特集:外国人材と働く地方の中小企業が持続的に発展する秘訣とは(愛媛)
愛媛県製造業の実例から探る

2022年4月1日

ジェトロ愛媛と愛媛大学は2021年3月、「高度外国人材等の雇用に関するアンケート調査」を共同で実施した。この調査によると、回答のあった愛媛県内373社のうち、今後の希望として「技能実習生や特定技能資格者を雇用したい」と回答したのは67社(18.0%)にとどまった。一方、「高度外国人材を採用したい」と回答した企業が102社(27.3%)に上った。県内企業の高度外国人材への関心の高まりが読み取れる。

こうした背景を踏まえ、ジェトロ愛媛と愛媛大学国際連携推進機構留学生就職促進プログラム推進室は2021年10月19日、「高度外国人材セミナーin愛媛~外国人財を生かした持続可能な組織づくり~」を開催した。県内の高度外国人材活用を促進するのが、その狙いだ。

県内には、海外展開に積極的で高度外国人材を受け入れている中小企業もある。本レポートでは、同セミナーに登壇した2社の事例として、高度外国人材を取り入れた持続的な組織づくりについて紹介したい。そのためには、「採用する側」と「採用された側」双方の視点から、互いに異文化を受け入れ、理解するコミュニケーションが重要だ。これを実現する工夫や意義についても考察していく。

当初は意思疎通に不安、今では管理職や研究開発職も活躍

農業機械・電動車いす・省力化機械の開発、製造販売を行うアテックス(本社:松山市)。中国に拠点をもち、アジアを中心に積極的に海外展開を図っている。現在、同社で働く高度外国人は 6 人(インドネシア、韓国、台湾、中国出身)。うち2人が管理職、1人は主任として活躍している。配属部署は、購買管理部、海外営業部、総務部、研究開発部と多岐にわたる。

高度外国人材の採用を始めたのはなぜか。総務部の河野正幸部長は、「2007年に中国に生産拠点を設立し、中国から技能実習生を受け入れた。それに伴い、通訳や将来の管理者が必要になった」と振り返る。さらに、2020年には、インドネシアとの取引を増やすため、取引先への英語での説明や技術サポートができる人材として、研究開発職の人材を採用した(2020年12月18日付地域・分析レポート参照)。

外国人社員を受け入れるにあたって、河野部長には「うまく意思疎通をして一緒に働けるか不安」があった。しかし、「外国人社員は日本で働きたいという思いや仕事への意欲が高く、日本に興味がある人が多い。その積極的な姿を見て、日本人社員も文化の違いを受け入れるようになった」と打ち明ける。

職場では、基本的に皆が日本語を使用し、仕事を通して日本語を覚えてもらう仕組みを作っているという。外国人社員には、日本語の研修機会も提供。そのほか、イスラム教徒の社員向けに、礼拝場所も作った。

違和感を乗り越え、文化の違いを受け入れる

アテックスの最初の高度外国人材として、2009年に採用されたのが李東氏(中国出身、県内大学卒)だ。現在は、入社当初から所属する購買管理部の課長を務める。当該部署では、問題発生時には生産計画に間に合うよう、迅速かつ丁寧な対応が求められる。

李課長は「入社直後に各部の研修機会を通し、各部署の人の顔を覚え、相談しやすい関係を構築できた」と話す。さらに、自身の経験から、「相談しやすい環境づくりやコミュニケーションが大切」とも。「日本で暮らして違和感を抱くことはある。しかし、それが異文化の面白さだ。異文化を味わうことが大切。異なる文化を伝え、周りからアドバイスを受け、周りの環境に慣れて、ようやく互いに理解できるようになる」と語った。

「違和感」は、採用する側にもあったようだ。河野部長は、かつて技能実習生を採用した際、給料を皆で見せ合い不満を言うことがあり驚いた、と言う。しかし、今では「一つ一つ文化の違いとして受け入れることが大事。日本のやり方を押し付けてもどうしようもない」と考えている。


河野部長(左)と李課長(アテックス提供)

社内初の高度外国人材が海外との相互理解に貢献

ホテルアメニティ・衛生用品の製造販売する山陽物産(本社:伊予郡松前町)は、新規事業に積極的に取り組む。例えば2020年には、「コメ歯ブラシ」を開発。環境に配慮して古米を原材料にしたもので、業界初の商品だ。そんな同社は、中国・上海、ベトナムなどに海外拠点を持つ。

国際営業部の平岡雄二部長は、高度外国人材採用のきっかけとして、「ベトナムの委託加工会社を管理する上で課題があった」と話す。委託加工会社とのやりとりは、同社の現地法人が仲介していた。しかし思うように相互理解を深められず、苦労していたのだ。

今では、ベトナム出身のグエン・テイ・フォン・タオ社員(ベトナム出身、県内大学卒)が直接、委託加工会社とやりとりをするようになった。これにより相互理解が進み、また現地からの化粧品の輸入業務がスムーズになったと、平岡部長は話す。

メンターの存在と社内コミュニケーションの改善

しかし、2020年に採用された当時は「『専門用語が分からない』『日常会話が早くてついていけない』『指示を理解できない』と不安を抱え、コミュニケーション上の苦労が多々あった」と、タオ社員は振り返る。

そんな彼女を支えたのが、1年上の先輩のメンターだ。タオ社員は、山陽物産にとって最初の外国人材だった。そのため、「安心して働ける環境づくりのため」(平岡部長)、会社の配慮としてメンターを付けたわけだ。何でも話せるメンターの存在に加えて社内の社員が少しずつ話しかけてくれたことで、「社内で唯一の外国人という不安や寂しさが払拭(ふっしょく)された」と、タオ社員は笑顔で振り返る。

平岡部長は、「勉強熱心なタオ社員の存在が他の社員にも良い影響を与えている」と語った。会社の雰囲気が明るくポジティブになり、仕事の指示を出す側も「5W1H」を意識するようになった。このように、「採用する側」と「採用された側」、双方のコミュニケーションのあり方に相乗効果が生まれた。

文化の違いを認識し、相手の意見を尊重

タオ社員は現在、国際営業部に所属。輸出入業務のほか、現地法人の管理や通訳、海外EC(電子商取引)の出展など、業務を幅広く担当している。日本語だけでなくさまざまなスキルを身に付けたいと、日々勉強にも意欲的だ。

一方で、日本とベトナムの文化差に直面することは今でもあるようだ。「ベトナムでは、自分の意見を伝え、議論することが当たり前。しかし、日本は相手の立場を考え、遠慮する文化がある」とタオ社員は話す。「文化の違いを認識し、相手が何を考え興味をもっているのかを知る努力をし、相手の意見を尊重すること。また、誰に対しても平等に明るい態度を心掛けている」と話してくれた。

平岡部長は、「今ではタオ社員から、自分の日本語の使い方について指摘を受けるほどだ」と笑う。「時には、お互いに理解できないこともある。とことん話し合える機会を今後もつくっていきたい」と言う。


2022年2月に「ニューズウィーク」誌の取材を受けたときの様子。
左から3番目が武知英治社長、4番目が平岡部長、6番目がタオ社員(山陽物産提供)

外国人材を生かし組織が持続的に成長するには

日本の文化を大切にしながら異文化を取り込み、中小企業が成長し続ける秘訣(ひけつ)は何か。高度外国人材を「採用する側」と「採用された側」の両者の経験から見えてきたのは、互いの考え方や文化を理解し、受け入れ、尊重する姿勢の大切さだ。

アテックスの河野部長は「中小企業が、将来的に日本人だけを採用して存続し続けるのは難しい。外国人材を受け入れることで、日本人が独特な文化や生活様式で暮らしていることを再認識し、何事もお互いに協調を図るという態度で臨むことが求められる」と話す。

「日本人は、時に傲慢(ごうまん)になりがち」と指摘するのは、山陽物産の平岡部長だ。「海外出身の社員から新しい考え方や文化を学び、それらを尊重すると同時に、日本の良さを伝えることも重要」と語る。「会社の雰囲気は、高度外国人材の採用で変わる。今後も積極的に取り入れたい」と話してくれた。

高度外国人材が異文化をつなぎ、発展させる

製造業の海外ビジネスには、材料・部品を調達し、国内で加工・製造して輸出したり、海外で委託加工して輸入したりするなどの営みがある。今回紹介した2社では、海外(異文化)とつながり、日本のモノづくりを発展・展開させる上で、高度外国人材が重要な架け橋になっている。当該人材は、日本のやり方を尊重しながら、海外企業との円滑なコミュニケーションを実現させてきた。

中小企業では、社内全体で人のつながりやコミュニケーションを育む環境を形成しやすい。高度外国人材を採用する目的の第一義は、人材不足の解消や海外展開の即戦力となる人材の確保かもしれない。しかしそれだけでなく、社内の異文化コミュニケーションの発展、さらには中小企業が持続的に成長するための新しい視点の取り入れにもつながるのではないだろうか。他の社員や組織全体の異文化コミュニケーション力の向上や新しい視点の導入が、日本の製造業の海外展開力のさらなる向上に寄与することが期待される。

執筆者紹介
ジェトロ愛媛
本田 貴子(ほんだ たかこ)
2016年、ジェトロ入構。本部にてビジネス講座やセミナーのライブ・オンデマンド配信の運営、ジェトロ会員サービスの提供に従事。2018年8月からモロッコのジェトロ・ラバト事務所にて日本企業の投資促進、調査・情報発信、現地スタートアップ発掘等に携る。2019年8月から現職。

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