特集:外国人材と働く高度外国人材の力で新たなビジネスを切り開く(福岡)

2020年6月16日

福岡県は全国で3番目に外国人留学生が多く、2018年は1万3,669人(注1)に上った。一方、同県内の企業に就職した外国人留学生は日本全体の3%に当たる781人(注2)と非常に少なく、県内企業による外国人留学生の雇用は進んでいないのが現状だ。

こうした中、福岡県太宰府市に本社を構える油機エンジニアリング(1995年創立)は、2014年に初めて韓国人2人を採用して以来、継続的に外国人材採用を行い、外国人社員の能力やアイデアを生かして新たなビジネスに取り組んでいる。牧田尚起代表取締役社長と、鄭 爽(テイ・ソウ)ディビジョンディレクターに話を聞いた(2020年3月18日)。

キャリアプランを重視し、優秀な外国人材を採用

油機エンジニアリングは、建設機械のアタッチメントのレンタルや販売、修理を行う中小企業だ。現在は、グループ全体で中国や韓国、ミャンマー、スリランカ、米国などさまざまな国籍の12人の外国人社員が活躍している。

創業から20年ほど経ったころ、会社として力をつけてきたタイミングで大卒採用を開始したが、最初はうまくいかず採用に結び付かなかった。そんな中、北九州市で開催された地元人材会社主催の韓国人大学生との面談会に参加し、そこで出会った韓国人2人を採用した。入社後の2人の頑張りもあり、「優秀であれば国籍は関係ない」(牧田社長)との考えに至った。それから現在まで、合同企業説明会への参加や有料職業紹介の利用、九州経済産業局のマッチング事業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます などを活用し、国籍を問わず外国人材採用を行っている。

採用活動では積極的にインターンシップを実施している。外国人材に会社のことを知ってもらい、また、会社側が外国人材のことを知る機会を設けるためだ。インターンシップで受け入れた外国人材には、油機エンジニアリングだけでなく他社も見て、比較するようアドバイスする。「無理な採用は行わず、いろいろな企業を見た上で最終的に自社を選んでもらいたい」と鄭氏は話す。また、本人の将来の目標や正直な希望を把握し、本人が描くキャリアプランに対して会社は何ができるかを考えるようにしている。

外国人材採用後の社内の変化について、牧田社長は「もともと技術者が多い会社であるため、『内向き』で上司に意見しづらい雰囲気があったが、外国人社員が入社し、上司に対して自分のアイデアや率直な意見をぶつける様子が見られるようになってからは、日本人社員も意見や考えを述べやすい雰囲気に変わり、社内の風通しが良くなった」と満足げだ。


牧田社長(油機エンジニアリング提供)

外国人材採用が海外ビジネスのきっかけに

外国人採用を始めた当初、油機エンジニアリングは国内事業のみ、外国人社員も当初は日本人社員と同じ業務に従事していた。しかし、外国人材が持つ語学力や国際感覚を生かした業務を作ろうと考え、2017年に海外展開の取り組みをスタートさせた。2018年の台湾進出の際には、中国人社員が通訳を介さず現地パートナー企業へのプレゼンを行うなどして活躍し、現地でのビジネス展開の成功につながった。

牧田社長は「外国人社員から出る意見やアイデアは、自社にとって新しい可能性を発見できるチャンス」と指摘する。例えば、現在活躍しているミャンマー人社員は入社当初から、将来は帰国して起業することを希望しており、そのことがミャンマーへの事業展開計画を立ち上げるきっかけとなった。「会社としても、彼が経営を学ぶ機会を作らなければという良いプレッシャーをもらっている」(牧田社長)と、外国人材採用の効果がここでも出ているようだ。


外国人社員が新たな海外事業計画を担う(油機エンジニアリング提供)

外国人材の力を新たなビジネスチャンスにつなげる

2019年には、福岡県で外国人留学生雇用を促進し、外国人材の活躍の場を広めたいというアイデアを基に、新たにグローバル人材紹介事業「JOBMATE」を立ち上げた。中国人と韓国人の社員が新事業の中心を担っており、自社の外国人材雇用実績やノウハウを生かして企業へのコンサルティングと情報提供を行っている。鄭氏は「日本企業で働く外国人材である自分たち自身の、外国人ならではの視点を生かしていきたい」と意気込みを語った。


さまざまな国籍の外国人社員が活躍の場を広げている(一番右が鄭氏)
(油機エンジニアリング提供)

取材後記

鄭氏は「油機エンジニアリングの良いところは、会長や社長をはじめ、上司が若手の話をよく聞いてくれるところ。アイデアや意見があればすぐに上司に提案することができ、それをきっかけに外国人社員の活躍の場が広がっている」と話す。若手社員に発言の機会があること、年次や国籍に関係なく良いアイデアは採用され、責任あるポジションに就くこともできることは、若手社員の仕事の大きなやりがいとなっている。

また、会社の「就職は本人の人生に関わる話なので、単に人手不足の解消手段としてではなく、個人と会社の関係性(本人がやりたいこと、会社として何ができるか)を大切にして、入社してくる人材が困らない環境づくりをしていきたい」という、外国人社員それぞれのキャリアプランや考えを尊重する方針は、外国人社員の働きやすさにつながっている。

取材の中で鄭氏が語った「諸外国の経済成長に伴い、給与という点では日本の優位性はもはや失われている。今後、日本企業が外国人材の活躍を推進するのであれば、経営者の価値観や社内の雰囲気、会社と外国人材のビジョンの一致など、給与以外で『選ばれる要素』を企業が身につける必要がある」という率直な言葉は、今後、高度外国人材の雇用を促進する上で日本企業が意識を変えていく必要がある重要なポイントだ。


注1:
日本学生支援機構「平成30年度外国人留学生在籍状況調査結果」
注2:
法務省「平成30年における留学生の日本企業等への就職状況について」
執筆者紹介
ジェトロ福岡
渡邉 真弓(わたなべ まゆみ)
福岡県の外国人相談窓口相談員を経て、2019年からジェトロ福岡で高度外国人材活躍推進コーディネーター(九州・沖縄地域)。

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