特集:外国人材と働く愛媛でのものづくりに海外から研究開発職を直接採用
海外展開のキーパーソンとして活用

2020年12月18日

アテックスは、愛媛県松山市で1934年に創業。農機具製造から始まり、現在は草刈り機、電動車いす、動力運搬車などを開発・製造・販売する中小企業だ。電動車いすの国内シェアは、業界第2位。2007年には中国にも生産拠点を設け、輸出先は欧州、アジア、オセアニア諸国と広範囲だ。

ジェトロの伴走型支援を活用し、2020年3月に初めて海外(インドネシア)から研究開発職の社員を採用した、同社の貿易部次長の李承和氏と総務部採用担当の高倉杏奈氏に、高度外国人材の活用について聞いた(2020年10月6日)。


アテックスの本社(同社提供)

インドネシア市場の開拓を目指して

質問:
高度外国人材を採用するに至った経緯は。
答え:
英語で研究開発ができる人材を必要としていた。また、今後インドネシアとの取引を増やしていく上で、取引先への説明、技術サポートを担える人、インドネシアからの外国人研修生のサポートをできる人を求めていた。そのため、2019年にジャカルタでジェトロとパソナが開催した海外ジョブフェアに参加した。
インドネシアは、入国が簡単でない国だ。現地に輸出した機械を点検するために日本から出張するだけで、現地の就業ビザを取得する必要があるほどだ。インドネシア国籍を持つ人材であれば、ビザが不要になる。今後同国でのサポート業務で活躍してもらう人材がほしかった。
ジョブフェアではIT・電子機器メーカーの出展が多く、農業機器メーカーは当社のみだった。30人以上の学生と現地で面談し、図面 製作テストによる専門スキル、英語能力、明るさなどの人柄を考慮し、フィーハンド・ハワリー氏を採用した。日本語は、採用後に学んでもらっている。日本で暮らすことで、必然的に身につくと考えている。
現在、研究開発部に所属し、既製品・OEM製品のモデルチェンジや新製品開発に携わってもらっている。担当業務は、商品の企画段階から設計、各種評価試験まで幅広い。さまざまな顧客の作業環境や生活様式に対応するため、CADを駆使し高度な技術と知識で農業分野・福祉分野で利用される製品の全体設計を担っている。
東京などの大都市と比べ、愛媛県内で研究開発職の人材を見つけるのは難しい。今回、インドネシアから初めて採用し、海外に優秀な人材がいることを実感した。

会社内で部署を超えた助け合い、ジェトロのサービスも活用

質問:
現在の外国人材の雇用状況は。
答え:
現在5人の高度外国人材を雇用している。韓国から1人(貿易部次長)、中国から2人(購買担当、経理担当)、インドネシアから1人(研究開発担当)、台湾から1人(研究開発担当)。台湾出身の社員は、新型コロナ禍の中、9月にオンライン面談で採用したばかりだ。
海外での採用活動を経て採用したのは、今回のインドネシアからのフィーハンド社員が初めてになる。ただし、地元の愛媛大学が採択されている文部科学省の「留学生就職促進プログラム」(2019年6月19日付地域・分析レポート参照)を活用し、留学生を採用した経験がある。外国人研修生は12人(ベトナム人、インドネシア人)を雇用している(注1)。
会社内では、基本的に日本語を使用する。日本語が不慣れな社員には社内で英語ができる日本人が通訳に入るなど、部署を超えて助け合っている。フィーハンド社員にも、現在週1回の頻度で日本語のプライベートレッスンを提供し、日本語の習得に励んでもらっている。そのほか、自転車を一緒に買いに行く、市役所などでの届け出や手続きを手伝うなど、日常生活も必要に応じてサポートしている。
質問:
ジェトロのサービスをどのように活用したか、苦労したことは。
答え:
ジェトロ主催の海外ジョブフェアで、良い人材を見つけられた。初めて海外から日本語のできない社員を採用するに当たって、文化の違いによる接し方、宗教的なことなど不安があった。しかし、「高度外国人材活躍推進コーディネーターによる伴走型支援」(注2)を通して解消することができた。今後も、海外から優秀な人材を採用したいと考えている。
苦労としては、日本語のコミュニケーションが業務上でまだ不十分なことだ。これには、本人の努力と社内の助け合いで対応している。

前方中央がフィーハンド氏、後方は同部署の社員(同社提供)

業務の専門スキルと言語の強みを生かした海外とのつなぎ役

質問:
外国人社員の活躍が、いかに海外ビジネス展開に結びついたか。
答え:
インドネシア出身のフィーハンド社員は、製品の技術的な説明が母国語でもできる点で非常に頼もしい。新しく製品を輸出するために、インドネシアの受注元企業が工場見学に来る際、英語だけでなく、母国語で説明できることで、コミュニケーションがスムーズになる。
また、現地での技術指導についても同様だ。英語では伝わりにくい細かな表現が母国語で解消される。このことによって、互いの意思疎通に間違いが少なくなる。研究開発の業務能力と、今後のインドネシア市場の開拓の両面で期待している。
そのほかにも、中国出身の社員は、中国からの顧客対応や中国を含めた他国の華僑への説明、中国の工場との円滑なやりとりで活躍している。これら外国人社員が海外とのつなぎ役として活躍し、ひいては市場開拓に携わる社内人材の育成に結びつくことを期待している。
質問:
今後の目標は。
答え:
国籍や人種に関係なく、優秀な人材がいることを高度外国人の採用を通して実感した。
高度外国人材の活用により、国内の人材不足を背景に危ぶまれる若い世代への技術伝承を可能にし、グローバルな会社にしていきたいと思っている。

自分の専攻を生かせる場、大都会とは違う愛媛の魅力

今回、高度外国人材として採用されたフィーハンド氏にも話を聞いた。

質問:
なぜアテックスを選んだのか。
答え:
インドネシアの大学では、農業工学を専攻していた。農業機械分野の研究開発職があるアテックスには、自身の専攻を生かせるため魅力を感じた。

フィーハンド氏が関わる、海外輸出向けの乗用草刈り機(同社提供)
質問:
やりがいや課題は。
答え:
海外で働くことで、公私ともに母国では得られない経験を得ることができる。日本語の習得が大きな課題で、会社から提供される日本語のプライベートレッスンには感謝している。研究開発職として、当社の製品を開発するだけでなく、早く日本語を習得して職場内で十分なコミュニケーションがとれるようになりたい。
また、日本に来て7カ月が経つが、友人を増やすことが課題。県内の大学に通う留学生の友人はいるが、いずれ母国に帰ってしまう。自分と同じように、長く愛媛に暮らす友人をつくりたい。
質問:
愛媛で暮らすことの魅力、特徴は。
答え:
東京などの大都市と比べて、落ち着いた暮らしをおくることのできる魅力がある。新型コロナウイルスが落ち着いたら、愛媛や四国内を旅したい。

取材後記

英語だけでなく母国語で、業界の専門知識とスキルをもって仕事ができる高度外国人材は、国内企業が海外と事業を進める上で重要な架け橋になる。そのことを、今回の取材を通して再確認した。

初めての海外での採用・受け入れは当然、不安が大きい。しかし、アテックスには社内で部署を超えた家族のような助け合いがあると感じた。日本語は日本に来てからしっかり身につけてもらうという姿勢や、そのための公私における社内サポート体制づくりも、高度外国人材を受け入れる上で大切だろう。

地方には、都会と比べて人材不足の課題がある。同時に、自然や落ち着いた暮らしがあるなど、都会にない魅力が多々ある。アテックスの高倉氏も「愛媛は、海・山・街が比較的小さなエリアにある、生活に便利なコンパクトシティ、通勤時間は全国で一番短く時間的にもゆとりのある暮らしが送れる街として魅力的」と指摘している。住宅にかかる費用も全国でトップレベルの安さだ。そうした暮らしやすさの魅力がある。

こうした魅力を評価する外国人は一定数いると考えられる。会社の取り組みはもちろんのこと、土地の魅力も併せてPRすることで優秀な人材を呼び込むことにつながるのではないか。高度外国人材を活用し、地方から海外に挑戦する同社を今後も応援したい。


注1:
外国人研修生数は、インタビュー実施時点。
注2:
「高度外国人材活躍推進コーディネーターによる伴走型支援」は、関係機関の取り組みやジェトロのコーディネーターを通じて、高度外国人材採用の計画策定から、採用活動、採用後の社内制度整備まで、一貫して支援するサービス。コーディネーターは高度外国人材に関連する情報に精通した専門家で、担当企業を継続的に訪問し、必要なサービス・関連情報を提供する。
執筆者紹介
ジェトロ愛媛
本田 貴子(ほんだ たかこ)
2016年、ジェトロ入構。本部にてビジネス講座やセミナーのライブ・オンデマンド配信の運営、ジェトロ会員サービスの提供に従事。2018年8月からモロッコのジェトロ・ラバト事務所にて日本企業の投資促進、調査・情報発信、現地スタートアップ発掘等に携る。2019年8月から現職。

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