第2次トランプ政権下の新潮流を読み解くディール優先の経済安全保障政策、評価はさまざま(米国)

2026年1月19日

本稿では、第2次トランプ政権の国家安全保障戦略を踏まえ、経済安全保障に関わる基本方針と、それに沿って実施された輸出管理などの政策動向を検証する。

米国の安全保障政策の方向性を把握する上で、政権が発表する国家安全保障戦略(NSS)は、その目標とそれを実現するための手段を体系的に示す、最も包括的な指針だ。2025年12月に公表された2025年版NSSPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(500KB)は、第2次トランプ政権の安全保障政策の基本方針を最も端的に示している文書と位置付けられる(2025年12月15日付ビジネス短信参照)。NSSは、国内法(注1)に基づき大統領が連邦議会に提出する報告書で、4年間の大統領任期中に1回提出されるのが慣例となっている。

2025年版のNSSは、同盟国との協調やルールに基づく国際秩序の維持を重視したバイデン前政権の2022年版NSSとは大きく異なる方向性を打ち出している。中でも、米国の対外関与を再定義し、アメリカファーストを戦略の中心に据えた点に大きな特徴がある。具体的には、同盟国に対してより大きな負担分担を求め、米国の国益を最優先する「取引型」の外交姿勢を明確に示している(表参照)。

表:2022年版と2025年版NSSの主要項目別の比較
項目 2022年版(バイデン政権) 2025年版(トランプ政権)
戦略の基本方針 米国の死活的な利益、地政学的競争、世界共通課題への取り組みを重視。中国やロシアなど専制国家に対抗するために民主主義を守ると強調。 外交政策の目的は米国の核心的な国益を保護すること。他国の問題は米国の利益を直接脅かす場合のみ関心。グローバリゼーション、同盟関係の失敗を糧に、国益のための実行可能な安全保障戦略を構築。
同盟・負担 同盟国・パートナー国との緊密な連携を最重視。世界における米国のリーダーシップの必要性を強調。NATO、欧州、インド太平洋地域における中核的同盟関係を深化。 米国が世界秩序を単独で支える時代は終焉。負担共有と負担転換を強調し、同盟国により多くの責任を要求。
移民・国境 人道的かつ秩序ある移民政策を追求する。合法的移民制度の改善と国境管理の強化を両立させる。 大量移民の時代は終わったと明記。国境警備を国家安全保障の中核に据え、不法移民対策を徹底する方針。
経済安全保障 経済安全保障(Economic Security)への直接的な言及なし。現代に則した産業・イノベーション政策を推進し半導体、AI、量子など先端分野への支援や投資を拡大する方針。 経済安全保障=国家安全保障との認識の下、貿易均衡、重要サプライチェーンへのアクセス、再工業化、防衛産業の再興、エネルギー覇権を優先課題に。
エネルギー・気候 気候危機は現代の最も深刻な脅威。再生可能エネルギー投資を拡大し、ネットゼロ目標を国際協調で推進する。 米国のエネルギー覇権を取り戻すためのリショアリングを最優先。破滅的な「気候変動」および「ネットゼロ」思想を拒否する。
インド太平洋 自由で開かれたインド太平洋を推進するため、同盟国やパートナーと協力。インド太平洋経済枠組み(IPEF)などの新たな経済枠組みを構築する方針。QUAD、AUKUSなどの枠組みを強化し、地域の安定と繁栄を確保。 インド太平洋は今後も主要な経済および地政学の戦場であり続けるとし、「自由で開かれたインド太平洋」へのコミットメントを再確認。経済・軍事力、革新力、ソフトパワー、同盟国支援を競争基盤に、同盟強化とパートナーシップ構築を推進。
対中国 中国は国際秩序を再構築する意図と、その能力を備えた唯一の競争相手であり、米国の優位を脅かす存在と位置付け。同盟国と連携して中国の影響力に対抗する姿勢。 中国との関係は「不均衡で不公平」であり、30年以上に及ぶ米国の誤った対中認識を否定。関税、輸出規制、投資制限を強化し、中国の技術覇権阻止を最優先課題とする。同盟国へも対中経済政策の協調を要請。
対日本 インド太平洋戦略の中核パートナーとして位置付け。中国との戦略的競争における重要パートナーと明記。 対中貿易政策における連携、軍事費の負担増要求などの分野で、他の同盟国と横並びで記載。
対欧州 欧州を最重要の民主主義パートナーと位置付け、EUとの協調を重視。ロシアの脅威に対し、NATOの抑止力強化を重視。技術や貿易、エネルギー面でのEUとの連携を強化。 欧州における国家主権の侵害、移民政策の失敗、過度な規制、言論の自由の検閲、国民的アイデンティティーと自信の喪失などを指摘し、改革を促す姿勢を明記。NATO拡大に否定的な姿勢。欧州による防衛負担増を要求。
対台湾 台湾海峡の現状を一方的に変更することに反対し、台湾独立を支持しないと明記。台湾の自衛支援と、台湾に対する武力・威圧行使への抵抗能力維持の姿勢を堅持。 台湾海峡の現状を一方的に変更することを支持しない。軍事的優位を保ち、第一列島線での侵略を阻止できる軍備を構築する方針。同盟国が侵略抑止のための能力投資を行う必要性を強調。
対ロシア ロシアは、国際秩序に対する即時かつ持続的な脅威をもたらす存在と明記。ウクライナ侵攻を非難し、民主主義防衛のために制裁と軍事支援の継続を約束。 ロシアとの「戦略的安定の再構築」を重視。ウクライナにおける敵対行為の迅速な停止とウクライナ再建による国家存続の確保を重視。他方、欧州による対ロシアアプローチを批判。

出所:ホワイトハウス発表、National Security Strategy(2022年10月、2025年11月)から作成

米国の対外関与について、日本に関する記載を比較すると、2022年版では、日本を最も重要な同盟国の1つと位置付け、日米同盟の強化、統合抑止、地域の安定に向けた協力が明確に記されている。これに対し、2025年版では、対中貿易政策での連携や同盟国への軍事負担要求の文脈で、他国との並びで記載されているに過ぎず、扱いがより限定的になっている。

また、2025年版では、とりわけ欧州に関する記述内容の変化が目立つ。2022年版では、欧州を「最重要パートナー」と位置付け、民主主義の擁護や経済面を含む包括的な連携の重要性を強調していたのに対し、2025年版では欧州の現状に対して批判的な要素を列挙し、欧州社会の構造的な脆弱(ぜいじゃく)性を指摘している。また、過度な規制がイノベーションと経済活力を抑制しているとし、欧州経済の停滞を文明的疲弊の一因としている点も特徴的だ。その上で、米国の目標は「欧州が現在の政策を見直すことを支援すること」にあるとし、欧州の政策転換を促す姿勢を打ち出している。これに対し、欧州側では、欧州理事会のアントニオ・コスタ議長が、2025年版NSSが欧州の内情を誤った認識に基づき否定的に描いていると指摘し、EUとして懸念を示したことが報じられている(注2)

米国の自立と産業基盤の再構築に主眼

経済安全保障政策やサプライチェーンの強靭(きょうじん)化に向けた戦略に関してはどのような方向性が読み取れるか。同分野でも、2022年版と2025年版NSSでは明確な変化がある。2022年版では、同盟国との協調やルールに基づく国際秩序の維持を通じて、強靭で持続可能なサプライチェーンを構築することを重視していたのに対し、2025年版では、米国の経済的自立と産業基盤の再構築を最優先に据えており、内向きかつ保護主義的な色彩が強まっていると評価できる。

具体的に、2025年版では米国が直面する経済的脆弱性として、中国への過度な依存や貿易赤字、知的財産の侵害、産業空洞化などを挙げ、これらが国家安全保障上の重大なリスクだと位置付けている。その上で、米国の経済的独立を回復し、重要物資・重要技術のサプライチェーンを米国内または信頼できる国に再構築することを戦略の中心に据えている。加えて、関税の活用、国内生産の拡大、重要鉱物の確保、産業政策の強化を明確に打ち出し、経済安全保障を国家の競争力の基盤として扱っている点が特徴的だ。また、対中政策の面では、欧州、日本、韓国、オーストラリアなどの同盟国に対し、中国の過剰生産能力や不公正貿易慣行に対抗するため、米国と同様の貿易政策・産業政策の採用を促している。2022年版で打ち出された協調的・多国間的アプローチよりも、より強制力のある枠組みを志向しているものと分析できる。

主要ツールとしての輸出管理、運用に揺らぎも

2025年版NSSで示された政策目的を前提に、第2次トランプ政権発足以降の約1年間に展開された経済安全保障政策をレビューすると、輸出管理を中心的手段として位置付けつつも、その運用には揺らぎがみられる。例えば、輸出管理規則(EAR)に基づくエンティティー・リスト(EL、制裁対象企業リスト)の拡大や、規制対象となる製品・技術の範囲を広げる措置を進める一方で、エヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)による人工知能(AI)関連の半導体について対中輸出ライセンスの発行を認める(2025年7月18日付ビジネス短信参照)など、規制強化と緩和が併存する状況にある。輸出管理は依然として主要な政策ツールでありながら、一貫性のある戦略的な枠組みとしては機能していないようにみえる。

ELを巡っては、同リスト掲載企業の関連企業までを規制対象に含める「関連事業体ルール」が9月に発動されたものの、10月の米中首脳会議によりその適用が1年延期されるなど、政策判断が短期間で大きく変動する事例もある(2025年12月9日付地域・分析レポート参照)。

バイデン政権と第2次トランプ政権の対中輸出管理政策は、同じ「対中競争」を掲げつつも、その戦略基盤と政策目的において大きく異なる特徴がある。米戦略国際問題研究所(CSIS)の指摘によると、バイデン政権下において、輸出管理は、デュアルユース(軍民両用)技術の軍事転用防止という安全保障上の目的の下に明確に位置付けられていた(注3)。またピーターソン国際経済研究所(PIIE)も、同政権の輸出管理が中国の軍事現代化を支える先端半導体技術へのアクセスを制限することを目的としており、国家安全保障上の懸念が政策の主要な推進要因となっていたと分析する。すなわち、デュアルユース製品の拡散が国家の安全および国際秩序の安定に対する脅威となり得るとの危機認識が、措置導入の根本的な命題に掲げられている(注4)

これに対し、トランプ政権のアプローチは、輸出管理を主として、米国の経済的利益の確保および対中交渉におけるレバレッジとして位置付ける傾向が強い。これは、第1次トランプ政権(2017年1月~2021年1月)において、既に見られた傾向でもある。アジア・グループ(TAG)は、第1次トランプ政権下での輸出管理措置を「取引的・イベントドリブン」と評し、特定企業への制裁を中心とする点を特徴として挙げる(注5)。また、ドイツ国際安全保障研究所(SWP)も、同関連措置の政策基盤が、経済ナショナリズムと保護主義にあり、体系的なデュアルユース管理よりも、米国産業の優位確保や貿易交渉上の利益が優先されたと分析する(注6)

そして、第2次トランプ政権では、その傾向が維持・強化されていることが前出の2025年版NSSから読み取れる。経済安全保障政策は「米国の経済的独立」や「産業基盤の再建」を目的とする経済政策の一部であり、その柱となる対中輸出管理は、国際安全保障や世界秩序維持のための措置というより、米国の国家利益の最大化のための手段として運用される構図だ。また同盟国に対しては、米国の対中経済政策への整合性を求める姿勢が強化される可能性が高い。

こうした政策動機の変化は、規制の対象や適用範囲が、政治的イベントや交渉上の判断によって短期間で大きく変動し得ることを意味し、企業にとって制度的予見可能性を著しく低下させる。不確実性に直面する日本企業は、投資判断やサプライチェーン構築において、米国の規制が安全保障上の脅威への対応として強化される場合と、自国の経済的利益確保を目的として拡張される場合の双方を想定し、複数のシナリオを織り込んだリスク管理を行う必要があるだろう。

これまでの対中経済政策の評価は分かれる

在ワシントンDCの業界団体に所属し、通商政策などを統括する責任者は、米中首脳会議を巡る一連の攻防に関して「米国による輸出管理措置の性急な導入、首脳会議でのディールを経た適用延長などの一連の措置は、将来の中国以外の国との関係において、悪い前例となるだろう。バイデン政権下では、日本やオランダ、韓国などに対し、国家安全保障リスクに対処するため米国と同等の輸出管理が必要だと説得を続けてきた。国家安全保障リスクを根拠に、それらの国々を巻き込もうとする場面で、もはや米国の主義・主張が通用しなくなるだろう」と指摘する(注7)

加えて、同氏は「輸出管理は国家安全保障の手段であるべきところ、現在、貿易交渉の手段として使用されている。この状態は、大いに懸念すべき」と強調する。また別の業界団体の担当者も、経済安全保障を動機とする輸出管理措置の発動において、産業界との事前協議のプロセスが欠如している事態を危惧する。「9月にELの関連事業体ルールが導入された際には、最終規則が突如公表され、パブリックコメントや産業界との事前対話の機会は設けられなかった。現政権下では、多くの措置が事前協議なく発表される。輸出企業向けの個別通知であるイズ・インフォームド・レター(注8)を通じた輸出管理強化には業界団体側でも対処しようがない。輸出管理が過度に強化され、実用的でないものにならないか警戒している」という。

また、第2次トランプ政権発足から約1年間の対中輸出管理を巡る動きに関し、対中強硬派で知られるワシントンDCの専門家は2025年12月、「米国の対中政策は強硬姿勢を基本としつつも、経済への悪影響を避けるため現実的な調整を余儀なくされている側面がある。エヌビディアなどのAI半導体の対中輸出許可は、国内産業の意向を踏まえたもので、対中強硬姿勢を緩和しているわけではない」と分析する。他方で、2026年11月に中間選挙を控える中で、「民主党は、現政権が中国に対して弱腰であるとの批判を強めるだろう」との見方を示した(注9)

米国にとって構造的な脆弱性となり得るレアアース供給の中国依存については、「重要鉱物やレアアースの供給リスクを低減するためには、日本やインド、さらには南米諸国との連携強化が不可欠だ。コスト競争力で中国に劣るため、政府支援や補助金も必要。民間企業の自発的参入は困難であり、国家レベルでの戦略的対応が求められる。これらの供給網確保は安全保障上の課題であり、今後の日本との協力における重点分野となるだろう」としている。

他方、在ワシントンDCシンクタンクの中国専門家は、米中両国が輸出管理の一時停止などに合意した2025年10月の釜山での首脳会議に対する評価として、「中国側は、トランプ大統領を『コントロール可能な相手』と見なし、対米関係の主導権を握れるとの自信を深めたのではないか。2025年は、米中関係における重要な転換点といえるだろう」との見方を示す。また同氏は、第2次トランプ政権下でのジュネーブ(5月)、ロンドン(6月)、ストックホルム(7月)、クアラルンプール(10月)の4度の米中貿易協議の場面においても「中国側は、米国側が強硬姿勢を取りきれず、最終的に中国へ譲歩したと評価している。中国はいま、米国が中国を分析する以上に米国をうまく分析し、米国の行動を変容させる方法や緊張を避ける方法を習得したと自信を強めているだろう」との見解を述べた(注10)


注1:
Goldwater-Nichols Department of Defense Reorganization Act of 1986 本文に戻る
注2:
2025年12月8日付Aljazeera報道に基づく。 本文に戻る
注3:
Gregory C. Allen (2024), “Understanding the Biden Administration’s Updated Export Controls”, CSIS(Center for Strategic and International Studies) 本文に戻る
注4:
Martin Chorzempa et al. (2024), “US Restrictions on China: Export Controls and Investment Security in the Next Administration”, PIIE(Peterson Institute for International Economics) 本文に戻る
注5:
The Asia Group(2024),“Biden vs. Trump: Export Control Policies” (2024) 本文に戻る
注6:
Laura von Daniels (2024), “Economy and National Security: US Foreign Economic Policy under Trump and Biden”, SWP(Stiftung Wissenschaft und Politik) 本文に戻る
注7:
2025年10月30日、ワシントンDCでのインタビューに基づく。 本文に戻る
注8:
特定の製品や技術が特定の事業体や仕向地などに輸出などされる場合に、ライセンス取得が必要である旨を、政府が取引企業に個別に通知するもの。ライセンスを取得せずに対象となる取引を行った場合にはEAR違反となる。 本文に戻る
注9:
2025年12月9日、ワシントンDCでのインタビューに基づく。 本文に戻る
注10:
2025年12月8日、ワシントンDCでのインタビューに基づく。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所 次長
伊藤 博敏(いとう ひろとし)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ・バンコク事務所、企画部海外地域戦略主幹・東南アジア、調査部国際経済課長などを経て現職。主な著書:『ジェトロ世界貿易投資報告』2021年版~2025年版(編著、ジェトロ)、『FTAの基礎と実践:賢く活用するための手引き』(編著、白水社)、『タイ・プラスワンの企業戦略』(共著、勁草書房)、『アジア主要国のビジネス環境比較』『アジア新興国のビジネス環境比較』(編著、ジェトロ)、『インドVS中国:二大新興国の実力比較』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド成長ビジネス地図』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド税務ガイド:間接税のすべてがわかる』(単著、ジェトロ)など。