特集:外国人材と働く スタートアップ企業でも進む高度外国人材の活用(茨城)
筑波大発のスタートアップ企業Ambiiの事例

2023年5月2日

筑波大学(本部:茨城県つくば市)は、スタートアップ創出が活発な大学の1つだ。同大学が公開している「筑波大学発ベンチャーリスト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」によると、設立累計数は211社に上り(2023年2月21日現在)、海外展開を視野に活動しているスタートアップも少なくない。

近年、海外展開を考える中小企業が高度外国人材を活用する事例が増えているが、海外展開を考えるスタートアップにとっても同様に、海外での実務経験や視点を持つ高度外国人材の活用は効果的ではないだろうか。

高度外国人材活用の具体的事例として、筑波大学発スタートアップ「Ambii」代表取締役の平良侑希氏に同社の取り組みについて聞いた。

自身の経験をもとに立ち上げた医療プラットフォーム「Ambii」

Ambiiは、2016年に筑波大学内で活動を開始し、2018年に合同会社として法人化、筑波大学発ベンチャー認定を受けた企業だ。海外での医療アクセスをサポートする多言語対応医療プラットフォーム「Ambii(アンビー)」を提供している。Ambiiは14カ国語に対応しており、スマホで予約から問診票作成までできるので、外国人でもスムーズに医療を受けることが可能になる。医療機関側も、患者の来院前に診察に必要な情報を得ることができることで、受け付け業務の煩雑さが解消され、診察の質の向上を見込める。

同社創業のきっかけとなったのは、平良氏がベトナム渡航時の体調不良の際、医師を探すのに苦労した体験があったことや、共同創業者兼最高技術責任者(CTO)のシュスター悠司氏も含めて日本に来ている留学生の病院予約代行や通院の付き添いと通訳などの依頼が多く、外国人への医療サポートの重要性を痛感したことだった。

自分が海外で困ったように、留学生も日本で困っているはず。また、留学生から「どこの病院に行ったらいいか」と聞かれることもあり、付き添いも含めて全てDX(デジタルトランスフォーメーション)化することで医療アクセスが整うことを確信して、Ambiiを立ち上げた。

Ambii社はつくば市による「つくばSociety5.0社会実装トライアル支援事業」(2019年度)に採択され、つくば市内のクリニックで実証実験を行っているほか、ジェトロが内閣府や経済産業省とともに支援するアクセラレーションプログラム「Global Preparationコース」(2021年度)にも採択されており、主にアジア方面への海外展開を目指して活動をしている。

異なる価値観への理解力が採用のきっかけに

Ambiiでは、米国籍のチャン・アンソニー・ピーター氏をソフトウエアエンジニアとして採用した。チャン氏はシュスター氏の紹介で、アルバイトとして入社した人材だ。「米国、台湾、日本で暮らした経験があり、異国で生活する者への理解が十分にあることから、当社が掲げるビジョンにまさに当てはまる人材だった」と平良氏は話す。また、大学では生物統計学を学び、特に機械学習を用いて大容量データを解析する研究を行っていたことから、このデータ処理に必要なアルゴリズム技術を求めていたことや、同社が開発中のプラットフォーム内の蓄積データの分析を推進する主要メンバーにふさわしいと考え、正社員として採用を決断した。

高度外国人材を採用することについて、平良氏は「高度外国人材は多様性に富んだ社会に身を置いてきたことから、異なる価値観への理解があり、物事を考える際に固定概念にとらわれることなく議論することができる。これは、顧客の課題を解決するソリューションを考え、プロダクトを開発する、そのプロダクトをより良いものに育てていく上で最も大事な要素の1つと考えている。だからこそ、高度外国人材を開発に巻き込むことが当社には大切だ」と語る。

新型コロナの水際対策による入国制限とジェトロの活用

チャン氏は筑波大学を卒業後、米国に一度帰国した。彼の採用を決意した2021年2月当時は、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐ水際対策による入国制限のため、海外からの再入国が難しい状況にあった。チャン氏の再入国が難しい状況の中でも、ジェトロが提供する「高度外国人材活躍推進コーディネーターによる伴走型支援サービス」を活用して準備を進めた。このサービスでは、高度外国人材に関連する情報に精通した専門相談員から、企業の状況に応じて、高度外国人材についての採用計画策定の支援から採用活動、採用後の社内制度整備までアドバイスを受けることができる。Ambiiも担当相談員から、水際対策が緩和されたタイミングですぐにチャン氏を呼び寄せできるよう、在留資格認定証明書の取得を進められた。相談員の支援のもと、在留資格認定証明書の申請手続きを行い、2021年8月に在留資格を無事取得することができた。「在留資格認定証明書が取れたことは、日本に当時入国できなかったチャン氏のモチベーションにもつながっていた」と平良氏は当時を振り返る。

その後、2022年4月にチャン氏は再入国を果たした。「やっと入国ができたことで、さらにモチベーションが上がっている。学生時代の友人にも会えたことがよい影響をもたらしている」と平良氏は話す。チャン氏は現在、週3日リモート、週2日出社という勤務体系で働いているという。

自社を人材に理解してもらうことが高度外国人材採用の要に

今回の高度外国人材採用は、社内人材からの紹介だったが、他のルートでも獲得にチャレンジしようと、ジェトロが主催する外国人留学生向け採用イベント「オンライン合同企業説明会2021秋」に参加した。

「合同企業説明会で当社が求める水準の人材をすんなり獲得するのは難しいと感じた」という平良氏は「自分が求めている人材イメージを公開して、相手がしっかり理解した上で、履歴書や課題を送るように誘導することがそれぞれの企業が求める人材を獲得するポイントだろう」と、自身の経験から分析している。

自社成長と従業員の自己実現の両立目指す

このほか、Ambiiは、同社に入社することで、社員自身の自己実現ができることを重視している。「会社の成長と自己成長の両方にコミットしたい、課題解決したいという本気と、自己実現をかなえることに期待したい。それが働きがいにつながる」と平良氏は話す。Ambiiという社名のもととなった「Ambitious」につながることを期待したいという。

「ゆくゆくは自分の国に戻ってもAmbiiを広めてほしい。そうすれば、人材を通じて当社のミッションが国境に関係なく広がるはずだ」と平良氏は力強く述べた。

執筆者紹介
ジェトロ茨城(執筆時)
安達 結衣(あだち ゆい)
2018年、関彰商事株式会社入社。2020年4月からジェトロ茨城に出向、2023年3月に帰任。

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