第2次トランプ政権下の新潮流を読み解く商機はどこにあるのか
逆風下の米国環境ビジネス(2)

2026年2月2日

前編では、環境規制の大幅緩和、補助金撤回と停止、環境正義(EJ)(注1)の否定などにより米国連邦政府の環境政策に強い逆風が吹いている現状を紹介した。しかし、それをもって米国の環境ビジネスが無に帰したと判断するのは早計だ。連邦政策が後退した分、州レベルの環境政策が強化されている。市民や企業による環境保護活動やESG投資も引き続き活発に行われ、数千億ドル規模といわれる環境ビジネス市場を支える需要は引き続き存在する。

後編ではこれらの点を踏まえつつ、トランプ政権下の米国の環境ビジネスでは、どこに商機が見出せるのか探る。

州レベルで広がる独自の気候変動対策財源確保

前編でも触れたとおり、米国の環境政策は先進的な州と保守的な州で二極化している。先進州では、連邦補助金が停止された環境分野について、州独自の基金や予算によって部分的に置き換える動きが活発化している。その1つが、「汚染者負担」により独自の財源を確保しようとする動きだ。この先駆けが、バーモント州とニューヨーク州で、ともに2024年中に「気候スーパーファンド法」を成立させた(注2)。気候スーパーファンドとは、化石燃料企業から気候変動への影響額に応じた拠出金を徴収し、州の気候変動対策事業に再投資する枠組みだ。ニューヨーク州では2026年9月30日に最初の支払い義務が発生する予定だ。ただし、企業側の負担が大きく、全米石油協会(API)など業界団体が強く反対しているため、憲法上の課税権を巡る訴訟に発展する可能性が高い(注3)。同様の法案は、連邦議会(S.25)でも2025年7月1日に提出されたほか、マサチューセッツ州(HD3369)、カリフォルニア州(SB684)など10州以上で2025年中に州議会に提出された。メリーランド州では2025年7月1日に「2025年メリーランド州RENEW法」が成立し、これも大手化石燃料企業に気候変動の影響(異常気象など)に対する費用負担を義務付ける内容となっている。今後、続々と成立していくことが予想される各州の「気候スーパーファンド」の使途は州によって異なるが、電気自動車(EV)関連インフラ整備や蓄電池、気候適応・耐熱建材、脱炭素設備〔二酸化炭素回収・利用・貯留(CCS、CCUS)など〕などが対象になり、それらの市場が拡大する可能性が高い。

州による独自の気候変動対策支出では、カリフォルニア州が先行している。2024年11月の住民投票で成立した100億ドル規模の「気候・レジリエンス州債(Proposition 4)」が、2025年度から本格的に執行され、州独自の対策資金の柱になっている。同州債から2025/26年の州予算で27億ドル(後に35億ドルに増額)を執行し、広範囲な環境政策に資金を配分している。その中には「クリーンエネルギー」「猛暑対策」「交通温暖化ガス(GHG)削減」などの項目もあり、コミュニティーや建物の電化・地域エネルギー効率化、EVインフラ・蓄電関連、低炭素や断熱建材、耐火材料などの分野でビジネス機会を提供する。

ニューヨーク州は、2026年度予算で、建物の脱炭素化(3億ドル)、電気スクールバス導入(2億ドル)、地熱ネットワーク(1億5,000万ドル)、EV急速充電網(1億ドル)、EVインフラ(Charge Ready)整備(1億ドル)など、エネルギー支援策を独自に拡充した。この予算案では、商業用蓄電システムに対する州税免除が導入されている。

連邦レベルでの規制が緩和され補助金・助成金が廃止されても、州レベルでの規制導入と予算投入は継続・強化されており、対応した製品への需要は大きい。商機獲得には、州や自治体レベルでの環境規制情報やそれから生じる企業の義務を正確に把握することが不可欠だ。

EJは州の環境政策に残り、投資対象に

バイデン前政権下で作られた連邦政府各省のEJ政策に関するウェブページはその大半が閉鎖されたが、EJは多くの州で存続している。EJは州法に取り込まれており、州法は連邦政府の政策変更より優先される。さらに、環境政策にとどまらず、社会・地域課題を踏まえた投資の優先順位付け(ターゲティング)を担う枠組みとして位置付けられている。恵まれないコミュニティ(DAC)またはEJ地域(注4)への投資による社会インフラ向上は治安の安定化にも直結するからだ。

非営利の環境保護団体である環境防衛基金(EDF)によれば、34州がEJを行政判断に組み込む正式な権限を州機関に付与している。また、カリフォルニア州、ニューヨーク州など8州(注5)では、現在までに累積された環境負荷の“総量”を考慮し、環境許認可の判断に組み込むことを義務づける「累積影響法」(注6)を制定しており、これらの州はEJを最も強く制度化している州といえる(表参照)。累積影響法は、環境リスクの構造的な不平等を是正し、健康格差を防ぎ、公害の立地偏在を防ぐ目的を掲げている。詳細は州ごとに異なるが、(1)EJ地域で開発・投資の許認可を受けようとする企業に州が提供するツールを使った累積影響評価(CIA)報告を義務付け、(2)最終評価・許認可判断は州環境当局が実施、(3)地域住民からの要望聴取や住民説明会などの実施義務を負う、などの点は共通している。なお、環境負荷を公平・公正に分担すべきという考え方は欧州にも見られるが、それをスコア化している点が特徴だ。

表:累積影響法を持つ4州の評価制度比較
項目 カリフォルニア州 ニューヨーク州 ニュージャージー州 ミネソタ州
州の環境当局 カリフォルニア州環境保護局(CalEPA) ニューヨーク州環境保全局(NYSDEC / DEC) ニュージャージー州環境保護局(NJDEP) ミネソタ州汚染管理局(MPCA)
根拠法 カリフォルニア環境正義品質法(CEQA)、SB1000 (義務付け), AB617 (EJ地域の大気汚染防止)など 2022年環境正義立地法 2020年環境正義法 2023年最前線コミュニティー保護法(FCPA)
EJ地域の認定方法 州当局がCalEnviroScreenによる21指標を用いた総合スコアで「DAC」を認定。 気候法に基づき、州の気候正義ワーキンググループ(CJWG)が「DAC」を認定。 「過重負担コミュニティー(OBCs)」という名称で州環境当局が所得、人種、英語能力などから認定。 「EJ地域」という名称で、MPCAが所得、人種、英語能力などから認定。
使用する主なデータ・ツール CalEnviroScreen EJNYC Mapping Tool-ArcGIS Online 環境正義、マッピング、評価、保護ツール(EJMAP) MPCA EJ Area ArcGIS Online

出所:各州ウェブサイトからジェトロ作成

このほか、マサチューセッツ州、モンタナ州、ペンシルベニア州など6州(注7)は州憲法の中に「環境権の規定」を持ち、EJを政策に深く組み込んでいる。

EJ制度は、事業者に一定の追加負担を課す規制であり、州内に投資する企業を優遇する仕組みではない。ただし一部州は、地域住民やコミュニティー団体を支援する補助金を提供しており、企業が地域参加を進める際に、これらの制度が間接的にプロジェクト推進に役立つ場合がある。環境先進州の大半にEJ制度があり、先進州であるほど、環境ビジネス参入の「市場機会」は大きくなるが、その分、「規制コスト」が大きくなる。それでも、これらの地域に進出する企業が多いのは(1)市場規模が極めて大きいこと、(2)規制が厳しく課題が難しいほど、技術力・品質力などに優れた専門プレーヤーに有利であること、(3)EJ対象地域は都市インフラの老朽化や災害リスクを抱える地域が多く、「複合的な改修需要(交通・水・建物・エネルギー)」が同時に存在するため、単一商材ではなく総合的なソリューション提供に適した市場でもあるからだ。

生成AIにより米国のクリーンエネルギー需要は引き続き拡大

人工知能(AI)、特に生成AIの急速な利用拡大とそれを支えるデータセンター建設が空前のブームとなっていることにより、エネルギー不足が深刻化している。米国エネルギー情報局(EIA)の予測では電力生産量は2026年に前年比1.1%増、2027年に同2.5%増だが、増産分の大半はクリーンエネルギー(風力発電と太陽光発電)で賄われ、トランプ政権の化石燃料支援にもかかわらず、化石燃料の生産量はさほど拡大しない(図1、2参照)。

図1:米国の電源構成見通し(発電量、TWh)
米国の電力は天然ガス、石炭、原子力、水力、太陽光、風力で構成されており、送量は2021年の3,957TWh(テラワットアワー)から2025年には4,262TWh、2026年に4,309 TWh、2027年には4,423 TWhへと拡大する見込みだが、その打ち訳を見ると増えているのは太陽光と風力だけである。太陽光は2021年の115TWhから2025年には290 TWh,2026年に350 TWh,2027年に424 TWhに、風力は2021年の378TWhから2025年には465TWh,2026年に493 TWh,2027年に521 TWhに拡大する予想。

注:2025年は推定値、26、27年は予測値。
出所:EIA「短期エネルギー見通し」(2026年1月)

図2:米国の電源構成見通し(電源ごとのシェア、%)
2021年の電源構成は天然ガス(37%)、石炭(23%)、原子力(20%)、水力(6%)、太陽光(3%)、風力(10%)、その他(1%)だったが、2025年には天然ガス(40%)、石炭(17%)、原子力(18%)、水力(6%)、太陽光(7%)、風力(11%)、その他(1%),2026年に天然ガス(39%)、石炭(15%)、原子力(19%)、水力(6%)、太陽光(8%)、風力(11%)、その他(1%),2027年に天然ガス(39%)、石炭(15%)、原子力(18%)、水力(6%)、太陽光(10%)、風力(12%)、その他(1%)となる予想。

注:2025年は推定値、26、27年は予測値。
出所:EIA「短期エネルギー見通し」(2026年1月)

生成AIを経営に取り込む動きは今後ますます活発化することが予想されているが、グローバルに活躍する大企業の多くは、独自のGHG削減目標を設定しており、それを実現するべく努力している。経営戦略コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニーは、「AIは経営革新や廃棄物削減、持続可能性の達成につながる一方で、その消費電力の多さからGHG排出量も大きい。AIのカーボンフットプリントは、データセンターに電力を供給する電力源と密接に結びついている」と指摘している。企業にとって、ブランド価値や顧客信頼の維持のために自社の電力需要をクリーンエネルギーで賄うことは不可欠であり、クリーンエネルギー需要が今後も高まる理由となる。

トランプ政権下では、バイデン前政権時代のように補助金や税控除を基準に投資やビジネスを判断することは困難となったが、米国環境産業のすそ野は依然として広大だ。州ごと、分野ごとに広く情報を集め、商機を見極めることが重要だ。


注1:
Environmental Justiceの略。環境汚染・負担が社会的脆弱(ぜいじゃく)者(有色人種、先住民族、低所得者など)に集中するのは不公平であり公平に負担すべきという考え方。1994年の大統領令で制度化された。 本文に戻る
注2:
バーモント州は2024年7月1日、ニューヨーク州は12月26日に「気候スーパーファンド法」を成立させた。 本文に戻る
注3:
米国では、連邦と州がそれぞれ課税権を持ち、州は比較的柔軟に税や賦課金制度を設けることができるが、その行使は連邦憲法による制約を受ける。気候スーパーファンド法について州側は、課税ではなく賦課金の徴収だと主張している。一方、業界団体側は、州外・過去の事業行為を根拠に金銭負担を課す点で、実質的には課税に当たり得るとして、憲法上許容される州の権限の範囲を超える可能性があると主張している。 本文に戻る
注4:
EJの考え方のもと、連邦政府のジャスティス40イニシアチブにおける投資の優先対象となる地域として指定されたのがDAC地域で、バイデン前政権時代にはDAC地域を検索できるツール(CEJST)がホワイトハウスのウェブサイト上に設けられていた。政権交代後、CEJSTツールに代わる独自のツールを作成して対象地域を「EJ地域」と呼ぶ州や、DAC地域指定を継続する州など、対応はさまざま。 本文に戻る
注5:
カリフォルニア州、コネティカット州、ジョージア州、メリーランド州、ミネソタ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ノースカロライナ州の8州。 本文に戻る
注6:
過去から現在まで積み重なってきた環境負荷(大気汚染、工場排出、交通量、社会的脆弱性など)の“総量”を考慮し、環境許認可の判断に組み込むことを義務づける法律。 本文に戻る
注7:
ハワイ州、イリノイ州、マサチューセッツ州、モンタナ州、ニューヨーク州、ペンシルベニア州の6州。ロードアイランド州の憲法に環境権に関する記述があることから、加えて7州とすることもある。 本文に戻る

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