先にある母国での活躍など、長期のキャリア形成をシームレスに示していくことも大切だろう。

こうした総合的な取り組みと戦略が、これからのカンボジア人材に「選ばれる」カギになるのかもしれない。


注1:
日本学生支援機構「2021年度外国人留学生在籍状況調査結果」(2022年1月時点の調査)
注2:
法務省「2022年(6月調査)在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表」
注3:
ジェトロでは、次の1~3を同時に満たす場合に、高度外国人材と見なしている。
  1. 在留資格「高度専門職」と「専門的・技術的分野」に該当するもののうち、原則、「研究」、「技術・人文知識・国際業務」、「経営・管理」、「法律・会計業務」に該当する者。
  2. 採用された場合、企業において、研究者やエンジニア等の専門職、海外進出などを担当する営業職、法務・会計等の専門職、経営に関わる役員や管理職などに従事する者。
  3. 日本国内または海外の大学・大学院卒業同等程度の最終学歴を有している者。
執筆者紹介
ジェトロビジネス展開・人材支援部 国際ビジネス人材課
大滝 靖子(おおたき やすこ)
2020年、ジェトロ入構。高度外国人材活躍推進コーディネーター。

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