第2次トランプ政権下の新潮流を読み解く日系企業への影響と今後
トランプ政権下テキサスの投資動向(2)
2026年3月2日
政権交代以降の在テキサス日系企業の投資動向・ビジネス環境の変化
第2次トランプ政権下で、次々と打ち出される政策が、在米日系企業の事業活動へ大きな影響を及ぼしたことはいうまでもない。政権発足から1年を迎え、一連の混乱期は脱した状況だ。一方で、ジェトロが9月に行った「海外進出日系企業実態調査」において、米国では関税によるコストの増加や景気の不透明さから、「営業利益見込みが前年から改善した」という回答が減少し、2025年の景況感は2020年以来の低水準となった。
テキサス州に進出する日本企業に、トランプ政権による影響をヒアリングした(2025年11月~12月に実施)。
製造業
産業用モーターや電子機器などを製造する大手機械メーカーは、「部材の一部および一部製品の完成品を米国外から調達しており、関税の影響は少なからずある」と回答し、「価格転嫁の交渉は顧客の状況、市場での競争力を見極めながら、進めているところ」と述べた。対応策としては、部材はサプライヤーの変更も検討していくが、特殊な技術を要する製品などを日本から輸入している場合、サプライチェーンの変更は難しく、関税措置に対する抜本的な対策は打ち手がないようだ。一方で、「データセンターなどの需要は引き続き売り手市場が続き、原価高騰の影響は受けつつも、納期重視の市場もある」とも述べた。
大手化学素材メーカーは、「素材納品を行う顧客に聞いた話では、米国内での製造を今後増やしていく予定はこれまでのところなく、米国経済の景気先行きを懸念しているようだ」と述べた。「関税政策の影響で、中国企業との価格競争が難しくなっている状況もあり、より付加価値の高い製品と品質に対する信頼がますます重要になる」という。
人材派遣業
トランプ政権が推し進める製造業の国内回帰に対し、先述した製造業2社ともに、喫緊の課題として人材確保を挙げた。製造現場を担う技術者の高齢化、新規採用希望者の減少、人件費の高騰、離職率の上昇など、さまざまな課題に直面する中、製造業を米国内で安定的に維持するために、人材の安定的な確保とその定着は欠かせない。在米日系企業各社は、現地社員のエンゲージメントを高める取り組みや評価制度の見直し、職場環境の向上、対話を通じた信頼関係の構築に力をいれているという。
大手人材派遣企業は「労働市場は引き続き売り手市場で、日系企業の多くが現地社員の割合を増やしたいと希望する一方で、保険料の年平均8.3%上昇、前年比3%の人件費の高騰など、人材確保は楽観できない状況」と回答した。積極的に賃金上昇を進めてきた米系企業と日系企業の給与格差が1.5倍にまでも広がっている状況が見えており、技術職、特に機械系の現地技術者の採用はかなり難しい状況だという。また、社員教育や評価制度、従業員満足度の向上を目指した取り組みに注目が集まる中、同社は「現地日系企業からの需要として、人材派遣業から、内部統制などのコンサルテーション業へのシフトが色濃くなっている」との認識を述べた。
北米市場の景況感への懸念と、人材確保の課題から、日系企業による大型の新規投資には、現状積極的ではないようにみえる。一方で先述の「海外進出日系企業実態調査」においては、「原材料・部品の調達先や生産地の米国内への変更を検討する」と回答した企業数は、同内容の調査を開始した2019年以降で最多となっており、今後、投資判断が行われる可能性も含んでいる。
エネルギー産業
テキサス州ヒューストンに集積するエネルギー産業については、政権発足前から、トランプ政権の政策による影響は限定的と考えられていたが、連邦レベルでの再生可能エネルギー税額控除の前倒しでの縮小により、太陽光・風力の新規案件はコスト増などが見込まれ、減速傾向が見え始めた。
大手船舶物流企業は、アンモニア輸送船の開発を進めているが、トランプ政権の脱・脱炭素政策により、「バイデン前政権下で積極的に進められた脱炭素化の政策から大きく風向きが変わり、ブルーアンモニア、グリーンアンモニア(注)のプロジェクトは軒並み縮小、または中止となっている」と述べた。
テキサス州で二酸化炭素(CO2)回収・利用・貯留(CCUS)事業を行う大手石油会社も「税制優遇や助成制度の凍結があり、既存の施設はともかく、新規投資、参入はかなりハードルが高い状況だ」と回答。脱炭素、再エネ分野の新規投資は急激に減速傾向となる見方が強い。
今後のテキサス州の投資環境の見通し
テキサス進出日系企業へのヒアリングを通じた2026年の見通しは、世界的に需要の高まるデータセンター関連の投資について、引き続き大型投資も含め、大きな期待感を持てる状況だ(本特集「トランプ政権下テキサスの投資動向(1)米企業の大型投資が台頭」参照)。データセンター建設に伴う、電力やバックアップ電源の確保(蓄電池関連)についても、需要拡大が見込まれる。
石油・化石燃料関連の投資判断については、油価の動向を今後注視する必要があり、南米や中東情勢、ロシアとウクライナによる和平合意に向けた進展状況など、世界情勢の見通しに影響を受けた油価の予測値が重要な判断ポイントとなる。
自動車関連を含む製造業については、特に、鉄鋼・アルミニウムへの追加関税の影響は色濃く、米国内調達に変更する動きも見られ始めている。また、大きな話題となった日本製鉄によるUSスチールの買収など、鉄鋼業の米国回帰の動きが今後どこまで本格化するのかが注目される。
テキサス進出日系企業の2026年見通し
半導体・データセンター〔人工知能(AI)〕関連
大手半導体製造機械メーカーは、「トランプ政権の影響というよりは、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)などの影響を受けたトランプ政権以前からの米国政府の国内製造業回帰の流れから、北米内に半導体製造が戻ってきている状況。その点で国内の半導体関連の需要拡大については十分に見込める。AI関連のデータセンターの需要も、その後押しになると確信する」と回答。
エネルギー・製造業関連
エネルギー関連事業へ製品を納入する大手電機機械メーカーは、「石油・ガスに関して2025年は、トランプ政権の追い風を受けた良い影響を期待していたが、全くといっていいほど新規事業は進まない状況だった。その背景には、油価の低下によるプラントオーナーの投資判断の先送りや、資金調達の遅れ、地元住民からの反対など、複合的な要因が重なっている。一方で、2026年の観測としては、前年の落ち込みを補う形での投資判断が行われるのではないかと期待する」と回答した。
自動車・鉄鋼関連
鉄商材の商社は、「自動車関連部材の米国への輸入は関税政策の影響で、大打撃を受けており、各社部材調達を米国内へ変更するなどの対応がとられている。この影響は2026年も関税政策が続く限り、大きな懸念となるだろう。一方、エネルギー関連のプラントや掘削機械などに係る鉄部材については、米国内での需要量を国産部材で賄うことは今のところ現実的ではなく、輸入への依存は継続し、大きな変更は見込んでいない」と述べた。
前述に加え、テキサス州ヒューストン地域の経済開発団体「グレーター・ヒューストン・パートナーシップ」の最高経営責任者(CEO)に対し、2026年の見通しについて意見を求めたところ、「当地域は、エネルギーの首都としての地位は強固であり、その点で外国企業を含めた投資を引き続き歓迎する。米国内での経済活動の拡大を目指すため、特に優秀な人材の提供という観点で、産学連携を強化していく方針」との回答だった。テキサス州は2025年もGDP成長率、雇用、生産、輸出額などにおいて、全米平均を上回っており、経済は堅調だ。
第2次トランプ政権下での政策変更は、テキサス州に進出する日系企業に対し、関税強化や人材不足、再エネ政策の転換など多方面で影響を与え、投資判断の慎重化を招いた。一方で、半導体やデータセンターなど成長分野では引き続き需要拡大が見込まれ、関連企業の期待感も根強い。エネルギー分野、製造業では市況や油価、規制動向に左右される不確実性が続くものの、テキサス州の経済基盤は相対的に堅調で、今後も一定の投資機会が生まれる可能性がうかがえる。企業にとっては、政策の変動リスクを踏まえたサプライチェーンの見直しや人材確保策の強化など、環境変化に応じた事業運営が一層重要となっている。
トランプ政権下テキサスの投資動向
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- 執筆者紹介
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ジェトロ・ヒューストン事務所
キリアン 知佳(きりあん ちか) - 2022年9月からジェトロ・ヒューストン事務所勤務。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ヒューストン事務所
笹川 佐季(ささがわ さき) - 2020年、ジェトロ入構。本部スタートアップ課にて、日系スタートアップの海外展開支援事業に従事。主に、東南アジア、中東、アフリカへの進出支援を担当。2025年5月から現職。






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