第2次トランプ政権下の新潮流を読み解く連邦の不確実性と州の二極化
逆風下の米国環境ビジネス(1)

2026年2月2日

米国第2次トランプ政権下、連邦レベルの環境政策は180度転換し、バイデン政権が進めた再生可能エネルギー(再エネ)振興と「環境正義(EJ)(注1)」優遇は大きく後退した。他方、州レベルでは、連邦による規制緩和と化石燃料産業保護を歓迎する保守州、独自の目標達成に向けて環境規制を継続・強化する先進州に二極化している。

環境問題軽視をアピールしたトランプ大統領

ドナルド・トランプ大統領は就任初日、パリ協定からの「再離脱手続き」を開始する大統領令と5本のエネルギー関連大統領令に署名した。その中にはバイデン前政権の環境政策の中核をなす「EJ」を事実上撤廃する大統領令、温室効果ガス(GHG)判定の基準となる「2009年の危険因子認定(注2)」の見直しなどが含まれていた(2025年1月22日付ビジネス短信参照)。

EJは、「環境負荷が社会的弱者に集中するのは不公平である」という考え方だ。バイデン前政権はその環境政策の中心に「EJ優遇」を掲げ、「ジャスティス40イニシアチブ(Justice40 Initiative)」と銘打って、連邦政府の気候対策関連投資の40%をこれまで環境負荷の不均衡を受けてきた地域(DAC)(注3)に配分する政策を実施してきた。トランプ大統領が就任後、真っ先に着手したことが、この「EJ」の否定だ。

また、危険因子認定の見直しは、環境問題の深刻さを否定し、環境規制や環境ビジネスを「詐欺(Green New Scam)(注4)」と決めつける思想が背景にある。環境保護庁(EPA)は大統領の指示に基づき2025年7月、「危険因子認定の撤回」を正式提案した(2025年7月30日付ビジネス短信参照)。撤回してGHG規制を撤廃、あるいは規制値を下げることは、産業界にとってはコスト減に繋がるが、EPAにとっては権威低下となる。規制値に満足しない州や自治体が独自の規制を導入することで、規制が乱立する可能性もある。電気自動車(EV)など規制対応品の開発は遅れ、長期的には米国産業の国際競争力低下につながる恐れもある。2026年1月20日現在、認定撤回は最終決定していないが、決定すれば環境保護団体などからの訴訟も必至だ。

環境規制撤廃に向けた動きとしては、連邦議会が2025年5月、カリフォルニア州のアドバンスト・クリーン・カーII(ACCII)規制 (2025年6月17日付ビジネス短信参照)を撤廃する法案を可決、大統領の署名を経て、同州が目指したEV販売義務化は事実上無効となった(注5)。また、EPAは2025年12月、石油・ガス業界向けの大気浄化基準(同業界から排出されるGHGの大半がメタンガスであることからメタン規制と呼ばれる)の順守期限を先送りする最終規則も決定している(2025年12月4日付ビジネス短信参照)。このほか、エネルギー省(DOE)も2025年5月に47件のエネルギー関連規制の撤廃を発表した。EPAも同様の規制緩和提案を複数の分野で行っている。

公表分だけで800件、400億ドル超の補助金・助成金を中止

トランプ政権は、2025年中に付与が決定していた気候変動関連の補助金・助成金のうち、EPA、DOEが公式に発表したものだけでも約800件、総額400億ドル超を撤回・中止した(表1)。大統領選挙で民主党候補を支持した16州を中心に760億ドルが撤回されたという報道もある。トランプ政権が優先して中止したのが、EJと多様性、公平性、包摂性(DEI)に関わる案件だ。中止判断に合理性はなく、トランプ政権が支援する化石燃料業界にとって不可欠ともいえる回収・利用・貯留(CCUS)の産業実証事業向け補助金でさえ撤回した。“Solar for All”(全ての人に太陽光発電を)は、低所得世帯の住宅やコミュニティーに太陽光発電装置の普及を狙う事業だったが、中止を受けて20州以上の受給者が提訴、係争中だ。中止された多くの補助金が、インフラ投資・雇用法(IIJA)に基づき議会で決定されたもので、計画が開始されていた。中止対象にはほかに、11州を超える広域送電プロジェクトJTIQも含まれている。中西部の電力市場を管理する独立系統運用機関MISOと南西部を管理するSPPという2つの大規模地域送電運用者が、共同で進めていたプロジェクトだ。同プロジェクトは中西部送電網の「最重要プロジェクト」とみなされているだけに、関連する各州政府からも強い批判が出ている。

今回のような大規模な補助金・助成金撤回は米国史上でも前代未聞であり、州政府予算や民間投資ではカバーしきれない。受給者の多くは撤回を不服として提訴、係争中だ。連邦政府への信用は失墜し、今後の大型の政府プロジェクトにも不信感が広がる可能性がある。また、2026年1月時点でEPAやDOEによる新規の気候変動、エネルギー関連の補助金や助成金は発表されていない。

表1:連邦政府による気候変動関連補助金・助成金の撤回・中止・凍結一覧(2025年)(単位:100万ドル)注:EPAとDOEから公式に発表されたもののみ。
発表日 官庁 内容 金額
2月13日 EPA EJ・DEI関連事業9件と環境団体Climate Justice AllianceへのEJ補助金(5,000万ドル)を撤回 110
2月25日 EPA EJ・DEI関連事業20件 61
3月4日 EPA EJ・DEI関連事業21件 116
3月10日 EPA 大気・水質、レジリエンス、EJ・DEI関連事業など合計400件の補助金を一括中止 1,700
3月12日 EPA 温室効果ガス削減基金(GGRF、通称:グリーンバンク)への200億ドルの助成を中止 20,000
5月30日 DOE CCUS/低炭素素材などの脱炭素、産業実証事業24件への補助金を中止 3,700
8月7日 EPA Solar for All事業の中止(受給者数は60団体) 7,000
10月2日 DOE 223件の事業、321件の補助金を正式に中止 7,560

注:EPAとDOEから公式に発表されたもののみ。
出所:連邦政府(EPA、DOE)ウェブサイト

税額控除は何が撤廃され、何が残ったのか

バイデン前政権による環境政策の目玉の1つは、インフレ削減法(IRA)下で拡充した気候変動関連税額控除(Tax Credit)だった。しかし、2025年7月に「大きく美しい1つの法案(OBBBA)」が成立すると、消費者に身近なEV購入や住宅用省エネ導入に対する税額控除などが、本来予定されていた2032年末より前倒しで終了となった(表2参照)。

表2:OBBBA成立により早期終了となった税額控除 注:IRCは内国歳入法。
IRC番号 名称 終了日
30D 新車のクリーン車(最大7,500ドル) 2025年9月末
25E 中古のクリーン車(販売価格の30%、最大4,000ドル) 2025年9月末
45W 事業用クリーン車(最大4万ドル) 2025年9月末
30C クリーン用燃料補給インフラ(充電ステーションなど) 2026年6月末
25C 省エネ住宅改修(断熱や窓など) 2025年12月末
25D 住宅用クリーンエネルギー(太陽光や地熱システム) 2025年12月末
45L 新築省エネ住宅 2026年6月末
179D 事業用省エネ建物 2026年6月末

注:IRCは内国歳入法。
出所:内国歳入庁(IRS)

また、当初の予定では2033年以降に段階的に廃止することが決まっていた、技術中立的クリーンエネルギー(注6)税額控除〔内国歳入法(IRC)45Y、48E〕のうち風力・太陽光発電所向けと、水素生産施設向けの税額控除(IRC45V)が5年早く廃止となった。(表3参照)。

表3:OBBBA成立により早期に段階的廃止対象となった税額控除
IRC番号 名称 終了日
45Y 技術中立的クリーンエネルギー(発電量に応じた控除、PTC)(風力・太陽光) 2026年7月4日までに着工、2027年12月末までに稼働した案件まで。PTCは10年間、ITCは1回限り。2028年以降は段階的に廃止
48E 技術中立的クリーンエネルギー(投資額に応じた控除、ITC)(風力・太陽光)
45V 水素を生産する施設(生産量に応じた控除、PTC) 2027年12月末以前に着工した施設のみ10年間適用。2028年以降は段階的に廃止

出所:内国歳入庁(IRS)

なお、OBBBA成立後に継続または拡張されたものもある(表4)。継続となったものは、トランプ政権が重視する項目を表している。風力・太陽光以外のクリーンエネルギー(再エネ発電、蓄電池、燃料電池、IRC45Y、48E)、クリーン燃料(45Z)(注7)、原子力発電所(45U、45J)などだ。炭素回収・貯留(CCS、CCUS)、直接空気回収(DAC)なども化石燃料業界の脱炭素化につながることから控除の枠を拡大した(45Q)(注7)。クリーンエネルギー製造施設・設備(風力・太陽光発電を含む)に必要な部品の製造や、重要鉱物の加工・精錬・再利用をする施設(IRC48C、45X)も継続となった。これらは、トランプ政権が再エネを完全に切り捨てたのではなく、国外(特に中国)依存度の高い製品の輸入を減らし、米国内で製造し、それに伴い雇用が増えるのであれば歓迎するという立場を明確に示している。

表4:OBBBA成立後も継続している税額控除
IRC番号 名称 内容 スケジュール
45Y 技術中立的クリーンエネルギー 地熱、蓄電、燃料電池などによるクリーン電力の生産に対し発電量に応じた控除(PTC、10年間) 2032年12月末まで、以降は段階的に廃止
48E 技術中立的クリーンエネルギー 地熱、蓄電、燃料電池など、クリーン電力を生む施設(発電所)への投資額に応じた控除(ITC、1回限り) 2032年12月末まで、以降は段階的に廃止
45Z クリーン燃料 輸送用燃料(SAFなど)の生産・販売。燃料のライフサイクル排出量が50 kg CO2e/mmBTU以下であることが条件 2029年12月末まで
45Q 炭素回収・貯留 CCS、CCUS、DACなど(PTC、稼働後12年間) 2032年12月末までに着工分。それ以降は未定
45U 既設原子力発電所 発電量と市場電力価格に応じた控除(PTC、IRA成立(2022年)前に稼働した施設) 2032年12月末まで
45J 先進・新設原子力発電所 発電量に応じた控除。運転開始から8年間。国全体で6,000MWの上限規制 未定
48C 先進エネルギー・プロジェクト投資 クリーン発電用品製造、脱炭素化(GHG20%以上削減)、重要鉱物加工への投資額の最大30%を控除、米国内施設(ITC、1回限り)。45Xと併用不可 期限はないが、100億ドルの割り当て上限に達したら終了
45X 先端製造業生産 クリーン発電用品生産(セル、モジュール、電極活物質など)、重要鉱物加工への生産額に応じた控除(PTC、年数制限なし)。米国内生産が条件。48Cと併用不可 セル、モジュールは2030年以降、2032年までに段階的にフェーズアウト。電極活物質、重要鉱物は2030年以降も継続の可能性

出所:内国歳入庁(IRS)

二極化する州政府の環境政策

一方、州レベルの環境政策は二極化傾向に拍車がかかっている。これまで連邦政府に先駆けて環境規制を強化してきた先進州(注8)は、独自に設定した環境目標の実現に向けて環境規制を強化している。例えば2045年の気候中立(カリフォルニア州)、2040年の電力源の100%クリーン化(ニューヨーク州、ミシガン州)、2045年の同100%クリーン化(イリノイ州)などだ。カリフォルニア州の、2035年までに新車販売を100%クリーン車(ZEV)化することを目標とするACCII規制は前述のとおり無効化されたが、同州は目標の維持を表明しており、2027年中に新基準案を採択するとしている。

一方で、化石燃料産業への依存度が高い「保守州」は、連邦が進める化石燃料産業保護や規制緩和を歓迎している。これらの州の住民の多くは、環境保護に反対しているわけではないが、公的規制による解決を好まず、市場による自由競争を重視する傾向が強い。ただし、化石燃料産出量では米国1位のテキサス州の場合、同州が脱炭素に後ろ向きだと決めつけるのは早計だ。同州の2024年の発電量を見ると、風力が全米1位(全米全体の27.5%)、太陽光が同2位(17.5%)と再エネ分野でも全米最先端だ。同州は2024年にEPAに、GHGインベントリ(注9)と、2030年と2050年でのGHG削減に向けた行動指針「テキサス州優先行動計画(PAP)」を提出した。この計画実現に向けたロードマップを2025年12月にEPAに提出、連邦の環境政策に関わらず環境規制を継続する姿勢を明確にした。

ここまでトランプ政権による環境政策の縮小状況を紹介してきた。トランプ政権の姿勢で最も問題視される点の1つは、環境問題の軽視だ。問題があるからそれを解消するためのビジネスが生まれ、規制が必要となり、さらにビジネスが拡大する。そのプロセスを否定し、早々と補助金を撤回したことで、連邦政府の政策に対する「不信感」を招いてしまった。後編では、こうした「逆風」の中で商機をどこに見いだせば良いのか探ってみたい。


注1:
Environmental Justiceの略。環境汚染・負担が社会的脆弱(ぜいじゃく)者に集中するのは不公平であり、公平に負担すべきという考え方。1980年代の米国で、貧困層やマイノリティーが居住する地域にゴミ処理施設や工場が集中する「環境レイシズム」への抗議運動から生まれ、1994年の大統領令で制度化された。 本文に戻る
注2:
2009年12月にEPAが「GHGの排出が国民の健康と福祉を脅かす」と危険性を認定したことを指す。EPAによる気候変動関連規制の法的根拠であり、電力・運輸部門などの排出規制の基礎。 本文に戻る
注3:
Disadvantaged Community(恵まれないコミュニティーの意味)の略で、環境負荷の不均衡、社会経済的弱者、マイノリティー人口の集中などが主な特徴。連邦政府のJustice40 Initiativeにおける投資の優先対象となる地域として定義された。バイデン前政権時代はDAC地域を検索できるツール(CEJST)がホワイトハウスのウェブサイト上に設けられていた。 本文に戻る
注4:
トランプ政権がバイデン前政権の気候政策(Green New Deal関連施策)を「詐欺(scam)」と位置付けて批判するための政治的レトリック。再エネ・EV・EJプログラムなどへの連邦支出を“無駄”と主張し、2025年以降の公式文書でも同語を用いてこれらの予算削減を正当化している。 本文に戻る
注5:
連邦による一方的なACCII規制撤廃に関して同規則を採用している10州(コロラド州、デラウェア州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、ニューヨーク州、オレゴン州、ロードアイランド州、バーモント州、ワシントン州)が共同で連邦政府を提訴(2025年6月12日)。 本文に戻る
注6:
2025年から施行された税額控除(IRC45Y、48E)の名称で、「技術中立」とは「発電方法(太陽光か風力か地熱かなど)」ではなく、「排出量(CO2がゼロか)」だけの観点で控除するかどうかを決めることを意味している。 本文に戻る
注7:
クリーン燃料税額控除(IRC45Z)は2029年末まで2年延長された。トランプ政権の意向が特に強く反映されており、(1)炭素強度(CI)に基づき段階的に控除額が増えるCIスライディング制を採用、(2)原料は北米(米、加、墨)産に限定、(3)「懸念される外国の事業体(FEOC)」の供給網・設備を使うと対象外という3点が要件として追加された。FEOC要件はIRC45U, 45Y, 48E, 45X, 45Qにも採用されている。 本文に戻る
注8:
環境「先進州」の定義はないが、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ワシントン州、マサチューセッツ州、コロラド州、バーモント州、オレゴン州、メリーランド州、ハワイ州、ニュージャージー州などが環境保護ランキングなどで上位に位置している。逆に環境規制の少ない「保守州」としては、アイダホ州、アラバマ州、ケンタッキー州、ミシシッピ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州、ウエストバージニア州、ワイオミング州などが挙げられることが多い。 本文に戻る
注9:
「GHGインベントリ」という名称で、テキサス州として初めて公式に同州のGHGを算出したもの。「テキサス州優先行動計画(PAP)」は、2030年までにCO2換算で約1億7,000万トン、2050年までに約5億9,000万トンのGHG削減が可能であると判断し、GHGと大気汚染削減の双方を狙った包括的な計画。特に排出量が大きい3部門(産業、電力、交通)に対し規制を強化することなく、自主的に排出量削減に取り組むよう働きかける内容。 本文に戻る

逆風下の米国環境ビジネス

シリーズの次の記事も読む

(2)商機はどこにあるのか