特集:外国人材と働く外国人材の採用で経営基盤の強化へ!
大阪における外国人雇用の現状

2019年3月26日

大阪府は全国で3番目に多い外国人雇用を生み出している。多くは人材不足によるものだが、外国人材の雇用を契機として、企業活動の幅が広がった例もある。外国人材を活用する企業の取り組みや工夫、教育機関などの動きを追った。

大阪で働く外国人材

厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によると、大阪府内で働く外国人は9万72人(全体の6.2%)で、東京都(43万8,775人、同30.0%)、愛知県(15万1,669人、同10.4%)に次いで全国で3番目に多い(表1参照)。

表1:外国人雇用状況上位5都府県(単位:人)(―は値なし)
順位 地域 全在留
資格計
(1)専門的・技術的分野の
在留資格
(2)特定活動 (3)技能実習 (4)資格外活動 (5)身分に基づく
在留資格
人数 構成比 うち技術・人文知識・国際業務 人数 構成比 人数 構成比 人数 構成比 うち
留学
人数 構成比
全国計 1,460,463 276,770 [19.0%] 213,935 35,615 [2.4%] 308,489 [21.1%] 343,791 [23.5%] 298,461 495,668 [33.9%]
1 東京 438,775 135,867 (31.0%) 114,720 10,354 (2.4%) 15,182 (3.5%) 165,124 (37.6%) 142,078 112,208 (25.6%)
2 愛知 151,669 19,371 (12.8%) 14,535 3,430 (2.3%) 33,310 (22.0%) 17,502 (11.5%) 15,103 78,053 (51.5%)
3 大阪 90,072 20,173 (22.4%) 16,572 2,405 (2.7%) 16,403 (18.2%) 28,596 (31.7%) 26,015 22,495 (25.0%)
4 神奈川 79,223 16,893 (21.3%) 12,800 1,752 (2.2%) 9,776 (12.3%) 14,464 (18.3%) 11,505 36,308 (45.8%)
5 埼玉 65,290 7,387 (11.3%) 5,262 1,619 (2.5%) 13,150 (20.1%) 15,435 (23.6%) 12,345 27,692 (42.4%)

出所:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(平成30年10月末現在)」

そのうち、高度外国人材と呼ばれる「専門的・技術的分野の在留資格」を有する外国人は2万173人と全国で2番目に多く、2013年の9,339人から5年間で2倍以上増加した(表2参照)。

表2:大阪における外国人雇用状況推移
全在留
資格計
(1)専門的・技術的分野の
在留資格
(2)特定活動 (3)技能実習 (4)資格外活動 (5)身分に基づく
在留資格
人数 構成比 うち技術・人文知識・国際業務 人数 構成比 人数 構成比 人数 構成比 うち
留学
人数 構成比
2013年
(平成25年)
38,127 9,339 (24.5%) 6,966 617 (1.6%) 5,933 (15.6%) 7,121 (18.7%) 808 14,308 (37.5%)
2014年
(平成26年)
40,343 9,759 (24.2%) 7,268 756 (1.9%) 6,150 (15.2%) 8,338 (20.7%) 861 14,478 (35.9%)
2015年
(平成27年)
45,838 10,052 (21.9%) 7,466 1,005 (2.2%) 7,486 (16.3%) 11,678 (25.5%) 1,032 14,584 (31.8%)
2016年
(平成28年)
59,008 12,356 (20.9%) 9,516 1,398 (2.4%) 9,972 (16.9%) 18,044 (30.6%) 16,578 17,237 (29.2%)
2017年
(平成29年)
72,226 15,258 (21.1%) 12,089 1,812 (2.5%) 13,028 (18.0%) 22,440 (31.1%) 20,508 19,686 (27.3%)
2018年
(平成30年)
90,072 20,173 (22.4%) 16,572 2,405 (2.7%) 16,403 (18.2%) 28,596 (31.7%) 26,015 22,495 (25.0%)

出所:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」

大阪外国人雇用サービスセンターの室長で、大阪を中心とした西日本各地の企業からの外国人雇用相談に日々対応する平井誠氏は、他の管轄府県との違いとして、「大阪の特徴の1つは、留学生をアルバイトとして雇用する企業が多いこと」と指摘する。アルバイトは一般的に資格外活動に分類されるが、先述の表1をみると、大阪は全国平均より高い割合を示していることがわかる。

理系留学生のアルバイト雇用、その先の正規採用

大阪では、留学生のアルバイト先として、アジアなどからの観光客増加を背景としたサービス業が多いが、理系の人材不足から理系留学生をアルバイトとして活用する例もある。化学装置の受託測定などを行っているアクロエッジがその1つだ。同社は、2017年度経済産業省委託の「国際化促進インターンシップ」事業を活用し、日本国内の留学生をインターンとして受け入れ、その後アルバイトとして活用している。

インターンとして受け入れたフィリピンからの留学生(アクロエッジ提供)

留学生のアルバイト内容も、測定・分析サポートなど専門的な内容だ。先述のインターンを通じて、同じ大学の留学生4人をアルバイトとして雇用し、そのうちベトナム人1人を大学卒業のタイミングで正社員として採用するに至った。

留学生のアルバイトには原則週28時間以内という規制がある。また、理系の留学生は学会発表や論文作成などで多忙な場合が多く、まとまった時間就業してもらえないという課題はある。しかし、アクロエッジで総務業務などを担っている佐々木ひとみ氏は「そこはあくまでアルバイトと割り切り対応している。留学生は、自国から選ばれて来日する場合が多く、向上心が高い学生が多い。理系の留学生とは英語でコミュニケーションをとる必要があり、海外展開に欠かせない社員の英語訓練にもなっている」とメリットを強調する。また、留学生を最初から正社員雇用するのではなく、アルバイトとして緩やかなかたちで始めることで、ミスマッチも防げているようだ。アルバイトから正社員となったベトナム人には今後、装置の分析に加え、国際会議への出席や海外の取引先などへの技術説明のための派遣も検討しているという。

同社は「留学生のアルバイトを募り、一定期間働いてもらった後、雇用に結び付けたい」と前向きだ。

定着のための細やかな工夫

外国人材の雇用が増える一方、定着を課題として挙げる企業も増えている。

その中で、採用後の取り組みに注力している企業が大阪府堺市にあるテクノタイヨーだ。同社は2013年、技能実習生の母国への帰国を機に、ジェトロの共同進出事業などを活用してベトナムの首都ハノイに進出。当時現地で通訳を務めていたベトナム人を本人の希望で堺市の本社で雇用したが、しばらくして退職した。同社の人材育成に携わる宮本勇氏は「当時はベトナムと日本をつなぐ仕事があまりなかったことが原因の1つだろう」と、当時を振り返る。

同社はその後、ベトナム人エンジニアの採用やベトナムでのビジネス拡大も経て、2018年から総務部門に高度外国人材を正社員として採用した。担当業務は、ベトナム法人とのやりとりや、総務に経理、通訳・資料翻訳など多岐にわたるが、技能実習生のケアも重要な仕事となっている。

職場風景、仕事のようす(テクノタイヨー提供)

また近年、役員レベルが外部の研修・勉強会に積極的に参加し、社内体制を意識的に変化させてきた。特に職責をクリアにすることや、生産効率を上げて権限を委譲していく体制づくりなどが、外国人材にも働きやすい環境につながっているようすだ。社員にも外部のセミナーなどへの参加を推奨しており、外部で得た知識は必ず社内勉強会で共有化することをルールとしている。この社内勉強会には、外国人材も含めて原則全員が参加し、幾つかのグループに分けてディスカッションを行うこともある。その際、発言を促すために、外国人材を1グループに複数人配置するという細かい工夫もしている。勉強会は、普段仕事上では接点がない役員と社員が交流する機会ともなり、社内コミュニケーションの活性化に一役買っている。

外国人材の能力に応じた職務とこのような取り組みが外国人材の定着、ひいては企業の成長につながっているようだ。

専門学校の取り組み

外国人材の活用方法が多様化するにつれ、外国人材を教育・紹介する専門学校も取り組みを強化している。

大阪にある専門学校エール学園は、日本の大学・大学院進学を目指して日本語を学ぶコースと、日本企業に就職するためにビジネスマナーや貿易実務を学ぶコースを設置している。後者は2年間のコースとなっており、1学年110人程度で、同校によると、就職率は100%(進学への変更や除籍者を除く)を誇るという。その秘訣(ひけつ)は「入口と出口」対策にある。

入口対策というのは、外国人であれば誰でもよいというわけではなく、現地で筆記試験と面接を行い、就職意欲なども確認するというものだ。これが日本企業への就職という出口につながる。

出口対策も幾つかある。まず、海外進出セミナーなど外国人雇用に直結しないようなイベントを開催し、そこで関心企業の掘り起こしを行うことで、企業とのそこから就職希望の留学生雇用のアプローチを行うという息の長い取り組みだ。また、インターンシップを推奨する(一部のコースでは必須化)ことも出口対策の1つだ。

同校で留学生の就職支援を担当している西村康司氏は「最初は日本人が採用できないという理由で外国人留学生の採用を検討する企業が多い。しかし、インターンシップとして受け入れてみると、日本人にはない必死さやメンタルの強さなどに経営層が引かれてマインドチェンジが起こり、さらに現地に出張することで、その国の勢いやビジネスの可能性を実感する。その結果、留学生を『海外ビジネスを担う高度外国人材』として認識し始める企業が増えている」と言う。

動き始めた大学・自治体

大学や自治体も動き出している。文部科学省委託事業の留学生就職促進プログラムとして採用されている「SUCCESS-Osaka」は、大阪にある4大学(関西大学、大阪大学、大阪府立大学、大阪市立大学)が連携し、企業が求める高度外国人材の育成を行う。「日本語教育」や「異文化理解教育」に力を入れるとともに、企業や金融機関の協力のもと開発型のインターンシップを行うなど、さまざまなプログラムを用意し、留学生の日本企業への就職をサポートしている。

1月に行われたSUCCESS-Osakaの1年の活動を振り返るイベント「SUCCESS-Osaka AWARD」には、150社から参加申し込みがあり、企業からの関心の高まりを感じさせた。このイベントでは、優秀な留学生の表彰も行い、留学生のモチベーションを高める仕組みにもなっている。


「SUCCESS-Osaka AWARD」のようす(関西大学提供)

自治体レベルでも、雇用促進支援として留学生に注目する動きが広がっている。大阪府は、調査レポート「大阪における高度外国人材の採用と定着」を2018年3月に作成し、10月には初めてグローバル人材にテーマを絞った合同企業説明会を実施した。説明会はジェトロ大阪も共催し、併設で実施した「企業と留学生の交流会」では、出展企業の中でも特に留学生採用に関心がある企業4社に対し、30人を超える留学生が参加した。日本企業の経営方針や考え方に熱心に耳を傾け、自分の意見を伝える留学生の姿が印象的だった。

大阪には、外国人材を活用して海外ビジネスを推進する企業が増えてきた。また、教育機関や自治体の動きも活発化してきた。外国人雇用は、言語や文化の違いなど、日本人雇用にはない課題や苦労は多いものの、「人材不足」という課題の解決だけにとどまらず、企業の潜在的な可能性を引き出す機会や組織力強化のきっかけともなっているようだ。さらなる広がりに期待したい。

執筆者紹介
ジェトロ大阪 ビジネス情報提供課
平井 志穂(ひらい しほ)
2008年、ジェトロ入構。産業技術部(2008~2010年)、海外市場開拓部(2010~2013年)を経て現職。

この特集の記事

海外発

国内発