特集:外国人材と働くインドネシア人材が地熱発電ビジネスで活躍(北九州)
外国人材を活用して販路開拓に挑む極東製作所

2021年5月10日

極東製作所(本社:福岡県北九州市)はバルブの設計・製作とメンテナンスを行う企業だ。地熱発電所の高温高圧環境、また、硫化水素などの腐食成分をはじめとした悪条件に耐える特殊バルブ製造では、国内外の地熱発電所に多数の納入実績を有しており、国内シェア約90%を占めるニッチトップの企業だ。同社が外国人材を採用して取り組むのが、日本と同じく環太平洋造山帯の上に位置するインドネシアだ。同国は地熱源世界第2位(第1位は米国、第3位が日本)の地熱大国で、地熱発電利用が進む。同社の海外展開戦略における高度外国人材の役割について、清水勝也常務取締役とムハマド・スブハン海外地熱リーダーに聞いた(2020年9月)。


北九州市内の極東製作所本社の外観(同社提供)

北九州市などの紹介が採用のきっかけに

北九州市は1901年の官営八幡製鉄所設置以降、素材型重工業を中心に発展した。日本の近代化や高度経済成長を牽引してきた一方で、1960年代には工場廃水やばい煙による深刻な環境汚染に見舞われた。北九州市民の運動に端を発した産学官民の30年に及ぶ取り組みによって公害を克服し、現在では政府の「SDGs未来都市」に選定されたほか、OECDの「グリーン成長都市」にシカゴやパリ、ストックホルムと並んで選定されている。

こうした歴史的経緯から、北九州市では、経済成長に伴って環境問題に直面するアジア地域の開発途上国への環境国際技術協力に力を入れている。北九州国際技術協力協会(KITA)は、市内の企業にアジア地域の開発途上国から研修受け入れなどを行う北九州市の外郭団体だ。極東製作所にムハマド・スブハン氏を紹介したのも、北九州市とKITAだった。

スブハン氏は1993年に留学生として初来日。日本の大学を卒業してから一度はインドネシアに帰国して就業した後、2006年に再来日。福岡県にある九州工業大学で機能システム創成工学を専攻した。同大学大学院で博士課程に進学し、大学内の留学生会長や留学生会館の管理責任者も務めた。第2の故郷となった北九州市への地元愛も強く、「市内で就職したい」と北九州市役所とKITAに相談。これをきっかけに、北九州市とKITAがインドネシアに販路開拓を試みる極東製作所にスブハン氏を紹介し、2012年4月にスブハン氏は同社に入社した。


インドネシアの顧客にバルブ操作を説明するスブハン氏(右端)(極東製作所提供)

特別扱いせずも手厚いサポート態勢

清水常務によると、もともとグローバルニッチな地熱業界で海外とのやりとりも多かったという同社では、「外国人だから」という意識はなかったという。また、将来的にはスブハン氏をインドネシア市場展開人材としたい構想はありながらも、外国人材だからといって特別扱いはしなかったという。ただ、受け入れに当たって、住居探しはスブハン氏自身で行ったものの、賃貸住宅の保証人は社長がサインするなど、経営トップが主体となった。スブハン氏は極東製作所の職場環境について「社長も休め休めと気遣ってくれる。仲良く家族のような雰囲気で、居心地がいいし、母国と仕事でつながるのが楽しい」と語る。


インドネシア顧客企業との会議の様子。右端がスブハン氏、その隣が椛山秀樹社長
(極東製作所提供)

専門知識と母国語を武器に、日本とインドネシアの懸け橋に

スブハン氏は、入社後は日本人スタッフと同じく、北九州市内のバルブ組み立て工場や品質保証部で研修し、入社から2年後の2014年9月から営業チームに配属となった。極東製作所はスブハン氏採用前の2007年からインドネシア国内の地熱発電所への製品納入を行ってきた。ただ、特殊な専門用語が必要になる分野にあって、日本語とインドネシア語の適切な通訳が見当たらず、同社も取引先のインドネシア企業も母国語ではない英語を使って商談を行っており、すれ違いが発生することも多々あったという。清水常務は「大学院で工学博士まで修了したスブハン氏がチームに加わったことで、専門用語やニュアンスに行き違いがなくなり、とにかくスムースに話が進むようになった」と話す。スブハン氏は2018年には海外地熱リーダーに昇格。新型コロナウイルス禍の中でZoomやMicrosoft Teamsなどのオンライン商談の機会も増えているが、母国語同士のやりとりでビジネスを進めている。また、ケニアやコスタリカなどの他地域からの引き合いでも、海外地熱リーダーとしてスブハン氏がメインとなってやりとりをしているという。


インドネシア国際地熱学会・展示会(IIGCE)に参加した椛山社長(左端)とスブハン氏(右端)
(極東製作所提供)

地元大学への外国人留学生、自治体の繋ぎも重要

大都会と比べて外国語や理系人材不足の課題が深刻な地方において、販路拡大を試みるターゲット国の商環境や母国語を理解し、さらに業界の専門知識や専門用語を理解する高度外国人材は、日本企業にとって海外ビジネスを促進させるカギとなる。

北九州市には九州工業大学をはじめ、市立大学や早稲田大学大学院などに約2,655人(2020年5月1日時点)の外国人留学生が在籍している。そのため、外国人材を積極的に採用する市内の企業情報をウェブサイトで公開するほか、「北九州市外国人材就業サポートセンター」を設置し、専門相談支援や市内企業と外国人材とのマッチングサポートを行うなど、外国人留学生の地元就職と定着に向けた取り組みを進めている。北九州市産業経済局雇用政策課の馬場宗一郎係長は「北九州市の外国人留学生の多くが市外流出するという課題がある。市内には極東製作所をはじめ、優れた技術力を有するものづくり関連企業が多く、国内エンジニアの人材不足から理工系外国人材のニーズも高い。せっかく北九州に縁を持った優秀な外国人材なので、今後もジェトロやKITAなどと協調した取り組みを進めたい」と話している。

海外だけでなく地元にも愛着を持つ地方大学への外国人留学生は、高度外国人材の採用を模索する日本企業にとって重要なタレントプールだ。その採用や受け入れに当たっては、日本企業や外国人材の希望をかなえるため、自治体や支援機関の協力も欠かせない。マッチング実現のため、生活を送っているだけでは普段知り得ない地元のニッチトップ企業や、グローバル展開を進める地元企業の動向をいかに広く知らしめるか、さらなる取り組みも求められている。

執筆者紹介
ジェトロ北九州
葛西 泰介(かっさい たいすけ)
2017年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課、外国企業誘致課を経て現職。

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