特集:外国人材と働く技能実習生の輩出大国となるポテンシャル秘めるミャンマー
2019年12月4日
人口5,000万人超で平均年齢も若く、親日国などの背景から、日本でのミャンマー人活用に期待する日本企業が増えている。ミャンマー国内でも、日本へ労働者を派遣する仲介事業者が増加している。ミャンマー政府が2019年8月に日本政府に提出した仲介事業者リストには、200社を超える企業が掲載されているとの報道もある。人材派遣ビジネスの競争の激化が今後も進みそうだ。優秀なミャンマー人技能実習生の派遣期間の終了を見据え、ミャンマーへ進出して新たなビジネスチャンスを狙う日本企業が増えるなど、技能実習生の相乗効果が生まれつつある。
若年層人口が豊富なミャンマー
ミャンマーの人口構成は、約30年ぶりに実施された2014年の国勢調査によると、総人口5,147万人のうち、労働人口(15歳~64歳)は3,298万人だ(調査が実施されなかった一部地域を除く)。労働人口のうち年齢構成で最も多い層が15~19歳(463万人)、次に20~24歳(433万人)だ(表1参照)。2014年に調査したことを考慮すると、現在では19~28歳までの人口が約900万人と推定できる。こうした層は学生か、何らかのかたちで既に就労しているとみられるが、機会があれば海外での就労、高い所得を目指していると考えられる。
年齢構成(歳) | 男女計 | 男 | 女 |
---|---|---|---|
15-19 | 4,626 | 2,291 | 2,335 |
20-24 | 4,331 | 2,092 | 2,240 |
25-29 | 4,146 | 1,995 | 2,151 |
30-34 | 3,899 | 1,885 | 2,014 |
35-39 | 3,563 | 1,706 | 1,858 |
40-44 | 3,283 | 1,549 | 1,734 |
45-49 | 2,946 | 1,375 | 1,571 |
50-54 | 2,559 | 1,182 | 1,377 |
55-59 | 2,052 | 936 | 1,116 |
60-64 | 1,577 | 712 | 865 |
15-64 | 32,983 | 15,723 | 17,260 |
出所:国勢調査(2014年)
労働人口が最も多い15歳~24歳までの高等教育課程まで進学した人数(卒業していない者も含む)は表2のとおり。ミャンマーの高校を卒業するには、大学入学試験も兼ねた全国統一試験(以下、統一試験)の合格が条件になっている。統一試験は全6科目あり、各科目で100点満点中40点を超えなければならない。統一試験の点数によって、入学できる大学・学部が振り分けられるシステムだ。
年齢 | 人口 |
---|---|
15 | 252,775 |
16 | 272,405 |
17 | 229,054 |
18 | 202,965 |
19 | 167,378 |
20 | 184,901 |
21 | 154,491 |
22 | 154,325 |
23 | 152,268 |
24 | 141,730 |
合計 | 1,912,292 |
注:高校の課程を経験した人数。卒業していない者も含む。
出所:国勢調査(2014年)
難関な統一試験の不合格者の受け皿が求められる
毎年実施される統一試験の受験者(再受験者も含む)は2017年から70万人を超え、2019年には85万人に達し、過去最高の水準となっている。ミャンマー教育省が毎年発表している地域別の統一試験の受験数と合格者数・合格率は表3のとおり。合格率は毎年3割台以下にほぼとどまっており、一般的に難関とされる。統一試験の合格者は一定の学力があるとして社会的にも評価される。不合格者は次年度に再受験できるが、そのまま中退となる場合も多い。そうした人材の受け皿の雇用機会や職業訓練学校などの整備が求められており、ミャンマー政府にとっての課題にもなっている。技能実習生などの送り出し機関はこれらの人材に着目し、タイなど近隣諸国へ派遣する例も多い。
高卒を認定するこの統一試験を合格したか否かで、就職先や収入が分かれるのが実情だ。2019年の合格者が最も多いのは、古都マンダレー管区(4万3,075人)だ。それに次ぐのがヤンゴン管区(3万9,732万人)、3位がマンダレー管区と隣接するザガイン管区(3万9,312人)となっている。マンダレーやザガインの学生は地元への愛着も強く、生活費の高いヤンゴンに進学することは珍しく、マンダレーを中心とした周辺地域の大学に進むことが多い。
No | 州/管区 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | ||||||
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受験者 数 |
合格 |
受験者 数 |
合格 |
受験者 数 |
合格 | |||||
人数 | 率 | 人数 | 率 | 人数 | 率 | |||||
1 | カチン州 | 30,637 | 9,207 | 30.1 | 33,212 | 9,974 | 30.0 | 35,946 | 10,525 | 29.3 |
2 | カヤー州 | 5,071 | 1,564 | 30.8 | 6,640 | 1,675 | 25.2 | 7,388 | 2,066 | 28.0 |
3 | カイン州 | 16,010 | 4,718 | 29.5 | 17,593 | 5,182 | 29.5 | 19,287 | 5,337 | 27.7 |
4 | チン州 | 9,725 | 1,852 | 19.0 | 10,168 | 1,692 | 16.6 | 10,771 | 2,110 | 19.6 |
5 | ザガイン州 | 92,690 | 34,955 | 37.7 | 104,759 | 36,533 | 34.9 | 115,102 | 39,312 | 34.2 |
6 | タニンダリー管区 | 18,468 | 5,790 | 31.4 | 20,237 | 6,174 | 30.5 | 21,597 | 7,295 | 33.8 |
7 | バゴー管区(東部) | 38,835 | 11,509 | 29.6 | 44,313 | 12,925 | 29.2 | 47,957 | 12,835 | 26.8 |
8 | バゴー管区(西部) | 21,882 | 7,306 | 33.4 | 25,080 | 8,379 | 33.4 | 27,269 | 8,033 | 29.5 |
9 | モン州 | 22,618 | 9,301 | 41.1 | 25,918 | 9,699 | 37.4 | 28,821 | 10,819 | 37.5 |
10 | マグェー管区 | 70,291 | 26,700 | 38.0 | 77,221 | 24,490 | 31.7 | 83,922 | 27,098 | 32.3 |
11 | マンダレー管区 | 99,845 | 40,154 | 40.2 | 111,398 | 42,517 | 38.2 | 119,210 | 43,075 | 36.1 |
12 | ネピドー | 19,348 | 6,710 | 34.7 | 22,389 | 7,399 | 33.0 | 24,828 | 7,662 | 30.9 |
13 | ラカイン州 | 38,440 | 6,598 | 17.2 | 40,180 | 8,620 | 21.5 | 42,416 | 10,165 | 24.0 |
14 | ヤンゴン管区 | 104,256 | 38,829 | 37.2 | 111,855 | 42,006 | 37.6 | 121,762 | 39,732 | 32.6 |
15 | シャン州(南部) | 26,699 | 8,644 | 32.4 | 30,880 | 9,174 | 29.7 | 34,155 | 9,457 | 27.7 |
16 | シャン州(北部) | 15,300 | 5,433 | 35.5 | 16,498 | 5,342 | 32.4 | 17,395 | 5,482 | 31.5 |
17 | シャン州(東部) | 4,337 | 1,064 | 24.5 | 4,841 | 936 | 19.3 | 5,008 | 1,041 | 20.8 |
18 | エラワジー管区 | 81,486 | 22,373 | 27.5 | 86,518 | 26,409 | 30.5 | 88,571 | 25,597 | 28.9 |
19 | 海外 | 150 | 29 | 19.3 | 145 | 65 | 44.8 | 119 | 55 | 46.2 |
合計 | 716,088 | 242,736 | 33.9 | 789,845 | 259,191 | 32.8 | 851,524 | 267,696 | 31.4 |
出所:ミャンマー教育省
通信教育課程に在籍する学生は有望な人材プール
教育省が公表した2019年の全国の各大学(全日制)の入学予定者(12月入学)を合計すると、約11万8,000人になるが、統一試験の合格者の半分にも満たない(注1)。もちろん、合格者の全員が大学へ進学するとは限らないが、合格者のうち大学進学しない者の多くは通信教育課程に出願している。現地報道によると、2019年の同課程への出願者は14万人超といわれており、統一試験合格者のほぼ全員が同課程に就学できる。中央統計局の資料によると、通信教育課程に在籍する学生は約18万人(2017年)に上る。
通信教育を選択する理由の多くは、日中に働かなければ経済的に自活できない学生が大部分のためとみられる。通信教育課程の学生らは全員が統一試験の合格者であるため学力が高く、勤勉とされる。若くて優秀な人材のプールとして、送り出し機関から注目されている層だ。
海外就労先:タイ、マレーシアでの就労者が多い
若年層人口を有するものの、国内では雇用機会が多くないため、若者の間では海外での就労に関心が高くなっている。隣国タイではミャンマーよりも最低賃金が3倍に上るため、特にタイへの出稼ぎ労働者は多く、不法就労者も含めて300万人以上が同国で就労しているといわれている。また、マレーシアでも同様に40万人程度が就労しているとされる。
表4はミャンマー労働・入国管理・人口省(以下、労働省)が海外で就労するため海外雇用法(以下、雇用法)に基づいて、発行する「海外労働者証明カード」(通称:スマートカード)を取得し、正規労働者として送り出し機関から派遣される海外就労者のデータだ。
月 | タイ | マレーシア | 韓国 | 日本 | ||||
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2018年 | 2019年 | 2018年 | 2019年 | 2018年 | 2019年 | 2018年 | 2019年 | |
1月 | 16,988 | 17,499 | 165 | 5,008 | 640 | 194 | 239 | 398 |
2月 | 15,109 | 17,748 | 305 | 4,225 | 102 | 154 | 93 | 317 |
3月 | 15,881 | 16,593 | 1,010 | 4,348 | 713 | 814 | 136 | 527 |
4月 | 12,484 | 15,411 | 1,381 | 4,416 | 759 | 447 | 285 | 307 |
5月 | 20,812 | 20,977 | 1,603 | 8,237 | 342 | 377 | 201 | 658 |
6月 | 14,740 | 19,153 | 1,368 | 6,325 | 1,033 | 665 | 357 | 524 |
7月 | 16,307 | 22,182 | 1,871 | 7,602 | 257 | 173 | 436 | 683 |
8月 | 19,721 | 24,583 | 3,310 | 7,866 | 499 | 392 | 545 | 761 |
9月 | 18,543 | 26,173 | 3,340 | 9,145 | 465 | 653 | 369 | 646 |
10月 | 15,172 | ― | 2,927 | ― | 425 | ― | 474 | ― |
11月 | 20,014 | ― | 4,109 | ― | 424 | ― | 363 | ― |
12月 | 12,246 | ― | 3,384 | ― | 446 | ― | 391 | ― |
合計 | 198,017 | 180,319 | 24,773 | 57,172 | 6,105 | 3,869 | 3,889 | 4,821 |
注:2019年10月以降の実績は未発表。
出所:ミャンマー労働・入国管理・人口省データに基づきジェトロ編集
表4に記載されている派遣先以外にも、シンガポールやアラブ首長国連邦(UAE)、カタール、ヨルダン、マカオなどがあり(いずれも1,000人未満)、それら全ても含めると、2018年の派遣実績は23万4,000人となる。2019年は1~9月の実績で24万8千人と既に2018年通年を上回っている。
国別でみると、タイで就労する労働者が圧倒的に多く、次いでマレーシアとなる。韓国は同国の景気不振が影響し、労働者受け入れを抑制していると報じられている。日本へ送り出される技能実習生には日本語の習得が必要となるが、9月時点で前年度実績を上回るなど、就労先としての人気は高まっている。日本国内でのミャンマー人労働者へのニーズも高いことから、引き続き技能実習生が増えると予想される。
就労先としての日本:給与や安全性のほか、学習意欲・向上心も要因に
日本も含めて海外就労の最大の目的は高所得を得ることで共通している。送り出し機関を経営する日系A社は統一試験合格者のみを対象に日本へ派遣しているが、同社によると、日本が選ばれる最大の理由は「給与水準が高いため」だという。同社は「ミャンマーの新卒・第2新卒の初任給(会社勤務)は月額20万チャット(約133ドル、1ドル=約1,505チャット)~25万チャット。一般的に現在のミャンマー企業に勤めるミャンマー人が目標にする給与水準は50万チャットだが、この水準に到達するには数年かかる」と言う。そうした状況から、ミャンマーの近隣諸国で得る給与水準や物価水準と比較しても、日本の給与水準は圧倒的に高いため、日本での就労人気が高い要因だと同社では分析している。
給与水準以外にも、日本での就労は「安全・安心」であるため人気だという意見もある。マンダレーの日本語学校を経営するB社は、送り出し機関と提携して日本へ人材の送り出しをしているが、学生のほとんどが女性だ。日本企業でも、ミャンマー人女性を「真面目」「よく働く」「忍耐強い」と高く評価する声は多い。日本で働くミャンマー人女性は給与を親元へ仕送りする傾向が強いが、彼女らにとって「安心・安全」は給与にも増して大切なポイントだといえよう。
また、日本での就労にはタイやマレーシアへの出稼ぎとは異なる目的もある。2019年3月にジェトロが日本企業での就労に関心が高い高度人材向けに開催したセミナーで、参加者(日本語を学ぶ大学生や大卒社会人など)を対象にしたアンケート調査(注2)を行ったが、日本企業で働きたいと思う理由(複数回答)としては、第1位に「ビジネス慣行」(67.5%)、2位に「日本の技術・製品」(57.2%)という結果となった。「給与が良い」という回答は45.6%と4位だった。
この調査で「日本企業で学びたいこと」を尋ねたところ、「マネジメント・ノウハウ」が73.0%で最も多く、続いて「ビジネスマナー」が59.0%となった。一定の社会的ステータスを有する若者が日本に対して期待するのは、給与水準だけでなく、自己啓発も含む向上心が大きな要因になってくる。これらの理由の根底には、ミャンマー人の親日性、技術大国・日本への憧れがあり、日本のビジネス慣行を吸収したいという強い意欲を生み出している。
日本での生活を楽しめるような環境づくり、精神的ケアが重要
長期にわたる軍事政権の鎖国的政策や、労働力に対して国内雇用が不足している現状から、今後も海外での就労を希望する若者は増え続ける見込みだ。こうした社会背景もあり、ミャンマー人に海外就労に対する抵抗感は少ない。一方、各国の受け入れ先でミャンマー人労働者がどのように扱われているかといった情報には敏感で、SNSを通じて短時間で広まるため留意が必要だ。賃金未払いや長時間労働に対する集団訴訟、実習先からの逃走情報などはSNSを通じて流布している。前者は日本国内で法的措置が講じられるが、後者は受け入れ先や派遣機関によるメンター制度などでの対策が必要だ。
前述の日系A社は「真面目な性格のミャンマー人が給与の多くを親元へ仕送りしてしまい、日本で窮屈な生活を強いられることが多い。それが日本国内にいる悪質なブローカーの甘言に乗っかってしまう原因となっている」という。同社は、実習生に対して親元への仕送りは最初の半年間のみとし、その後は貯蓄や日本での生活を楽しむように助言しており、送り出し前の研修や派遣後スカイプなどを通じて精神的なケアをしている。ミャンマー人の多くが信じる仏教の教えから、親への仕送りは功徳を積むと認識されていることも、給与の大半を仕送りしてしまう要因となっているが、実習生自身も日本での生活を楽しめる環境、習慣が構築されることは失踪の予防策にもつながる。
ジェトロ事業を利用し、日本企業で3カ月間のインターンシップを体験した修了生からも、「インターン先企業のホスピタリティーにより、日本をより好きになった」という声が多い。受け入れ先の家族との交流や地域コミュニティーのイベントへの参加、日本国内の旅行で余暇を楽しめたといった要素が好感度を上げているようだ。
ジェトロ・ヤンゴン事務所へ寄せられる日系企業の相談には、「採用している技能実習生から『日本で習得した技能をミャンマー帰国後に生かしたいため、ミャンマーに進出してほしい』という要望を受け、これを機に進出準備に着手したい」といった相談が増えている。さらには、技能実習生を将来のミャンマー拠点の幹部として配置を考える企業もある。
日系C社(建設業)は、ヤンゴンから遠く離れた技能実習生の実家まで出向き、「帰国後は本人の意思さえあれば、ミャンマーの拠点に勤務してほしい」と伝えるなど、一貫した「安心感」を与えて技能実習終了生の長期的な定着に取り組んでいる。実習生の受け入れを通じ、将来ミャンマーへの進出を検討する企業の場合は、こうした取り組みは重要となる。
多くのミャンマー人には「自国の発展に貢献したい」という思いがあり、受け入れ先での就労がいかにミャンマーや日本・ミャンマー両国の経済発展に貢献できるかといった点も、彼らの就労意欲を高める上では重要な要素となる。親日的なミャンマー人の気質と良好な両国関係を維持すべく、技能実習生の受け入れ先である日本側においても、ミャンマー人材の精神面での支援策が求められる。
- 注1:
- 最新の入学予定者を公表していない大学があるため、過去データから推測した入学予定者を計上した。
- 注2:
- セミナー参加者240名中219人が回答(有効回答率91.3%)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ヤンゴン事務所 次長
クン トゥーレイン - 2004年、ジェトロ入構。貿易開発部(2004年~2005年)、大阪本部(2005年~2009年)、企画部(2011年~2013年)、ビジネス展開支援部(2015年~2017年)などを経て、2017年5月より現職。開発途上国の市場開拓などを主に担当。