第2次トランプ政権下の新潮流を読み解くトランプ政権前後の米国半導体投資環境
米アリゾナ州の動向を中心に

2026年1月19日

米国では、バイデン前政権下で成立したCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)を背景に半導体関連投資の発表が相次いだ。2025年1月に発足した第2次トランプ政権も、半導体は21世紀の経済の基盤であり、半導体がなければ経済は成り立たないとの認識のもと、必要な半導体を米国の技術と労働力で製造できなければならないとの見解を示している。こうした中で、半導体エコシステムとして成長を続けるのがアリゾナ州である。2025年3月には半導体ファウンドリー(受託製造)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、米国史上最大の外国直接投資額となる1,000億ドルの先端半導体製造工場への追加投資を発表したのをはじめ(2025年3月4日付ビジネス短信参照)、多くの半導体関連企業が同州での拠点設立や投資拡大に乗り出しており、日系サプライヤーも数多く進出している。本稿ではアリゾナ州の動向を中心に、トランプ政権発足前後の半導体分野の対米投資の動き、投資環境の変化、人材確保など投資上の課題について、元インテル社員でアリゾナ州在住の半導体専門コンサルタント、AZサプライチェーン・ソリューションズ(AZ Supply Chain Solutions)代表の亀和田忠司氏にヒアリングを行った(取材日:2025年12月8日)。


AZ Supply Chain Solutionsの亀和田忠司代表(本人提供)
質問:
半導体産業と一言でくくってもさまざまな工程があるが、米国の半導体産業の強みと弱みは何か。
答え:
半導体産業にはデザイン(設計)、主に前工程の半導体の受託生産であるファウンドリー、IDM(垂直統合型半導体メーカー)、OSAT(半導体組み立て・テスト)、製造装置、材料供給に関連する企業があるが、米国が強いのは設計であり、シェアでいうと全世界の6~7割を占めるとされる。
かつての米国は前工程製造(ファウンドリー、IDM)も強かったが、近年のシェアは1割程度となっている。米国に半導体製造を取り戻す動きの中で、シェアを2割程度まで引き上げるべく、米国連邦政府はCHIPSプラス法などの支援策で投資を呼び込もうとしている。しかし、工場建設には時間がかかることに加え、半導体関連投資は米国のみならず、欧州、日本、台湾でも積極的に行われているため、現状は12%程度と数ポイントしかシェアは上がっていない。
OSATについては、米国が最も弱いとされており、工場数でみると世界の10%以上のシェアがあるが、販売額では5%にも満たない。これは大手が少なく、一部の中小企業が残っているためで、日本も同様の状態にある。米国におけるOSATのニーズとしては量産前のプロトタイプの製造だが、価格や量では競争力は弱い。
また、サプライヤーという意味では、米国は製造装置の製造は強いが、材料の生産は弱いとされている。
質問:
なぜアリゾナ州は米国で半導体製造を代表する地域となれたのか。
答え:
そもそも米国で半導体の製造ができる場所は、アリゾナ州、テキサス州、ニューヨーク(NY)州、オレゴン州などに限られている。半導体を製造するには水、電気、人が絶対条件となる。TSMCの工場では一日でオリンピックプール7~8個分の水を使用するといわれているように、豊富な水が必要だ。また、かなりの電力を消費するため、電気が安定的に供給されることも重要だ。人に関しては、地元出身者もいるが、大手企業は州外から人材を連れてくる。この際、住みやすさが大きな要素であり、教育制度の充実なども求められる。
アリゾナ州はそうした要素を満たしていることに加え、過去から半導体世界最大手といわれたモトローラやインテルの工場が存在し、その周囲にサプライヤーも含めて関連企業が集積してきた背景も大きい。
質問:
アリゾナでは、2023年11月のアムコー・テクノロジー(Amkor Technology)の工場新設発表に始まり(2023年12月6日付ビジネス短信参照)、2025年に入ってからTSMCもパッケージング施設の新設を発表するなど、後工程に関する投資が相次いでいる。米国ではOSATが弱いと指摘されていた中で、こうした動きがみられる背景は何か。また、今後も継続すると考えられるか。
答え:
後工程企業に関しては、比較的強引に米国に入ってきている印象。前工程の営業利益率が50%程度なのに対して、後工程の利益率は15%あれば十分満足すべき水準であり、通常は10%程度で推移している。利益の割合が相対的に低い中で、需要動向によって一気に生産が落ち込む可能性もあり、後工程についてはもとより大規模投資が行いづらい側面がある。また、現在米国で投資が行われているのはレガシー(非先端)半導体でなく、主に先端半導体のためのものであり、個々の設備も高価なため投資額も大きくなっている。前工程で製造された顧客の製品を預かり、後工程としてパッケージングしていくOSATのビジネスモデルでは、時には品質問題による補償も生じてくる。これまでのレガシー半導体であれば個々の補償額も少額だったが、先端半導体の場合は単価が高く、パッケージングで不良品が出た場合の補償単価も増加する。したがって、論理的に考えて、人件費が高い米国で後工程の製造は通常はなじまない。
アムコー・テクノロジーが先端パッケージングのための投資を発表したのは、前工程のTSMCと半導体ユーザーのアップルとの戦略的なパートナーシップ締結があったためだ。すなわち、ある程度サプライチェーン間で投資に対する各種リスクへの取り決めがあったことで、こうした投資判断ができたと考えられる。このように前工程企業やユーザー側のコミットメントがあれば、今後も米国で後工程関連の投資は起きてくるのではないか。
これは日本でも同様で、日本に後工程企業を誘致しようとしても、結局、その先の顧客が日本にいるかどうかが重要。受け皿がないと、後工程企業が投資を行うのは難しいと考える。
質問:
トランプ政権成立以降の半導体分野の投資環境の変化をどう見るか。
答え:
半導体分野の投資環境の変化は非常に大きいと考える。近年、米国で半導体投資の発表が相次ぐ背景として、バイデン前政権時代に成立したCHIPSプラス法の影響が大きい。ただし、同法に基づく助成を受けるには、何百ページもの申請書を提出する必要があり、審査も1年ほどかかるとされている。また、投資完了後に助成がなされる点が特徴である。多くの企業が手を挙げてきたが、なかなか審査が進まない状況にあった。それでも、バイデン政権下で予算の90%は助成が決定したとアナウンスされた。
こうした中で、トランプ政権になってCHIPSプラス法に関連する部署の人員削減が進み、審査プロセスが流れにくくなったとされる。また、CHIPSプラス法では直接的な助成に加え、投資税額控除も行われるが、もともと控除割合が25%だったところ、35%に引き上げられた。それに加えて、7月に成立した「大きく美しい1つの法案(OBBBA)」では、設備投資費用の100%即時償却が盛り込まれている。これまではCHIPSプラス法に基づく助成を受けるために膨大な申請書類を準備し、何重もの審査を経たたうえで、その結果を長期間待っていた状況から、いわば投資を行い確定申告さえ行えば費用が戻ってくる仕組みになっている。ドナルド・トランプ大統領はこれまでに確定した助成金を減額させているという話もあるが、この償却の仕組みによって、キャッシュフローの見通しが立てやすくなっており、また本スキームではリターンが大きいという話も聞く。トランプ大統領は米国以外の企業に直接助成を行うことに否定的だが、半面、米国に投資すればその分、税制面で優遇するという発想を持っている。この考えが今のところ半導体分野の投資促進につながっているのではないか。現状、この動きは非常にポジティブに作用している模様だ。
質問:
インテルはトランプ政権から約89億ドルの出資を受け入れることになった。米国政府が大企業株式を所有することは極めてまれな中で、この動きをどう捉えるか。
答え:
インテルの不調の主な要因はファウンドリー事業だが、赤字から抜け出すのはどんなに早くても2027年とされる。現実的にはそれよりも長期化する可能性が高い。そうした中で、連邦政府がどこまで辛抱強くインテルの考えるロードマップを同社に任せられるか。半導体は需要動向が大きく業績に影響するが、市況についてはインテルのコントロール外となる。そうした状況下でも、政府が物言う株主にならないことが重要であり、ノイズになってしまうと混乱が生じる可能性がある。
質問:
人材確保など投資上の課題にどう対応すべきか。
答え:
半導体に関する人材については、開発に携わるエンジニアと工場で作業を行うオペレーターに大別されるが、特にオペレーターが不足している。エンジニアは州外からも連れてくることができるが、オペレーターに関してはそうはいかないため、地場で育てる必要がある。アリゾナ州ではコミュニティカレッジ(日本の短期大学に相当)や高校に半導体プログラムができ、教育機関や企業、地元政府が連携しながら人材の育成に努めている。アリゾナで半導体関連工場が増加していく中で、こうした取り組みがより一層求められる。
質問:
半導体関連企業へのこれまでの関税措置の影響をどう考えるか。またトランプ政権は、半導体、医薬品、重要鉱物など複数の分野で1962年通商拡大法232条措置の発動の準備を進めており、実際に半導体分野に関税が賦課される可能性があるが、どのように見ているか。
答え:
関税政策については結局、米国が損をすることになると考えている。関税をテコに米国で製造するように働きかけているが、実際に工場ができて製造が始まるまでに大統領の任期が来てしまうのではないか。これまでに関税をかけられている自動車などは、基本的に値上げを表明している。半導体関連の材料や装置に関税がかかったとしても、ファウンドリー企業はそのまま値上げを行い、結果、最終製品に転嫁され、消費者が負担することになる。
ただし、半導体の売り上げに対して、材料の価格は12%程度とされる。したがって、仮に材料に関税がかかったとしても、全体の販売価格を考えると影響は限定的だと捉えることもできる。また、米国の半導体製造比率は世界全体の10%未満にとどまる。したがって、米国での半導体関連の関税引き上げは、世界の半導体産業全体の市況に大きな影響を及ぼすまではいかないとみている。
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所
堀永 卓弘(ほりなが たかひろ)
2011年財務省入省。財務省主計局調査課、理財局地方企画係、金融庁監督局銀行第二課、 個人情報保護委員会事務局、財務省大臣官房総合政策課などを経て、2023年7月からジェトロに出向、現職。