第2次トランプ政権下の新潮流を読み解く政策転換で揺れる米国市場、在米日系自動車関連企業の選択

2026年1月19日

米国において、バイデン政権の政策から大きく方向転換をした第2次トランプ政権は発足から1年が経とうとしている。既に多くの関税政策や移民政策などが実行に移され、米国のビジネスに影響を与えているが、特に2025年4月以降に発動された関税措置は多くの企業に大きなインパクトを与えた。こうした状況下で、在米進出日系企業はどう対応しているか。トランプ政権の政策がビジネスに及ぼしている影響について、主に米国中西部を拠点とする日系の自動車関連企業10社へのヒアリングから浮き彫りとなった現状を紹介する。また、米国自動車部品工業会(MEMA)のマイク・ジャクソン戦略・研究担当エグゼクティブディレクターには、米国自動車業界の状況について聞いた。

関税の影響はコスト増だけにとどまらず

米国では、2025年4月のベースライン関税の発表から今日に至るまで、いくつもの関税措置が発表され、各国・地域との合意のたびに税率や対象品目が変更されてきた。直近では12月に韓国に対する相互関税と自動車関税が11月にさかのぼって15%に引き下げられ、日本およびEUと同水準となった。今回ヒアリングを行った在米日系企業は、米国外で生産した製品を米国に輸入・販売するケースや、原材料や部品を米国外から調達するケースが少なくない。それゆえ、米国政府による関税措置の影響を受ける企業が多く、関税率の変更による支払い負担額の増加や、顧客との価格交渉などに頭を悩ませている。多くの企業は「関税コスト分を開示し、顧客へ説明することによって価格転嫁ができている」と答えたが、いくつかの企業からは「顧客へは請求しているものの、まだ支払いが行われていない分もある」「関税の支払いは前払いなので、自社での負担が大きくキャッシュフローに影響がある」との回答もあった。

一方、輸入先からの情報収集など関税支払いのための処理や関税払い戻しのための書類作成などの対応に追われる、といった、事務的コストの負担を指摘する声も多い。ある製造業の企業は「関税書類は優先的に処理する必要があるため、さまざまな部署から人を集め、かなりのマンパワーを割いているが、その分の人材コストは顧客へ転嫁できていない」という。また、取引先から関税コスト計算のための全ての必要書類を取得するのが困難だ、という声も多く聞かれた。

サプライチェーンの変更は企業にとって難題

米国の完成車メーカー(OEM)やティア1サプライヤーが、ティア2サプライヤーに対し、北米以外から輸入された材料の使用中止を求めているという事例もある。この背景には、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に基づく域内原産割合(RVC)要件が関係している(注1)。OEMは関税回避とコンプライアンス維持を望んでいるため、特定のサプライヤーに対し、北米における部品や材料の現地調達を求める場合がある。

2026年7月に予定されているUSMCAの見直しの際に、中国など米国が懸念する外国の事業体(FEOC)が生産した部品を一定程度利用している場合、米国政府がUSMCA原産として認めない制度を提案する可能性も指摘されており(2025年10月17日付ビジネス短信参照)、既にOEMが特定国からの部品や原料を使用するサプライヤーに、使用停止を求めるケースも出てきている。実際、デトロイト3の一角であるゼネラルモーターズ(GM)は、2025年11月に数千社のサプライヤーに対し、中国を含むFEOCからの原料や部品をサプライチェーンから排除するよう指示し、一部のサプライヤーに対しては、2027年までに中国からの調達を解消するよう期限を設定した、と報じられている(ロイター2025年11月12日)。北米に進出している日系企業は、USMCAの利用を前提にしている場合が多く、見直し内容によっては、今後の事業運営に大きな影響を及ぼす可能性がある。

一方、中国が米国へ特定の原料の輸出制限措置を取ったため、調達先の変更を迫られる企業もある。自動車部品製造のための主要原材料を中国から輸入しているある日系企業は、米国内での備蓄在庫を持つことや、米国内に設立した自社のリサイクル工場から原料を調達することによって不足をしのいでいるという。現在稼働しているリサイクル工場の生産キャパシティーを増やすことも視野に入れてはいるが、「原材料確保が大きな課題」だと話す。

対米投資やサプライチェーン再編を思いとどまる企業が多数

トランプ政権は、関税政策によって製造業を米国に呼び戻すことを掲げている。しかし、グローバル経営コンサルティングのアーサー・ディ・リトル(ADL)とMEMAが2025年11月に発表した共同調査報告によると、自動車業界の中では関税措置によるリショアリングは限定的で、米国での新規投資や生産移管を積極的に進める動きは多くないという。MEMAのジャクソン氏は、特に「高度な手作業と高額な設備投資を必要とするサプライチェーンの両極端の領域では、現時点で生産移管は非常に困難だ」と説明する。また、「労働者不足という慢性的な問題が、企業が思い切ってリショアリングなどを進められない大きな要因となっている」と指摘する。同氏によれば、「現在でも自動車産業などの製造業における労働者の離職率が極めて高い状況」で、MEMAが自動車部品サプライヤーを対象に行った調査(注2)によると、2025年第3四半期の米国での時間給従業員の離職率(企業による解雇を含まない)が月に10%以上と答えた企業が22%に上る。

人材不足は、リショアリングに限らず、新規投資についても同様だ。ジャクソン氏によると、例えば新工場を建設する場合、熟練労働者や管理職、溶接工、機械工、機械操作の専門家など、製品製造に必要な人材のほか、電気技師、配管工なども必要となる。MEMAの同調査によると、38%のサプライヤーがこれらの熟練人材を「不足が最も深刻」と回答している。

今回行った日系企業からのヒアリングからも、生産を米国へ移管することは容易でなく、現実的ではないと考えるサプライヤーが多い状況がうかがえた。ある企業は「一時期、関税率が大幅に高くなった際に現地生産を検討したが、米国での人件費を考慮した場合、日本で生産したほうがコストを抑えられることがわかった」と答えた。また、「日本で特殊な製造工程を踏む必要がある製品は、米国への生産移管は難しい」と答える企業もあった。

今後投資する企業には大きなメリットも

一方、既に米国への投資を進めている企業には朗報もある。2025年7月4日に成立した「1つの大きく美しい法案(OBBB)法」には多くの税制措置が含まれており、関連分野で米国に投資する場合、恩恵を受けることが可能だ。例えば、国内の研究開発(R&D)費用の即時償却や、耐用年数が20年以下の資産である機械設備・コンピュータなどの短期耐用資産の取得費用特別償却が恒久化された(表参照)。ジャクソン氏は「これらが法律によって明文化されたことにより、予見可能性が確保されたことは企業にとっては大きな安心材料となる」と話す。仮に次の大統領選挙で政権交代が起きても、この法律を覆したり変更を加えたりするためには上下両院の可決と大統領の署名が必要であり、ハードルが非常に高い。

表:OBBBで規定された企業対象の税制優遇措置の例
項目 内容
国内R&D 費用の即時償却が恒久的に復活。総収入3,100万ドル以下の中小企業は、2021年12月31日以降のR&D費用を遡及(そきゅう)的に償却可能。その他全ての国内R&Dについては、2021年12月21日~2025年1月1日の期間に発生した費用について、残存控除額を1年または2年間で前倒し償却可能。
事業用純利息控除 EBITDA(利息・税金・減価償却前利益)に基づく純利息の控除制限を恒久的に復活。
短期耐用資産(機械、車両、コンピュータなど)のボーナス償却 短寿命資産に対する100%の特別償却(depreciation)を恒久的に復活。
事業用の建物や施設の償却 2025年1月19日より後かつ2029年1月1日より前に着工し、2031年1月1日より前に稼働した対象構造物に対し、一時的に100%の即時償却を適用。

出所:タックスファンデーション資料からジェトロ作成

サプライチェーンの不断の見直しが必要

ジャクソン氏は、「自動車業界にとって不確実性は深刻な問題」とし、「サプライヤーが真に対処するには、自社のサプライチェーンを一層明確に把握し、絶えず変化する新政策のもとでサプライチェーンを継続的に見直し、更新し続けるしかない」と続けた。現政権による一連の関税措置は、米国経済全体に混乱と衝撃を与えたが、一部で軌道修正の動きもみられる。通商政策の予見可能性は高まりつつあり、サプライヤーの大多数が1年後の米国投資の純増を見込む転換期となっているという。今後もUSMCAの見直しや、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税措置の合法性についての訴訟など、日系企業に影響を与える政権の動向には注視が必要となる。


注1:
USMCAの完成車の原産地規則は、RVCが純費用方式で75%以上、重要な自動車部品(スーパーコア)が全てUSMCA原産品であることのほか、OEMが購入する鉄とアルミニウムの7割がUSMCA原産材料であること、直接工の賃金(時給)が16ドル以上の地域の付加価値が40%〔乗用車・スポーツ用多目的車(SUV)〕、もしくは45%(ピックアップ)以上であることも求められる(2025年5月21日付ビジネス短信参照)。 本文に戻る
注2:
MEMAのメンバーである自動車関連サプライヤー企業の経営幹部を対象とし、2025年8月25日~9月9日に行った調査。回答総数96件のうち、有効回答73件を回収。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・シカゴ事務所 農水/調査部 リサーチャー
星野 香織(ほしの かおり)
商社、ジェトロ・ニューヨーク事務所などでの勤務を経て、2022年3月から現職。