特集:外国人材と働く 企業の経験と支援実例に学ぶ
高度外国人材を地方で獲得(後編)

2023年2月16日

人口減少やイノベーション創出などのため、高度外国人材をどう獲得するか。これを探るため、「新グローバル時代の人材獲得戦略―革新の源泉は高度外国人材―」と題してセミナーを開催。浜松経済同友会とジェトロ浜松が主催、eコモンズ(浜松外国人材定着サポート有限責任事業組合)が共催した。その内容を報告するのがこの連載だ。後編では主に、高度外国人材を活用した企業の実例などから、獲得に向けた足掛かりになるポイントを紹介する。

なお、このセミナーには、浜松地域を中心に、地元の製造業や教育機関をはじめ様々な業種からの参加があった。高度外国人材への関心の高さが見て取れる。もちろん、今回議論されたことをどう解決していくのかは、なおも課題だ。ジェトロではそのために、ポータルサイトで情報提供や伴走型支援を提供している。地域の支援機関の活用も有益だろう(注1)。「ロールモデル」の作成(前編参照)やインターンシップの活用などに、取り組んでいただけることを期待したい。

トップがリーダーシップを取り採用する

セミナーでは、静岡県企業の実例も取り上げた。ジェトロ浜松所長の永盛明洋を司会に、高度外国人材の採用やインターンシップの受け入れ実績のある3社が登壇。各社の取り組みを紹介した。

最初は、ソミックマネージメントホールディングス。ボールジョイント、ダンパーなど、自動車部品の製造・販売を手掛けている。代表取締役社長の石川雅洋氏が説明した。

同社は現在、約30人もの高度外国人材を雇用している。もともと同社は、人材採用に課題を抱えていた。日本人の工学系人材が大企業に集中する傾向にあるためだ。そのような状況の中で、浜松経済同友会を通じ、静岡大学に在籍する外国人留学生の実態を知った。情報工学など高い専門性を修得しながら、その一部は卒業後に適切な就職先を見つけられていないというのだ。理系人材を採用したい企業と、専門性を生かしたい外国人留学生とのミスマッチを解消する余地があると感じた。また浜松には、浜松国際交流協会(HICE、多文化共生を支援する公益財団法人)や、オイスカ開発教育専門学校・浜松学院大学などの教育機関がある。文化や言葉の壁に関するサポートを期待できる環境だ。加えて、商工会議所、ジェトロをはじめとする支援機関や、生活基盤にも関わってくる医療団体、金融機関、さらに静岡大学などの協力も得られる。そうした地域のサポート・協力体制も後押しになった。その結果、eコモンズによるインターンシップを通じて採用を決断した。

同社では当初、高度外国人材に、先進技術や情報システム関連業務を振り当てた。現在ではさらに配属先を広げ、生産技術関連部署や事業企画、営業にも配置している。自動車部品を扱うため、海外取引が欠かせない。外国人材は、海外ビジネスの戦力にもなる。

現場では、最初から外国人材の受け入れ体制が完璧でなくてもかまわない。外国人材を配属しコミュニケーションを取っていくことで、体制は徐々に構築できる。むしろ、優秀な理工系人材を獲得する機会を早めに確保する方が良い。デジタル化への対応、環境対策や海外との取引を求められる中では、その方が有益だろう。

また、そうだからこそ、トップがリーダーシップを取る必要がある。そうした強いコミットメントをもって、高度外国人材採用を進めて行くことが大切だ。

自走できる人材を採用できた

続いて、三恵の管理部経理・総務グループ長・片岡和佳氏が登壇した。プラスチック自動車部品を製造・販売する企業だ。

同社は、2021年に高度外国人材を採用した。不良率の低下に取り組むのが、その目的だった。加速度的にアナログからデジタル社会に時代が進む当時、新型コロナウイルス感染が拡大していた。静岡大学からインターンシップへの誘いがあったのは、そのタイミングだった。平時だと、高度人材は大企業や都市に流れる傾向にある。しかし、有事の新型コロナ期は逆にチャンス。そう捉えて、インターンシップで留学生を受け入れるに至った。

結論として、この試みは非常に効果があった。受け入れたのは、情報工学が専門のバングラデシュ人学生2人。この2人が非常に優秀だったのだ。通常だと長期間取り組む必要がある課題を、短期間で解決。不良率改善につながった。その後、それだけにとどまらず、製造工程のAI(人工知能)化などで現在も活躍している。高度外国人材に求めたことはデジタル分野での能力だ。そのためには、言葉以上に専門性、さらには即戦力が大切だった。

高度外国人材は、自分で課題を見つけて解決していくことができる人材でもある。現場で課題を見つけ、その場でプログラムを組み解決。スピード感や解決の精度が高いという特長がある。

また、外国人にとっての職務環境を整えることも大切だ。この件では、インターンシップの段階で要望を何度もヒアリングした。それが、入社、そしてその後の活躍につながっている。

まずはインターンシップから

最後に、小楠金属工業所。その事業内容は、パワートレイン部品、油圧機器部品、ディーゼルエンジン部品、環境機器の製造・販売だ。代表取締役会長の小楠倶由氏が登壇した。

同社は、2022年にインターンシップ生を受け入れた。タイとインドネシアに取引先があり、本来なら、両国からの留学生を採用したい。しかし、いきなり本採用に踏み込むのは、難度が高すぎる。そこで、インターンシップを活用した。外国人インターン生に取り組んでもらったのは、温水システムの開発だ。脱炭素という観点から太陽熱を利用するという観点が込められ、インターン生にとっても有意義と考えられる。いずれにせよこれは、留学生の質を感じる良い経験になった。

インターンシップは、お互いにお試しができる貴重な機会と言える。ハードルを感じている企業にとっては、1つの選択肢として有効だ。

地域のつながりも人材獲得に重要

3社の事例紹介を受け、石川社長は「受け入れ体制作りをよく考え整備することは、もちろん大切だ。他方で、インターンシップというお試しの場を活用して、現場でコミュニケーションをとりながら、体制を整備していくことも有効」「留学生は、専門性を高めるために来日している。インターンシップは、その専門性に対する強い思いを理解する場としても有益だ。インターンシップ終了後に、企業・留学生がお互いに対する評価を高めた事例もある」とコメントした。

これを受けて、ジェトロビジネス展開・人材支援部 国際人材ビジネス課長の河野敬からは、「インターンシップは、留学生の受け入れという新しい人間関係を形成する場でもある。理詰めだけで答えが出てこない場合もあるだろう。経営者がトップダウンの形で、ある程度のリスクを承知の上で実行することが必要」「他方で、取り組み始めた企業を孤立させてはいけない。トラブルは少なからず起きると想定した方がよい。それを相談できるコミュニティーを作る必要があり、企業主導でそれが作られていけば地域的な強みとなる」とアドバイスした。


意見交換の様子(ジェトロ撮影)

地域の支援機関を活用しよう

セミナーの最後に、eコモンズから、高度外国人材採用に向けて果たしている役割や活動内容が説明された。登壇したのは、代表理事の三井いくみ氏だ。

同機関は、外国人材の採用と定着に向けて、企業向けに支援している。採用後も、企業と外国人材双方をサポート。狙いにするのは、高度外国人材の定着だ。中でも、ワンストップの伴走型支援が大きな事業の柱だ。それによって、就職・就労機会を創出している。

外国人の本採用には、企業からの実例でも述べられていたとおり、良い面が多数ある。しかし、手続きや対応すべきことが多いのも事実だ。例えば、社内規定を多言語化し、保険加入をはじめとする日本社会のルールを説明しなければならない。また、採用した人材と地域のコミュニティーとの間でトラブルがあると、採用会社に相談が来ることもある。そういった様々な課題に寄り添うため、企業の総務・人事部門をサポートしている。言葉の問題にも、アドバイザーが相談に乗る。

また、外国人留学生に企業の認知度を上げてもらうための支援も提供している。この取り組みは、eコモンズ単体で進めているわけではない。例えば「ふじのくに・地域大学コンソーシアム」(注2)などと連携して、外国人留学生への情報発信に取り組んでいる。

生活面では、公益財団法人浜松国際交流協会(HICE)と協力して、サポート。そのほか、静岡県庁や浜松市はもちろん、不動産事業者や自動車学校医療機関とも連携して総合的な支援を追求している。

2023年の春休み期には、改めてインターンシップを実施する。その募集イベントでは、各社が自社製品を持ち込み、工夫を凝らしてPRできる。企業は年を追うごとに、PR慣れしてきた。インターンシップに優秀な外国人留学生から応募があると、「弊社にこれほどの学生が来ていいのか」と相談されることもある。しかし、躊躇(ちゅうちょ)する必要はない。まず受け入れ、経験を積むことが大切だ。


注1:
とくに地方では、外国人材を活用する上で、地元支援機関や大学などの活用が有益と考えられる。この点、「地方にも広がる外国人材ニーズ」でも分析されている。
注2:
静岡県内の高等教育機関相互の連携を深め、行政、産業界、非営利活動法人などと広範なネットワークを形成し、教育力・研究力の一層の向上を図るとともに、地域社会の発展に寄与していくことを目的として設立された公益社団法人。
執筆者紹介
ジェトロ浜松係長
田辺 知樹(たなべ ともき)
2011年、ジェトロ入構。農林水産・食品部、大阪本部、ビジネス展開支援部などを経て現職。

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