特集:外国人材と働く外国人留学生就業支援をリードする福岡県の取り組み

2019年3月26日

就職したい外国人留学生と採用したい企業との間には、在留資格や日本語能力以外にも少なからず課題がある。留学生就職支援の活動開始後10年が経過した今も、先駆的な取り組みを続ける福岡県留学生サポートセンター運営協議会の活動を紹介したい。

はじまりは約10年前の「留学生30万人計画」

2008年7月に文部科学省は関係省庁(外務省、法務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省)とともに、「留学生30万人計画」を策定した。本計画は、日本を世界により開かれた国とし、アジア、世界の間のヒト・モノ・カネ、情報の流れを拡大する「グローバル戦略」を展開する一環として、2020年をめどに30万人の留学生受け入れを目指すもの。

同計画は、(1)日本留学への誘い・日本留学の動機付けとワンストップサービスの展開、(2)入試・入学・入国の入り口の改善・日本留学の円滑化、(3)大学などのグローバル化の推進・魅力ある大学づくり、(4)受け入れ環境づくり・安心して勉学に専念できる環境への取り組み、(5)卒業・修了後の社会の受け入れの推進・社会のグローバル化、といった課題に具体的な方策を講じることを推進した。一方で、単に留学生受け入れ拡大にとどまらず、卒業生が日本社会に定着して活躍することを目指し、(1) 大学などへの専門的な組織の設置などを通じた留学生の就職支援の取り組み強化、(2)インターンシップ、ジョブカードの活用、就職相談窓口拡充など産学官が連携した就職支援や起業支援の充実、(3)企業側の意識改革や受け入れ体制の整備促進に取り組むこと、を目標としたことが注目される。

先駆的な取り組みを始めた福岡県

留学生30万人計画を受け、日本で最も進んだ取り組みを始めたのが福岡県である。同県は、2008年4月に福岡県留学生サポートセンター運営協議会を発足させた。同協議会は、「福岡県の魅力を世界に伝え、多様で優れた国際人材の集積・育成を図ること」を目的に結成された。組織は、参考のとおり、大学、行政、経済界、地域社会が一体となったもので、福岡県が留学生の第2の故郷として、一人ひとりの「学び、暮らし、働き」を支え、将来、福岡県との強い絆を持って活躍する人材を送り出すことを目指す。

参考:福岡県留学生サポートセンター運営協議会

会長
福岡県知事

副会長
九州大学総長
福岡商工会議所会頭
(公財)福岡県国際交流センター理事長

加盟団体
九州大学、九州工業大学、福岡女子大学、北九州市立大学
西南学院大学、福岡大学、九州産業大学、福岡工業大学
久留米大学、近畿大学産業理工系学部(福岡キャンパス)
福岡女学院大学、中村学園大学
自治体
福岡県、北九州市、福岡市、久留米市、飯塚市
経済界
福岡商工会議所、久留米商工会議所、北九州商工会議所
飯塚商工会議所
その他
民間国際交流団体(4)、法人賛助会員(2)

出所:福岡県留学生サポートセンター運営協議会ホームページ

2008年10月には、同協議会が職業紹介免許を取得し、運営機関である福岡県留学生サポートセンターが県内企業に対し、留学生の雇用(正規雇用とアルバイト雇用)を無料で紹介するサービスを開始した。同種の支援機関が自前で無料の職業紹介に乗り出しているのはおそらく日本で唯一の例であろう。同サポートセンターには、国家資格を持つキャリアコンサルタント(7~8人在籍)が常駐し、年末年始の数日以外は土日も窓口を開き、留学生支援を行っているのが特徴だ。現在、同サポートセンターには、中国、韓国、ベトナム、タイなどアジア圏をはじめ36カ国・地域から330人を超える留学生が求職登録している。2018年の紹介実績はアルバイト採用が114人、正規雇用内定者数は108人(県の留学生雇用の12%)であった。

福岡県留学生サポートセンター運営協議会事務局の苗井章紀次長によると、留学生に対する一連の職業紹介の取り組みは、福岡県に永住してもらうことを目的に制度設計されている。福岡で就職するメリットを、いかに説明できるかが課題という。正規雇用されれば65歳まで雇用が保証されることは、外国人留学生の心に響く。最近では、中小企業の事業継承の一環として、外国人留学生の就職斡旋(あっせん)をする例もあるという。

さらに、同サポートセンターに求人を出した企業は、会社説明会や面接のために同センターの施設を無料で使用できるというメリットもある。このほか、県内には96の民間日本語教室が運営されており、それらの多くは無料である。公的支援と民間支援がかみ合った留学生支援が続けられている。

企業から留学生への発信に課題

九州経済産業局(九経局)の調査によると、日本の高等教育機関在籍の外国人留学生は、26万7,042人(2017年度)。うち、在九州の留学生は2万6,398人で、全体のほぼ1割に相当する。福岡県の留学生は、1万7,519人で九州全体の約3分の2となる。

留学生の就職数(2017年度)は、2万2,419人。うち九州で就職した留学生は1,189人でシェアは約5%、福岡県で就職した留学生は892人で、九州全体の75%になる。九州で学んで九州以外で就職する留学生は、関東圏や中京圏に流れていると言われる。

九経局が九州の留学生に対して実施したアンケート調査(2017年度)によると、「働きたい場所」について、「日本であればどこでも良い」が49%と最も多く、次いで「九州で働きたい」が18%、「今いる県で働きたい」が13%であった。反対に、「九州以外で働きたい」は15%であった。

就職活動について不安なこと・困っていることでは、「外国人を採用する会社の探し方がわからない」、「日本語能力に自信がない」、「自分にあう会社・仕事がわからない」の順で上位を占めた。

留学生の採用に関心を持つ企業は、まず、留学生採用に積極的であることを発信するとことが最も重要である。さらに、企業プロフィールや業務の内容を丁寧かつ根気強く説明することも重要である。留学生採用の目的が海外市場開拓や海外展開推進であれば、その点を強調し、その留学生に合う会社、合う仕事であることを、留学生への期待とともに強くアピールすることが必要であろう。

執筆者紹介
ジェトロ福岡所長
山岡 寛和(やまおか ひろかず)
1984年、ジェトロ入構。ジェトロ・ハノイ事務所長(2011年~2013年)、進出企業支援・知的財産部長(2013年~2015年)、ジェトロ・ヤンゴン事務所長(2015年~2018年)を経て現職。

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